蛙と蝸牛

本の感想。ときどき競艇の話。

イワン・デニーソヴィチの一日

2006年08月28日 | 本の感想
イワン・デニーソヴィチの一日(ソルジェニーツイン 新潮文庫)

20世紀の半ば、ソ連の酷寒の地のラーゲリ(重労働刑務所)に収容された男のある一日の生活を克明に描く。

このラーゲリの特徴の一つ目は寒いこと。冬期の戸外の気温は零下30度近辺。冒頭から最後まで「寒さ」に関する記述が続くので、暑い日に読むと多少はしのぎやすくなると思う。
二つ目の特徴は、食べ物をはじめとしてモノがないこと。手製の金属製スプーンや布の切れ端が貴石のように価値が高い。
三つ目は、収容されている人が多彩であること。老人から未成年までいるし、職業も海軍中佐であった人から農民までいろいろである。この時代はちょっとしたヘマや周囲の誤解、密告によりあらゆる人が収容所に送り込まれていたということ。そして収容所に入ってしまえば年も前職も関係なく、文字通り裸の人間として他人と対峙することを迫られる。そこですぐに対応できる人もいればいつまでもなじめない人もいる、といったシーンが何度も描かれている。

私には、禁欲的な生活を送ることに憧れがある(憧れではあるが、日常はそれとは程遠い生活を送っているけれど)。それで、刑務所や禅寺、修道院での生活を描いた体験記や小説、主人公がストイックなハードボイルドなどをよく読む。
この本を手に取ったのもそのためであった。文庫本で200ページくらいあるが、本当に特に事件もないある日一日のできごとが淡々と書き綴られており、上記のような私の嗜好にはぴったりの小説だった。ただ、この小説が現代ロシア文学の最高峰の一つといわれても容易には首肯できそうにないが。

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