Sandy Cowgirl

植田昌宏。在阪奄美人。座右の銘は、「死ぬまで生きる。」

ガソリン生活

2018-01-14 17:37:02 | 書評


その男が若かったとき、そう、今よりずっと若かったとき、
彼は教習所に通っていた。
今は、そんなものあるのかどうなのか知る由もないが、
当時はグループ実習というものがあった。
彼は同じグループになんとなく見覚えのある女の子がいたので声をかけた。

「なんか、別の実習で一緒じゃなかった?」

「あんたは緊張してて覚えてないかもしれないけど、あんたのことはよく覚えてるわ。
 あんた、仮免のとき一緒だったでしょ、
 緊張してサイドブレーキあげたまま発進して、進まへんからめっちゃ吹かしとったでしょ。
 教官に注意されるまで気づかんし。
 案外、車ってサイドブレーキかかっても進むんやなっていうのと、こんな奴でも仮免受かるんやなって、驚いたわ。」

顔真っ赤だが、仲良くなったので昼ご飯を一緒に食べにいったりした。
道中、彼女は行き交う車の車種を全部言いあてる。

「自分、めっちゃ車好きやな」
「好きすぎて、親に免許とるのとめられとってん。」
「っていうか、お前、運転してるやろ。」
「駐車場でな。」

彼女は、グループ講習で、それはもうスムーズに、その男がビビってカチコチになるくらいの高速で車庫入れを披露していた。
卒検の日も同じだった。
彼女はその男以外とも、誰とでも仲良くなる人だったので、
卒検後は、彼女を中心に自然に輪ができて、皆、思い思い、思い出話に花を咲かせた。
だけど、まっさきに帰っていったのは彼女だった。
その後も、皆、話足りなくて、話を続けた。

今、彼女は、どんな車に乗っているのだろう?





伊坂幸太郎さんの ガソリン生活 を紹介します。
とても、ほんわか、としていて、それでいて、先の読めない展開でもあり、
伊坂幸太郎らしい、一歩ひいた感じの書きぶりで楽しめました。

なにより、設定が、車がしゃべる、というものなので、ほんわかしないはずがない。
車にも、それは人がみた印象によるのだろうけれど、個性がある。
私は、これを読んで、すっかり、マツダの、緑の、デミオがかわいらしく思えるようになった。
人に、デミオってどう?って言われたら、
あいつ、めっちゃいい奴やねん、買うなら緑な、って答えるでしょう。

緑のデミオ、通称、ミドデミが語る形式で物語が進みます。
人間と車は、お互い話をすることができませんので、本当の意味でのストーリーは、車の語りには関係ありません。
そういう設定は、面白いな、と思うのですが、
車同士の会話、うわさ話は、読者に伝わるのですが、
車から離れた場所で交わされる人間同士の会話は読者には伝わりません。

そういう、変なアプローチのミステリーです。

伊坂作品、いつもながら、登場人物が個性豊かですが、
今回は、車の個性もたっています。
主人公(?)のミドデミのほか、
隣のそれはもう古いふるい型式のカローラ、通称、ザッパ、
クールな仕事人(?)、黒ニコ、
そのほか、道中で出会う車は、全て個性があります、そうだよね、車は皆、それぞれ違うんだ。

本編は、3部構成でなりたっていますが、全て統一された内容です。
文庫版は、うれしい特典が!
特典その1は、エピローグ。
読んだ人がうれしくなる後日談です。
そして、特典その2、なんと、文庫カバーを裏返すと、超短編が掲載されています。

アニメ化したら面白いかもしれません。
おすすめです、ぜひ、読んでみてくださいね!

コメントを投稿