アリの一言 

天皇制、朝鮮半島、沖縄の現実と歴史などから、
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「天皇メッセージ」から1カ月。広がる異常・違憲状況

2016年09月08日 | 天皇制と憲法

    

 天皇明仁が「生前退位」の意向を事実上表明した「ビデオ・メッセージ」から、8日で1カ月になります。この間の政府やメディアの動向、さらに「識者」の論評をみると、問題の本質が隠ぺいされたまま、異常な違憲状況が放置され拡散されていると言わざるをえません。

権力の手先となったNHKに新聞協会賞とは

 驚いたのは、最初に天皇の「生前退位の意向」を「独自ネタ」として報道した(7月13日)NHKに新聞協会賞が与えられたことです(8日付各紙)。受賞の理由は、「国内外に与えた衝撃は大きく、皇室制度の転換点となりうるスクープ」とか。

 確かに「衝撃」はありましたが、それは「だれが天皇の意向をメディアに伝えたのか、責任を負うべき内閣はどんな判断をしていたのか、全く明らかにされていません」(西村裕一北海道大准教授、8月9日付朝日新聞)という「衝撃」です。
 NHKは権力の手先となって政府(おそらく宮内庁)のリークを垂れ流し、「生前退位」の露払いをしただけではありませんか。「スクープ」どころか、メディアにあるまじき行為と言わねばなりません。そんなNHKに協会賞とは、日本新聞協会も堕ちたものです。

★「特別措置法」という脱法行為

 6日付の共同配信記事は、「政府内で天皇の生前退位を巡り、現在の天皇陛下一代に限り認める特別措置法の制定を先行させ、恒久的な退位制度や『女性宮家』創設などを含む皇室典範の抜本改正は、その後に議論する『2段階論』が浮上していることが分かった」と報じました。

 「特措法が軸となるのは、首相の政権運営に絡む事情も背景にありそうだ。…自民党筋は生前退位に関し『自らが描く政治日程の足かせにならないよう、早めに仕上げたい』と首相の胸の内を推し量った」(同共同配信)といいます。

 もともと安倍首相は、日本会議などとともに、「女系天皇」や「女性宮家」の創設を認める皇室典範改正には反対です。「特措法」ならその問題に手をつけずにすむという思惑もあるでしょう。いずれにしても安倍氏の狡猾な政治的思惑です。

 しかし問題の本質はそこではありません。「特措法」は、天皇の「生前退位」という憲法や皇室典範の基本原則に反する行為を、一片の法律によって、天皇明仁だけに認めようとするものです。それは憲法や皇室典範を踏みにじる「超法規的」な脱法行為と言わねばなりません。

 この「特措法」案に対し、批判がどこからも(誰からも)出ていない(報道されていない)ことは、きわめて重大です。

 ところで、安倍首相に「特措法」を進言したのが田原総一朗氏であることは、「ジャーナリスト」のあり方を考えるうえで見過ごすことができません。

 田原氏は8月31日午後、首相官邸に安倍氏を訪ね、会談しました。
 「田原氏が会談で、陛下の生前退位への思いを踏まえ、特別法により対応すべきだと指摘したのに対し、首相は『それもある』と述べたという」(1日付中国新聞=共同配信)

 憲法の基本にかかわる問題、政局を左右する焦点の問題で、首相に会って直接脱法行為を進言するとは、驚くべきことです。これが権力を監視するジャーナリストとはまったく無縁の姿であることは言うまでもありません。

★「リベラル派」も天皇の違憲行為に同調・賛美

 琉球新報(8月30日、31日付文化面)に掲載された「『天皇メッセージ』をどう読むか」という論稿で梅田正己氏(高文研前代表)は、憲法第7条に定められている天皇の国事行為をあげたのに続けてこう述べています。
 
「(憲法7条が定めたー引用者)儀式的な役目を、内閣の助言を受けてこなすだけで、『日本国民統合の象徴』としての役割が果たせるものだろうか。答えは考えるまでもない
 「天皇はいかなる行為・行動によって『象徴』としての存在理由を確保できるのか。その『答え』を、天皇みずから国民に対して直接語ったのが、今回の『ビデオ・メッセージ』だったのである
 「『象徴』の意味と役割を、天皇みずから語った今回のメッセージは、私にはまさに〝歴史的”な出来事だったと思われる

 「ビデオ・メッセージ」、というより天皇明仁に対する全面賛美です。これで良いのでしょうか。

 「ビデオ・メッセージ」は、天皇明仁が憲法の「象徴天皇」の意味を自分で勝手に解釈し、憲法にない「公的行為」なるものを勝手に拡大し、さらに憲法・皇室典範にない(したがって法改正に直結するきわめて政治的問題である)「生前退位」についての自分の意向を、「ビデオ・メッセージ」というこれまた天皇に認められていない手段(宮内庁はこれも「公的行為」と釈明)で一方的に国民に流したものです。その実態は何重にもわたる違憲行為です。

 「リベラル派」とみられている梅田氏が、こうした天皇の違憲行為にまったく目をつむり、その行為を「歴史的な出来事」と賛美するのは、きわめて不可解で異常だと言わねばなりません。
 梅田氏だけではありません。天皇明仁に対する美化・賛美が、いわゆる「リベラル派」といわれる人たちの間に広く見られます。

 憲法の「象徴天皇制」とは何なのか。どうあるべきなのか。それを決めるのは(それ自体の是非を含め)、天皇ではなく、主権者である私たち「国民」です。
 天皇も憲法下の存在であり、憲法や法律を遵守しなければならないことは、憲法99条を引くまでもなく、明白です。憲法・皇室典範無視の違憲行為は絶対に許されません。

 天皇・天皇制をめぐる主張・議論は、憲法・民主主義に対する試金石です。

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