Learning Tomato (旧「eラーニングかもしれないBlog」)

大学教育を中心に不定期に書いています。

vol.327:ワーププレイスラーニング2009【前編】

2009年11月03日 | セミナー学会研究会見聞録
日時 2009年10月30日(金)
場所 東京大学安田講堂
主催 東京大学 大学総合教育研究センター
共催 非営利特定活動法人 Educe Technologies

企画協力団体
エム・アイ・アソシエイツ株式会社 
株式会社 グロービス
株式会社 ダイヤモンド社
株式会社 日本能率協会マネジメントセンター
株式会社 富士ゼロックス総合教育研究所
株式会社 リクルートマネジメントソリューションズ
株式会社 レビックグローバル
学校法人 産業能率大学
学校法人 産業医科大学
NPO法人 日本アクションラーニング協会
日本CHO協会
らーのろじー株式会社

今年で三回目になる安田講堂でのワークプレイスラーニングシンポジウムが開催されました。筆者は今年も企画協力団体のスタッフとして微力ながらお手伝いさせていただきました。今回はその模様をお伝えしたいと思います。

安田講堂ワークプレイスラーニング今までの足跡
さて本題に入る前に、このイベントの今までの歩みについて簡単にご紹介したいと思います。

【そもそものきっかけ】
2007年5月に中原先生が開催したLearningBarでの会話が始まりでした。
その会場で、リクルートマネジメントソリューションズの石井様、日本能率協会マネジメントセンターの張様、ダイヤモンド社の石田様らと雑談をしていると「教育団体が力を合わせて人材開発に関わる業界を盛り上げていくようなことができないか」という話となり、その後の酒席で「安田講堂でイベントを実施しましょう」という風にトントン拍子で展開し、ワークプレイスラーニングシンポジウム開催の運びになったと記憶しています(関係者の方、間違っていたら教えて下さい)。

【シンポジウムの特徴】
毎年テーマは変更しているものの、基本的には07年に実施したシンポジウムの特徴を08年、09年と踏襲しています。このイベントが一般の大規模講演会と一線を画しているのは、この特徴の存在があるためと筆者は考えています。具体的には下記の4つが大きな特徴と言えます。

1)安田講堂で開催すること
アカデミックの頂点である東京大学のそのまた頂点である安田講堂を会場にし、集客に貢献している。

2)事例に学問分野からの分析を加えていること
単に事例紹介と質疑応答だけでなく、教育学、社会学、心理学といった学
問分野から事例を分析、時にはキワドイ批評を加えることでシンポジウムに
スリリングなムードをもたらしている。

3)質疑は携帯電話からのメールで行うこと
会場からの質疑は口頭で募るのでなく、携帯電話のメールで行うようにし、時間短縮と毎回多くの質問を集めることに成功している。

4)ペアディスカッションを導入すること
事例発表、学問分野からの分析の後、かならずオーディエンス同士のペアディスカッションの時間を設け、シンポジウムへの参画意識を向上させている。

この中で最も評判が高いのが4)のペアディスカッションです。もともと中原先生がLearningBar等で導入していたのですが、1000人を超える会場でこれだけ活発にオーディエンス同士が議論するシンポジウムは日本では希だと思います。

とは言うものの、3年間同じ内容でシンポジウムをやっていたら、やる方も飽きてしまうので、毎回少しずつ新趣向を取り入れています。しかし、それも企画者側の杞憂にすぎないのか?毎年携帯メールの質問数も増加し、ペアディスカッションも活性化しています。

【ワークプレイスラーニングというコンセプトへの思い】
基本的な特徴以外に「変わらないもの」がもう一つあります。それは「ワークプレイスラーニング」というコンセプトです。一言で言うなら、「これからは『研修での学び』だけでなく『現場での学び』も重視していこう」という我々企画者からのメッセージです。

MaCall(1988)の調査によると、人間の能力の70%以上は現場における経験によるということです。しかし、企業の教育担当者や我々のような教育事業者は、残りの3割、つまり研修での学びばかりに注力してきてしまいました。また研修が成果につながる要因の8割は、研修前や研修後にどれだけ研修内容と実務の関連づけられるかにかかっています。従っていくらがんばって良い研修を実施しても、仕事(職場)との関連づけのない研修では、100点満点で20点にしかならないのです。では、ワークプレイスラーニングを進める上でそのような問題への解決策を検討しようというのが、このシンポジウムの一環したコンセプトでした。

【07年の切り口「ミドルの学びを支援する」】
初年度は、研修の定番テーマである「ミドルマネジャーの育成」についてワークプレイスラーニングの視点から考察を加えました。従来研修で行ってきたのは、初心者を一人前にすることばかりでした。マネジャーにしても「新任管理者研修」というのはあっても、その後の研修はあまり実施されていない企業が多いようです。「一人前」になった社員がその後「熟達者」になるためにはどういう施策が必要なのか?そのために人材育成部門と現場はどのように協働していけばよいのか等について考察しました。

【07年の切り口「企業内教育の新たな役割」】
08年はもう少しつっこんだテーマとなりました。一言で言うなら「ワークプレイスラーニングの担い手は誰なのか?」ということです。既存の人材育成部門が、従来の「集合研修の企画・ロジ担当」だけでなく、現場との関わりをより強固にし、パフォーマンス・コンサルタント的な業務まで担うのか?あるいは現場の部門や部署が育成的な機能を強化していくのかを考察しました。


今年の新機軸
【テーマ:成長をいざなう個と組織の関係】
昨年までは、組織が企業内教育の担い手であることを前提に推し進めてきました。しかし、今年は個々のビジネスパーソンを主体的な学習者として捉え、その際「個人の目指す学びの方向」と「組織にとって望ましい方向」の間でどのように折り合いをつけていくのかを考えるシンポジウムとしました。すなわち組織は個人の主体的な学びをどう支援できるのか?また組織・個人双方がWinWinの関係になれるような学習環境のデザインが可能なのか?といった経営学の世界では永遠のテーマとなっている「個と組織の関係」に直球勝負で挑んだのでした。

そして本年の事例企業および発表は
▼カルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)株式会社
代表取締役COO 柴田 励司 氏
▼アサヒビール株式会社
執行役員 人事部長 丸山 高見 氏
▼株式会社バンダイナムコホールディングス
グループ管理本部人事部デピュティゼネラルマネージャー 紀伊 豊 氏
の三氏にお願いいたしました。

【リアルタイムドキュメンテーション】
前回ワークプレイスラーニング2008では、シンポジウムのリフレクションを促進するため、千葉工業大学の原田先生、学生さんらにの協力によりグラフィックファシリテーション(リアルタイムで図で議事録をとる)を行いました(中原先生Blog「ワークプレイスラーニング2008を振り返る」を参照のこと )。

今年は新たなリフレクションの仕掛けと言うことで、神戸芸術工科大学の曽
和具之先生・柴田あすかさん・籾井雄太さんにご協力いただき、「リアルタ
イムドキュメンテーション」という手法を導入しました。筆者は9月に開催されたJSETのワークショップでこの手法を目の当たりにし、大変驚きました。なにせシンポジウムの間に何千枚という写真や動画を撮影し、それをその場で編集して、シンポジウムの最後に再生してしまうという神業なのです。内容の細かな所は確認できませんが、その場の空気感というか1日の流れを振り返るには大変よいリフレクションツールとなっています。ちなみに実際の映像を曽和先生のWebサイトもしくはYouTubeでご覧いただけます。

▼曽和先生のWebページ:Workplace learning 2009
http://product.kobe-du.ac.jp/sowa/infoGuild/HOME/HOME.html
▼Youtube:Workplace learning 2009

余談ですが、筆者の顔も3分27秒近辺で一瞬映ります(*^_^*)。
動画版「ウォーリーを探せ」みたいですね。

【企画協力団体の増加】
これは主催者側での変化ですが、07年4団体、去年は6団体だった企画協力団体が今年は一気に12団体に倍増しました。団体が増えたことによるメリット・デメリットは色々とありましたが、これだけの人達をまとめてきた中原先生は流石です。お疲れ様でした。

「社員が自ら変わる環境づくり」
前置きがむちゃくちゃ長くなってしまいましたたが、そろそろ当日の内容についてご報告していきたいと思います。トップバッターは、筆者もレンタルDVD等でお世話になっております、カルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)代表取締役の柴田様よりの講演でした。
柴田様は元マーサー・ジャパンの日本法人代表取締役を経験された後、CCCの顧問となり今年の6月から代表取締役COOに就任されています。著作も数多く、こうした講演会は無限にやっているのだろうなあと言うことがヒシヒシと伝わってくるようなプロのプレゼンテーションでした。

【講演内容】
今回は「制度に支配されてはいけない」というコンセプトから導入した「Re-set Re-Entry制度(略称R2制度)」についてお話しいただきました。R2制度とは入社4年目から、全社員が毎年自分が挑戦したいキャリアのユニットと職種にエントリーし、自ら仕事を自主的に選択して、キャリアを形成できる制度です。Stay=同じ仕事を継続、Move=新しい仕事に就く、のどちらを選択するかを本人が選べるという大変大胆な制度です。今年は約8割の社員がStayを選択し、2割(約400人)がMoveを希望したそうです。この取り組みにより、CCCでは主体性のある個が生き生きと働けるようになることと、異動により「人と人をつなぐ」機会を増やすことを目指しているとのことです。

【主な解説・質問】
神戸大学の松尾先生からは、「できる社員を育てたいというメッセージが伝わる施策」「サファリパーク的な会社と動物園的な会社があるとしたら明らかに前者」といったコメントがありました。また本学の長岡先生からは「CCCでは社員は主体的であるという前提で施策を作っているところが凄い」というコメントがありました。

また会場からは、導入までの現場での抵抗はなかったか?ポストの数と応募者数のミスマッチに対する対策は?といった質問等がありました。前者については「総論賛成・各論反対」だったそうですが、何度も説明会を実施し説得していったそうです。また後者については、戦略にもとづき事前に各事業部の定数を決定し、これを提示したこともあり、そんなに乖離することは無かったとおっしゃっていました。

【筆者の感想】
筆者自身、学内の公募制度で昨年大学職員から教員に異動した経験を持っていたため、とても納得感のある事例でした。今までと異なる仕事に就くというのは、ものすごく大変な事です(特に40の半ばを過ぎたオジサンにとっては)。しかし、元の仕事に留まっていたら絶対やらなかった事ばかりに取り組むことになったため、2年弱の経験の中で自分の成長(いや変化)を実感しています。多分これだけ変わったのは、学生から社会人になった時以来です。こうした異動の機会を組織の中でうまく作ることは個人的にはとても大切なことだと考えています。

しかし、今回のCCCさんの取り組みの中で最も重要なポイントは、STAYを選択した社員にもあえてそのことを宣言させている点ではないでしょうか。それにより、たとえ異動と関係ない人であっても日常の仕事のリフレクションの機会としてこの制度が機能し、仕事の省察が進んでいるのではないかと考えるからです。

それともう一つ発表内容とは直接関係ないのですが、柴田氏の質問に対する回答の仕方が実に巧みでした。すべての質問に対し一旦質問の内容を自分の言葉にして質問者に確認してから回答に入っているのです。相手の言っていることをまとめてフィードバックするというのは、積極的傾聴法等の基本スキルなのですが、ここまで完璧にこなしている人は初めて見ました。うーん感動です。

残りの2事例は次週紹介いたします。


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