さうぽんの拳闘見物日記

ボクシング生観戦、テレビ観戦、ビデオ鑑賞
その他つれづれなる(そんなたいそうなもんかえ)
拳闘見聞の日々。

思った以上に鋭かった狼の牙 尾川堅一王座奪取、内藤律樹無念の敗戦

2015-12-15 19:24:59 | 関東ボクシング


正直なところ、技術面でいえば格が違う、と思っていました。

内藤律樹の安定した技巧は、日本上位をことごとく退けてきた実績により証されている。
対する尾川堅一の強打と、その闘いぶりに秘められた「牙」の鋭さは、
蠱惑的な魅力を感じさせるものであっても、勝利には届かないであろう。
そのような、いかにもありふれた想像をしていました。

仮に内藤に危機が訪れるにしても、それは展開次第で何らかの不確定要素が生じる
試合の後半部分であろうし、結局は内藤が試合を巧くまとめ上げてしまうだろう、と。


ここまで、対内藤律樹を想定して?尾川は対サウスポーの試合を重ねてきました。
しかし試合全体を見て、彼が対サウスポーの「システム」を構築しているかというと、
そのスピードとパンチ力に依存した、強引さのほうが目につくものでした。

やはり、正面に立って遠回りの右から攻めるので、その圧力で相手を崩せれば
右を当てて効かせ、攻め込めるが、相手の力が残っているうちは、それが適わない。

そういう状況に相手を追い込む圧力が尾川にある、それは凄いことですが、
同時に、それは相手との力関係に左右されているだけの話でもあります。

いつ左に移動し、いつ右に戻るか。その移動ルートと、打つパンチの選択を
どのように組み合わせれば、より自分の力を有効に生かし、サウスポーの優位性を殺せるか。
尾川のボクシングには、そのような発想や組み立てが、どうしても見えませんでした。

確かに尾川は中野和也を3回、デイビ・バッサを10回かけて倒した。
しかしそれと同じ方法で、内藤律樹に対したら?
倒す機会に辿り着くまでに、規定の10ラウンズは過ぎ去っているだろう。

それが私の事前の想像でした。



実際の試合がどうなったかというと、昨夜速報したとおりです。

立ち上がり、先手を取ろうとした尾川を冷静にいなした内藤の姿を見て、
私の想像通りに試合は進むのかと思ったのもつかの間、
尾川のパンチが思いの外、鋭かったのか、内藤が二歩、三歩と続けてまっすぐ下がりました。

あれ、あの内藤がこんなことをするのはどうしたことか、と思っていたら、
尾川の攻撃が続き、右がボディに打ち込まれる。
続いて右ストレートが上に飛び、まともに打たれた内藤がダウン。
立ったが内藤は視線も定まらないように見える。カウントアウトかストップか!?
しかしレフェリーが試合続行を許可し、内藤はゴングに救われる形になりました。


場内が騒然とする中、心底から驚いたというのが正直なところです。
尾川堅一は、基本的には正面突破の形ながら、思った以上に鋭い牙を剥いて
内藤律樹に襲いかかり、早々に深手を負わせた。そして、それはほぼ、致命傷に見えました。


しかし内藤は2回、攻めこまれながら耐え抜き、右ジャブを繰り出して反撃の姿勢を見せます。
3回、内藤はさらにジャブ、左ストレートを繰り出す。尾川は強引に連打で押す。
4回、内藤は足の動きこそ止まっているが、突き放すパンチがさらに増える。

この内藤の粘り、回復、立て直しもまた驚きでした。
ダメージは深いはずで、思うように動けていない反面、パンチの正確さが戻ってきている。
内藤が止まり加減なので、打ち合えるうちに追撃したい尾川だが、思うに任せない。


早々に終わるかと見えた試合の流れが変わりつつあった5回、尾川は左フックを好打。
内藤がクリンチすると、追撃を阻まれた尾川が投げを打ちかけて、レフェリーが注意。
もし内藤が踏ん張りきれず投げられていたら、一発減点もあり得た勢い。
そして直後に尾川が右、内藤が左を同時に振るが、当たるのはパンチでなく頭、という
バッティングが二度繰り返され、二度目で内藤がカット、ぐらつく。
内藤の傷は相当酷く、レフェリーが割って入り、早々に試合が打ち切られました。


このバッティングについては、内藤側から見ると悪質な反則行為かもしれません。
同じことが二度繰り返されているのですから、減点すべきだったかも、と思います。
見た直後は、ダメージを負った内藤もバランスを崩したまま左を振った「お互い様」の
バッティングかと思ったのですが、その少し前から、内藤の反撃を受けて焦った尾川が
徐々に苛立ち、荒くなっていた印象でもありました。
この辺は、もう一度映像で確認したいところでもあります。何せ興奮しながら見ていましたので。



このように、試合の終わり方は、唐突かつ残念なものでした。
しかし、若干の無念、残念があったとしても、この試合自体は、見に来て良かった、
こんな試合は滅多に見られるものではない、という気持ちの方が強く残るものでした。

尾川堅一の牙の鋭さ、傷を負いつつ立ち向かう内藤律樹、両者の闘いぶりは共に、
こちらの賢しらな事前の想像を超えて激しい、壮絶なものでした。
彼ら二人は、私の見たいと思っていた以上のものを、存分に見せてくれました。
まずはそのこと自体を称え、両者に脱帽したい気持ちです。


===========================================


試合後、ふたりの子供と共に、応援団の歓声に応え、最近亡くなったという父君の遺影を掲げ、
インタビューに応じた尾川は、自身の喜びを語るのみならず、内藤との再戦を受ける意志も語りました。
この試合、決着への意見はさまざまでも、この発言は立派だと、誰もが認めることでしょう。
簡潔ながらも、闘う男の、真の誇りを感じさせるものでした。良く言った、と思います。

王者となった尾川堅一の今後には、課題も残れど、さらなる期待をしたいです。



そして、敗れた内藤律樹。その戦績は、常にファンの望む、時にそれ以上の好カード続きで、
それをことごとく勝ち抜いてきた彼には、日本国内における「PPVファイター」の趣さえありました。

「スカパー!」の番組表を見ていると、プロレスや格闘技の大イベント生中継を、
別料金払って視聴する番組がありますが、内藤律樹の試合の生中継を、一試合500円とか
1000円とか払って見るか否か、と言われれば、私は「見る」と即答します。
実際、以前はフジNEXTの生中継が、それに該当していました。

単に、上京してホールで見るより安く済む、という話でもありますが(^^;)
彼がやってきた試合の数々は、内容や結果以前の段階で、そう思わせるカードの連続でした。
そればかりか、荒川仁人戦のような「それ以上」の試合も含むのですから。

ファンにとり、王者とは、トップボクサーとはかくあれかし、という理想を
少なくとも国内レベルにおいて、ほぼ完璧に実現し、体現していた内藤律樹の敗北は、やはり残念です。
しかし、内藤が王者として、試合ぶりのみならず優秀だったが故に、彼がいかに再起するか、
そして無念が残った敗北を雪辱出来るか否かは、さらなる注目を集めることでしょう。



昨夜の試合は、それ自体だけでも、見る者の心を震わせる劇的なものでした。
そして、その終わり方の無念があったが故に、新たなる闘いの始まりを思わせもしました。

また、昨夜と同じように、いや、それ以上に目を離せない、離してはいけないという思いで、
彼ら二人の闘いを見る日が来ることでしょう。

それを思うと、今から再び、心震える思いです。


コメント (4)    この記事についてブログを書く
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 本日速報の予定です | トップ | 敵を寄せ付けて打たれた 大... »
最新の画像もっと見る

4 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
遺影は (AK)
2015-12-15 21:08:52
尾川君の遺影は友人ではなく、10月に亡くなった父です。
ご指摘感謝します (さうぽん)
2015-12-15 21:36:29
>AKさん

訂正させていただきます。ありがとうございました。
痺れました (もみあげ魔神)
2015-12-29 02:21:48
少し前の試合へのコメントになりますが、同じく、当日、現場で観戦していました。
この日は、メイン以外も、有力選手が多数出場した興行でしたが、ラウンドが始まるや否や内藤と尾川が作り出した“空気”は、別格のものでした。
大袈裟に言うならば3歩でリングの端から端まで到達するかのような激しい間の取り合い。そして、相手のミリ単位の動きを感じ取ろうとするかのような内藤の眼差しと、尾川の矢のような踏みl込みは、ボクシングの魅力を十二分に堪能させてくれるものでした。
「世界を目指すホープ同士の戦い」というものを飛び越えて、ボクシングファン以外の人にも見てほしいと痛切に思う試合でもありました。
結末は残念ではありましたが、あの1Rと2Rは、4ラウンドぐらいの価値を感じました。
世界に届く云々はまた別として、日本国内で、これだけ魅力的なボクサー同士の対戦を実現してくれた両陣営(特に内藤律樹の心意気)に拍手を送りたい気持ちです。
コメントありがとうございます。 (さうぽん)
2015-12-30 04:56:03
>もみあげ魔神さん

過去記事でもなんでも、気にならさずにコメントいただけたら嬉しいです。よろしくお願いします。
この試合の「空気」は、仰るとおり非常に濃密なものでしたね。初回、顔をさらして相手に手を出させて外す、という内藤の防御感の上を行くほどに鋭かった、尾川の右は凄かったです。あの一発だけ、少しだけ振り幅が小さく、タイミングが速かったですね。TVもCSのどこかで生中継してしかるべき試合だったと思います。
ただ、TV放送の映像なども見た上で思うのですが、やはりあの終わり方だけは無念でしたね。あの試合は、今になって思うと「壮絶なファースト・レグ」として評すべきものだった、とも思います。ひとまず尾川の勝利という現実を受け入れて、なお「セカンド・レグ」が終わるまでは、本当の決着はついていない。試合後の尾川のコメントは、彼自身の誇りが、その現実を克服せんという気持ちから来ているものだと、私は信じます。その時を楽しみに待ちたいと思います。

コメントを投稿

関東ボクシング」カテゴリの最新記事