つむじ風

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裂壊

2018年02月14日 19時29分51秒 | Review

―警視庁失踪課・高城賢吾5―
 堂場瞬一/中公文庫

 2010年6月25日初版。何といっても「失踪課」だから、毎回誰かが失踪するが、今回はあろうことか分室長の阿比留真弓だった。しかもいつの間にか銃を持ち出しているらしい。この失踪で、隠し通してきた室長のプライベートが主人公の前にすっかりオープンになってしまった。まあそれはそれとして、この展開で、結末まで引っ張って一冊にしてしまうから、やはり作家としかいいようがない。

 真相は娘の鈴木美和が、高校のクラスの問題を刑事の母親に告げたことで、事件は未然に防げたものの、上昇志向の母親はそれを利用して昇進した。家族はやがて崩壊状態に、爆弾を製作した二人はやがて出所して自分たちを逮捕した真弓に仕返しを試みる。切れそうで切れない家族、修復できそうで容易には出来ない現実、逃れられない母親としての自覚、責任。ひたすら隠してきたことが、この事件をきっかけにして一気に噴き出してきた、例え上司であっても、そのプライベートな世界に、捜査のプロとして徐々に詰めていく過程が面白い。

 主人公自身の葛藤のようなものだが、刑事モノ、警察モノでありながら社会の最小単位である「家族」という問題を、失踪を端にしてしっかりまとめている。警察という組織であるがため離婚もせず、修復もしないという妙な形に苛立ちを覚えながらも、一人ひとりそれぞれの他人に言えない(説明の難しい)家族であるが故の悩みというものがあるのだと思う。出来るはずの修復と、出来そうもない修復の間にあって、向き合うことの難しさが淡々と語られているように思う、なかなかの力作。




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