ご多分に漏れず、TVの前でしばし呆然としておりましたが、
なんとか簡単に感想などを。
立ち上がりは、以前プレビューめいたことを書いた際に思い描いた理想に近い、
右のジャブを丁寧に、鋭く突いていく、山中慎介の姿が見られました。
厳しく距離を維持し、ルイス・ネリーの前進を止め、連打の端緒を与えない。
これをベースに試合を展開すれば、自ずから優勢に立てるだろうと見ました。
ネリーは初回、右ダブルから左ダブルという4連打を繰り出してきて、
ちょっとビックリしましたが、山中は冷静に対処していました。
ただ、早々に首振り防御、スリッピング・アウェーというんですか、
あの避け方をしないといけなかったことは、後から思えば、危機の始まりだったかもしれません。
2回、ネリーの左、山中すぐ左返す。山中は芯は外したかに見えたが、ヒットを喫する。
最後、ゴング間際に2発食ったあと、左を打ち返し、これが好打。
3回、ジャブから左ストレート、コンパクトなワンツー。ボディにも好打。
コーナーから「左はショートで当てて行け」という指示が出た、とのこと。
この指示については「序盤のうちは右一本くらいで良い」と思ったのが、正直なところでした。
序盤やりすごせば、力使って打つネリーの体力は必ず落ちてくるから、
勝負は中盤以降に...という風に思っていました。
しかし、山中は表情からして自信満々。そもそも指示通り当てているのだから、当然か。
ネリーの接近を怖れず、当てて止めてやる、という風にも見えました。
ネリーは打たれながらも連打を出し、4、5、6発と続けて振ってくる。
巻き込まれると怖い、必殺の攻撃パターン。これが二度ばかり見られる。
この攻撃は、出すきっかけを与えないでほしい、と思ったら、4回にそれが出ました。
左のフックが端緒。ストレートの距離から届く、ロングの一打。
すぐ右が返り、バランスを崩した山中の急所に、また右が当たる。
この辺の追撃の速さ、動く標的を強く捉える正確さは、ネリーの天性、真骨頂というべき部分。
しかし山中、ここで正対して打ち返す体勢。
ジャブ突いて、足で捌くとか、クリンチするとかいう「冷まし」には出ない。
ダメージはあったでしょうが、完全にどうしようもないという効き方ではなかったか。
この選択が、結果として悪かった、甘かった、と言わざるを得ませんでした。
山中が絶好調に仕上げた故、そして序盤から手応えがあったが故の陥穽だったのでしょう。
ネリーが伸び上がってフックから攻め、ヒットを重ねる。
山中は体勢が崩れ、ガードも開き、構えが緩んでいくが、意識自体ははっきりしているからか、
逃げに出ず、打ち返そうとする悪い選択を重ねて、さらに打たれる。
ネリーの左が肩越しに決まり、なおも追撃。そのさなか、タオルが入り、試合終了でした。
悔し涙の山中、死地を抜けた茫然から歓喜へと転じたネリー。
試合後のふたりの表情は、試合同様に、目を引きつけられるものがありました。
山中慎介は、年齢やキャリア、防衛記録への注目からくる重圧などが懸念されましたが、
立ち上がりから、闘いぶり自体は、非常に好調に見えました。
右リードの威力、精度とも、ここ最近では出色で、左も勝手に付いてくる、という風。
ただ、だからこそ、序盤から「熱い」試合をする必要はなかった、と思います。
長いラウンドを闘う経験に乏しい、強打の挑戦者を相手に、勝負所を中盤以降に設定する、
そういう作戦があって良かったはずだ、と。
しかし、山中の左を好打されながら、思い詰めたような表情のまま、懸命に打ちかかってくる
ルイス・ネリーの鬼気迫る姿を見ると、あのリング上の空間は、傍目の賢しらな考えが通じるような、
生易しいところではなかったのだろう、とも思います。
試合前のインタビューで、自分の全てが試される、厳しい試練の一戦だ、という趣旨のことを
語っていたとおり、序盤から思うに任せぬ展開であっても、全てを「当然」として受け容れ、
自分の攻撃パターンを信じて攻め続けた。
その闘いぶりは「評」の言葉をひとまず置いて、敵ながら、心惹かれるものがありました。
短いながらも濃密な、あっという間の4ラウンズでした。
こんな凄い試合は、滅多に見られるものではないでしょう。
硬く鋭い拳を斬り結ぶ、運命の闘いが終わり、名王者が陥落し、ニューヒーローが誕生しました。
これぞボクシング、優勝劣敗の真実を見たのだ、と思います。
人は、ボクシングに様々なものを求めるでしょうが、突き詰めれば、
この酷薄無情な真実こそがすべてであり、それ故に我々はまた、ボクシングを見るのだ、と。
勝ち負けや、タイ記録ならず、という事よりも先に、体重118ポンドのボクサー二人が見せた、
身震いするほどに迫力ある闘いそのものに、何よりもまず拍手を送りたい。
そんな風に思った試合でした。
ネリは強かったですが想定以上ではなく、ダルチニャンやツニャカオとやった時の横にも良く動ける山中さんなら勝てたと思います。
やはり長期防衛故の綻びというか、少しずつの反応の遅れ、ガードの緩み、踏み込みやフットワークの落ち等と相手の我慢と必死さ、連打がマッチしてしまったのでしょうか。
ネリは難攻不落というほどではないし、尚弥様や拓真君に是非やって欲しいです。
試合後も、もっと足を使うべきだったかも、というようなコメントもしてるみたいですが、出来るのならやって欲しかったというのが正直な感想です。KO負けした選手にはとても見えない程キレイな顔をしてましたし、本人が言うように見た目程のダメージは無かったのは事実だと思いますが、あの展開なら遅かれ早かれ止められてたでしょう。
方や、ネリの方は強いというより上手さを見せたと思います。動きが直線的で正面に立ちがちな山中に対し、山中の左に対して左足を引きつつ上体を傾げてパンチを殺すなど、特にディフェンスは想像以上でした。詰める時も、右に回りながら巧みにポジションを変えてカウンターを貰わずに自分のパンチだけを最後はヒットさせていました。
虚無感、喪失感は暫く引きずりそうですが、これぞ世界戦という緊張感や高揚感はこの上なく味わえた試合だったと思います。ただただ、結果だけは残念で仕方ありません。
ネリはあの左を見た上で、芯には来ないと判断し、自分のパンチをコネクトする事に集中し、打ち合いは打ち勝つと判断し、自信を持って前に出て来た様でした。
ただ、確かにネリは強かったですけれども、山中は右リードも下がりながらで後ろ重心で、怖がっているとも見えましたし、トレーナーのタオル投入の早いタイミングも含めて、結局は山中の時間が尽きた側面が強いと感じました。
正直負けるならこんな感じだろうというのがそのまま出たのであまりショックではありませんでした。
ネリが強かった、これに尽きるでしょう。
セコンドのストップが早い云々といった声がありますが全く妥当な判断だったと思います。
ネリの竜巻のような巻き込みには対処できていないように個人的には感じましたし…。
いずれにしてもV13の節目に文字通り最強の挑戦者を選んだ山中選手と偉大な王者を打ち破ったネリ、とてつもない緊張感のある素晴らしい試合を見せてくれた二人にに拍手を送りたいです。
そして願わくば13回連続防衛という最早マッチメイクの幅を狭める呪いでしかない記録に井上選手や田中選手が捕らわれなければよいのですが…。
思えばあの試合でカールソンがあれだけ立ってきたのは、メキシカンとしての意地、根性というだけではなく、振り回せば当たる、当てれば手応えがある、効かせる事が出来れば一縷の望みがある。ゆえに諦めぬ。そういうものがあったのでしょうね。そしてネリーは全ての分野でカールソンより二枚は上だったし、山中の強打に怯む事もなかった。恐れを知らずガンガン前に出る強打者。それが今の山中にとって一番相性の悪い相手ではないかと思っていて、井上などはその最たるものだろうしネリーもそのタイプだよな、と考えていましたが、その通りに事が運んでしまいました。セコンドのストップ? むしろ少し遅いくらいでしょう。私だったら残り1分30秒の辺りでストップさせていたかも知れません。どう見てもガタガタで逆転の見込みが感じられないような状態でしたから。
内山の場合、能力自体はまだ(致命的には)落ちていない、相手次第ではまだやれる力はある、という思いもありました。しかし山中の場合は、これが潮時だろうな、という思いが支配しています。ネリーは確かに上り調子のいいボクサーでしたが、過去に戦った強豪より明確に強いという事はない。下降線を辿る名王者が恐れ知らずの勢いに乗る若き挑戦者の前に散る、伝統的な世代交代、王座交代劇と考えるべきだと思います。今思えばオマール・ナルバエスVS井上尚弥もその文脈で語られる試合なのでしょう。
進退云々についてはともかく、彼の功績は確かなものです。あの歪で異様とさえ言えるファイトスタイルで12度防衛を果たし、世界に名だたるコンプリートファイターのスーパースターが軒を連ねるリングマガジンPFPに名を連ねるまでになったのは、彼の試合が目の肥えた本場の評論家でも認めざるを得ないほどに確かな輝きを放っていたからでしょう。人によって意見は様々ありましょうが、私の中でのハイライトはモレノとの二戦でした。結局それが最後の輝きだったとしても、あの質の高い緊迫の攻防の高揚を忘れる事はないでしょう。心からお疲れ様でした、と言いたいです。
今まではあの左一芸でもその伸び、破壊力が相手に「うお」と思わせ、入れない怖さを植え付けさせてたのですが、その効果が弱まると、単発で返しがない分昨日の事態になるのでしょうね。
試合後の発言などからは、これは行けると思った、という話のようですが、なるほど3回まではまだ、本人の感覚もわからないではないけど、4回の劣勢はそういう話では済まない展開だったように思います。ベテランらしくない、力で勝ってきた山中は、それ故に魅力あるボクサーですが、あれだけ右リードが出て、よく当たるのだったら、試合運びにそれを生かして欲しかったですね。左の威力が落ちているようには感じなかったですが、ネリーの踏ん張りや反撃もまた見事でしたね。何しろ集中していて、懸命で、打たれるのも覚悟の上、という腹の据わり方が脅威でした。山中の持つ強さ故の陥穽、ネリーの覚悟と研究が相まって、こういう試合になったのでしょう。
左の伸びに関しては、ネリーの強さ故に多少縮んだ、ということはあるかもしれませんね。最初から存分に、伸びやかに打てる、という時期は、山中にとってもう過去である、とも言えましょうが。
ネリーと他の日本勢との対戦はあるんでしょうかね。井上兄弟との絡みがすぐにあるとすれば、先に行くのは弟さんの方だったりするのかもしれません。
>四度目さん
そうですね、日本のトップが昨年から今年に賭けて、相次いでグローブを壁に吊していますね。そういう時代の変わり目が来ていることは確かですね...。
>矢吹丈さん
観戦お疲れ様でした。序盤は良かったとTVでも見えましたが、確かに足はあまり動かさなかったですね。右リードに手応えを感じたせいか、早々に左へ繋げようという展開になりました。ベテランの悪い面として、体力への不安から、無意識のうちに目先の好機を追ってしまう、拘泥してしまう、というものがありますが、山中もそうだったのかもしれません。試合前の報道ではしきりに足で捌くと喧伝されていたのですが...。
山中の立ち位置は、ネリー以上に打てる位置取り優先の、正面突破になっていましたね。ネリーは見た目以上に遠くから打てる選手で、しかもフック系が伸びるので、あれを読み違えたら怖い、巻き込まれる端緒になり得る、と見ていましたが、4回はまさにそうなりました。詰めの位置取りも巧かったですね。あれは「倒し慣れ」ている選手の怖いとこですね。
試合としては、凄かった、世界一流のバンタム級同士の激突を堪能した、というしかないものでした。結果は確かに残念でしたが。
>neoさん
その山中評には同感です。しかしこの試合で、山中はネリーにかなりの脅威を与えていた、とも見えました。ネリーはそれでも顔色一つ変えず、自分の闘い方を貫いて勝った、大したものだと思います。2回の最後に決まった左など、よく倒れないなと感心しました。今回は、山中のパンチが落ちているというより、ネリーの心身の頑健さがまさった、という面の方が大きかったと見ています。
山中の長きに渡る王朝は、年間当たりの試合数や、在位時の年齢など、具志堅のそれとは異なり、内山高志のそれと重なるものでした。やはり、時が過ぎたというべきなのかも知れません。或いはその寸前に、ネリーという強敵を迎えたが故、という見方もあるでしょうが。
>海藻類さん
どう分析するかは人それぞれでしょうが、ネリーの連打攻撃を出させてしまった4回の展開、受け身になって打たれ続けた場面は、こうなったら破局だ、と思っていたそのままの光景でした。セコンドの決断は妥当だと見えました。論議を呼ぶようなことでは全くない、と思っていたら、本田会長自ら何か言っているそうで、ちょっと驚いています。
13回目の防衛戦だから強敵を選んだ、という話であれば、正直言って本末転倒やな、という気持ちでもありますね。強敵との闘いを優先して試合を組み、勝っていくことがイコール高評価に繋がらず、記録達成という話が付けば、普段以上に注目され、期待が集まる。仮に具志堅が20回防衛していれば、相手が違ったのか、とか考え出すと、あらゆる意味で筋違いの話やなあ、と思わずにはいられませんね。まあ実際は、単に指名試合の番だった、というだけのことなんでしょうが。仰る通り、井上や田中がそういう本末転倒にとらわれることのないキャリアを重ねていくことを願います。
>月庵さん
TV局の事情もあり、年二回ペースでの防衛戦を重ねてきて、やはりこのあたりに限界、そうでなくても強敵相手への敗戦があって止む無し、とは思うところです。試合ぶり自体が、ああすれば良かった、と思う部分はあっても、山中はかなりの水準まで強さを見せてはいたので、無残なものを見た、という気持ちはまったくありませんから、私も同様で、強いショックを受けたわけではないですね。
カールソンの闘志は、まだ望みがあると思う余地を、山中が与えていた故、というのは同感です。あの試合の仕上がりは、心身いずれかの部分で、若干の緩み、と言って悪ければ、余裕故の迷いが感じられました。今回の山中はむしろその辺を締めていて、その快調さ、手応え故に勢い余った部分も感じました。もう一歩、せめて半歩退いて、広い視野で相手を見て欲しかったな、と。ストップに関しては、あれだけ受け身になり、腰も落ちて、良いのも打たれていて、当然でしょうとしか思わなかったですね。
今後については、試合後の本人のコメントだと、再戦したいという感じですが、時を置いて振り返れば果たしてどうなるか。モレノにKO勝ちしたあと、その熱狂の中で、この試合が山中最後の輝きになったとしても...と思ったりもしましたが、そうなる可能性もあるかもですね。もし山中が心身共に問題なく、再起するとなれば、ネリーとの再戦は、今回の濃密な試合内容からしても、要注目の一戦ではありますね。
自分の山中像の理想を言わせてもらうなら、神の左の進化以上に、ダルチニアン戦でのボクシングの進化、あぁいう展開に持ち込んで尚且つ左で倒せるボクサーの確立と海外で勝つ事を望むなら…と考えてました。
こんなネリーのような本場にゴロゴロいそうな屈強な選手には、こういう結果や予想が付く事自体、山中の防衛過程での成長に疑問と不安はいつもありました。
言うならば長谷川のパターンにも通ずる感覚です。
実際、ダルチニアンにこの戦い方してたら、やられてたと思います。
日本人が海外で強豪に勝つにはの観点で、山中の昨日の試合で一番感じたものは、体の芯の弱さでした。相手がネリーで、完全に浮き彫りに感じました。これも長谷川にも感じたものですが、長谷川はルイス戦では、地道に相当作りあげたんじゃないですかね。
三浦にはその点、日本人屈指であんな闘い方しか出来ないのに強豪相手にも試合になったと思っています。内山には山中同様のイメージです。
試合後のコメント聞いて、出来れば再戦を希望します。ティファナで。日テレから離れたが良いと思います、離れるチャンスだとも思いますし、本当の強さを身に付けるにはそれが一番と思います、が、やはり身の危険は高いと。
個人的な考えでは、具志堅に並ばなくて良かったです。具志堅さんも海外防衛やらビッグネームとの試合があった訳ではありませんが、現在の状況と考えたら数字が一緒で一緒とは簡単に言いたくないので、並ぶチャンピオンには現在の価値ある、本場にも本当に知られた日本人チャンピオンであってもらいたい気がするからです。モレノⅡがアメリカだったら…とかも思ってしまいます(笑)。
1つ質問です、開始1ラウンド山中はいつも同様、右ジャブから入り、右主体で入っていきました。さうぽんさんも序盤は右で右で我慢し中盤からの後半勝負的な感じでしたが、自分はネリーとかダルチニアンのようなどんどん入ってくるような選手には、開始直後はドンドン左を出して威嚇する意味もこめ、相手が連打を出せない状況、弱気を少しでも作る事が大事だと思いました。勿論、足を使いまくりで、ですが。
井上尚哉のナルバエス戦は、ガードの上ながらもあの右でナルバエスは狂ったと思います。
序盤から右ジャブまともに貰うとこからおかしいなぁと不安はありました…。