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朴槿恵政権の南北関係

2014年09月06日 | 三千里コラム

フランシスコ法王のミサ(ソウル・光化門広場、8.16)


 韓国で「鳴梁(ミョンリャン)」という映画が好表裏に上映されています。豊臣秀吉軍の侵略に対抗し、劣勢の朝鮮水軍を率いた名将・李舜臣将軍を描いた作品です。7月30日に封切りされた映画が、わずか一ヶ月の間に1700万人の観客を動員したそうです。最終的には二千万人を越えると予想され、韓国映画史上、最大の観客数を達成することは間違いありません。

 また、8月14日~18日にかけフランシスコ法王が訪韓しました。16日、ローマ法王が自ら行ったソウル光化門広場でのミサには、約20万人の信者と市民が参加しています。18日、明洞聖堂で行われた「平和と和解のためのミサ」でフランシスコ法王は、“朝鮮半島に対話と出会いの新たな機会が生まれること”を祈り、南北の和解を訴えました。

 どうやら、韓国社会の現況は「強力なリーダーシップへの渇望」と言えそうです。セウォル号惨事や南北関係の悪化など、内政と外交で失政が続く朴槿恵政権への批判は高まっています。現職大統領への幻滅が信頼できる指導者を待望させ、李舜臣将軍やフランシスコ法王への敬意となって表出している気がします。

 今年に入って朴槿恵大統領は、統一問題に関していくつかの提案をしました。1月の“統一は韓国経済を飛躍させるビッグビジネス”という花火に始まり、3月には訪独先のドレスデンで対北インフラ支援を提案、8月の光復節メッセージで環境問題などの当局間対話を提案...。しかし、いずれも具体性にかけるだけでなく、北の核放棄先行を前提条件にしていることから、実質的な関係改善の契機とはなっていません。

 南北統一が真に“ビッグビジネス”となるには、南が相応の投資を先行しなければなりません。統一のパートナーである北が受け入れ可能な提案であり、かつ十分なメリットを感じるだけの物的な投資がなければ、単なる“呼び声”で終わることになるでしょう。金大中政権から現政権まで、各政権が収めた南北交流・協力の実績を表で比較してみましょう。

 
             金大中       盧武鉉       李明博       朴槿恵
南北交流(人)   17,879      51,158      6,349      3,155
人道支援(億ウオン)  2,422       4,397      1,163        186
軍事会談(回)      15          29            4         0


 金大中・盧武鉉の民主政権と李明博・朴槿恵の保守政権では、南北関係改善の実績で大きな差が出ています。特に、後者の時期に緊張緩和に向けた軍事会談が激減していることがわかります。交流・協力の後退が相互の不信を高め、朝鮮半島の平和に大きな障害となっているのです。

 統一問題でこれといった実績のない朴槿恵政権にとって、9月17日から仁川市で開催されるアジア大会は、貴重な機会となるはずでした。金大中・盧武鉉政権は南での国際大会に北が参加する上で便宜を提供し、南北関係改善への契機としたからです。ところが、アジア大会の参加規模をめぐる7月17日の南北実務協議は決裂し、北は応援団(350名)の派遣を断念しました。

協議過程では南が“国際的な慣例”を持ち出し、応援団の入場料支払いを要求したそうです。主催側が相手の費用を負担してきた南北間の“民族的な慣例”を当然視していた北は憤慨し、実務協議の決裂に至ったと伝えられています。そして8月20日、主要競技の組み分け抽選会に参加した北の代表が、応援団の不参加を正式に通告しました。ところが、韓国政府はこれを国民に公表しませんでした。

 8月28日に『朝鮮中央テレビ』が事実を公表した時点で、韓国政府はようやく「政府当局間で確認が必要だった」と弁明しましたが、9月1日、統一部は「北側応援団の参加に関し新たに要請や提案をする計画はない。状況が好転すれば離散家族の面会行事が実現されることを希望する」との一方的な宣言で終止符を打ちました。南が本当に離散家族の面会を実現したいのなら、信頼造成の面からも、北からの応援団参加に向け積極的に協力すべきでした。

 これまでも本コラムで指摘したように、南北関係改善への最大の障碍は、2010年に李明博政権が発表した『5.24措置』(南北交流・協力の全面中断措置)です。紆余曲折を経ながら、開城工業団地だけが辛うじて稼働を続けていますが、金剛山観光など他の南北経済協力事業は、中断もしくは廃止されているのが現状です。『5.24措置』を存続させたまま、「統一ビッグビジネス論」や「ドレスデン構想」を実行するのは矛盾であり不可能だと言わざるを得ません。

 しかし、ここに来てようやく政界でも『5.24措置』の撤回を求める声が出始めました。以下に、その幾つかを紹介します。

「非現実的だと指摘され季節はずれの衣服みたいになった5.24措置を解除し、北との対話を再開すべきだ。南北経済協力と金剛山観光も再開しなければならない。」(8月27日、ユ・ギジュン国会外交統一委員長)

「5.24措置は時効が過ぎた政策だ。本のページみたいにめくり、新しい紙に新たな政治を書けばいいのだ。」(9月4日、イ・インジェ党最高委員)

「北から若いエリート選手たちと大規模応援団が来て交流すれば、緊張緩和に向けた格好の機会となるのに、それを生かせなかった政府が無能なのだ。南北の合同応援団を構成できないものか検討すべきだろう。」(9月4日、キム・ムソン党代表)

 上記の人士は全て、与党・セヌリ党の重鎮議員たちです。特に、朴槿恵大統領に次いで党内序列第二位のキム・ムソン党代表は、自他が認める与党の次期大統領候補であるだけに、その果敢な発言に注目したい所です。

 南北関係改善に向け残された処置はただ一つ、朴槿恵大統領の決断(『5.24措置』の撤回)だけのようです。大統領の速やかな英断を期待する次第です。(JHK)

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1 コメント

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交流の実績の表 (pcflily)
2014-09-09 12:03:49
釜山でのアジア大会に「統一旗」を共に持ち行進する姿を自分の目で直接見たくて、息子(初めての訪韓)を連れていったことを思い出します。
このような結果になったことに胸を痛めています。朴大統領の華やかな姿ばかり見せられていましたが、その実態が、どんな言葉よりも如実にはっきりと分かる「南北交流・協力の実績」の表でした。
私が一番信じ大好きな盧武鉉大統領の実績も知ることが出来ました。有難うございます。

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