タイトル: ハイパースペクトルカメラによる米の品種分類に関する基礎研究
研究期間: 2006年度
文責 : 北海道工業大学 佐鳥研究室 (竹内佑介)
1. はじめに
ハイパースペクトルカメラ(以下:HSC)を含むスペクトルセンサは、人工衛星から行うリモートセンシング分野(航空宇宙)で利用されている。対象物が反射する光の分光特性情報を含むデータを扱うため小麦や米のタンパクマップ作成や農産物の収穫予測などに役立てる試みが始まっている。また、非破壊による測定のため農業の他、医療、コンクリートの歪み調査など多様な分野で需要が高まっている。
現在、北海道工業大学佐鳥研究室中心に研究・開発を行ったCosmos Eyeを使用した。Cosmos Eyeは、可視域から近赤外域である400nmから800nmの波長含む波長情報を72バンドに分割したスペクトルデータと、640×480ピクセルの画像を統合したデータ扱うことができる。(2)なお、Cosmos Eyeによって得られたスペクトルデータをハイパースペクトルデータ(以下:HSD)と呼ぶ。なお、CosmosEyeによる研究により、生鮮食品の鮮度劣化の評価法を確立した。さらにこの評価法をもとに野菜の鮮度を数値で表すことができる「鮮度アシスト」の開発に成功した。
本研究では、機器による炊飯時における米の評価(品種分類含む)を可能とするため、まず、炊飯時における米の分類を目的とした実験を行った。
2. 実験方法
本実験では、α撮影方式を用いて行った。α撮影方式とは、定量的な測定を行うため、光源を一定にした環境を保ち、同条件での撮影を行う撮影法である。光源には250Wのハロゲンライトを使用し、その配置図を図1に示す。同じ角度に合わせた3つのハロゲンライトを使用し、測定対象物の真上(通常高さ50cm)の位置にCosmos Eyeを設置する。なお、本研究で使用したお米は、「おぼろつき」「あきたこまち」「こしひかり」「ななつぼし」「きらら397」「ふさおとめ」「ふっくりんこ」「ほしのゆめ」の8種類とした。また、「おぼろつき」は、農家によって収穫直後のものを精米してもらい直接購入した。残りの品種に関しては、米屋にて精米をしてもらい購入をした。この8種類を炊飯器(SHARP KS-F102)で米:1合、水:1合の割合の早炊モードにて炊飯をした。撮影する際には、図2のようにシャーレに水平になるように50g敷き詰めα撮影方式で炊飯直後を撮影した。なお、撮影回数は、同じ購入した米を使い購入直後,1ヶ月後,2ヶ月後の計3回おこなった。なお、保存方法は、乾燥剤等をいれず精米袋に入れたまま湿気の無い場所で保存した。

図1 撮影配置図

図2 撮影例
3. 実験結果
取得したHSDを図3の品種ごとにシャーレの赤枠印内の約7000のスペクトルデータを抽出し、平均化したスペクトルグラフを図4から図9に示す。

図3 データ使用範囲

図4 購入直後平均スペクトルグラフ

図5 1ヶ月後平均スペクトルグラフ

図6 2ヶ月後平均スペクトルグラフ
4. 反射率
実験結果より反射率を算出した。反射率とは、得られたHSDから光源特性を取り除いたものである。光源特性を取り除くことで対象物そのもののスペクトル特性が求められる。光源特性を算出するには、光源特性をほぼ100%反射させる白板を使い、光源特性のHSDを取得した。図7から図9に各反射率グラフを示す。

図7 購入直後反射率グラフ

図8 1ヶ月後反射率グラフ

図9 2ヶ月後反射率グラフ
5. 反射率積分量
反射率から全波長域の積分(反射量)を行った。この数値が高いほど、光が多く反射しているといえる。表1に測定波長反射率量を示す。
表1 測定波長域反射量

6. 明度
反射率よりR(625nm〜740nm)、G(500nm〜565nmの平均反射率)、B(450nm〜485nm)の範囲の各反射率平均から明度の算出を行った。ここでの明度は、数値が高ければ白さをあらわしている。明度の算出は、式(1)になる。
明度=0.299×R+0.587×G+0.114×B (1)
表2 明度

7. 水分吸収量
約730nmから約780nmが変化起こっていることがわかる。この帯域は水分吸収を含んでいるため、各種炊飯時のHSDの水分吸収帯とした。算出方法は、1から730nmから780nmの平均反射率を減算したものである。表3に水分吸収量を示す。
表3 水分吸収量

8. 考察
反射量、明度、水分吸収量が時間経過による各品種の変化があらわれている。購入した精米を3回にわたり実験を行ったことにより、保存環境等の影響でスペクトルグラフに変化があらわれたものと考えられる。
また、水分吸収量に関して「精米は貯蔵によって,米の澱粉粒や細胞を包んでいる膜が硬くなり,炊飯中の吸水や膨潤を妨げることがある。(3)」等が言える。今回の米の保存が精米袋のまま保存したためこの事柄の変化が顕著に現れた。また、「おぼろつき」に関しては、農家での直接購入であり、収穫を行ってから精米までの期間が短いため、0ヶ月の実験では、もっとも水分量が高くなったといえる。
この時間経過における反射積分量:A、明度:B、水分吸収量:Cの変化から米の品質を数値で算出する式(2)を考案した。なお、この式によって得られる値を「こめ品質値」と呼び、数値が高ければ品質がよいとする。表4に、こめ品質値を示す。なお、ここでの品質の定義は、精米直後が最も品質が高いとしている。
こめ品質値=(A×B×C)/100 (2)
表4 こめ品質値

9. まとめ
本来の研究目的は、米の品種識別であったが、本実験により各品種の判別までには至らなかった。しかし、米の保存方法が精米袋のまま放置している状態だったため、反射量、明度、水分吸収量から時間経過からHSDに変化があらわれることがわかった。このことから米の品質劣化を数値化する「おこめ品質値」を考案した。しかし、この算出法によって幾つかの品種は、良い数値を表さなかった。これは、実験をはじめる段階での品質の差、保存の違いが現れたのではないかと考える。
今後は、同収穫日、同精米日、同環境保存にした状態での実験を行い、こめ品質値算出式の証明を行う。また、こめ品質値による管理を経過的に行ってゆけば、品種ごとの特徴数値変化があらわれ、品種判別が可能になると考える。
参考文献
(1)森林リモートセンシング (株)日本林業会 加藤正人(2004)
(2)平成16年度卒業論文”ハイパースペクトルカメラの研究:ハードウェアの性能評価”
(3) (社)農林水産技術情報協会 http://ss.afftis.or.jp/index.html