ファンタジーノベル「ひまわり先生、事件です」

小さな街は宇宙にリンク、広い空間は故里の臍の緒に繋がっていた。生きることは時空を翔る冒険だ。知識は地球を駆巡る魔法の杖だ

第6章連載≪8≫「ひまわり先生、大事件です!…大雨が6年2組を襲います…」

2015年12月21日 | ファンタジーノベル


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誘拐されたひまわり先生の子ども、勇樹を捜すために、君子、悟、美佳、太一、徹たちの6年2組の新聞班は、10年後にもう一度、小学校の桜の古木の下に戻ってきた。5人は手をつなぎ桜の満開の下で、今この時の再会に感涙した。時の経過と共に失ったものに哀しみ、世界を彷徨い探し続けた心の糧を見つけた。

小さな街は、宇宙に繋がっていた、広い世界の先は、生まれた街の臍の緒に繋がっていた。生きることは、いつも時空を翔る冒険だ。多摩川小学校には、茜や竜や緑たちの仲間がいた。知識は、地球を駆巡る魔法の杖だ。見つけたものは、地球を闊歩した巨大恐竜の足跡とグーテンベルクと戯れる蝶だった…
 


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">★登場人物の紹介茜編★

秋葉茜は、新聞班ではないが、同じ6年2組のクラスメートです。君子、悟、美佳、太一、徹とも仲の良い仲間です。皆は茜を、ニックネームでスミレちゃんと呼んでいます。地元の賑やかな商店街、多摩川商店街の中に花屋「フラワー弥生」を開いています。10年後は、母親の後を引き継いでフラワービジネスの商売で世界を駆け回る。よく「青い薔薇」はこの世に実現しない花で、いくら品種を掛け合わせて青い薔薇を改良しようとしたが、古来より不可能の代名詞のように言われていました。しかし、最近、遺伝子操作で青い薔薇が咲きました。茜は、10年後に母の安らぎのために花のかおりと色と音楽と光の光線で、精神に慰安と安らぎと微睡みを与え、トキ婆さんの温泉効果とインドのマッサージを併用したリラックスルームを銀座の真ん中に作った。此処で疲れた会社経営者や政治家の評判を博し、「身心の魔術師」と呼ばれていました。
 
弥生は多摩川商店街で花屋を経営している。多摩川小学校のPTA会長。茜には失踪した父が居るが行方知れずになっている。茜の父、賢治は生来の正義感から暴力団組長と争って、正当防衛とはいえ喧嘩の末に組長を殺害。裁判では正当防衛が認められたが、組から命を狙われて逃走中。関西で金融業界紙のルポライターをしているという噂がある。


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「…台風23号は、グアム島北西の海上で発生、沖ノ鳥島の南西海上で非常に強い台風となった。中心気圧は940hpa、最大風速は450m/sに発達した。沖ノ鳥島の西北西の海上で、超大型で強い台風となり、20日18時ごろには、大阪府泉佐野市付近に再上陸した。台風23号は、その後北東に進み、近畿、東海、関東を横断、21日6時頃には、銚子沖に進路を進めた。台風の北上に伴い、日本付近に停滞した前線の活動が活発となり、各地で大雨を降らせ始めた。この台風の影響で、各地に大雨、強風などによる大きな被害が発生した。台風が接近・通過した20日午後には、各地で非常に激しい雨を降らせた。降り始めの総降水量は、関東・甲信、東海地方の山沿いを中心に、300ミリを超える大雨となった。三重県宮川村宮川では455ミリ、静岡県伊豆市天城山では350ミリ、岐阜県郡上市長滝では325ミリの記録を観測した。台風の通過に伴い、管内は暴風域に入り北陸地域を中心に最大風速20m/sを観察した。富山県富山市では、累年の極値を超えた最大風速22,9m/sを観察した。…」。

非常に強い風と大雨を伴った台風が近づいてきた。今年は大型台風が幾度となく日本列島を襲った。テレビの台風情報は、過去10年の中で、最高の雨量を記録しそうな激しさあると報じている。

商店街のシャッターは全部下して、強風に備えていた。シャッターの内側で、ジッーと、台風の過ぎ去るのを待っている人の息を殺した気配があつた。「一身太助」も店を閉じていた。「ヒポクラテス」もシャッターを降ろしていた。夏目印刷工房からは、印刷機の音が消えていた。フラワー弥生のショーウィンドも、極彩色の花は真っ暗であった。商店街のバス通りは人気もなく、時々、オートバイが水溜りを、四方に飛沫を飛ばしていた。乗用車の轍は路面の水を掻き分けて、急いで帰宅した。6年2組のグループは、銭湯「玉肌の湯」のトキ婆さんの番台に顔をそろえて、嵐の通過するのを息を潜め、行方を眺めていた。昨日の地震に続いて台風の襲来なので、自然と話題は過去の災害になった。町一番の情報通のトキ婆さんの話は、問わず語りに明治大正の震災の惨事になった。

町内の生きた化石と呼ばれているお風呂屋「玉肌の湯」の暖簾の奥の番台に座るトキ婆さんは、推定95歳。町内の古今東西、今昔の裏表の情報を知り尽くしている、なんでもよく知る博識婆さん…。「あのねー。昔から、おうちの湯の中にはいろいろな薬草が混ぜられてるんだよ。薬用効果のある薬湯があってね、捻挫をしたー、腰が痛いだー、風邪を引いたー、頭が重ーと言ってはーね、このトキ婆さんのお風呂に入りに来るんだよ」。銭湯にやってくる一見の客も、医者のように症状を聞いて、いちいちそれに答えて、何やら怪しい緑やら紅いやら乳白色やらのドロドロした液体を湯船に流し込んでいた。今日もトキ婆さんは、女湯にいるひまわり先生のために、お湯の中になんの効用があるのか、そのつど妙な薬草を入れていた。ひとみ先生のアパートには、チャンと内風呂があるのだけれども、トキ婆さんとおしゃべりするのが大好きで、町内のことをいろいろ細々質問しているー。聞くと、幽玄寺の和尚と共同で昔から、境内で一緒に育てている薬草がたくさんあるようです。体から温めて病気を直す薬草風呂は、トキ婆さん独特の、秘密の特効薬がたくさんあります。中には、とき婆さんが秘伝の、夫婦円満、仲良く元気な子供が授かる「安産の湯」という薬草があるようです。噂によると、遠く関西の方から評判を聞きつけて、わざわざ夫婦が入りに来るそうです。

「…村を襲った天変地異のことは、町の外れの垣根の奥に住んでいた<おしゃべり爺さん>からよく聞かされたもんだが…」と、ペリーの黒船が日本に来た頃に、お江戸を襲った安政の大地震まで時間が遡った。明治27年の≪明治・東京地震≫こと、大正12年の≪関東大震災≫のことまで延々と聞かされた。時々、大風の激しい雨音がガラス戸を打ちつけた。いつもは、喧噪に包まれている商店街は異次元の空間のようにひっそりとしていた。風呂屋の暖簾をくぐった途端に、六年ニ組の仲良しグループは、トキばあさんの声に乗ってタイムスリップしたようだった。「…安政年間には、天変地異次々と起こったそうだ。地底に大地の音が響き、地が裂れ、天が堕るかと驚き、火が、四方より炎々と燃え出し、焔が天を焦がしおったが、手の施しようがなかった…助けてくれ、起こしてくれと、叫ぶ声が方々に上がったが、自分の命が精一杯で、もとても…」と、まるでさっき見てきたかのように、大昔の地震を語り始めた。太一が茶化して、「トキ婆さん、講釈師みたいだぞ…」と言うと、トキ婆さんも年の功、太一なんかより一枚も二枚も上手だった、「太一、実を言うとな、わしは魔女なんじゃー、今は185歳、ペリー提督と握手だってしたことがあるんだぞ…」と、みんなを煙に巻いた。「…安政年間には、今日みたいに巨大台風が関東を襲ったぞ。恐ろしいインフルエンザも大流行したそうだぞ。コレラや麻疹も流行って、何十万人も無惨に死んだぞ。鯰が騒いで、本所の井戸水が濁って、眼鏡屋の磁石に張り付いていた釘がポロポロ下に落ちたそうだ。象山のもの好きのバカたれが、磁石の地震予知機などをつくったぞ…昔にな、<稲村の火>という安政の大地震のエピソードが国語の教科書に載っていたがなあ。お前ら知ってるか? 大津波が村を襲うぞと、自分家の稲に火をつけて村人を避難させた、という話なんだがなー。徹よ、知ってるか…?」と、淡々と喋ったので、まるで昨日のことのように思えて、みんなの眼がだんだん真剣になってきた。「…それからな、わしたちの街を襲った明治27年の地震のありさまを、龍の爺さんの昔ばなしだがな…」と続いた。今の江東区を震源地とする震度7の地震は、東京の下町や、横浜や川などに31人の死人をだした。「…レンガの建物が多くてな~、特に煙突の倒壊が多かったので、<煙突地震>と呼ばれたそうだ。築地居留地の立教大学校の校舎も壊れたそうだぞ。…」と、トキ婆さんの昔ばなしは、泉のように次々と湧き出してきた。

今、6年2組の天野龍が乗った「アマノ電気店」のワゴン車がせわしなく通り過ぎた。トキ婆さんが関東大震災のことを話し始めた時に、助手席の窓から龍が手を振った。悟がすぐに、「あー、龍がこっちを見ている、茜を見て手を振っているぞ…」と、言ったので、急に現実に戻された。電線がビーン、ビューンと震えながら風の音を受けてまるでチェロの弦が低音を奏でるように反響した。風雨にたち向って挑むように、ピンクの傘をすぼめながら、全身に激しい雨を被って、風に踊るあや吊り人形のように人が歩いている。一歩一歩こちらのバス停の方へ近づいてくるのは、ひまわり先生です。朝から台風の危険を予測して、多摩川小学校は臨時休校になっていた。学校の職員も生徒の安全を確認して、早めに帰宅するようだ。

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