天の川を渡って

井上紗羅の波間の泡のように消えてゆく日常の防備録です。

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白き光の影に

2017-03-07 23:04:02 | ニュース
ばあちゃん、おばちゃん、あれがぬいぬいちゃんだよ。


小さな坊やが得意そうに壁のシミを指差した。


その家は、古いけれど大きな広い家だった。


一人で這うようにして階段を上り、大きな声を立てて笑っている坊やに、家族は声を失って壁のシミを見つめた。


雨水が沁み込んだのだろうか。


そこには、大きなてるてるぼうずのようなシミが出来ていた。


毎日一人で二階へ行くなんて。誰もいないのに、怖くないのかしら。


家族は、不思議に思っていた。


あるとき、恐る恐る階段を上っていくと、子供の話し声がした。


驚いてのぞくと、坊やは壁に向かって話をしていた。


ねえ、でてきて。いっしょにあそぼうよ。


坊やが言っても、壁のシミは動かない。


気味が悪そうに、大人たちは急いで坊やを抱いた。


下へ降りようよ。お菓子があるよ。


坊やは素直にうなづいて、腕からするりと降り、壁のシミに手を1回だけ振った。





1階には画廊のような部屋もあり、絵の具が床に降り積もっていた。


誰かが、キャンパスに腕を奮っていたのだろう。油性の絵の具は、こんもりと床に凹凸をつけていた。


庭には大きな樹が幾本も重なり合い、東京なのに、まるで林の中にいるようだった。


落ち葉の降り積もった土は柔らかく、真っ黒で湿った匂いを放っていた。


空から降り注ぐ夏の陽射しは、髪を焦がすほどだったが、その庭には凛とした静けさがあった。
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