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ロウアーミドルの衝撃 (大前 研一)

2006-09-30 14:59:59 | 本と雑誌

 最近の大前氏の著作は、図書館で借りることが多いです。
 この本も、たまたま近所の図書館で目に付いたので借りてきました。

 「第1章 日本の構造変化と『M字型社会』」「第2章 ロウアーミドル時代の企業戦略」のあたりは、数値的な事実を踏まえ現状を再確認する意味では、それなりの切り口でわかりやすくまとまっていると思います。

 他方、後半の提言部分になると、首肯できる部分と首を傾げたくなる部分とが入り交じってきます。

 たとえば、経済危機から脱し、IT産業を中心に発展を遂げている北欧諸国の「教育」についての記述です。

(p226より引用) これらの国の教育現場では、「teach(教える)」という言葉が禁じられ、「learn(学ぶ)」を使う。「教える」とは、答えがあることを前提とし、それを知っている人間が教えるという考え方だ。だが21世紀の今日、世の中では答えのない問題だらけである。だから北欧では教えるのではなく、子供たちが自ら学びとるという考えを徹底しているのだ。
 デンマークの学校教育関係者の話では、デンマークの教師は「1クラス25人全員が違う答えを言ったときが最高だ」と話していたほどだ。
 自ら考え、自分で答えを見つけ出す。それこそが現実の社会で役立つ能力であり、その力をつけさせることこそが本当の教育なのである。

 このあたりはそのとおりだと思います。
 ただ、言い尽くされた指摘でもあり、大前氏ならではという新たな視点というわけではありませんが・・・

 また、「少子高齢社会」について。

(p236より引用) 少子高齢化が進むことで就業人口が減れば、当然、給与総額も減る。つまりフローが減るのは構造的な問題であり、所得税のようなフロー課税のままでは将来的には財源が枯渇してしまう。
 一方、家計の金融資産残高、つまりストックの推移を見ると、フローが減った1990年代後半以降もほとんど目減りしていない。簡単に言えば、「少子高齢社会」とは資産が増えて所得が減る時代なのである。

 こういった感じで「掴みとしての本質」をスキッと浮き彫りにして示してくれると、ちょっとは「大前氏ならでは・・・」感が感じられます。

 その一方で、別の意味での「大前氏らしさ」も登場します。

 大前氏の持論の「道州制」についての提言ですが・・・

(p256より引用) 四国道もデンマークを参考にしてニッチな分野を開拓していくとともに、たとえば南に開いた高知を軸にして、太平洋をまたいだアメリカやオーストラリア、アジア諸国との交流を深めていけば、発展の可能性は大きく広がっていくはずだ。
 北陸道(新潟、富山、石川、福井)も同様で、日本海に面して広がるベルト地域として、対岸のロシア、中国、朝鮮半島の沿岸都市との経済圏構想を持てばいい。アメリカのカリフォルニア州は長い海岸線に平行してスーパーハイウェイが走り、それが大動脈となって太平洋経済の一角を築いている。北陸道も同じように交通体系を整備すれば、発展の可能性はとても大きいと思う。

 と、ここまで具体的根拠なく楽観論を唱えられると、やはり「おいおい」と言いたくなります。
 南に開いていれば発展するなら、別に高知でなくても、鹿児島でも、和歌山でも、静岡でも同じだろう・・・と突っ込みたくなりますし、海岸線の交通を確保すれば発展する可能性大との説に至っては???、理解不能です。

 氏自身、サイバー経済時代の到来を指摘しておきながら、「道州制」において、「地理的要素によるリアル経済圏の拡大」を薦めるのは如何なものかと感じてしまいます。

 よくも悪くも「大前氏らしい著作」です。

ロウアーミドルの衝撃 ロウアーミドルの衝撃
価格:¥ 1,680(税込)
発売日:2006-01-26

コメント
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