蛙と蝸牛

本の感想。ときどき競艇の話。

海軍めしたき物語

2015年08月08日 | 本の感想
海軍めしたき物語(高橋孟 新潮文庫)

海軍に徴兵された著者は、第二希望の主計科に配属される。
主計というと経理なのか?というイメージなのだが、実際は軍隊の総務・庶務・後方ロジ全般の担当で、著者は(題名通り)炊事の担当になり、戦艦霧島に配属される。
駆逐艦などの小さ目の軍艦より戦艦への配属の方が沈む心配が少なくて嬉しいのでは?というのは素人考えで、乗艦が大きいほど艦内規律が厳しい(つまり新兵へのシゴキがきつい)というのは当時知れ渡っていたらしく、戦艦に配属されて著者は落胆する。

調理担当の兵士なんて楽勝なのでは?というのも浅はかな考えで、本書ではユーモラスに描かれているが新兵の生活はまさに地獄。座っていられるのは食事時だけ、新兵は裸足で仕事、仕事中も就寝中でさえも叩き起こされてビンタをくらう。ケツバットは内出血で尻がまっ黒になるほどまで・・・これも意外だったのだが、同年兵と話をすることもほとんどなかったという。
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一般社会からみたら、同じ艦内で生活していて横の連絡がないなんていったら、奇異な感じがするだろうが、軍艦の勤務は、乗組み前の想像にはほど遠く、戦友という感情が芽生える余地がないところであった。
なにもかも機械的に動いていて、人も機械も武器も、ただ物理的に作用し合って動いているようだった。(93ページ)
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自殺する人が続出しそう(実際自殺者が多い艦もあったらしいことを示唆する記述もある)だが、機械の歯車化してしまって「死にたい」と思うヒマもないほどなのだろう。実際、真珠湾やミッドウエイに霧島が出撃し、特に後者では空襲を受けて全速走行や回避運動までしているのに、著者はずっと下甲板でめしたき中で戦闘が起きているかどうかすらわからない。
本書のクライマックスは、ミッドウエイ戦中にたまたま食材を取りに上甲板にあがった著者が燃え盛る空母(赤城か加賀?)を目撃するシーン。艦の後部から海に飛び込む兵が黒い点のように見えたという。

そのあと、著者は軍の経理学校を経てフィリピンの沿岸警備を担当する民間から転用された砲艦(武昌丸)に乗務するのだが、こちらは旧兵になったこともあって比較にならないほど楽な状況。一方、霧島は直後のソロモン戦で沈んでしまう。「軍隊は運隊」という言葉そのままだなあ、と思った。
武昌丸乗務のエピソードで強調されるのが、見張りの大事さ。レーダーなソナーなどの探知装置に劣った日本軍ならではなのかもしれないが、魚雷を回避できるか否かは、いかに早く潜水艦を発見できる、そのほんの一瞬の差で決まるという。

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