愉しむ漢詩

漢詩をあるテーマ、例えば、”お酒”で切って読んでいく。又は作るのに挑戦する。”愉しむ漢詩”を目指します。

閑話休題(13) 漢詩を読む 賀知章「年とってふるさとに帰る」(2)

2015-09-04 10:53:47 | 漢詩を読む
回郷偶書 二首    郷に回(カエ)りて偶(タマ)たま書す

其二
離別家郷歳月多   家郷に離別して歳月多し
近来人事半銷磨   近来 人事半ば銷磨(ショウマ)す
唯有門前鏡湖水   唯だ門前 鏡湖(キョウコ)の水有るのみ
春風不改旧時波   春風に改めず 旧時の波

現代訳
故郷を離れて長い年月がたち、
近ごろは世の中のこともほとんどが移り変わってしまった。
ただ、門の前の鏡湖の水だけが、
春風に吹かれて昔のままの波を立てている。
   [石川 忠久 監修 『NHK新漢詩紀行ガイド』 5、2010 (p.94)から]

<私感>
賀知章は、唐の建国後約40年、唐が最盛期に向かうころ、現在の浙江省紹興で生まれている(659-744)。則天武后の治世時に進士に合格、続く玄宗皇帝の代には高官につき、官界で非常な影響力を持っていたようである。李白の詩文を見て、即座に「謫仙人也」と評して、李白を皇帝に紹介したという逸話がある。
  注)謫仙人(タクセンニン)=仙人の世界から追いやられれて、人間界に来た人

賀知章は、性格は豪放磊落、破天荒なところがあったようである。紹興の生まれであることとは関係ないと思われますが、大の酒好きのようであった。杜甫の詩「飲中八仙歌」の中で 当時の酒飲み八人衆(酔八仙)のトップに挙げられているくらいである。

80歳のころ体調がすぐれず、辞職を願い出て、皇帝に惜しまれながら、許されて帰郷することになった と。その際、50年近くに及ぶ長年のお勤めに対する褒美として、皇帝から「何がほしいか」と問われ、そこで所望して賜ったのが、故郷の湖“鏡湖”であった。
故郷に帰っても、子供たちからは、よそ者と見られたが、“鏡湖”のみは、昔のままで迎えてくれた、とその感慨が伝わってくるようです。しかしその“鏡湖”は、今日埋め立てられて姿を消しているようである。やはり時、所を選ばず、自然環境の変化は避けられそうにない。

翻って、今日、本邦の内情を見るに、旧時の賀知章のごとく、久しぶりに故郷に帰って感慨に浸るという状況にはない。地方にあっては、大雨、地震、津波、台風等々の自然の力に、さらに人為も加わり、生活の基盤がもろくも破壊されつつある。土地の荒廃、人口の都市集中に拍車が掛かる大きな要因であると考えられる。

そうでなくとも狭い日本列島、山地が約70%も占めており、土地の有効活用は最も重要であろう。一朝一夕に解決できる課題であるとは思えないが、個々人の力は勿論必要であるにしても、政治の役割こそ大事かと思われる。地方のみならず、国全体にとっての“地方創生!”、一筋でも光が見えるよう大きく期待しているのである。
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1 コメント

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Unknown (Rumi)
2015-09-09 19:50:35
自然変化が早い国は、自然災害だけでなく、開発が盛ん、という点もありますねー。
数年前、夫の育った故郷を訪ねてみたところ、彼の幼児期に弟と撮ったセピア色の写真の背景がそのまんまで、半世紀以上前と変化の無い写真通りの風景に遭遇し、びっくり仰天しました。・・・多分、半世紀後も、あの地は今のままに違いない、、、と思った覚えがあります。勿論、感慨にふけっていたのが一名おりました(笑)。
自然環境の変化が中々進まない地域、工業国と言われているドイツでも、まだまだあります。・・・うちの地域もそうだったりして、、、。

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