金融そして時々山

山好き金融マン(OB)のブログ
最近アマゾンKindleから「インフレ時代の人生設計術」という本を出版しました。

民法(相続関係)改正に関するパブコメはレガシィが面白い

2016年10月05日 | ライフプランニングファイル

民法(相続関係)改正に関する中間試案に対するパブリック・コメント(パブコメ)の締め切りは9月30日で私共の一般社団法人 日本相続学会も期日ギリギリにパブコメを提出しました。私共のパブコメはこちらからご覧いただけます。

パブコメは、会員の弁護士の方が議論を重ねて作成されたものです。私も時々顔を出して「素人意見」を述べていたのですが、多勢に無勢で私の意見が通らないところが幾つかありました。

特に私が主張していたのは「遺言書全文をパソコンで作成するべし」というものでした。理由は明解でパソコンを使うとテンプレート(ひな形)方式などを利用することで簡単に作成することができるからです。ところが多くの法律の専門家と呼ばれる方からは、「遺言書の本文のパソコン作成を認めると誰が作成したか分からない」という分かったような分からない理屈で反対されました。

詳しく調べた訳ではありませんが、世界中(特に先進国)の中で遺言書を自筆で作成している国は日本位のものでしょう。世界中の人がパソコン(またはタイプライター)で遺言書を作成しているのにどうして日本だけが自筆で遺言書を作成しないといけないのか?というのが私の素朴な疑問です。

今月に入って他の団体や組織のパブコメを見ているとこの点について、非常に共感を覚える提案が税理士法人レガシィからなされていました。レガシィさんのパブコメはこちらから見ることができます。

まず該当部分に関する法制審議会の提言を見てみましょう。

自書を要求する範囲

① 自筆証書遺言においても,遺贈等の対象となる財産の特定に関する事項 (注1)については,自書でなくてもよいものとする。

② ①に基づき財産の特定に関する事項を自書以外の方法により記載した ときは,遺言者は,その事項が記載された全ての頁に署名し,これに押印 をしなければならないものとする。

要は本文は今まで通り自筆で作成されないといけないが、財産目録はパソコン等で作成しても良い。ただしパソコン等で作成したすべてのページに署名・押印をする必要があるという提案です。

日本相続学会のパブコメ主旨

②につき,全ての頁に遺言者が署名をすべきであるが,押印は必要ないと考える。 その余について中間試案に賛成である。

理由は「自書の負担軽減と遺言書の偽造防止のバランスを取った」「パソコン作成書面に署名があればハンコはいらない」というものです。

税理士法人レガシィのパブコメ主旨

遺言者が極めてシンプルな遺言内容をいつくつかの文案の中から選択す るだけの「簡易遺言制度」の創設を提言する。

レガシィさんの提案は遺言書の一部パソコン作成を認めるかどうかの前に「現在の遺言は自筆・秘密・公正証書いずれの方式をとるにしても弁護士・司法書士等専門家が介在することなく、有効なものを作成することは困難だ。しかしスムーズな相続のためには、遺言書の敷居を低くし、だれでも簡単に有効な遺言書を作成できるよういすることが第一」というものです。

この考え方は私が前述したテンプレート方式と軌を一にすると思います。テンプレートと対話型入力方式を組み合わせるとかなり簡単に遺言書を作成することができると私は考えています。

さて法制審議会の一つの提案に対して、かなり異なったパブコメが出たことの原因は何なのでしょうか?

私は二つの組織・団体のパラダイムParadigm(規範・思考体系)の違いからくると思います。当学会でこの問題を検討したのは弁護士さんなど法律の専門家です。法律の専門家は現在の法律の枠組み(一種のパラダイム)の中でものを考えますから、枠組みを超えた発想が難しい。

一方税務の専門家であるレガシィさんの場合は、専門外の分野であるだけに自由な発想ができたと私は考えています(少なくとも自分たちのビジネス権益を守るための議論ではないと思いたいですね)。

パラダイムの違いは一般的にはすりわせが難しいと言われています。色々なパブコメを審議会の人が柔軟な頭で読んで、何が国民のためになるのか?という視点で判断してほしいと思います。

幾つかのパブコメを読んで感じたことは、本当に様々な意見があるということです。つまり色々なパラダイムがあるということです。パラダイムとは本来「ある時代の支配的な認識体系」という意味でつかわれるそうですが、相続問題について現在一つの支配的な認識体系がないこと自体が相続問題を複雑にしているともいえるでしょう。

 

 

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ウエルスファーゴ銀行はグラインド・ハウス(深夜興行映画館)

2016年10月05日 | ライフプランニングファイル

著名な投資家ウォーレン・バフェット氏が永久保有銘柄に指定している米国の優良銀行ウエルス・ファーゴが一部の従業員による不正口座開設事件で大問題に直面していることはご存知のとおり。

同行は米政府と協議して、1億8500万ドルの罰金を消費者金融保護局に支払い、顧客5百万ドルの損害賠償金を支払うことで決着をつけた。

不正に開設された口座数は2百万件で、口座開設に携わったとされる従業員5,300人が解雇された。解雇されたのは人の大部分は下級の職員(現場の職員)だった。

同行のCEO・ジョン・スタンプ氏は先月29日に上院の金融サービス委員会で「間違ったセールス活動は我々の中核としている原則・倫理・文化に反している」「当行は顧客が望んでいない商品やサービスを提供するように指示したことは決してない」と証言した。

だがそれは真実なのだろうか?

米国のラジオネットワークNRPが同行の(元)従業員たちから集めた声を報じていた。

それはスタンプCEOを証言とは真逆のもので、ウエルス・ファーゴの基本は理由なきクロス・セルだった。クロスセルとは、顧客に関連する商品を販売することで、それ自体は悪いことではない。問題は顧客のニーズを超えて、強引にクロスセルを仕掛けたことにある。さらにはそのようなクロスセルをしないと達成できないようなノルマを現場従業員に課したことにある。

2007年に入社した女性の元従業員は「最低でも1日8つの金融商品を販売することが目標として与えられ」「販売強化月間には20もの金融商品の販売を強要された」と述べている。

目標を達成できない従業員は「指導」のために呼び出され、上司から目標を達成できないと君はチームプレーヤーとみなされないから首になるだろう。そしてそれは永久に君の職歴に残ると脅かされた。

日本より転職機会に恵まれている米国だが、職歴は極めて重要だ。つまり新しい就職希望先で面接を受ける時、多くの場合、前の職場に勤務状況を照会するが、その時業績不振で首になったと言われるとまず採用の可能性がないからだ。

この状態について別の従業員はIt was a grind-houseだったと述べている。Grind-houseはオールナイト興行の映画館や休日なしの安ストリップ劇場という意味だ。現在日本で流行っている言葉でいえばブラック企業状態だろう。

同行で解雇された従業員は5,300名。数からいうと日本の地銀2行分の従業員数だが、ウエルスファーゴ全体では2%に過ぎない。

2%の下級職員が首になっただけで済む問題なのだろうか?それとももっと大きな問題になるのだろうか?

それは分からない。

分かっていることはただ一つ。それはそれほど無理な販売を行わないと優良銀行になれなかったということだ。

別の見方をすれば、大半の銀行が本当は消費者のニーズに合っていないものを自分たちの利益のために販売している可能性が高いということである。洋の東西を問わずに、だ。

賢い消費者になるには、まず金融機関の窓口に近づかないことである。ほとんどの手続きはネットで済む時代なのだから。

 

 

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