落合順平 作品集

現代小説を中心に、小説を書いています。

赤襟の清ちゃんと、三毛猫のたま (6)

2016-12-07 18:30:24 | 現代小説
赤襟の清ちゃんと、三毛猫のたま (6)
(6)たまのほうが先輩?




 たまが春奴の家へふらりとやってきたのは、清子がやってくる
1ヶ月ほど前のこと。
面接も終わり、一ヶ月後に清子がやって来ることが正式に決まった。
ほっとした春奴がいつものように、お座敷の帰りの道を歩いていく。
60歳まじかになっても、春奴はいまだに現役の芸者だ。
その角を曲がれば自宅、というときだった。
ふと、子猫の鳴き声を聞きつける。


 「おや?。わたしを呼んでいるような、猫の鳴き声だ・・・・」



 珍しいことがあるももですねぇと、春奴が立ち止まる。
しかし。猫の姿は見当たらない。
『はて。そのあたりで鳴いていたような気がしましたが・・・』
そっと軒下を覗き込む。しかし、そこに猫の姿はない。
さらに近くの路地も覗き込む。だが、そこにも猫の姿は見当たらない。



 『あらまぁ変ですねぇ。姿がどこにもありません。嫌われたかしらねぇ』
もう一度、春奴が周囲を見回す。しかし。どこにも猫の姿はない。
あきらめた春奴が、誰も待っていない家に足を向ける。



 最後の芸妓を育て上げてから、かれこれ20年の歳月が経つ。
最後の芸妓が独立したあと。屋形での一人暮らしずっとがつづいている。
毎日が、出稽古とお座敷の繰り返し。
ひとりで暮らすことに、すっかり慣れてきた。
しかし。清子を弟子に取ると決めた瞬間から、なぜかぬくもりを求めている自分がいる。


 (運の悪い猫だねぇ。面倒を見てあげる気になったというのにさぁ・・・・
 なんだい姿も見せず、さっさと消えちまうなんて)



 未練がましく、春奴がもう一度、あるいてきた道を振り返る。
春奴の置屋は、格子作りの2階建て。
全盛の頃、3人の芸妓がここで寝起きしていた。
朝早くから、女たちの笑い声があふれていた。
あれほど賑やかだった2階建てが、今はひっそり静まり返っている。


 (あの子が真剣な目で、わたしを見つめるもんだから、つい、
 『お預かりします』と首を縦にふってしまいました。
 預かるのは自分の娘どころか、孫ほどに年齢の違うお嬢さんだ。
 でもね。おかげさまで20年ぶりに、この家が賑やかさを取り戻します。
 それを思うと、いまから胸がドキドキしますねぇ・・・
 あら、どうしたのさ、お前。
 なんだい、私の家に先回りしていたのかい?)



 格子戸の前に、ちょこんと三毛猫が座っている。
『ウチがわかっていたのかい、お前は』春奴が、目を細めて語りかける。
『ニャア~』と子猫が、春奴の顔を見上げる。
賢いねぇお前は・・・子猫を見下ろしながら、春奴が玄関のカギを開ける。
その間。子猫は足元から一歩も動かない。


 「開いたよ、ほら。寒かっただろう、お入り」



 春奴が、足元の子猫を促す。
小首をかしげたまま、子猫は動こうとしない。
玄関に入った春奴が電気をつける。傍らに置いてある雑巾を手にする。
『賢いねぇお前は。他人様の家に、泥足のまんまあがったら失礼にあたるもんね。
おいでほら。拭いてあげよう』手招きする。
理解したのか。子猫がゆっくり敷居をまたぐ。



 「あらまぁお前。いちいち仕草が優雅で綺麗ですねぇ。
 ますます気に入りました。
 よかったねぇ。あんたも今日から我が家の一員だ。
 ほらおいで。ついでに顔も綺麗に拭いてあげましょう」


 春奴が雑巾を近づけた瞬間。子猫がプイと顔をそむける。



 「あはは。ごめんねぇ。
 足を拭いた雑巾のままじゃ気の毒だね。
 あたしの匂いがついているが、これなら雑巾より、いくらかマシだろう」



 袂に手を入れた春奴が、ハンカチを取り出す。
驚いたことに子猫が、自分から嬉しそうに春奴のハンカチへ近づいてくる。



 「おや、お前。猫のくせに化粧の匂いが好きなのかい。
 そうか。お粉(おしろい)の匂いで、わたしの家を嗅ぎ分けたんだね。
 賢い子だねぇ、お前は。
 早速だへど、名前は定番の『たま』でいいかしら。
 お化粧の匂いが好きとは、これからウチにやってくる見習いの清子と
 まるっきり好みが同じだねぇ。
 縁が有るかもしれないねぇ、お前と私と、これからやって来る清子は」

 
 顔を拭いてもらったたまが、のそりと廊下を歩きはじめる。



 『なんでぇ。
 名前はありきたりに、普通に『たま』か・・・
 おいらに名前をつけるのなら、せめて玉三郎とか菊五郎とか、團十郎とか、
 男の子らしい、シャキっとした名前にしてくれ。
 おいらはよう。自分で言うのもなんだが、毛並みがよくって男前だ。
 そのうえ、三毛猫の男の子なんだぜ。
 それなに、たまなんて呼ばれたんじゃ、あまりにも月並み過ぎるぜ。
 頼むぜ。三毛猫のオスは、貴重なんだぜ。
 こう見えてもおいらは、希少価値のある一匹なんだぜ。
 頼むよ、おばさん・・・』


(7)へ、つづく


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2 コメント

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今信州のほうれん草は・・ (屋根裏人のワイコマです)
2016-12-08 10:55:07
昨日夜、家内と近くのスーパーにお買い物・・
群馬の太田市のほうれん草がたくさん
売れていましたよ・・その隣があかぎの
ほうれん草・・いい勝負で売れ行き好調
信州の畑には今は野沢菜くらいしか
ありません・・信州の食卓を支えて下さる
群馬農業・・これからも期待しています
そんななかで、農業を客観的に捉えて
落合流の素晴らしい分析を期待しています

ワイコマさん。こんばんは (落合順平)
2016-12-08 18:31:24
本日は、収穫の終わったキュウリ・ハウスの後片付け。
ホウレンソウも少し小さめのため、明日の仕事は休み。
農家は野菜次第で、仕事の都合が変化します。
そんな訳で、明日は突然のゴルフ。
赤城山の中腹にあるゴルフ場がとれましたので、
女性3人に囲まれたゴルフへ行ってまいります。

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