小林紀興の「マスコミに物申す」

第三の権力と言われるマスコミは政治家や官僚と違い、読者や視聴者の批判は一切無視、村社会の中でぬくぬくと… それを許せるか

軽減税率問題での自公合意に疑問あり。

2015-12-14 08:27:32 | Weblog
 久しぶりにブログを再開する。体調がまだ十分に回復していないので、年内は休養するつもりだったが、あまりにもバカバカしい事態が生じたので急きょブログを再開することにした。
 そのバカバカしい事態とは、言うまでもなく急転直下の軽減税率問題での自公合意のことである。

 安倍政権発足直後の13年4月に消費税が5%から8%に増税された。そのとき、消費税は逆進税制であるため、低所得者に一人当たり年6000円(1%につき2000円の給付ということになる)を給付することになった。1%が2000円に相当するということは、消費税増税による低所得層の負担増が1%について年20万円になるという計算によると財務省は考えたのだろう。このとき財務省は、食料品だけではなく消費生活全般について、消費税増税が与える低所得層への負担をできるだけ軽減化することを考えていたはずだ。
 当初、消費税増税を2段階で行うことは民主政権最後の総理・野田氏が自公トップとの3党合意で決めていた。このときは低所得層対策についての合意は行われていない。
 安倍政権が第1段階の8%への増税時に急きょ給付金制度を導入したのは、アベノミクスが低所得層に与える経済的打撃をできるだけ抑え、景気の縮小を防ぐためだった。第1次アベノミクスは当初2本の矢だった(「成長戦略」は後から追加されて3本の矢になった)。第1の矢は円安誘導による日本メーカーの国際競争力の回復が目的。第1の矢は大胆な金融政策(金融緩和)を伴う公共事業による景気刺激策で国内の景気回復が目的。
 そのアベノミクスの失敗は、まだ野党もメディアも十分に理解していないと思われる。「失敗」という結果は、確かに景気指標などで明らかになっているが、なぜ「失敗したのか」の分析ができないから、「失敗、失敗」とアベノミクスを結果論で批判するしか能がない。
 まだ体調が十分でないので、簡単に「失敗」の原因をまとめる(もっとも、これから書くことは過去に何度もブログで主張してきたことだが…)。
 確かに第1の矢(円安誘導)によって日本の大メーカー(自動車や電気など)の国際競争力は強化されるはずだった。理論上は、そうならなければならない。が、肝心のメーカーが国際競争力を強化しようとしなかった。なぜか。そのことに気付いているのは、おそらく日本で私だけかもしれない。
 円安になり、その分メーカーが輸出価格を安くすれば、当然国際競争力は強化される。例えば従来1万ドルで輸出していた商品は、円が2割下落すれば8000ドルで輸出できる。当然国際競争力は格段に高まる。そうなれば輸出が増大し、供給不足になり、メーカーは生産力を増強するために設備投資を行い、雇用も
回復し、賃金も増大して消費の拡大につながり、景気が回復する……というの
が安倍総理の「絵に描いたアベノミクス・サイクル」だった。が、あえて日本のメーカーは国際競争力を高めようとはしなかった。つまり円安になっても輸出価格を引き下げなかったのだ。その理由が経済学者にも分からず、経済ジャーナリストにも分からず、メディアは「日本メーカーの輸出量は増えなかったが、為替差益で空前の利益を計上した」と、アベノミクスの「効果」を伝えることしかできなかった。
 なぜ日本メーカーは笛を吹いても踊らなかったのか。設備投資による生産力の増大が、いかにリスキーな選択であるかを過去のビヘイビア失敗の教訓から学んできたからだ。近くの教訓はソニーとシャープの失敗である。
 ソニーはブラウン管TVの時代がまだまだ続くと見て平面ディスプレイで世界のTV市場を席巻しようとして過大な設備投資を行った。当時はポスト・ブラウン管の主流は液晶TVになるのかプラズマTVになるのか、テレビメーカーにも予測がつきかねていた。いずれにしてもブラウン管時代がまだまだ続くとソニーは見ていた。その結果、この戦略上の誤算が躓きの原因となった。
 この時期、体力のあるパナソニックは液晶とプラズマの二股をかけていた。体力があるため二股をかけることが出来たのだが、その結果液晶時代に出遅れた。が、シャープはこの時期液晶1本に賭けた。そうなった要因はそもそもカシオとしのぎを削った電卓競争で築いた液晶技術へのこだわりがあったのだが、一時はこの戦略が功を奏し、シャープの「亀山モデル」が世界のTV市場を席巻したこともあった。が、「亀山モデル」の競争力を過信したシャープは過大な設備投資に踏み切った。そのころすでに韓国勢(サムソン、LDなど)が急速に液晶技術を向上させつつあったのだが、シャープは自社技術の優位性を信じて疑わなかった。結果「亀山モデル」は世界市場(とくにアメリカ)で韓国勢との価格競争の荒波にもまれ、にっちもさっちもいかなくなってしまった。
 このように設備投資による生産力の増強は、必ずしも企業にとっては健全なビヘイビアとは言えなくなっていたのだ。実は、1980年代後半に日本メーカーは大きな教訓を得るチャンスがあったのだが、その危機を日本の消費者の犠牲の上で乗り切ってしまったため、教訓に出来なかったことがある。
 1980年代の初め、日本メーカーは快進撃を続けていた。エネルギー資源の97%を輸入に頼っていた日本経済を直撃した石油ショックを、日本メーカーは「省エネ・省力」「軽薄短小」を合言葉に技術革新を成し遂げるための「神風」に変えて、日本メーカーの技術力が一躍世界のトップに躍り出た。その結果、アメリカが悲鳴を上げてG5による85年にプラザ合意で先進5か国によるドル安誘導が始まった。ドル安=円高である。実際その後の2年間で円は1ドル=240円から1ドル=120円に、一気に倍になった。つまり日本製品の国際競争力は2年間で半減したのだ。いまの円安どころではない大激動時代に、日本企業は直面したのだ。2年間で円が倍にも高騰したら、常識的に考えれば日本企業の大半は倒産していたはずだ。が、このときとった日本企業のビヘイビアはたまげるようなものだった。円高に比例して輸出価格を上げるのではなく、据え置いたのだ。このときの日本企業のビヘイビアが日米貿易摩擦の最大の要因になった。アメリカから「ダンピング輸出だ」と責められ、アメリカ国内では戦後初めてといえる「ジャパン・バッシング」の嵐が吹き荒れた。
 この日本批判に対して日本企業は「合理化努力によって競争力を維持したのだ」と開き直った。もし本当にそうなら合理化努力によるコスト削減の恩恵に、日本の消費者も与れるはずだ。が、日本国内での販売価格は据え置くか、あるいは「新製品」ラッシュによってむしろ価格を上げた。日本メーカーはなぜそんなことをしたか。円高に対応して生産量を減らせば、生産コストが上昇し、そうなれば競争力をさらに失うという負の連鎖が始まることだけは避けたかったからだ。
 これが企業ビヘイビアの原理原則なのだ。それが悪い、と私は言っているのではない。自由競争社会における生存本能が企業のビヘイビアを決めるという、誰にも否定できない現実を明らかにしておく必要があったため、これまで何度も書いてきたことを改めて整理しただけだ。つまりメーカーにとっての最大の課題は生産コストの削減、悪くても維持なのである。大量生産大量消費が約束されているような市場であれば(高度経済成長時代はそうだった)、安心して設備投資に踏み切れるが、先進国における高度成長時代は終わり(先進国共通の少子高齢化が最大の要因と考えられる)、世界経済をけん引してきた中国の成長力にも陰りが見えてきた現在、政府と日銀が足並みを揃えて円安誘導・金融緩和に舵を切っても、おいそれと極めてリスキーな設備投資には踏み切れないというのが企業ビヘイビアの原理原則である。
 第1次アベノミクスが目指した「円安→メーカーの競争力強化→生産拡大→設備投資→雇用回復→消費拡大→生産拡大→…」といったアベノミクス・サイクルが成功しなかった最大の理由はそこにある。
 つまり円安によって輸出大企業は莫大な為替差益を得たが、円安は輸入品の物価上昇を招く(当たり前の話だが)。そこに消費税増税が重なったのだから、一般庶民とくに低所得層の消費意欲が減退するのは、これまた当り前だ。実際非正規社員など低所得かつ不安定な若年層や高齢年金生活者にとっては、円安と消費税増税はダブル・パンチとなった。たまたま悪性インフレに陥らなかったのは、安倍政権発足当時には想定外だった原油安が長期間続いて、物価が政府や日銀が目標としていた2%の上昇を実現できなかったためである。もし「原油安」という神風が吹かなかったら、今頃安倍政権は吹っ飛んでいた。
 そういう視点で考えたら、17年4月の再増税は日本経済にとって深刻な打撃を与えかねないことも想定される。OPECは最近の会議でも「ここは我慢のしどころ」と生産調整に踏み切らなかったが、いつまでやせ我慢を続けられるのか。少なくとも17年4月以降までやせ我慢を続けるとは、ちょっと考えにくい。もし消費税増税に原油高が重なったら、日本経済は大ピンチに陥ることは間違いない。
 そういう状況の中で、どうしても社会保障財源として消費税の増税がやむを得ないのだとしたら、8%に増税したときと同様、低所得層に対して1人当たり2000円/1%の割合で(つまり2%増税で1人4000円)の給付金支給で保護するのがまだましだったかもしれない。
 が、8%への増税時に公明が自民に対し、10%増税時には軽減税率導入を約束させていた。また先に衆院選で公明は10%増税時には軽減税率導入を選挙公約にしてきた。公明の頭にはヨーロッパの軽減税率方式しかなかったようだ。ヨーロッパ諸国が付加価値税導入に際して軽減税率を導入したのは、世論を説得することが目的だった。だからテレビがなかった時代で、世論形成に大きな力を持っていた新聞社を味方につけるために、新聞も軽減対象にした国もあったくらいだ。またIT技術もなかったから、食料品を一律に軽減するしかなかった。いまはIT技術があるから、軽減方法にIT技術をフルに駆使できる状態だ。そのことを前提にすれば、マイナンバー・カードを利用する軽減方法もある。
 財務省も、マイナンバー・カードを活用する案を提案したが、ポイント還元性などというバカげた方法を提案したから、一瞬にして葬られる結果となった。私はもっといい方法を考えていた。ただ体調を崩していたため、ブログを休止していたのだが、急きょ、その案をこのブログで公開することにした。自公が合意に達したからと言ってそのまま実現すると決まったわけではない。メディアや野党がいっせいに私の案を支持してくれたら状況は一変する。

 その方法とは、マイナンバー・カードに電子マネー機能を搭載し、スーパーの食料品売り場やコンビニなどで販売している食料品(飲料を含む)や日用品をマイナンバー・カードで購入する場合、すべて軽減税率の対象にしてしまう。酒やたばこは除外してもいいが、レジ操作が複雑になるようなら酒類やたばこなども軽減税率にしてもかまわない。
 その場合、二つの条件が必要だ。
 一つは、レジなどを置いていない零細食料品店ではマイナンバー・カードは使えないことを認め、インボイス方式の導入もやめること。これは零細食料品店の負担軽減のためである。
 もう一つは、マイナンバー・カードでの購入による軽減税率適用の総購入額
に限界を設けること。現在の給付金制度は低所得層の世帯に対して1人6000円
の給付を行っている。3人家族であれば18,000円が給付されている。
 財務省が当初提案したマイナンバー・カードによるポイント還元制度は、還付金額の上限を1人4000円としていた。これは消費税を5%から8%に増税したとき、低所得層にとっては1人当たり6000円(つまり1%につき2000円)の負担増になるという計算に基づいて実施した給付金制度だと思う。実際に6000円の負担増という計算が正しかったかどうかは分からないが(言っておくが、この給付金の算定基準は食料品だけではなく、すべての消費を基準にしている)、いちおうその計算が正しかったとして、さらに2%増税する場合低所得層の負担増は1人当たり4000円になると考えることにする。財務省がポイント還元性を提案したときも上限を1人4000円にしたのは、そういう計算を根拠にしたはずだ(なぜかポイント還元の対象は食料品に限定した)。
 財務省の提案は低所得層だけでなく、富裕層まで含めてすべて1人4000円を上限にして、あとから増税分を還付するという、システム導入自体に莫大な費用がかかり、かつ零細食料品店には大きな負担増になるということ、さらに消費者が猛反発したことで一瞬にして葬られた。マイナンバー・カードにポイントを貯めて、あとから1人当たり上限4000円を還付するというバカげた方法を考え出したのは、財務省の目的が増税による消費者の負担増を軽減化することより、益税零細小売業者をあぶりだすことにあった。つまり、「2兎を追う」ことがポイント還元性の目的だった。結果、1兎も捕まえられなかった。
 財務省案は低所得層対策という点ではまったく0点だったが、税負担軽減の上限を1人4000円にしたのは、いちおう低所得層の負担増を基準にしたのであろう(その場合、消費の対象は食料品だけでなくあらゆる消費でなければ整合性に欠ける)。そういう意味では軽減税率の導入に一定の歯止めをかけようとした点は考慮に値する。
 が、11日に急転直下、自公が合意した増税対策は財務省が苦肉の策として考えた増税負担の軽減額の上限を取っ払ってしまった。つまり、たとえばオージービーフの切り落としも国産ブランド牛のサーロインやひれ肉も一律に上限もなく諸費税を8%に据え置くという、はっきり言って富裕層のための軽減税率制にしてしまったのだ。
 そのうえ、加工品まで軽減化の対象にすることになった。ということは、低所得層には手が出ないデパートの食料品売り場でしか売っていないような高級レストランのレトルト食品も消費税は8%に据え置くということだ。そのうえ10万円もするおせちセットにも消費税は8%しかかからない。おそらく17年4月以降、デパートの食料品売り場は高額レトルト食品が氾濫することになるだろう。それが、景気回復の証拠だと考えるような政治家には、有権者は1票も投じるべきではない。
 私の「マイナンバー・カードに電子マネー機能を搭載し、スーパーの食料品売り場やコンビニでマイナンバー・カードで購入する場合、購入総額が一定額
に達するまで消費税を8%のままに据え置き、その額を超えた瞬間から税率を10%に切り替えるようにする」という案は、低所得層対策としては不十分だが(低所得対策に絞るならば給付金制度の継続が最も望ましい)、公明が主張する「低所得者ほどカップめんなど加工品の購入率が高い」という主張はうなずける要素もあるので、公明も納得するのではないだろうか。そのうえ軽減税の上限を設けるため、財源問題も深刻にならない。財源問題では、早くもたばこ税の増税案が浮上しているようだが、欧米のように健康対策で喫煙者を減らそうというのであれば私も大いに賛成するが、あまりたばこ税を上げすぎて喫煙者が激減して税収が減ったのでは元も子もない、といった日本政府のずるがしこうなやり方には納得できない。
 また電子マネー方式なら、少なくとも日用品や賞味期限が長い加工食品の駆け込み需要も生じず、増税後の景気減退にも一定の歯止めがかけられ得ることが期待できる。給付金制度の継続が不可能になった現在、次善の策として電子マネー方式の導入を野党やメディアは考慮してもらいたい。
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