Learning Tomato (旧「eラーニングかもしれないBlog」)

大学教育を中心に不定期に書いています。

Vol.378:第3回初年次教育学会大会参加報告【後編】

2010年10月03日 | セミナー学会研究会見聞録
今週は月末なので、本来ならば「9月の日経MJの教育業界関連マーケティン
グ情報」をお送りするのですが、今週は先週に引き続き9月11日~12日に開
催された初年次教育学会大会の参加報告(後編)をお送りいたします。「日
経MJの教育業界関連マーケティング情報」は来週号で特集しますのでしばら
くお待ち下さい。

さて、今回は2日目の研究発表の中から「ポートフォリオ」を中心に報告い
たします。

初年次教育学会Webサイト

◆自己教育力の育成におけるポートフォリオの活用とその可能性
◆発表者: 徳田菊恵(名桜大学)

【概要】
A大学看護学部の2年次少人数ゼミでのポートフォリオを活用した取り組みに
関する発表です。この学部では「自己教育力」「コミットメント能力」「自
己評価能力」の3つを教育目標に掲げ、参画型の看護教育を実践しています。
その実現に向け、2年に進学した直後に、1年生との合同ゼミでキャリアポー
トフォリオを使った自己紹介を実施します。キャリアポートフォリオには、
写真、賞状、受験票など、今までの自分の人生の中で思い出に残ったことを
中心に、学校での学習だけでなく生活全般にわたる出来事を盛り込みむよう
指示します。

83人の学生がキャリアポートを作り、それをもとに1年生との合同ゼミにお
いて自己紹介を実施しました。実施後の2年生対象のアンケートでは、「聞
いてもらえた」「自分の振り返りができた」といった点について肯定的な意
見が出た反面、「時間がなく十分な準備ができなかった」「発表方法に工夫
が必要だと感じた」といった意見があったそうです。

【コメント】
ここで述べているキャリアポートフォリオとは、高校や大学での生活の記録
であり、学習に特化したものでないところがポイントです。最初から教育や
学習に特化したポートフォリオの作成に取り組むと、真面目モードにスイッ
チが入ってしまい、内容も平面的で面白みのないポートフォリオになること
が予想されます。そこで最初は「過去を振り返り省察する」ことの大切さと
おもしろさを認識させるために、生活全般を扱うポートフォリオから作成さ
せるのは適切な取り組み方法だと思いました。今後は、学業面に関する内容
をより多くポートフォリオに盛り込み、学士課程教育の充実に寄与する形に
していく必要があると考えます。その際「勉強のポートフォリオはつまらな
いからいやだ」でなく、振り返りを通じて、作成者自身の学業によい影響を
与え、欲を言えば他の学習者にもプラスな情報となればと考えます。

◆電子ポートフォリオを介した学士課程教育の展開
◆発表者: 絹川直良 海老澤信一(文京学院大学)

【概要】
文京学院大学では2008年より学生ポートフォリオを導入しました。当初は紙
ベースで運用していましたが、双方向の指導の推進と教職員間の情報共有を
目的に2009年より電子ポートフォリオ化しています。今回はその方法と成果、
課題等について発表いただきました。

特筆すべきは、Salesforce.comという一般企業が顧客管理のために活用する
クラウドのサービスをeポートフォリオのシステムとして利用している点です。
考えてみると大学にとって学生は顧客でもある訳でして、そう考えると理に
かなった選択なのかもしれません。発表の中では実際のWeb画面を見せていた
だいたのですが、全く違和感を感じさせませんでした。

また、Webの画面作成時には、従来の紙ベースで運用していた際の記入フ
ォーマットを活用したこともあり、わずか3週間でカスタマイズは終了した
そうです。クラウドコンピューティングを利用したことにより、開発期間と
運用コストを劇的に削減し、最小限の運用スタッフで運用することが可能と
なったとのことです。

導入効果として、キャリア支援センター職員、ゼミ先生、教務系の職員の3
者が学生の情報を共有し、連携した指導を実現できるようになった点を挙げ
ていました。

具体的に電子ポートフォリオのシステムでやり取りしているのは下記の3種
類のポートフォリオだそうです。

・初年次教育=学生電子ポートフォリオ
学士力(社会人基礎力)を意図的に強化することを目指し、
チャレンジ目標を設定し、その実行と評価を管理。
・2~3年次=プログレスファイル
プロジェクト、あるいはイベントの都度これを意識的に
レビューするために書く。後日就活の際に自己PR文として
利用できることを想定。
・3~4年次=キャリア電子ポートフォリオ
継続的なキャリア教育、主に就活時の指導ツールとしての活用を想定。

なお、課題レポート等の成果物をまとめ保存することに関しては現在検討中
とのことでした。

【コメント】
クラウドシステムを巧みに学生教育で利用している点に感銘しました。大規
模校の場合、独自のポートフォリオシステムを開発し、自校のサーバーで運
用しても学生数が多いのでペイするのかもしれません。しかし文京学院大学
さんやコガの勤務校のような学生数の少ない大学の場合、それでは割に合い
ません。

しかし、現実には学生の情報を外のサーバーに置くことに対して抵抗感を持
つ人が多い等の理由から、大学のクラウドサービス利用はあまり進展してい
ません。今後少子化が進行し、限られた予算の中でより質の高い教育サービ
スを提供しなければならないことを考えると、電子ポートフォリオに限らず
クラウドサービスの利用は必至ではないかとコガは考えるのですが、皆さん
はどうお考えになりますでしょうか?

◆まとめ
二回に渡り報告して参りました「初年次教育学会全国大会」ですが、いかが
でしたか?実はコガも初日の自由研究で「初年次~2年次と連携したキャリ
ア教育の実践と課題」というタイトルで発表しました。大した中身ではなか
ったのですが、会場にいらした皆様には熱心に聞いていただき、貴重な質問
やコメントもたくさん頂戴し大変感謝しております。この場をお借りして御
礼申しあげます。

しかし、学会の発表というのは普段の授業と違って緊張するもので、15分と
いう時間があっという間に過ぎてしまいました。もっと内容を吟味し、パン
チの効いたプレゼンをしなければと反省した次第です。

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2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
初年次教育学会の参加報告に関しまして (徳田)
2010-12-17 14:46:07
初年次教育学会でキャリアポートフォリオについて報告させていただいた名桜大学の徳田です。
ネットサーフィンをしていたら、このブログをみつけ、思わずコメントしてしまいました。
少し時間の経過がありますが、コメントさせてください。
研究発表をブログに取り上げていただきありがとうございました。
本学科は、看護職の育成ということで、学生は、人と深く関わる職業に就くことになります。そこで、学生時代にどれだけ人と関わり、自分自身と向き合えるかという意味も含め、あえて紙面でのキャリアポートフォリオ(自分史のようなもの)を作成し、自分自身の強みを見つけ弱みと向き合う経験をする仕掛け(教育)としてポートフォリオを活用しています。今年度、1期生が卒業するのですが、就職活動の際に面接でもキャリアポートフォリオを持参し、存分に自己PRをし、病院側からはとても好印象であったとコメントを頂いています。もちろん、その他にも、科目ポートフォリオなどにも取り組んでおります。
コメントが長くなりましたが、機会があれば、また情報交換などもできたらと思います。ありがとうございました。
Unknown (こが@さんのう)
2010-12-17 21:35:24
徳田さま
コメントありがとうございました。

>就職活動の際に面接でも
>キャリアポートフォリオを持参し、
>存分に自己PRをし、
>病院側からはとても好印象であったと
>コメントを頂いています。

これはいいアイデアですね。元々、ポートフォリオという言葉は書類挟みだそうで、そこからイラストレーターやデザイナーが自分の作品をはさんで持って行くバッグの事を称しているようです。もちろん彼らが自分の作品を持って行くのはクライアント先。つまり自分の事を売り込みにいく際の「証」を持って行くカバンがポートフォリオなのです。

だから就活の面接にポートフォリオを持って行くのは自然な事だと思います。実際アメリカの大学では、新規の教員を採用する時、教員のティーチング・ポートフォリオの提出を求めるケースが多いそうです。

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