徒然草庵 (別館)

人、木石にあらねば時にとりて物に感ずる事無きに非ず。
旅・舞台・ドラマ・映画・コンサート等の記録と感想がメインです。

カレッジ・オブ・ザ・ウィンド2015

2015年06月18日 | 舞台
大変長い間、ご無沙汰しておりました。

3月と4月は仕事&生活面にも大きく変化があったため、『クロノス』(4回)『パスファインダー』(5回))も折角観たのに!感想を一度もまともに書けぬまま、今に至ってしまいました。さすがに「休日なし、朝8時→夜10時まで仕事、さらに転勤&転居」では、何をする(心の)余裕もない!というものです。いやはや。4月最終週は、ホントにブラックな日々でしたね。←でもそれが6月中旬の現在も続いているという。(苦笑)

そんなわけで、半分廃人となりつつ日本を脱出、5月前半はドイツと北イタリアを「リアル世界の車窓から」状態で放浪していた庵主であります。5月11日(月)朝、一睡もせず成田空港に降り立った私は、そのまま仕事に向かい(笑)さらに終業後は新神戸に向かいました。

キャラメルボックスの『カレッジ・オブ・ザ・ウィンド』!6月は13・14日で東京公演の前楽・大楽も観てきました。

公式HP http://www.caramelbox.com/stage/30th-2/

この、風の勇気/Courage of the Wind と名付けられた物語、タイトルは知っていたのですが、今回が初見になります。


  ★   ☆   ★


神戸公演を3回、東京公演を2回、計5回観ました。
何というか…神戸と東京は完全に別物のお芝居でした。ほぼ1ヶ月、間に10日ほどのインターバルがあったとはいえ、ここまで進化するか!と驚きました。神戸の公演ももちろん良かったのですが、東京ではさらに深く強くそれぞれのキャラクターが動いていて、その中心は「ほしみ」だったことが明確でした。正直に言うと、神戸公演では「主役がどうしても鉄平にしか思えない…(それは私の鉄平というキャラへの共感のせいかもしれませんが)」と感じていたのですが、東京では「ほしみ」の持つパワーが段違いで、何か「突き抜けた」「振り切れた」ものを感じました。←「こんなに全力で大丈夫なのかな?」と心配になるくらい!

でも。

この、ちょっとキャラメルらしからぬストーリー…人の死や、大人の狡さ、弱さ、意地悪さ、やや暗いエピソードが綴られていく中で、私の心に一番ガツンと来たのは「家族パート(ほしみを中心とした高梨一家)」ではなくて「大人パート(鉄平、あやめ、菊川)」なのでした。

「この話の主人公は、ほしみ(原田樹里さん)のハズなんだけど…???」

初回、神戸で観終わった後の私の感想がまさしく象徴的だったと思います。それにしても、畑中さんはこういう役をしている時のストレッチ感が自分的に最高にド真ん中・ストライク(笑)、そこに絡む菊川(多田さん)との心の距離感・緊張感が大好き。加えて、あやめ(渡邊安理ちゃん)の無邪気な「女の残酷さ・狡さ」が身に覚えがあったり、胸に刺さるリアルな演技で。(そんな大人の感慨を吹き飛ばす風のようなほしみの輝く生命力!ではあったのですが…)

帰宅後、買ってきたTalk&Photo Bookに目を通したのですが、私には鉄平が「嫉妬に狂った(=自他を見失った)男」には、どうしても見えなかったのですよね。激しい嫉妬もあるだろうけれど、それ以上に葛藤と苦悩と、哀しみの慟哭が私には見える気がしました。それは自分にも覚えのある深く生々しい感情で、嫌でも「ほとんど忘れていた」昔のいろいろな出来事や人間関係が心の奥底から引きずり出されるような、目を背けたくなるような古い記憶まで無遠慮に踏み込まれる気がしたのです。(これは本当に直視できないほど、しんどかった… orz)

「男の嫉妬はみっともない!」

あやめと菊川の、自分には立ち入ることのできない「近さ」を目の当たりにして、鉄平は表面では笑顔を繕いつつ内心で苦しむ…血を吐くように繰り返される鉄平の叫び。でも、私は「男の嫉妬は見苦しいもの」とは絶対に思いません。男の嫉妬は表面化しないだけに恐ろしく、深く、残酷に相手を呪う。少しでも自負のある男なら必ず備えている負の側面。それは見苦しいものではなく、むしろ「嫉妬するだけの気概がある男の特権」ではないかと思ったのです。

その後、社内の男友達数人と集まって飲んだ時に、ふと「男の嫉妬はみっともないけど、あれほど恐ろしいものはない」と呟いたら、居合わせた皆が真剣に頷いていたのが妙にリアルでした。「女の嫉妬なんか、あれに比べたらかわいいものだ」と、口にはしないまでも、皆の顔に揃って浮かんだ表情を、私は多分忘れないでしょう。彼らも私も、ずっと「そういうもの」を浴びながら、時には背中から刺されそうな思いをしながら生きてきたんだな、と改めて思いました。

そして、嫉妬すら出来ない情けない男よりは、私は鉄平のような、表面上は優しくお調子者でも「心の奥底に闇を抱える」男の方に絶対に共感するし、自分に近い何かを見出だして仲良くなれる気がするのです……ただ真の意味での「ダークサイド」を感じないのは、常に「日向の匂い」を纏う演者の素晴らしさ、ではないでしょうか。畑中さんの演じる『TRUTH 2014』の弦次郎を観て「この人には日向の匂いがする」と思った印象は良い意味で変わらず、その日向の匂いゆえに、ネガティブなアクションや感情表現を伴う役でさえ、どこか純粋に愛すべきものに変化させうるのではないか…などと、とりとめもなく考えていました。

一方で、あやめの描き出す(無意識・意識的にかかわらず)「女の残酷さ」「女のしたたかさ」も、すごくリアルに迫ってくるわけで。

「浮気したら絶対許さないからね!」
「俺は浮気はしない。結婚する時、そう決めたんだ。――だから、お前もしないでくれ」

この会話は、夫婦…というよりも「一組の男女」の心のすれ違いを見事に表していて好きです。あやめの心は自分と結婚した今でも、菊川の方を向いたまま、と思い悩む鉄平の姿が、更に好きです。

開演前にカレッジのサウンドトラックCDを購入したら、この苦しい独白のバックで流れるあの曲゛Lovers in the wind"が、菊川(多田さん)のヴォーカルだというのが皮肉過ぎる、あるいはこれ以上ない取り合わせで…。私が一番涙したシーン(これも鉄平が追いつめられるクライマックス)のBGMが、まさかの…あやめ(安理ちゃん)ヴォーカル曲。2007年のキャストとはもちろん違うから、今回のこのシーンで、この曲という奇跡。観る側としては魂が呼ばれたとしか思えず…震えました。

単純に「好き」だとか「愛」という言葉では片づけられない、大人の心の揺らめきや迷い。演じる役者さんが限りなくリアルに見せてくれるエピソードは、私にとっては「家族パート」よりも「大人パート」に多かったです。

  ★   ☆   ★

登場人物ひとりひとりが、表で見せる顔と、そうでない顔、強さも、弱さも、脆さも、狡さも、誰にでも思い当たる「何か」を持っている、だからこそ見れば見るほど彼らが愛おしくなる、決して「完全なハッピーエンド」ではないけれども、不思議にそんな気持ちで観終わることができた作品でした。

キャラクターそれぞれについては、また改めて覚え書きを作ることができたらなあ…と思いつつ。
そんなことを言っているうちに、夏公演『時をかける少女』が来そうです。(苦笑)


  ★   ☆   ★


(メモ@東京千秋楽カーテンコール)

今日のラスト挨拶と仕切りはやはり影の主役(笑)鉄平こと、畑中さん♪
客席退場で近くまで来て、みんな笑顔で手を振ってる&拍手の中、最後まで端っこの席の方にも愛嬌を振り撒いて帰ってくれました。

筒井さん力作と思しきカテコの仮装(段ボール製?かぶりものデロリアン!)が当たって、あんりちゃんが吹っ飛ぶハプニング…隣の多田さんが直ぐに助け起こそうとしてるのがリアル菊川。で、あんりちゃんが笑い過ぎてすぐに立ち上がれなかったのが可愛すぎるにも程があるって話。

その多田さんはカテコ挨拶で「お気づきでしょうか、実は劇中歌を僕が1曲歌ってます、折角ですから今から披露します!」大拍手…で、満を持して「あ~~~のぉっ、風のよおおにっ!」えーっ!!!(大爆笑)

続いてあんりちゃんが「ハイ!そのサントラCDなんですが…」と紹介しようと衣装のポケットからCDを出そうとすると、角が引っ掛かりなかなか出せなくて焦って、皆が大笑いして、畑中さんが「早く出してよ」とツッコむのがリアルあやめ&鉄平で微笑まし過ぎた…。

筒井さんと関根くんのカテコの掛け合いや、筒井さんが仮装のまま舞台奥のハケ口に上がれなくてジタバタしてる時、関根くんが一番に飛んでってお尻を押してあげてたのが、何か劇中の名コンビっぷりのままで可笑しくて、関根くん…というか薄田刑事イイ奴だなぁって思わずにいられないww

ほしみ=樹里ちゃんは最後までほしみ全開で、もはや樹里ちゃんなのかほしみなのかわからないくらい、ほしみでした(笑)
「みんなありがとーう!!大好きだよーっ!!!」と全身で飛び跳ねるように挨拶してたのが、ほしみ過ぎました!!!


(おしまい)