落合順平 作品集

現代小説を中心に、小説を書いています。

忠治が愛した4人の女 (76)       第五章 誕生・国定一家 ⑩

2016-11-02 16:34:20 | 時代小説
忠治が愛した4人の女 (76)
      第五章 誕生・国定一家 ⑩




 百々一家に、客人がやって来た。
応対に出た三下の久三が、思わず目を丸くする。
「こちらの親分さんにご挨拶がしたい」と、見たことのない別嬪が目の前に立っている。


 「桐生村のお辰と申します。
 わけあって百々一家の二代目、忠治親分にお目にかかりにまいりました」


 別嬪が、形通りの仁義をきる。
お辰はこの世界へ入って4年目。今年で21歳になる。
器量がいいので、どこへいっても親分衆に持てはやされる。
身内にならないかと、何度もしつこく誘われた。
そのたびに首を振り、断って来たのだが、そろそろ渡りの旅に疲れてきた。


 どこかで落ち着きたい。そんな想いを強く胸に抱きはじめた頃。
生まれ故郷の上州で、若い親分が誕生したという噂を聞いた。
聞けば親分の忠治は、自分と同じ歳。
子分衆たちもそろって、みんな若いという。
いったいどんな一家と親分なのかと、興味を覚えた。
ひと目会いたくて、旅を早めに切り上げ、はるばる此処まで戻って来た。



 「おめえさんが、桐生生まれのお辰さんかい。
 なるほど。久三が言っていたように、たしかにすげぇ別嬪だ。
 で。忠治親分に、いってぇどんな用事だ?」


 応対に出た代貸の文蔵が、お辰の全身を、上から下まで舐めつくす。
襟もとから、胸の白い谷間がちらりと覗く。
腰回りに妖艶な肉がついている。
(・・・上玉じゃねぇか。見れば見るほど、俺ごのみの女だぜ・・・)
非の打ちようのない身体に、文蔵の目がいつの間にか溶けていく。


 「聞けばこちらの親分さんは、あたしと同じ21歳になったばかりとか。
 その若さで一家を持つとはよほどの人物。
 ぜひともひと目会いたくて、早々に旅を切り上げ、こちらを訪ねてまいりました」


 「そいつはありがたい話だ。ところでおまえさん、壺は振れるかい?」


 「丁半勝負は大好きです。
 ですが、壺を振ったことはありません。 
 こちらでは女の渡世人が、壺を振るのですか?」


 「そう言うわけじゃねえ。
 だが、ウチはいま、壺を振れる別嬪を探している最中だ」



 「残念ながらわたしは壺を振れません。
 別嬪でもありません。
 どうやら、こちらとは縁がなかったということになります。
 ひと目だけ親分さんに会いたかったのですが、そういうことなら仕方ありません。
 これで失礼いたします。
 忠治親分に、よろしくお伝えくださいな」


 お辰が頭をさげ、くるりと背中を向ける。
そのまま出て行こうとするお辰を、あわてて文蔵が引き留める。



 「待て待て、桐生のお辰。話はまだ終わっちゃいねぇ。
 話半分で見切りをつけて、さっさと背中を見せるとは、とんでもねぇ女だ。
 気が短すぎるだろう、おまえってやつは」



 「引き留めないで下さいな、代貸さん。
 あたしゃ気ままな旅ガラス。
 折り合いがつかないのなら、次の一家を探すだけ。
 そろそろ何処かへ落ち着きたいと考えていたのですが、こちらでは
 とうてい無理なようです。
 では、これにて、御免をこうむります」


 「おいおい。少し待てよ。いきなり壺を振れとは言わねぇ。
 だがよ。あと何日かすれば、壺振りを教えてくれる女名人がここへやって来る。
 どうだい。そいつから、壺振りを教えてもらったら。
 あんたみたいな別嬪が壺を振ってくれたら、百々一家の賭場が
 満員になること、請け合いだぜ」

 

(77)へつづく

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2 コメント

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女性のちから (屋根裏人のワイコマです)
2016-11-02 19:49:00
桐生のお辰が・・忠治の何番目かの女に??
でも当時からすれば女の壺振り・・
かっこよかったのでしょう・・
今では当たり前・・男が下がったのか>>
せっかちな私のために・・急いでアップ・・
なんて失礼なお願いはしませんので
落合様のペースで結構ですよ
ゴルフや所用のず~とあとで
暇のときで・・いつもありがとうございます
ワイコマさん。こんばんは (落合順平)
2016-11-03 18:07:36
前半部で登場する女性は、3人まで。
残りの1人は、第2部から登場する予定です。
第1部は、100話あたりまで。
このあたりでいちど中断して、充電期間を置いてから、
第2部を書きたいと思います。
当初の構想から外れて、内容が大幅に膨れ上がってしまいました。
このままでは、頭の整理がつきません・・・

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