放送作家村上信夫の不思議事件ファイル

Welcome! 放送作家で立教大大学院生の村上信夫のNOTEです。

日本の文学は世界でどう翻訳されているか

2010年01月27日 06時17分34秒 | Weblog
歴史をかえた誤訳 (新潮文庫)
鳥飼 玖美子
新潮社

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SPAで「日本の作品が海の向こうでミョーな言葉に“誤変換”されていた!日本の名作[海外珍訳・誤訳]コレクション【文学編】」という興味深い特集があった。
言葉というのは、文化や風土が背景にあるため、同じ意味でもイメージするものが違う。「海」という言葉で、日本人は北や荒れた海という演歌の世界をイメージするのに対し、フランス人は国歌の『ラ・マルセイエーズ』(『マルセイユの歌』)が浮かび、南フランスの明るい海をイメージするのだという。朝青龍の本を書いたときに調べたら、モンゴル語には「海」を意味する言葉が複数ある。海を見たことのない人々が多い、内陸の国モンゴルに、なぜ海を意味する言葉が複数あるのか、疑問になった。

日本語訳を読んでも「????」となる個所と出会うことがある。翻訳者の語学力やそのジャンルへの知識力の限界からだと思うが、僕の拙い英語で辞書引き引き読んだ方がわかることもしばしば。
同じことが海外で起こっているのだろうし、日本語からの翻訳の方がより大変なんだろうなと思う。中国は、国家戦略として中国作品の翻訳を行い輸出をしているということを聞いたことがある。

以下、SPAの特集を掲載する。

http://news.nifty.com/cs/magazine/detail/spa-20100105-01/1.htm

【アメリカ】
『The Housekeeper and the Professor』
『博士の愛した数式』 小川洋子

ぱさついて好き勝手な方向に跳ねる白髪が、せっかくの福耳を半分覆い隠していた。
「福耳」⇒「英訳:Buddhalike ears」

世界10か国以上で翻訳されている小川洋子の代表作。英語版のタイトルは『The Housekeeper and the Professor』で、直訳すると「家政婦と教授」。なんだか淫靡な雰囲気を感じてしまうのは、まあ、日本人だけだろう。アメリカでは大きい耳たぶが縁起がいいという認識はないようで、博士を描写した「福耳」は"Buddhalike ears"(ブッダみたいな耳)という造語に

【アメリカ】
『Moonlight Shadow』
『ムーンライト・シャドウ』 よしもとばなな

「神様のバカヤロウ」 ⇒ 「The gods are assholes!」※複数形

村上春樹と並び、世界で人気のよしもとばなな。『ムーンライト・シャドウ』は、『キッチン』に収録されている短編だ。宗教観の違いが翻訳には如術にでる。この訳では「神様」が"The gods"と複数形なのに注目。もし"The god"と単数形にすると、キリスト教のような一神教の国では唯一絶対の神を表し、シャレにならない内容になってしまうとか

【中国】
『愛的流放地』
『愛の流刑地』 渡辺淳一

菊治はひとつ間をおき、また思い出したように手を伸ばし、ようやく目的の場所に到達する。
秘めやかで、柔らかい叢である
「叢」 ⇒ 「中国訳:芳草地」

 "芳草地"(牧草地という意味)という漢字だけ見てしまうと、爽やかというか、乾いていそうというか、エロい感じはしないのだが、それも当然。叢(くさむら)同様、"芳草地"(牧草地という意味)にもいやらしい意味はない。が、前後の文脈の中で、読み手にもやもやとあらぬものを妄想させる言葉になっているとか。さすが、「抒情の巨匠」と呼ばれる渡辺センセイなのである

【アメリカ】
『ALL SHE WAS WORTH』
『火車』 宮部みゆき

リビングの隣の六畳間に、明るい窓のほうへ向けて、小さな仏壇が据えてある。
「仏壇」 ⇒ 「英訳:the alcove(床の間)」

欧米には存在しないのだから、丁寧に説明するか、別のモノに置き換えるしかない。そこで「床の間」にあたる語で翻訳。実はこのくだり、仏壇の遺影を見るというのを表現している部分なので、(He kept her memorial photograph in the alcove off to the one side of living room)、本棚やソファがおかれ、棚を作って、家族写真を飾ったりするスペースを指す"alcove"という語が使われている

【アメリカ】
『HARDBOILED WONDERLAND AND THE END OF The WORLD』
『世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド』 村上春樹

まるでビニール・ラップに包まれて冷蔵庫に放り込まれ、そのままドアを閉められてしまった魚のような冷ややかな無力感が私を襲った。
「魚」 ⇒ 「英訳:a leftover(=残り物)」

『IQ84』の英語版の出版が2011年と発表され、世界中のファンをやきもきさせている村上春樹。4作目の長編小説『世界の終わり~』にある、冷ややかな無力感を表す「魚」が「残り物」と訳された理由は、アメリカ人と日本人の食生活の違いにあるらしい。日本ほど魚を食べる習慣がないアメリカでは、冷蔵庫の中で放置された魚はなじみが浅い


日本文学は世界でどんなタイトルに?

Naomi(アメリカ)――痴人の愛(谷崎潤一郎)
Der Ringfinger(ドイツ)――薬指の標本(小川洋子)
Kamikaze Girls(アメリカ)――下妻物語(嶽本 野ばら)       
脳髄地獄(中国)――ドグラマグラ(夢野久作)

企業不祥事が止まらない理由
村上 信夫,吉崎 誠二
芙蓉書房出版

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村上 信夫
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