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vol.481:『マンガでわかる統計学 ~素朴な疑問からゆる~く解説』大上丈彦著

2013年06月16日 | eラーニングに関係ないかもしれない1冊

『マンガでわかる統計学 ~素朴な疑問からゆる~く解説』
大上丈彦著(ソフトバンククリエイティブ、2012年)

教育には「どういう順番に教えるか」、いわゆる系列化という大問題があり
ます。お察しのように、それはどうでもいい時といけない時があります。例
えば、国内の野菜の最大収穫地の授業でキャベツとお茶の順番は「どうでも
いいこと」。一方で「加減乗除の計算」を教える順番はどうでもよくありま
せんね。

私を含めた多くの同業者、学生さんの鬼門の1つに「統計」があります。お
恥ずかしい話ですが、私の書棚には統計「マンガで学ぶ」だの「数式なし」
だのという入門書がズラリと並びます。どれ1つとして読破できていないの
です。その一番の理由は上記の「系列化」、学んでいないことが断りなしに
出てくるからだと思っています。

よくある例を。第1章は大抵、「クラスの身長を使って単純平均」ナドから
始まります。つまりこの本は「単純平均すらわかってない人」を読者に含む
ことを著者自身が宣言しているわけです。結構なことです。しかしだがしか
し、2章にいくといきなりなんの補足説明なしに「検定」という言葉が使わ
れたりします。単純平均がわからない人には、おそらく統計の文脈でいう検
定はという概念はわかりません。ことほど左様に統計のややこしさは、その
内容もさることながら、教え方の稚拙さにあると思うのです。マンガを用い
るとか、計算式を用いないとかの問題ではありません。「教えていないこと
はわからない」という系列化の大原則の無視が最大の原因というわけです。

さて、今回の1冊は、私のその統計本の著者・編集者に対する長年の怨念を
一蹴してくれるものでした。マンガだから、ではないのです。こちらがその
頁の1行1文字を読むにあたり、何をわかっていて、何をわからなくて、どん
な気持ちで読んでいるかをきわめて正確に想像した上で書いてくれているの
です。
例えば、多くの統計本は「初級の初級」とか銘打ちながらも、数学のお作法
など、関連知識の解説をすっ飛ばします。いきなり「P(k=3)=1/2  ゆえに
正解は(2)となりますね」みたいな。
はい。心の声。「なんだよP(k=3)=1/2 って。それに『なりますね』って言
葉丁寧だけど、ゴリ押しじゃんかよ」。

いかにも。そのころには第1章第1節にあった「単純計算もできない人もい
るかも」というエセホスピタリティは空の彼方へ、ですな。
本書はそんなポン引きみたいなことをしません。
「PっていうのはProbabilityの略。確率とか可能性っていう意味ネ。で、
『k=3になる確率は1/2』という意味です。だから正解は(2)」、と。

そればかりではありません。普通、その頁以前で説明した事は当然わかって
いるものとして話は進むものですが、本書は「一度読んだくらいでわかると
は限らない」という立場に立ちます。例えば166頁という本後半で「統計
量」という言葉が出てきたら、「p63参照」と、初出で定義が載っている箇
所をその場で示してくれます。用語索引見て「あー、載ってねー> <」と地
団駄を踏むことも稀です。
あるいは、アノ正規分布の式。それをチラと出した上で「覚えなくていい」
「多くの初心者がこれで挫折する」と国際救助隊よろしく苦境を救ってくれ
ます。

それら本文を助けてくれるのが見開き片面の4コマ風マンガ。ダメな読者を
投影するヤギさんと、粋な講師のオオカミさんの丁々発止が理解促進と挫折
抑止をしてくれます。本文と同じ小難しい話をマンガ頁でオオカミさんがヤ
ギさんに話すと、ヤギさんが「ワーン無理ですー> <」と号泣。するとそし
てオオカミさん「無理で結構。これだけを覚えよ」「テレビやPCと同じ。
とりあえず使い方だけわかりゃいい」みたいに。

あるいは、標準偏差を表すσ。なんじゃこりゃ、というヤギさんに、意味は
もちろん、読み方から書き順まで指南してくれるのです。

こうした「一文字一文字、瞬間瞬間」の読者の内面への想像こそ、IDが、教
育を司るものが持つべき矜持。統計書を超えて一流の教育指南書と、わが身
のシゴトのバイブルとなるのでした。
<文責 シバタ>
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