基礎と応用

2016年10月14日 | 日記・エッセイ・コラム
 東京工業大学の大隅良典栄誉教授が今年のノーベル生理学・医学賞を受賞されました。ここ数年、日本人のノーベル賞受賞が続いています。
 そこで言われているのが、科学の基礎研究の重要さです。
 私たち門外漢は、得てして科学の発見や成果を一刻も早く私たちの生活に役立つように応用してほしいものだと期待しがちです。そこには、科学は私たちの生活に貢献してこそその価値があるのだとする、払拭しがたい私たちの価値観があります。
私たちは、生活に役に立たない科学研究などどれほどの価値があるの?と疑問を投げかけ、さらにことによっては役立たないものは無用なものだと決めつけてしまいがちです。ちょっと前の政権がこれ見よがしに行ったあの事業仕分けのように……。無駄は省け、無駄は無くせ、無駄に俺たちの税金を使うな、と。その田舎芝居に、私たち国民は拍手喝さいを送ったものでした。
 ところが今回ノーベル生理学・医学賞を受賞された大隅氏は、周りから無駄だと思われたこと、しかも当の本人もどうなるものか見当も予測もつかないことの研究に長年没頭し、ひたすら研究を続けてきたのです。その長年の研究の成果がこれからの人類のために役立っていくであろうと、高く評価されました。
 その大隅氏は様々なマスコミのインタビューに答える中で、繰り返し基礎研究の重要性を強調しています。その一方で、基礎研究を疎かにした、すぐに応用可能と思われるテーマに手を染めがちな現在の科学研究の在り方を憂えてもいます。
 すぐにでも私たちに役立ってこそ価値があるとする考えは、お手軽な研究課題を設定し、小手先で研究結果や調査結果を取りまとめて、おざなりの成果らしきものを提示して、これ見よがしに見栄を切ってみせる、という薄っぺらな価値観、世界観、人類観、歴史観、そして生命観です。書店の棚には様々な分野でのそんなハウツー本がたくさん並んでいます。現代は科学の世界も出版の世界もそういう時代なのでしょうか。
 それは、障害者福祉に携わる私たちに引き寄せて言えば、障害者支援に役に立つ技術や道具や考え方をいち早く手に入れ、身に付けたいと願い、手に入れたそれらを応用して障害者の人生や生活の支援に取り組みたいとする思いに似ています。 
 しかし、その技術や道具や考え方をどう使うか、あるいは使わないかは、必ず障害者福祉の基礎となる命や障害についての思想に裏打ちされていなければ、単なるテクニックというだけのことでしょう。それでは私たちは動作や操作手順をインプットされたロボットにしか過ぎません。私たちは、いや障害者福祉に携わる私たちこそ、命や障害についての問いを深くし、あくまでも真摯にそして深く問いかけるそのまなざしと心をもって、じっくりと障害者と向き合い、時に寄り添い、時にともにあらねばならない、と思います。
 目先の成果や応用を求めるあまり、基礎をないがしろにして短時間で促成されたものは、命の重さ、時間の重さに耐えることは出来ません。


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