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人種差別問題について「身体性」の側面から描く―第9地区(ネタバレあり)

2011年01月16日 12時18分40秒 | 映画DVD
 第9地区はアパルトヘイトをモチーフにして、エイリアンとの遭遇を描いた作品。監督が南ア出身で、映画の舞台もヨハネスブルグそのものである。

「エビ」と呼ばれるエイリアンたちを血なまぐさく描いている
コミュニケーションはとれても、不潔で衝動的で下品な文化をもった移民として描かれ、政府は国際的な非難を免れるために、表面的には人道的な扱いをとっている。その裏では、エビの兵器の研究や人体実験をしているという構図。

「身体性」の強調
 グロいシーンもあり、見ていると吐き気がして、神経が疲労してくるような映画だ。でもそれが監督の狙いなんだろうと思う。身体性を強調することは、人種差別や人道主義の問題を、感情抜きに観念的に論じたり、歴史を切り離して体裁よく論じることが、現実には不可能であることを訴えたいのだと思った。
 主人公はいかにも小役人といった風情で、この問題に巻き込まれていく。エビに嫌悪感があることさえ自分で気づいておらず、エビたちを保護する立場の役人として働いており、エビたちの正当な権利を守る立場であるわけだが、自分の体が次第にエビになっていくと、その嫌悪感は丸出しになっていく。
 最終的には利害が一致したところで妥協して、エビ親子に協力し、ラストには体を張ってエビ親子を救い出し、最終的に体はエビになって、第9地区でエビたちと暮らすことになる。それでも妻のところにプレゼントをおきにいくことがあることから、心が全部エビになったわけでなく、人間の情緒を残している。

見る側の身体に投げ込まれる感覚
 感情では人種(人類とエビ)の間を乗り越えられず、利害関係では一致すれば手を結ぶことが出来ている。体はその中間ぐらい、つまり嫌悪すべきものでもあるが、エビの兵器を利用できる手段として描かれている。この身体性にこそ、この人種差別や人権問題を机上の空論にしない訴求力をもっている。SFXを駆使して描くことで、この差別や人権の重い問題を、見る側の身体に直接投げ込まれるような仕掛けになっている。だから、気持ち悪くなってヘトヘトになるのかと思う。


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クリエーター情報なし
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