愉しむ漢詩

漢詩をあるテーマ、例えば、”お酒”で切って読んでいく。又は作るのに挑戦する。”愉しむ漢詩”を目指します。

閑話休題47 ドラマの中の漢詩 31『宮廷女官―若曦』-19

2017-08-15 14:48:15 | 漢詩を読む
ドラマの話に戻ります。

皇太子(第二皇子)は、蒙古王から皇帝へ献上された“馬”を無断で乗り回して、陛下の怒りを買い、廃嫡されることになりました。城内では、どの皇子が皇太子に指名されるのか、あるいは第二皇子の復位があるのか、噂で持ち切りです。

皇子たちの間でもそれぞれひそかに動いているようである。跡目を伺っていると思しき主な皇子は、第四皇子と第八皇子である。第四皇子組には第十三皇子が、一方、第八皇子組には第九、十および十四皇子が仲間として策を巡らしている。

第四皇子と第八皇子は、それぞれ、皇帝の胸の内について情報を得ようと、いろいろと手を尽くします。例えば、皇帝の傍で仕える若曦に尋ねることもあります。若曦は、「陛下たちの話す部屋の外にいるため、何ら知ることはありません」と。

ただ、第八皇子に対しては、「陛下は、第二皇子を溺愛している ということは、お忘れにならないように」と、復位の可能性があることをひそかに伝えます。第八皇子に対する“想い”が現れた一場面でもあります。

第四皇子は、現時点で具体的に何らかの策を講じようという気はないようです。第十三皇子の “もっと積極的に動くべきではないか“との進言に対して、「陛下の第二皇子に対する怒りは一時的なものだ、軽々しく動いてはならない」と、やはり慎重な態度です。

第八皇子は、第二皇子に対する陛下の心の内を読みかねているようではある。しかし仲間たちが、“この機を逃してはならない”、“多くの大臣が第八皇子に心をよせている”、“多くの大臣たちが推薦するとなれば、陛下も考慮する筈だ”と、強く説くのに心が動いている様子であった。

陛下の執務室:皇子たちはじめ主だった役人たちが顔を揃えている。陛下は、大臣たちから寄せられた上奏書の束を抱えて、憤怒の形相である。30人ほどの大臣が、“第八皇子を皇太子に推薦する”とする上奏があったようである。

陛下は、第八皇子に対して、「第二皇子は不適当ということか!朕は見る目がなく、暗愚だと言うことか」、「大臣たちを扇動して上奏させるなど、言語道断だ!」「八賢王と言われるが、抜け目のない男にしか見えない」……と。

若曦は、陛下が第二皇子を復位させる意向であるらしいとの感触を得て、第八皇子に軽挙を慎むように諫めようとしたが、齟齬があって連絡することができなかった。それとは知らず、第八皇子組は、大臣たちを動かして上奏書を挙げさせたようである。

結局、第八皇子は爵位を略奪。体を張って第八皇子を弁護した第十四皇子は、鞭打ち30回、30人の大臣は斬首……と、その場で厳しい判決が陛下から下された。

しばらく経って、第八皇子から若曦に一通の封書が届けられた。“案ずるなかれ”と、一言認められてあった。

明るい日差しの射すある昼間、籠を携えて庭にいた若曦の所へ、第十四と十皇子が訪ねてきます。「部屋に尋ねてみると、 “花摘みに行った”というからここに来た、今日は君の誕生日だろう、特別な贈り物を用意しているよ」と。

若曦は、「誕生日など忘れているわよ、女なら年を取ることは忘れたいものよ」と取り合わない。「この花は数日中に摘まないと、来年まで見られなくなるのよ、それでは」と、皇子二人に別れを告げて、花を摘みにいきます。

別れ際に第十四皇子が、「折る価値ある花は、すぐに折るべし」と、言い含めるように言います。第十皇子が「どういう意味か?」と問うのに対して、第十四皇子と若曦は、直接答えることはなく、それとなく目配せをして、無言で別れて行きます。

さて、この「折る価値ある花は、……」の句は、末尾に挙げた詩の中の一句です。唐代の杜秋娘(ト シュウジョウ)の作とされている詩・「金縷衣(キンルイ)」の中の一句です。まずその詩に目を通して頂きたい。

ドラマの中で、第十四皇子がこの句を引用したわけは、まずは、若曦が花摘みに来ていることに掛けて、“時期を逸することなく,早く摘んで行きなさいよ”と言っているのでしょう。

しかし、かほど単純ではないように思われる。

先に、秦観の詩「鵲橋仙」の稿(閑話休題44)で触れたように、第八皇子と若曦はお互いに深い想いを抱く関係にあります。第十四皇子は、このことを充分に承知しています。
また第十四皇子は、これまでも事あるごとに、若曦に対して、“第八皇子の心の内は十分に分かっていよう。何故に側室として嫁がないのか”と詰問しています。

爵位を略奪された第八皇子は、目下失意の底にあります。それらの状況を念頭に、第十四皇子は、「お前だっていつまでも若くはないのだ。花を落した枝になる前に、心を決めなさいよ」と、若曦に対して決断を促しているのであろうと推察される。

さて若曦は、部屋に戻って、一本のローソクに火を点けて、両手を胸に当てて、「誕生日おめでとう!ここに来て幾度の誕生日を迎えたことであろうか」と、独り言ちます。

「金縷衣」の作者とされる杜秋娘についてちょっと触れておきます。杜秋娘は金陵(現南京市)生まれの美人で、才媛の歌妓であったらしい。杜秋娘がよくこの詩を歌っていたことから、彼女の作とされているようですが、唐代の成書では、作者不明とされている由。

杜秋娘は15歳でさる高官の側室を振り出しに、皇帝の側室、皇子の乳母、等々運命に翻弄されるようにして生きてきて、老いて金陵に戻った。そこで杜牧は偶々金陵を訪ねた折、杜秋娘から半生の話を聞く。杜秋娘の話に感ずるところがあった杜牧は、「杜秋娘詩」と題する長編の詩を書いています。(ドラマ第十話から)

xxxxxxxxxxx

金縷衣 ......杜秋娘

勧君莫惜金縷衣    君に勧む 惜しむ莫れ 金縷(キンル)の衣            
勧君須惜少年時    君に勧む 須(スベカ)らく惜しむべし 少年の時
花開堪折直須折    花開いて折るに堪えなば 直ちに須らく折るべし
莫待無花空折枝    花無きを待って 空しく枝を折る 莫れ  

[註]
杜秋娘:“杜”が姓で、“秋”は名。“娘”は“お嬢さん”の意。
金縷の衣:金の糸で縁取りした立派な着物。富貴な生活のこと。
少年の時:若いとき。

【現代語訳】
金糸で縁取りした着物が着られる栄達にこだわることはない。
青春の日をこそ惜しむべきである。
花が咲いて手折る頃合いになったら、直ちに手折るがよい。
花が散ってしまってから、花のない枝を折るようなことはしなさんな。

閑話休題47 ドラマの中の漢詩 31『宮廷女官―若曦』-19

ドラマの話に戻ります。

皇太子(第二皇子)は、蒙古王から皇帝へ献上された“馬”を無断で乗り回して、陛下の怒りを買い、廃嫡されることになりました。城内では、どの皇子が皇太子に指名されるのか、あるいは第二皇子の復位があるのか、噂で持ち切りです。

皇子たちの間でもそれぞれひそかに動いているようである。跡目を伺っていると思しき主な皇子は、第四皇子と第八皇子である。第四皇子組には第十三皇子が、一方、第八皇子組には第九、十および十四皇子が仲間として策を巡らしている。

第四皇子と第八皇子は、それぞれ、皇帝の胸の内について情報を得ようと、いろいろと手を尽くします。例えば、皇帝の傍で仕える若曦に尋ねることもあります。若曦は、「陛下たちの話す部屋の外にいるため、何ら知ることはありません」と。

ただ、第八皇子に対しては、「陛下は、第二皇子を溺愛している ということは、お忘れにならないように」と、復位の可能性があることをひそかに伝えます。第八皇子に対する“想い”が現れた一場面でもあります。

第四皇子は、現時点で具体的に何らかの策を講じようという気はないようです。第十三皇子の “もっと積極的に動くべきではないか“との進言に対して、「陛下の第二皇子に対する怒りは一時的なものだ、軽々しく動いてはならない」と、やはり慎重な態度です。

第八皇子は、第二皇子に対する陛下の心の内を読みかねているようではある。しかし仲間たちが、“この機を逃してはならない”、“多くの大臣が第八皇子に心をよせている”、“多くの大臣たちが推薦するとなれば、陛下も考慮する筈だ”と、強く説くのに心が動いている様子であった。

陛下の執務室:皇子たちはじめ主だった役人たちが顔を揃えている。陛下は、大臣たちから寄せられた上奏書の束を抱えて、憤怒の形相である。30人ほどの大臣が、“第八皇子を皇太子に推薦する”とする上奏があったようである。

陛下は、第八皇子に対して、「第二皇子は不適当ということか!朕は見る目がなく、暗愚だと言うことか」、「大臣たちを扇動して上奏させるなど、言語道断だ!」「八賢王と言われるが、抜け目のない男にしか見えない」……と。

若曦は、陛下が第二皇子を復位させる意向であるらしいとの感触を得て、第八皇子に軽挙を慎むように諫めようとしたが、齟齬があって連絡することができなかった。それとは知らず、第八皇子組は、大臣たちを動かして上奏書を挙げさせたようである。

結局、第八皇子は爵位を略奪。体を張って第八皇子を弁護した第十四皇子は、鞭打ち30回、30人の大臣は斬首……と、その場で厳しい判決が陛下から下された。

しばらく経って、第八皇子から若曦に一通の封書が届けられた。“案ずるなかれ”と、一言認められてあった。

明るい日差しの射すある昼間、籠を携えて庭にいた若曦の所へ、第十四と十皇子が訪ねてきます。「部屋に尋ねてみると、 “花摘みに行った”というからここに来た、今日は君の誕生日だろう、特別な贈り物を用意しているよ」と。

若曦は、「誕生日など忘れているわよ、女なら年を取ることは忘れたいものよ」と取り合わない。「この花は数日中に摘まないと、来年まで見られなくなるのよ、それでは」と、皇子二人に別れを告げて、花を摘みにいきます。

別れ際に第十四皇子が、「折る価値ある花は、すぐに折るべし」と、言い含めるように言います。第十皇子が「どういう意味か?」と問うのに対して、第十四皇子と若曦は、直接答えることはなく、それとなく目配せをして、無言で別れて行きます。

さて、この「折る価値ある花は、……」の句は、末尾に挙げた詩の中の一句です。唐代の杜秋娘(ト シュウジョウ)の作とされている詩・「金縷衣(キンルイ)」の中の一句です。まずその詩に目を通して頂きたい。

ドラマの中で、第十四皇子がこの句を引用したわけは、まずは、若曦が花摘みに来ていることに掛けて、“時期を逸することなく,早く摘んで行きなさいよ”と言っているのでしょう。

しかし、かほど単純ではないように思われる。

先に、秦観の詩「鵲橋仙」の稿(閑話休題44)で触れたように、第八皇子と若曦はお互いに深い想いを抱く関係にあります。第十四皇子は、このことを充分に承知しています。
また第十四皇子は、これまでも事あるごとに、若曦に対して、“第八皇子の心の内は十分に分かっていよう。何故に側室として嫁がないのか”と詰問しています。

爵位を略奪された第八皇子は、目下失意の底にあります。それらの状況を念頭に、第十四皇子は、「お前だっていつまでも若くはないのだ。花を落した枝になる前に、心を決めなさいよ」と、若曦に対して決断を促しているのであろうと推察される。

さて若曦は、部屋に戻って、一本のローソクに火を点けて、両手を胸に当てて、「誕生日おめでとう!ここに来て幾度の誕生日を迎えたことであろうか」と、独り言ちます。

「金縷衣」の作者とされる杜秋娘についてちょっと触れておきます。杜秋娘は金陵(現南京市)生まれの美人で、才媛の歌妓であったらしい。杜秋娘がよくこの詩を歌っていたことから、彼女の作とされているようですが、唐代の成書では、作者不明とされている由。

杜秋娘は15歳でさる高官の側室を振り出しに、皇帝の側室、皇子の乳母、等々運命に翻弄されるようにして生きてきて、老いて金陵に戻った。そこで杜牧は偶々金陵を訪ねた折、杜秋娘から半生の話を聞く。杜秋娘の話に感ずるところがあった杜牧は、「杜秋娘詩」と題する長編の詩を書いています。(ドラマ第十話から)

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金縷衣 杜秋娘

勧君莫惜金縷衣    君に勧む 惜しむ莫れ 金縷(キンル)の衣            
勧君須惜少年時    君に勧む 須(スベカ)らく惜しむべし 少年の時
花開堪折直須折    花開いて折るに堪えなば 直ちに須らく折るべし
莫待無花空折枝    花無きを待って 空しく枝を折る 莫れ  

...[註]
.....杜秋娘:“杜”が姓で、“秋”は名。“娘”は“お嬢さん”の意。
.....金縷の衣:金の糸で縁取りした立派な着物。富貴な生活のこと。
.....少年の時:若いとき。

【現代語訳】
金糸で縁取りした着物が着られる栄達にこだわることはない。
青春の日をこそ惜しむべきである。
花が咲いて手折る頃合いになったら、直ちに手折るがよい。
花が散ってしまってから、花のない枝を折るようなことはしなさんな。

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