桜谷慎一の STRATEGIC REVIEW

デザイン、アート、テクノロジー、インフォメーション。『情報を構造化する』仕事の源泉

Windowsの優勢は本当に続くのか?そろそろ市場を独占してきたツケが回ってきそうだ

2006年04月11日 | diagnoses
4月5日にパブリックベータ版がリリースされた「Boot Camp」は、Intel MacでWindows XPが利用可能になるアプリケーション。CNETのレポートにもあるように、デュアルブートMacの実力は素晴らしく、Mac OS Xの次期メジャーリリース バージョン10.5「Leopard(レパード)」に搭載されるというのも楽しみです。

一方のマイクロソフトは、Windows Vistaの発売延期など、マーケティングとしても製品としてもどうもじりじりと遅れを取ってしまっている感が否めない。

創造か効率か
1979年XEROX社のパロアルト研究所を一週間と違わず訪れ、アラン・ケイの開発した「Alto」をみてインスピレーションを受けたジョブズとゲイツ。
「Alto」は言わずと知れた現在のパーソナルコンピュータのアーキタイプ(原型)で、アラン・ケイが1968年に発表した画期的な個人の知的創造支援のためのツール「Dynabook」構想を元に、ビットマップスクリーン、WYSIWYGのマルチフォント、マウスによるポイント&クリック、LANなどを搭載した画期的なプロトタイプでした。

Dynabook、Alto、あるいはさらに遡ったヴァネバー・ブッシュの「MEMEX」という、個人の知的創造を支援するというマシンの系譜の上に、WindowsとMacのどちらが乗っかっているかというと、どう考えてもMacでしょう。

Windowsはもちろん一般個人向けとしてリリースされていますが、ビジネスマシンという印象が強く、Windows95がエポックだとしても、所詮ベースはMS-DOSでしかありません(1980年ビル・ゲイツがIBMに売り込みに行ったときに、まだ開発もしていなかったMS-DOSをその場の思いつきでプレゼンしたのは有名な話)。
Windows 9x系のOSは、OSとしてはWindowsという形で提供されてますが、実際には、MS-DOSの上でGUIの処理を行なう形で動いていただけです。

UNIXかDOSか
Windows95が信じられないほど世界中で大ヒットして市場を独占し、かつてはアップルが敗北宣言までしたにも関わらず、時とともに形勢が変わりつつある。それは、Windowsという成功体験がマイクロソフトの重い足かせになってきているということ。

Windows XPでは9x系のカーネルをようやく使わなくなったとはいえ、Windowsを基幹システムとして標準OSとして採用している企業の多くは、依然として古いWindowsOSを使っている場合が多くあります。マイクロソフトはWindowsの機能や使い勝手を大きく変えたいとしても、すでに市場に出回っているものを完全にリプレースするということは不可能で、常に下位互換を考慮したアーキテクチャーと、進歩しているということをユーザーに印象づける先進性を両立されることを余儀なくされているのです。

Windows Vistaが機能面ですでにMac OS Xの二番煎じであり、マイクロソフトの巨大な開発力をもってしても発売が延期にまでなってしまうというのは、かなり根が深い問題を抱えているとみていいでしょう。

一方、世界的シェアがわずか数%だったアップルは、2000年9月13日、 Mac OS X パブリック・ベータ版をリリースして一大転換をします。Mac OS Xは、ジョブズが創業しCEOを務めていたNeXT社のOS「OPENSTEP」をもとにしていて、BSD UNIXの一つであるFreeBSDをカーネルに持っています。僕もさっそくMac OS X v10.1 (Puma)から使っていましたが、あまりにインターフェースが変わり、パフォーマンスも悪く、まだまだ実用にはほど遠いという印象が強かったです。

Mac OS XにはNeXT時代の様々な特許が活かされ、あまり一般的ではないですが XgridなどもNeXTの資産であり、ジョブズなきアップルの空白期間をすべて埋めたのではないでしょうか。
ユーザが少ないからこそ身軽に方針転換をし、ジョブズの先見性を余すところ無く盛り込むことができたMac OS Xは、まさにエポックメイキングな製品です。

Intel Macが実現したのも、もちろんUNIXベースのMac OS Xがあったからですし、デュアルブートできるようになったのは、Intelチップになったからです。
「Boot Camp」がアップルの商品戦略のロードマップにいつからあったのかわからないですが、『できるようになったから』という理由だけでリリースに踏み切ったわけではないでしょう。

MacかWindowsか
マックユーザというのはずっとマイノリティでしたから、かなりの割合で否応なくWindowsマシンも持っているはずです。持っていないとしても、Windowsをまったく使えないということはないでしょう。
「Boot Camp」はそんなマックユーザにとって、「Goodbye PC/AT!」というメッセージであることは確かなはず。
デザインはいいんだけど高価だし互換性の問題もあるし、、、とマックに Switch するのをためらっていたWindowsユーザの心を掴むのにも十分な魅力があるはず。

Mac or Windows というのは宗教戦争のようなもので、ユーザの間でどっちが正しいか論争すると結論が出ないまま泥沼になってしまうのはよくあることでしょう。
「Boot Camp」が宗教戦争に終止符を打つ切り札までにはならないですが、リリースした最大の目的は、Macというハードウェアの出荷台数を劇的に増加させることだと僕は考えています。

そもそも、IBMと共同開発した独自のPowerPCチップより汎用性の高いIntelチップに変えたことこそが、低価格戦略を実現する戦術のひとつであったはずです。
Windowsを搭載したPC/ATマシンの出荷台数とMacの出荷台数の圧倒的な差が、そのままそれぞれの製品のコストの差となって出てくるのはどうしても避けられないことですが、それでもアップルは競争力を失わずにここまでやってこれました。

習熟曲線に乗せて
iPodやiTMSのおかげで、Mac OSのシェアは1ポイント以上増加(それまで3%程度だったのが4%を越えるようになった)しています。

ここでハードウェアとしてのMacの出荷台数が増えれば、価格は劇的に下がり、さらに普及が加速するのは明白です。

仕事上どうしてもWindowsマシンも必要でMacと2台持つことを余儀なくされていたMacユーザが、デュアルブートMacを使うようになるだけでもPC/ATマシンの出荷台数は数ポイント下がります。
一方、デュアルブートMacを買うWindowsユーザが増えれば、Macの出荷台数は当然増加します。

シェア2~3%(アップルの場合OSシェア=ハードウェア出荷台数)で勝負をしてきたアップルですから、たとえ1ポイントシェアがあがるだけでもビジネスインパクトはかなり大きくなることは、この数年の業績が証明していること。

Windows Vistaの発売延期は、アップルに反撃のための絶好の猶予を与えてしまったという意味で、致命的かもしれません。

デュアルブートMacの実力--MacBook ProとiMacでWindowsソフト
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