お話ジャングル

さなともこ発 ジャンルなしのお話 copyright2007〜2008sanatomoko

あなぐま三兄弟 6−5(また、やりたいね!)

2008-08-26 23:33:39 | あなぐま三兄弟
6−5(また、やりたいね!)

 ハテナが巣穴の前に戻ってくると、大きな枯れ草のボールが穴をふさいでいて、それを押し出すようにしてドンドが出てきました。
「どこに行ってたんだよぉ!」
 ドンドはハテナを見るなり、口をとがらせました。ハテナは、ドンドがかかえている枯れ草のボールに目をやって言います。
「すごい! ずいぶん上手になったね」
「だろ? おれ、呑みこみいいし、働きもんだし」
 ドンドが得意そうに答えて、ハテナもその通りだと思いましたが、タヌキのおじさんが言っていたことを、つい口にしてしまいます。

「子どもは遊んだ方がいいんだって」
「そんなこと、だれが言った?」
「えーと、だれだっけな…」
 ハテナはしらばっくれて話を続けます。
「大人になると、やらなくちゃならないことがたくさんあるから、子どものうちに、うんと遊んどいた方がいいって。じゃないと、タヌ」
 言いかけてハテナは言い直しました。
「じゃないと、変な大人になるんだって」
「ほんとか!」
 深刻な顔をして答えたドンドは、かかえていた枯れ草のボールを放り出すと、いきなりハテナに飛びかかりました。
「おっし! 遊ぼうぜ」

「ま、待ってよ、急に…」
 逃げごしになりながらも、ハテナはドンドの攻撃をかわして、ドンドのシッポにかみつきました。
「お、やるじゃん!」
 ドンドはそれをふりはらって、ハテナに体当たりします。倒れたハテナにドンドは飛びついて、ハテナとドンドは取っ組み合ったまま転がっていきました。

 じゃれあいが真剣勝負になって、取っ組み合いを続けていると、ぽつぽつと雨粒が落ちてきました。でも、ハテナもドンドも手をゆるめません。相手のすきを見ては攻撃をしかけます。そうしているうちに、木々がざわざわと鳴りだし、あたりがみるみる暗くなって、遠くで雷がとどろき始めました。それでも、ハテナもドンドも一歩もゆずろうとしません。

 雷鳴とともに走った稲妻に、空が切り裂かれたように、一気に雨が落ちてきました。ハテナもドンドも一瞬のうちにずぶ濡れです。でも、ここまできたら、もうどちらも意地でも退けません。
 雨足が跳ね返る地面の上を、取っ組み合ったまま転げ回っていると、みるみる体中が泥にまみれていきます。ずぶ濡れで泥んこで、息はハァハァしましたが、ハテナもドンドも、お腹の底からむくむく楽しい気分がこみあげてくるのを感じました。クフフ… とハテナは鼻を鳴らしました。グフフ… とドンドも鼻を鳴らしました。その時です。

「なにしてるの! あんたたち」
 母さんの声が雷のようにとどろきました。母さんの声には、ハテナもドンドも体がたちまち反応してしまいます。すぐに立ち上がってそっちを見ました。激しく降る雨の向こう、母さんが巣穴から顔だけ出してこっちを見ています。雨のせいで顔つきはわかりませんが、ものすごく怒ってるにきまってます。立ちつくしているハテナとドンドに打ちつける雨が、体の泥を落としていきます。

「早く中に入りなさい!」
 おずおずと巣穴の前まで戻って、ハテナとドンドは、体についた泥水をぶるぶるっと振り落としました。
「ごめんなさい…」
 小さくつぶやいて穴にもぐりこみましたが、しばらく母さんはお説教を続けていました。ハテナとドンドは、濡れた足をなめながら、じっとそれを聞いていました。
「わかった? もう、こんなばかなまねはしないでね」
 そう言い残して母さんが行ってしまうと、ハテナとドンドは、ほっとして顔を見合わせました。そして、同時に言いました。
「また、やりたいね!」

 ハテナは、タヌキのおじさんに報告したい気分でした。母さんに叱られる遊びをしたよって。
 おじさん、これからどこに住むのかな… そう思って穴の外に目をやると、夕立は、あっというまに上がって、また日がさしはじめていました。ヤブツバキの葉が、さっぱりと汗を流したように、つやつや光っています。


  … あなぐま三兄弟6部終わり …
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あなぐま三兄弟 6−4(カッコウとモズ)

2008-08-25 23:51:51 | あなぐま三兄弟
6−4(カッコウとモズ)

 ハテナの後ろを、タヌキのおじさんはぶつぶつ言いながらついてきます。
「もうちょっと居座ってたら、おまえの父ちゃんと母ちゃんにご対面だったな。おれ、おまえはべつだけど、アナグマって、いまいち好きになれねぇんだよな…」
 ハテナはふり向いて、おじさんをせかします。
「急いでよ! おじさん」
「はい、はい」
 
 外に出ると、いくらか日は傾き始めていて、明るい林の方で、しきりにカッコウが鳴いていました。
「ああ、よかった… まにあって」
 カッコー、カッコー、とのどかに響き渡る声が、おじさんを無事に連れ出せてよかったね、と言ってくれているようです。ハテナはほっとして言いました。
「いい声で鳴いてるね」
「ああ、あいつら、子育てをよそさまに押しつけて、のんきなもんだからな」
 また変なことを言い出した、と思いながら、ハテナはタヌキのおじさんをふり返りました。
「知らないのか? おまえんちの親は、生活に役立つことしか教えないんだな。それじゃ、世間知らずになるぜ」
 父さんや母さんをけなされて、ハテナはおもしろくありませんでしたが、それでも、タヌキのおじさんの話は聞いてみたくなります。

「カッコウはな、よそさまの巣に卵を産んじまうんだ。巧妙なことに、そこの巣の卵をひとつ抜き取ってからな」
 なぜそんなことをするのかすぐには分からなくて、首をかしげているハテナに、タヌキのおじさんは説明を続けます。
「でな、自分の巣にカッコウの卵を産まれちまった鳥は、それを知らずにあたためるんだ。モズが一番ねらわれるな。卵がそっくりだから」
「でも、卵がかえったら、違う子どもだってバレちゃうじゃない」
 ハテナは口をとがらせて言いました。卵のうちはだませても、ヒナになったら、一緒に育ててもらうなんて無理な気がします。

「だからよ、うまくしたもんだな。カッコウの卵が一番先にかえって、そのヒナが、モズの卵を全部巣の外に放り出しちまうんだ」
「えーっ! ひどい!」
 ハテナは仰天しました。
「ひどいよ、いくらなんでも、ひどすぎる!」
 鼻息を荒くするハテナに、タヌキのおじさんは涼しい顔をして応じます。
「たしかにな。でも、そういう生き方もあるってことだ」
「生き方? それも生き方なの? ぼくはカッコウを許さない!」
 ハテナはかんかんです。さっきから鳴き続けてるカッコウの声にも腹がたってきました。
「くそ! そんなひどいことしてるくせに、よく平気で鳴いてられるよ!」

 かんかんになっているハテナに、タヌキのおじさんは足で耳の後ろをかいて説明を続けます。
「おまえが怒ったってよ、モズはちゃんとカッコウのヒナを育てるんだぜ。せっせとエサを運んでさ。みるみるデカくなって、自分の体の三倍くらいの大きさになるのにさ。羽の色だって、ぜんぜん違うしな」
「わかんないのかな、変だって」
 ハテナは、モズにも腹が立ってきます。
「わかるだろうよ。自分と違う種類だってことぐらい、わかるはずだ。でも、モズはエサをやり続ける」
「どうしてだろう…」
「さぁ、どうしてかな」
 タヌキのおじさんは、どうでもよさそうに、また耳の後ろをかいています。

 ハテナは空をにらんで考えました。自分の子どもを殺したやつを、どうして育てるんだろう… 頭がちぎれそうになるほど考えました。でも、モズの気持ちはわかりません。優しいのとも違う… バカなのとも違う… 偉いのとも違う… もし、アナグマの巣穴にタヌキが子どもを産んで、ぼくたち兄弟を放り出してしまったら、父さんと母さんは、タヌキの子を育てるだろうか…

 いつまでも空をにらんで考えているハテナに、タヌキのおじさんは声をかけました。
「川に行ってみようぜ。セキレイにでも出会えれば、おまえさんの鳥に対するイメージも変わるだろうよ。セキレイは、きまじめで美しい鳥だからな」
「だからって、なんなの。ぼくもう、今日は帰る」
 ハテナは、不機嫌になっています。

「つきあい悪いな。活きのいいサワガニでも一緒に食おうと思ったのに」
 タヌキのおじさんはつまらなそうに言いました。
「またにするよ」
 行きかけてハテナは聞きました。
「おじさん、これからどこに住むの?」
「ねぐらなら、いくらだってあるさ。ま、おまえさんちほど居心地のいい所は、めったにないけどな」
「じゃあ、大掃除が終わったら、また戻ってきてね」
「おお、ありがとうよ」
 タヌキのおじさんはグフッと鼻を鳴らすと、川の方に向かって歩きだしました。ハテナは、反対の方に向かって歩きだしました。
 どっちに向かって行っても、のびやかなカッコウの声が、いつまでも聞こえていました。


  …つづく

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あなぐま三兄弟 6−3(役に立っちゃだめ?)

2008-08-24 20:58:54 | あなぐま三兄弟
6−3(役に立っちゃだめ?)

「おじさん…」
 眠っているタヌキのおじさんに、ハテナは小さい声で呼びかけてみました。でも、ガガーッといういびきの音にかき消されてしまいます。
「おじさん」
 少し声を大きくしました。ガガググッと、いびきの調子が変わりました。でも、おじさんは起きません。
「おじさん!」
 ハテナは思い切り大きい声で呼びました。ガフッといびきをのみこんで、タヌキのおじさんは飛び起きました。
「な、なんだよ!」
 おじさんは、あわをくった顔でハテナを見つめています。

「びっくりした?」
「あったりまえだ。なんだよ、また迷子になったのか」
 タヌキのおじさんは、まだぼんやりした目でハテナを見ながら、大きなあくびをしました。
「大変なんだよ!」
「なにが大変なんだよ」
 大変だと言っても、おじさんはちっとも驚きません。
「この巣穴をきれいに掃除して空っぽにして、風を通すんだって! おじさん、見つかっちゃうよ!」

「そりゃ、まずいな…」
 おじさんは、後ろ足であごの下をかきながらつぶやきました。ハテナはおじさんを真剣な目で見つめて言います。
「見つかる前に逃げた方がいいよ」
「そうだな… でも、こう暑くちゃ、逃げる気にもなんねぇ」
 タヌキのおじさんは、また寝ようとします。
「見つかっちゃってもいいんだね!」
 ハテナはあきれて、帰ることにしました。

「もう行くのか? ゆっくりしてけよ。せっかく来たんだから」
 必死の思いでやってきたのに、のんきなおじさんに、ハテナは腹がたってきました。
「ぼく、忙しいんだよ」
「ほう、なんで忙しいんだ?」
 寝そべって聞き返すおじさんに、ハテナは得意そうに答えました。

「巣穴の大掃除の手伝いをするんだ。枯れ葉を運ぶんだよ。むずかしいんだけど、アナグマのたしなみだから、うんと上手になっておくんだ」
 感心してくれると思ったのに、タヌキのおじさんはグフと鼻を鳴らして言いました。
「やめとけ」
 ハテナは、びっくりしておじさんの顔を見ました。
「そんなもんは、大人になったら、いやでもやんなきゃならなくなる。今は、子どもなんだから、たっぷり遊んでおけ」

 ハテナは目をしばたたいて、タヌキのおじさんの顔を見つめています。
「なにびっくりしてんだよ。あたりまえのことだろ。子どもは遊ぶもんだ。子どものときに、ちゃんと遊んでおかないと、ろくな大人になんねぇぞ。おれを見ろ。子ダヌキの頃は大人びてて、よくできた子だと賞賛されてたんだ」
「ほんとなの…?」
 タヌキのおじさんが、よくできた子だったなんて信じられません。でも、遊ばないとおじさんみたいになるんだとしたら、遊んだ方がよさそうです。ハテナはおずおずと言いました。
「枯れ葉運びは、遊んでるみたいでおもしろいよ」
 おじさんは即座に答えます。
「だめだめ、そんなの。役に立っちゃだめ。なんの役にも立たないことでなくちゃ遊びとはいえないな。水遊び、泥んこ遊び、オニごっこ、オシッコ飛ばし、切り株かじり… つまりだな、母ちゃんに「助かったワ」なんて言われないのが、ほんとの遊びってもんだ」

 せっかくはりきって大掃除の手伝いをしようと思ってたのに、またこれです。ハテナはタヌキのおじさんに会うと、いつも頭の中をかき回されるような気分になります。
「ま、ゆっくりしていけや。夕方になって、もちっと涼しくなったら、川にでも行ってみないか」
 そう言ってタヌキのおじさんのおじさんが、またごろんと横になった時、トンネル道の向こうの方で声がしました。

「こっちだったな、たしか。しばらく来てないから、迷ってしまうな」
「長い間使ってないから、ほこりだらけでしょうね」
 父さんと母さんの声です。こっちに向かっているようです。
「大変だ! 来るよ!」
 ハテナは、横になっているタヌキのおじさんの首ねっこに噛みついて、引っぱり上げようとしました。
「わかった、わかった。いく、いく」
 タヌキのおじさんは、のっそり立ち上がりました。下には枯れ草も苔も敷いてなくて、踏み固められた土が、てかてかと光っていました。これなら、タヌキのおじさんを連れ出せばいいだけです。
「急いで、おじさん!」
 ハテナは先にたって外に出ました。


  …つづく
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あなぐま三兄弟 6−2(知らせなくちゃ)

2008-08-23 21:13:13 | あなぐま三兄弟
6−2(知らせなくちゃ)

「へぇー、すごいや…」
 母さんが枯れ草を運ぶやり方を見て感心したハテナとドンドは、さっそくまねしてみます。
「集めて… かかえて… 押えて… 進む…」
 口に出して言いながらやってみましたが、いくらも進まないうちに、枯れ葉はみるみる落ちていきます。
「力を入れすぎてはだめ。そーっとね」
 母さんはコツを教えてくれますが、父さんは大きな体を揺すって、いつものように言うだけです。
「やってるうちにうまくなるさ」

「ぼくは、一枚ずつ運ぶからね」
 引っ越したくないモンモは、少しでも遅くしたいようです。そんなモンモに母さんは言いました。
「このやり方はちゃんと覚えておかなくちゃ、あとあと困るのよ。冬ごもりの前には、新しい枯れ葉を運び入れるし、来年は、あなたたちがそれぞれ自分で穴を掘って、そこに枯れ葉を運び入れるのだから」
「自分で?」
 モンモは、びっくりして聞き返しました。
「そうさ。穴掘りと枯れ葉運びは、アナグマのたしなみだぞ」
 父さんが答えます。
「たのしみ?」
 モンモは、また聞き返しました。
「た・し・な・み」
 父さんは答えて、足元の踏み固められた枯れ草を手早くボール状にすると、前足でかかえ、あごをぐっと下げて押えて、ずんずん進んで行きました。
「かっこいい!」
 ドンドが叫んで、さっそくまねしようとします。ハテナも、母さんのやり方より父さんのやり方のほうがずっとかっこいいと思いました。でも、どっちにしても、まずボール作りに挑戦です。

 やる気まんまんのドンドとハテナを横目で見て、モンモは足元の枯れ葉を、前足でもそもそかき集めながら思います。
(これができなきゃ、アナグマ失格なのかな…)
 モンモは、自分がアナグマに向いてないような気がしました。そんなモンモの気持ちを察したように、父さんが声をかけます。
「やってるうちにうまくなるさ。うまくなれば、おもしろくなるさ」
「そしたら、たしなみが、たのしみになるんだね」
 ハテナは横から声をかけて、ボール状にした枯れ草をそろそろと運んでいきました。進んでいくうちに、ボールはくずれていって、どんどん小さくなっていきます。それでもなんとか出入り口にたどりついて、枯れ草を運び出したハテナは、とても大仕事をした気分になりました。

(引越しか…)
 わくわくしながら、高く枝を伸ばしたニレの大木を思い浮かべたハテナは、思わず大きな声をあげていました。
「大変だ! タヌキのおじさんに知らせなくちゃ!」
 母さんは巣を空っぽにして風を通すと言っていました。ということは、全部の穴から枯れ葉を運び出すはずです。そしたら、こっそり住んでいるタヌキのおじさんが見つかってしまいます。

「すぐに知らせなくちゃ」
 ハテナは、タヌキのおじさんの出入り口をめざして飛び出しました。トンネル道で迷子になった時に連れ出してもらった、あの出入り口です。飛び出した外の暑さとまぶしさといったら、頭がくらくらするほどでした。いつのまにか、アブラゼミからミンミンゼミに変わっている大合唱が、空から雨のように降ってきます。あの時以来、タヌキのおじさんの出入り口に近づいたことはありませんが、ハテナは見当をつけて探しあてることができました。

 ササの茂みに隠れるようにして、真っ暗な口がぽっかり開いています。ハテナはちょっとためらいましたが、思い切ってもぐり込みました。タヌキのおじさんの匂いがします。ここに間違いありません。ハテナは、おそるおそる進んでいきました。

 進んでいくうちに、いびきのような音が聞こえてきました。音は、進むほどに大きくなっていきます。高く、低く、リズムをきざむその音の方に向かって行くと、部屋がありました。音は、そこから聞こえてきているようです。近づいて行って、そっと中をのぞくと、やっぱり… 
 タヌキのおじさんが、お腹を上にしてぐっすり眠っていました。


  …つづく

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あなぐま三兄弟 6−1(大掃除)

2008-08-22 22:42:42 | あなぐま三兄弟
6−1(大掃除)

 こんもり山の木々の葉が、みるみる緑を濃くしていきます。茂ったコナラは白い葉裏を見せてそよぎ、大きくなったホウの葉は、重なり合って空を覆い隠すほどです。
 夜明け前には、ヒグラシがカナカナカナカナ… と、涼しげに鳴いていましたが、お昼下がりの今は、アブラゼミが暑さを搾り出すように、ジー、ジリジリ… と大合唱です。

 巣穴から顔を出したハテナは、思わず目を閉じました。厚く重なった木々の葉の、わずかな隙間からこぼれる日の光は、目をさすほどのまぶしさです。生い茂った草の吐く熱い息が、ハテナの鼻を襲います。
 横からドンドが、ちょっとだけ顔を外に出して、すぐに引っ込めました。
「うへぇー! 燃え出しそうな暑さだ」
「ミミズ、だいじょうぶかな…」
 後ろでモンモが心配しています。ハテナはモンモをふり向いて言いました。
「きっと、土の深いところにもぐりこんでると思うよ」
「出てきたら、ミミズの干物になっちまうもんな。カリカリしてうまいかも」
 あまりの暑さに外に出るのをあきらめて、穴の奥に戻って行ったドンドは、興奮したようすで引き返してきて言いました。

「引っ越すんだって!」
「引っ越すって?」
「この穴を出るんだ!」
「だれが?」
「おれたちさ! みんなで出るんだ」
「出てどこへ行くの?」
「しらねぇ」
「どうして出て行くの?」
「しらねぇ」
「それじゃ、なんにもわかんないじゃないか」
 ハテナとモンモは急ぎ足で、父さんと母さんがいる部屋に向かいました。

「引っ越すの?」
 父さんの顔を見るなり、ハテナは聞きました。
「ああ、ちょっとの間な」
 たいしたことでもなさそうに父さんが答えて、母さんが説明してくれました。
「大掃除をするの。夏の間に、巣の中の汚れた枯れ葉や草や苔を外に運び出して、空っぽにして風を通すの」
「ぼくたちもいなくなって、空っぽにするの?」
 ハテナが聞いて、母さんが答えます。
「そうよ。風が通ると、巣の中が乾いて、さっぱりするからね」
「その間、どこにいるの?」
 モンモが不安そうに聞きました。
「ニレの木の兄さんの所だ」
 父さんが答えます。大きなニレの木の下にある立派な巣穴… 話には聞いたことがあるけど、そこに行ったこともなければ、兄さんに会ったこともありません。
「いやだな… ぼく」
 モンモは顔をゆがめます。
「心配することはない。いいおじさんだ。家族がたくさんいて、部屋もたくさんある。ひと月ほど、空いてる部屋を貸してもらうことにした」
「へぇー、楽しそう! いつから行くの?」
 ドンドはすぐにでも行きたそうです。

「そのまえに、やらなきゃならないことがある。穴の中に敷いてある草や枯れ葉や苔を、ぜんぶ外に運び出すんだ。おまえたちも、しっかり手伝いなさい」
「はーい!」
 ドンドははりきって返事をすると、すぐに足元の枯れ葉を一枚くわえて、外に持って出ようとしました。母さんはおかしそうに言います。
「だめだめ、そんなじゃ。一枚ずつ運んでたら、冬になってしまう。いい?見てて。こういうふうにやるの」
 母さんは、足元の枯れ葉や草を前足でかき集めると、それをかかえこむようにして下あごで押さえ、後ずさりしてそろそろと進んでいきました。


  …つづく
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あなぐま三兄弟 5−5(似てるね)

2008-08-05 21:00:32 | あなぐま三兄弟
5−5(似てるね)

 飛び出していったモンモに、ハテナとドンドは腰が抜けるほど驚いて、歯をガチガチさせています。
「し、し、しってたのか…」
「か、か、かばってくれてたのか…」

「キャーッ、タヌキ!」
「わーっ、タヌキだ!」
 飛び出してきたモンモを見て、校庭中が大騒ぎです。逃げる者や追いかける者。キリちゃんは、モンモを追いかける者を止めようとして追いかけています。雷声は、モンモを追いかけながら叫んでいます。
「つかまえろー! 鳥小屋を襲いに来たんだ、つかまえろー!」
 
「ち、ち、ちがうぜ…」
 ドンドは、ガチガチする歯をむき出して怒っていますが、どうしたらいいのかわからなくて、震える足をふんばっています。ハテナは体が固まったようになって、動くこともできません。
「つ、つ、つかまんなよ… モンモ」
 ドンドもハテナも、水飲み場の陰から目だけ出して、祈るような気持ちで見ていました。

 逃げまどうモンモは、校舎の入り口に飛び込みました。
「やった! 追いつめた。つかまえられるぞ!」
 雷声が興奮して叫んで走り出すと、校舎の入り口からまたモンモが出てきました。口に閉じた傘を一本くわえています。みんなが不思議に思って見守る中、モンモは校庭に出てくると、傘の柄をくわえてぶんぶんふり回し始めました。
「あぶないよ!」
「どいて、どいて!」
「近寄らないで!」
 みんな、急いでモンモから離れます。そして遠巻きになってモンモをながめていると、バン!という音をたてて傘が開きました。
「わぁーっ!」
 校庭中に歓声があがりました。モンモはその傘を地面に置くと、別の閉じた傘を取ってきて、またふり回します。また傘が開いて、また歓声があがります。

 そうやって、開いた傘が三つ並んで、やっとみんなはわかりました。
「タヌキがやったのか…」
 びっくりしたような感心したような声がして、だれかがパチパチと拍手をしました。すると、それにつられたように、あちこちで拍手が起こって広がっていきました。雷声は、困ったような顔をして立っています。
 拍手に包まれて、モンモはゆうゆうと引き上げていきました。ちょっと得意そうに、ちょっと恥ずかしそうに。

 水飲み場の後ろではらはらしていたハテナとドンドは、戻ってきたモンモに飛びつきました。飛びついて、しっぽをパタパタさせました。
「まだいる!」
「もう二匹いる!」
 校庭中がまた大騒ぎです。モンモは勇気を出して出ていったのに、隠れていたハテナとドンドは、見つかってしまって恥ずかしい気持ちになりました。

「帰ろうよ」
 モンモが声をかけます。帰りかけてドンドは、ウサギ小屋に目をやりました。ウサギは、なにごともなかったかのように、口をモグモグさせています。
「あんなやつと一緒にされなくてよかったよ」
 ほっとしたドンドは、いつもの調子に戻って言いました。ハテナは帰りかけて、校庭の方をふり向きました。大勢の人がこっちを見ています。その中に、キリちゃんの姿を見つけることができました。キリちゃんは手をふっています。ハテナも手をふり返したい気持ちになりましたが、振れるのはシッポしかありません。

 残念な気持ちで前を向くと、モンモの後ろ姿がありました。少し前を行く揺れるシッポが、キリちゃんの手に似ている気がしました。どっちも小さくて頼りなさそうです。

 雨上がりのこんもり山にうす日がさし始めています。葉っぱの上の雨つぶがきらきらする中を、三匹は大冒険をした気分で帰っていきました。


     … あなぐま三兄弟5部 おわり …
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あなぐま三兄弟 5−4(犯人はだれ?)

2008-08-04 22:38:11 | あなぐま三兄弟
5−4(犯人はだれ?)

 校庭は、外に出てきた子たちでごったがえしていました。歩き回りながら、しゃべっている声が聞こえてきます。
「あー、あたしのカサあった!」
「おれのカサ、みつかんねぇ」
「あったよ、ノンちゃんのカサ」
「こっちだったかな、ぼくのカサ」
「そのカサ、おれんだよ!」
 みんな、カサ、カサと言っています。
「カサだって…」
「花じゃないのか?」
 ハテナとドンドがひそひそ話していると、さっきの雷声がやってきて言いました。
「いいかぁ、自分のでもひとのでも、どんどんたたんでカサ立てに戻す!」

 せっかく咲かせた花が、次々にしぼんで持って行かれてしまいます。
「片付け終わるまでに、やったもの、出てきなさい!」
 雷声が叫んでも、もちろん、だれも出ていきません。
「どうする? 出ていく?」
 身を縮めているモンモが、おどおどと言いました。
「ばっかだなぁ。出て行ったら、つかまって、あそこにぶちこまれるんだぞ」
 ドンドがウサギ小屋をあごでしゃくって、首を横にふります。ハテナもモンモに向かって、ぶるぶる首を横にふりました。雷声が、また低くとどろきます。
「いいかぁ、だれがやったか、先生にはわかっている!」
 三匹はびっくりして顔を見合わせました。校庭中が、だれだ?だれだ?とざわめいています。

「あと、十かぞえる! その間に自分から名乗り出なさい」
 シーンとなった校庭で、雷声は、もったいぶったようにゆっくり数えていきます。
「いーち、にぃー、さーん、しぃー、ごぉー、ろーく」
 モンモがごくっとつばを飲む音が、ハテナにもドンドにも聞こえました。
「しーち、はーち、きゅー」

「あたしです!」
 声がした方に、みんなの目が一斉に向きました。そこには、キリちゃんがぴっと手をあげて立っていました。
 水飲み場の陰から、こっそりのぞき見たハテナとドンドとモンモは、目をまん丸にしました。
 名乗り出たキリちゃんを見ても、雷声はぜんぜん驚いていません。
「やっぱりおまえか。校庭中にライン引きで絵を描く。三階の窓から何本もトイレットペーパーを投げる。そして今度はこれか?」
 キリちゃんは、にっこりほほえんでうなずきます。
「楽しいか? いたずらが」
 わざと優しく聞いた雷声に、キリちゃんは怒って答えました。
「いたずらじゃありません!」
「じゃあ、なんなんだ!」
 雷声が優しいふりをやめた時、だれかが叫びました。

「キリちゃんがやったなんて、うそでーす! キリちゃん、教室にいたから、そんなことできませーん!」
 校庭中が、またざわざわしはじめました。
「キリコ、うそをついてるのか」
 雷声に聞かれて、キリちゃんの顔がゆがみます。水飲み場の後ろで小さくなっているハテナとドンドとモンモは、こそこそと顔を見合わせました。キリちゃんは、雷声と顔を合わせないようにして、うつむいています。
「キリコ、うそをつくんじゃない!」
 ドッカーンとついに雷が落ちたその時、突然モンモが飛び出していきました。
「だめーっ! 出てきちゃだめーっ!」
 キリちゃんは悲鳴のような声をあげました。


  …つづく

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あなぐま三兄弟 5−3(花いっぱい)

2008-08-03 21:54:14 | あなぐま三兄弟
5−3(花いっぱい)

 巣の入り口はさっきまでの騒ぎがうそのように、すっかり静かになっていました。
「みんないなくなっちやったね」
「行ってみようぜ」
「うん、行ってみよう」
 しぼんで置き去りにされた花たちを確かめに行くチャンスです。ハテナとドンドとモンモは、入り口をめざして校庭を走りました。

 たどり着いた入り口には、たくさんのしぼんだ花が、逆さまになって立っていました。濡れているのに、どの花もピンとこわばっています。
「硬そうな花だな…」
 ドンドは、「1ねん1くみ」と書いてある入れ物に前足をかけると、しぼんだ花を一本くわえて取り出しました。さっきは、みんなあんなに大きく咲いていたのに、今はいっせいにしぼんでいるというのも奇妙なことです。
「外に出ると咲くのかな?」
 ハテナは首をかしげて考えました。
「雨に濡れると咲くんだよ!」
 モンモが大発見をしたように言いました。

 ドンドは、くわえている花を引きずって外に出ました。でも、外に出ても雨にあたっても、花はしぼんだままです。ドンドは、あごに力をいれ顔を傾けて、ぐぐっと花を立ててみました。でもやっぱり、しぼんだままです。頭にきて、ぶんぶん振り回しました。すると、バンと音をたてて、しぼんでいた花が一気に開きました。
「わっ、咲いた!」
「咲いた、咲いた!」
 ハテナとモンモは大喜びです。

 ハテナとモンモも、しぼんだ花を一本ずつくわえて外に出ると、ドンドをまねて、ぶんぶん振り回しました。すると、バン、バンと音をたてて、ハテナの花もモンモの花も咲きました。
「やった、やった!」
 ハテナもモンモも飛び跳ねます。

 それからはもう夢中になって、ハテナもドンドもモンモも、しぼんでる花をくわえて外に出ては、ぶんぶん振り回して次々に咲かせていきました。中には、どんなに振り回しても、しぼんだままの花もありましたが、そんな花は元に戻しておきました。

 夢中で花を咲かせているうちに、いつのまにか雨はやんでいました。校庭が咲いた花でいっぱいになった頃、またチャイムが鳴りはじめました。
「また鳴いてる」
「なにが鳴いてるんだろ?」
 さっきと同じように、鳴き声の主を探してきょろきょろしていると、静かだった人間の巣が、急に騒がしくなってきました。ガヤガヤドタドタ音がし始めて、だれかが大声で叫んでいます。
「見ろよ! 外!」
「わーっ! すげぇ」
 声のする方を見上げると、人間の巣の上の方に、キリちゃんくらいの顔がたくさんの並んでいました。みんなこっちを見ているようです。ハテナもドンドもモンモも、あわてて咲いた花のかげに隠れました。
「見て、見て! きれいだよ」
「ほんとだぁ、きれい!」
 ハテナたちが咲かせた花のことを言っているようです。ちょっと得意になりましたが、それも一瞬のことでした。

「だれだぁ! あんないたずらしたやつは!」
 雷のような声が響きわたりました。びっくりしたハテナとドンドとモンモは、あわてふためいて水飲み場の後ろに逃げました。
 水飲み場の隣にはウサギ小屋があります。うまく隠れられたと思って一息ついたハテナは、金網の中にウサギを見つけてギョッとしました。
「見て、あそこ…」
 ハテナは小声でドンドとモンモに教えます。
「つかまっちゃったんだ…」
 モンモはふるえはじめました。
「ドジなやつらだ」
 鼻筋にシワをよせて、ドンドはばかにしたように言いました。長い耳をしてるのに、聞こえないのか、聞こえないふりをしているのか、ウサギの方はただ口をモグモグさせているだけでした。


  …つづく
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あなぐま三兄弟 5−2(花たちの大移動)

2008-08-02 21:07:01 | あなぐま三兄弟
5−2(花たちの大移動)

 動いて行く大きな赤い花のあとを、そろそろつけて行って、ウツギの茂みが途切れると、その花の茎が見えました。
(2本?)
 花の茎を見て、三匹は不思議に思いました。赤い大きな花には、2本の茎があるのです。ハテナは、どこかで見たことがあるような物の気がしました。でも、何だか思い出せません。

 動いていく花の後をつけていくと、今度は、黄色い大きな花が向こうからやってきました。大きさも形も、ほとんど赤い花と同じです。
「すごいや!」
 三匹が同時に声をあげた時、赤い花が声を出しました。
「キリちゃん、おはよう」
(キリちゃん?)
 ハテナとドンドは顔を見合わせます。
「おはよう! ユカちゃん」
 黄色い花が返事をしました。見ると、大きな黄色い花の下にキリちゃんがいるではありませんか。
「キリちゃんだ…」
 ハテナがつぶやくと、ドンドが聞きました。
「このまえの?」
「うん…」
「あんな花、ついてた?」
「ううん…」
 ハテナとドンドは不思議そうです。
「なに? なんのこと?」
 ハテナとドンドの話に割り込んでモンモが聞きました。
「たくさんおいしいものを食べさせてくれる、ピカッが好きな人間てやつの子どもだよ」
 ドンドの説明を聞いても、モンモにはますますわからなくなっただけでした。

 赤い花のユカちゃんと黄色い花のキリちゃんは、並んで歩きはじめました。ハテナとドンドとモンモは、そのままあとをつけていきます。
 あとをつけているうちに、花の数がふえていきました。
「こんどは青だ!」
「黒いのも来た!」
「わぁーっ! シマシマだ」
 新しい花が現れるたびに、ハテナたちはびっくりしていました。でもそのうち、いちいちびっくりしていられないくらい、花の数はどんどんふえていきました。

 花の大きさや形はほとんど同じで、どの花もキリちゃんのような人間の子どもの茎がついていて、子どもの背中には、黒や赤や黄色の四角い物がついています。そして不思議なことに、みんな同じところに向かっているようなのです。いったいどこへ行くのでしょう?

 移動する花たちの後をずっとつけて行くと、草のない広い地面が囲われた場所へ、みんなぞろぞろ入っていきました。
「あれも人間の巣かな?」
 大きな建物を見て、ハテナはつぶやきました。そこは学校という所でしたが、ハテナたちには分かるはずもありません。

「この前の巣よりも、もっとデカいな…」
 ペンションよりずっと大きい建物を見て、ドンドは呆れています。ハテナは、じっと考えて言いました。
「ニンゲンはハチやアリと同じなんだ、きっと。大勢で一つの巣を使うんだよ」
「そうだろうな! そうでなくちゃ、デカすぎる」
 ドンドは納得したようでした。

「あ、花がしぼんだ!」
 モンモが声をあげました。大きく開いていた花が、一瞬のうちにしぼんでしまいました。それも、ひとつではなくて、次々に。どうやら、巣の入り口らしい所に着くと、花はしぼんでしまうようなのです。見ていると、しぼんだ花はそこに置き去りにされて、茎の人間たちだけが巣の中に入っていきました。
「花と茎が、バラバラになるんだ…」
 ハテナが不思議そうにつぶやいた時、チャイムが鳴り始めました。
「なんだ? なんだ?」
「なんの鳴き声だ?」
「聞いたことのない声だね」
 ハテナもドンドもモンモも、きょろきょろして辺りを見回しましたが、声の主は見つかりません。


  …つづく

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あなぐま三兄弟 5−1(赤い大きな花)

2008-08-01 23:56:11 | あなぐま三兄弟
5−1(赤い大きな花)

 今日も雨です。きのうも、おとといも雨でした。アナグマさんの穴の出入り口では、ハテナとドンドとモンモが、押しあいへしあいして外を見ています。ときどきだれかが押し出されて、急いで穴の中にもぐり込みますが、ハテナもドンドもモンモも、それを楽しんでいるようです。

 雨に濡れるのは、ちょっとだけ水遊びの気分です。高い木も低い木も草も、みんな雨を浴びて気持ちよさそうです。空気の匂いは、しめっていてあたたかです。穴のすぐ外のフキの葉の上では、水玉と水玉がくっついてはふくらんで、コロコロ転がっていきます。

 いつまで見ていても飽きない水玉を、ハテナがぼんやりながめていると、隣でモンモがつぶやきました。
「ミミズ、たくさん出てきてるかな…」
 おととい、雨の中を餌探しに行ったら、地面の上にたくさんミミズが出てきていました。ミミズもきっと雨を浴びたくて、土の中から出てくるのでしょう。
「行ってみようぜ」
 退屈そうにしていたドンドは、雨の中に飛び出すと、水たまりに足を入れて、ぴちゃぴちゃ跳ね飛ばしました。ハテナもモンモも、水たまりでぴちゃぴちゃしたくて、雨の中に飛び出しました。

 しばらく水跳ねっこをやったあと、お腹に泥水のあとをつけて、ハテナとドンドとモンモは出発しました。雨つぶがたっぷりついた草で足を濡らしながら進んでいくと、ここに一匹、あそこに一匹、ミミズが地面の上に出てきて体をくねらせています。でも、それにはちょっと目をやっただけで、ハテナもドンドもモンモも足を止めません。おととい見つけた、ミミズの大群がいる場所をめざしているからです。

「もっとずっと行くんだったよね」
「うん、もっとずっと行くんだった」
 しとしと降る雨の中を進んで行くと、雨に煙った景色の中に、ホタルブクロの花がほんのりピンク色をともしていました。鼻をかすめた甘い香りに顔を上げると、長くつるを伸ばしたマタタビが、小さな白い花をたくさんつけておじぎをしていました。雨の季節になると、鮮やかな色の花は少なくなって、白や淡い色をした花がひっそり咲いています。
 そんな中に、真っ赤な大きな花を見つけて、ハテナはびっくりした声をあげました。
「見て! あの花」

 ハテナが見ている方を見て、ドンドとモンモもびっくりした声をあげました。
「うわぁ! お化けだ」
 ウツギの茂みの向こうに、赤い大きな花が咲いています。それも、見たこともないほど大きくて、たった一輪咲いています。
「行ってみようぜ」
 ドンドはすぐに行こうとしました。
「まって!」
 あわててハテナは止めます。
「毒があるかもしれない」
「そうだよ。あんなに大きくて、あんなに赤いんだもん、きっと毒があるよ」
 モンモもハテナに賛成します。ドンドはちょっとためらいましたが、
「さわらなきゃいいんだろ」
 と言って、そろそろ近づいていきました。ハテナもモンモも、怖いけどやっぱり見てみたいので、ドンドのあとについて、そろそろ近づいていきました。すると、ウツギの茂みの向こうで、その花も動きはじめたのです。三匹はぎょっとして立ち止まりました。

「動いた…」
「うん」
 ハテナもモンモも緊張した顔でうなづきます。
「どうする?」
「あとをつけよう」
 ドンドは、そのままそろそろ進みました。ハテナとモンモも、おそるおそるそのあとに続きました。


  …つづく

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