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父親たちの星条旗

2006年10月29日 | た行 外国映画
12年前に亡くなった祖父は、よく戦争の話をした。酒が入ると特にだった。色褪せた軍服を着た写真には戦友と誇らしげに写っていた。でも、私は戦争の話が始まると「また始まった・・」と聞こえないふりをして、露骨に嫌がった。嫌な話は聞きたくない。くどくなる。成長するとき特有の年寄りを嫌がる年頃だったかもしれない。

祖母の弟は3人いたが、そのうち二人は南方の戦線で亡くなった。小さな頃からその事実は知っていて、とりたてて何の感慨も持っていなかった。「ふーーん、どこの島?」・・くらいの捉え方だった。祖母は何も言わなかった。黙々と毎日仕事をしていた。

中学校の担任教師は特攻隊の生き残りだった。予備役のような形で招集され、もう少し戦争が長引いていたら自分はこの世にいなかった、という。しかしその前に飛行機がもうなかった、とも言っていた。滅多に戦争の話はしなかったが、自分は死にぞこないだとボソッと語った言葉は30年以上経っても忘れられない。

私は戦争を知らない。そのことを幸せに思う。そして戦争についてのことを聞こうとしたり、聞きたくなかったり、知ろうとしたり、目をつむったりしてきた。社会科の教師になり、とにかくいろんなことを知らなければならないとの思いから、いろんなことに首を突っ込み、何でも知ろうとして、アンテナを高くしてきた。映画も沢山見た。そして戦争の愚かさを何とか伝えなければならないと再確認した。

しかし、私は戦争の何を知っていたのだろうか。映像から感じたもの、生々しいドキュメンタリーとも見まごう映画から伝わったもの、戦争が生んだとことん醜いもの、戦争で芽生えた美しい愛・・・。しかし、戦争の持つ本当の狂気を知ることはやはり出来ない。


太平洋戦争末期、戦争に嫌気がさしてきたアメリカに一つの写真が報道された。硫黄島で星条旗を掲げようとする6人の兵士。その姿は苦難に立ち向かおうとする勇気あふれる構図に他ならなかった。写真は瞬く間に全米に広まり、掲げた兵士は『英雄』に。戦争の資金集めに苦慮していた政府から、格好の資金集めの象徴と狙われる。

戦場から帰還したのは6人中3人。全米を駆け巡り、パーティに出て、「国債を買ってください!」と何度も何度も言わされた。自分達は英雄などではない。「真の英雄は硫黄島で戦った仲間、死んでいった戦友、今も戦っている兵士たちだ・・・・」偽りの無いこの言葉を繰り返しながらも、華やかな場に引っ張り出されるたびにどうしようもない違和感と、焦燥感と、無情感にさらされる。

戦争狂想曲とでも言うべき情けない茶番であろうとも、国にとっては勝たなければならない。そのためには何でもする。その愚かさと、ばかばかしさをイーストウッド風に辛らつに描いている。戦争映画は、人の区別がようつかない。暗く、泥まみれで、ヘルメット着用。皆同じ軍服で、個々を認識するのが難しい。誰が誰だか良く分からないまま始まり、まず一番最初に『イギー』という行方不明になった兵士を印象付ける。そして映画は衛生兵として6人の一人となった“ドク"の今と、戦場、そして戦場から帰還してツアーを巡るという3つの時間が緻密に絡み合う。

時間の前後する描き方から、見るものに自然に兵士のキャラクターがすりこまれていき、一人一人の兵士の人生が見えてくる。うならされた。上手い。上手すぎる。インディアン兵士のアイラ・ヘイズ@アダム・ビーチをして、「彼は最高の海兵隊員だった」と言わせたマイク@バリー・ペッパー。長い戦歴を考慮されて前線から引くように言われる。そうだなあ、『プライベート・ライアン』からずーっと戦っているもんね。

アイラはこの後、日本語を駆使するんだろうか・・・などと余計なことを考えさせる配役だったが、あなた方しかいなかったのでしょう。ライアン・フィリップ、最近ではアカデミー女優の夫の方の印象が強かったが、久々に本領発揮。苦悩する若者の内面がびんびんと伝わってくる。さりげなく居たポール・ウォーカーに、ちょっと太ったターミネーター2。トルーマン大統領が見事!配役の妙も見所の一つ。

長くなったが、これは見るべき映画だ。受け止める度量も必要だが、戦争の何たるかを誇張無く、冷静に見ることが出来る。国と国との戦争の駒に使われ、散っていった若者たち。紛れもなく彼らは仲間のために戦った・・・とまとめた映画。その通りだ。そして戦争は人を殺す。

じいちゃん、ゴメン。

『父親たちの星条旗』
監督 クリント・イーストウッド
出演 ライアン・フィリップ ジェシー・ブラッドフォード アダム・ビーチ ポール・ウォーカー ジェイミー・ベル バリー・ペッパー ジョン・ベンジャミン・ヒッキー
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16 コメント

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Unknown (風情♪)
2006-10-31 13:54:43
こんにちは♪

>自分達は英雄などではない
死んだウチのジイさんの兄貴がこのようなセリフは
吐きませんでしたが似たような心情(南方で死んで
いった仲間に申し訳ない)だったことをよく言ってた
ことを思い出しました。
本作で生き残った3人それぞれの【英雄】の捉えか
たの違いでその後の人生に反映されていて見応え
がありました♪ (゜▽゜)v
そうなんす (sakurai)
2006-10-31 15:48:17
私はアダム・ビーチの慟哭がつらすぎました。
「泣くぞ!」モードでなかったのが、自分にとってよかったのかもしれません。手や首が飛ぶのが苦手で、その防御の見方で終始していたもので、かなり来ました。
やっぱ見る前の心持や、気構えというのは、映画にとっても大きい影響を及ぼしてしまいます。まっさらに見れればいいのですが、なかなかそうもいかない。難しいところです。
プライベートライアンからずーっと (にら)
2006-11-02 17:38:45
でも、歴史的にはノルマンディーの半年後が硫黄島。それほど時間は経ってないんですよね。

でも、映画史的にはもう8年前。
なのに老けないなー、ペッパー(笑)。

てなわけで、TBありがとうございました。
ペッパー警部・・・・ (sakurai)
2006-11-02 20:21:24
彼が出てきた瞬間「キターー」と、不謹慎にも思ってしまいました。
ターミネーター2、しばらくどんな役しても、いつどろどろになるんだろう・・・などと見てましたが、最近ではしっかり貫禄ついて、中佐あたりがピッタリになってきました。
戦争 (カオリ)
2006-11-05 01:48:02
誰でも目を背けたいですよね。本当に。

でも、イーストウッド監督が「目を背けずに見ろ」と言いました。
日本映画界はまだこの域には達せられないのでしょうか・・・?
第2部作の「硫黄島からの手紙」・・・見なくてはいけませんね。
映像の世紀 (sakurai)
2006-11-05 12:18:14
のような生々しい映像を生徒に見せ続けてきた私ですが、彼らをかなり落ち込ませました。
「こんなの見たくない!」という声を聞きながら、それでも信念をもって見せてました。
でも目をそむけるのも当然います。その子の頭を無理無理上げて、見せることはできないのですよね。
めげずに戦争の無残さを訴えていきますが、人間がしてきたことなんすよねえ。
本当にいろいろと考えさせられました。
コメントありがとうございました☆ (rikocchin)
2006-11-11 12:36:48
sakuraiさん、こんにちわ~

映画を観ていて、この作品は、他の戦争映画とは一線を画す内容であるとは感じました。
「ミリオンダラー・ベイビー」を撮ったクリント・イーストウッド監督にポール・ハギスの脚本と来れば、そのグレードは低いはずがないとも思えます。
だからこそ、この映画単体では評価出来ないと思えるのです。戦争というものはどちらが悪でどちらが正義という事ですませてはいけない、両者の戦う意義や虚しさというものが見えてこないと、これからの戦争を考える意味で本当の反戦メッセージにはなり得ないと感じるからです。
どちらも同じように愛する家族や祖国のために戦うと言うことが、人間としての命への敬意を捨てて殺し合うという、残酷で無益この上ない集団殺戮であるという矛盾を考えさせてくれる、そいう内容であって欲しいと思います。顔の見えない戦闘シーンは、私には野蛮人と戦う映画としか映りませんでした。
数少ない顔が映し出される日本兵が槍で串刺しにされたシーンがやけに長いと感じました。
「硫黄島からの手紙」は是非観たいと思っています。
そうですね (sakurai)
2006-11-11 14:55:55
実際、そこで戦っていた兵士らは、野蛮人と戦っているんだとの気持ちで戦っていたと思います。そのときの本当に素直なアメリカ兵の目だったのではとも思います。
今の私達には、いくらでも選択肢があり、映画だって、見ても見なくてもいい。残酷なシーンがあったら、目をつぶっててもいい。でも、この映画を見に来た人には、この残酷なものが戦争なのだ。目をそむけず見て欲しい。この悲劇を生み出したのが私達人間なんだ・・・というようなことを感じた次第です。

と、この映画を見て、いろいろなことを感じていたのですが、その後『蟻の兵隊』を見て、真実の凄みを改めて感じました。
もし見ることが出来るようでしたら、見ていただきたい映画です。
んん~ (ガルル13)
2006-11-12 22:05:13
映像はすごかったと・・・今までの戦争映画でも、あれだけの映像は見たことがなかった。
ただ・・・
クリント・イーストウッドは、何が言いたかったのかなぁ・・・と。
何を感じてもらいたかったのかなぁと。
いろいろ、凝ってはいるんだけど、それがなぁ・・・なんかまとまりをなくして「????」となってしまって。

んんん~惜しいなぁ・・・もっとシンプルだったら、すごい映画だったのにと思うのですが・・・・でも「硫黄島からの手紙」も必ず見ると思います。


一人には (sakurai)
2006-11-13 08:31:24
焦点を絞りきれず、さまざまな兵士に立場になって見ていくと、ああいった描き方になってしまうのではないでしょうかね。
時間が前後し、あれだけの人物を配し、複雑な状況をよくぞあすこまでまとめた、と私は逆に思いました。
言いたかったことはいっぱいあって、それも一つにはまとまりきれなかったと言うことではないでしょうか。それほど戦争というのは複雑怪奇で、得体のしれないもの。人間を狂気に変えてしまうもの。そして戦争が終わったから全て終るのではない、そこからも地獄は終らない。国のあり方・・・。これらを何とか見せるためにはああならざるを得なかったのかもしれません。
最近、「蟻の兵隊」を見たばかりなので、ますます戦争について思い悩んでます。
片や膨大な制作費で、過激な映像で、リアルな戦争にせまった大作。片や小さな痩せた老人が、自分が行った戦争に敢然として向き合う金のかかってない映画。でもどっちも見せたいことは同じだったと感じてます。
もし見ることが出来るようでしたら「蟻の兵隊」を是非ご覧下さい。
じつは (たうたう)
2006-11-19 11:27:47
実は3日前、うちの長男が「はだしのゲン」をとうとう学校で読んできました。
内容を話す長男。
おいらと2人切りになった瞬間、おいおい泣き始めました。
何とも言えないよな。
うーーん (sakurai)
2006-11-20 08:37:16
中身がよーーく理解できたんでしょうね、えらい。
あれはやはり不朽の名作です、というよりも残さなければならないという作者の思いがぐさっと伝わってくる。
先に見た「蟻の兵隊」にも通じますが、残していってもらいたい。そして私達はそれを受け止めねばと思います。
あたしは (miyu)
2008-06-20 10:02:30
身近に戦争を直接知っている人はいないのだけど、
戦争中はこうだったみたいな話は祖母とかに
たまに聞いていたかな。
でも、子供の頃は同じ話の繰り返しだし、
やっぱりちゃんと聞いていなかったかも。
本当はちゃんと聞いて伝えていかなくちゃいけないんだろうけどね。
そうゆう意味でも映画はスゴイなぁと思いますね。
>miyuさま (sakurai)
2008-06-20 11:19:12
硫黄島もそうでしたが、考えてみると、身近な人にものすごいストーリーを持った人が大勢いて、アンテナ高くしてれば、いろんなことを吸収できる、そんなことを思い返しました。
そう考えると、映画の持つ力の大きさを、ますます感じますね。
あれ一本で、2時間強で、ものすごい情報を放出しているわけですからね。
おじゃまします (ピロEK)
2010-12-05 23:14:57
おじゃまします。
sakuraiさんから、私のブログの(この映画の)記事へのコメントを頂いたのは一年以上前の事。長らくの無反応申し訳ありませんでした(他にもまだあると思います
映画の詳細は…鑑賞から時間が経過しすぎていて憶えていないのですが、戦争の悲惨さを訴えながら、エンタメの本質も失っていない上手い映画だと思ったような記憶はありますね。

>じいちゃん、ゴメン。

うちのじいさんは戦争で一人も殺していないと言っておりましたが、それでも何故か曹長(仕官じゃない兵隊では一番えらいらしい)まで出世した話をしてくれましたね…どう上手い事したのかは知りませんけどね。
あまり辛い話は聞いていませんが、戦争が辛くなかった訳がないよなぁ…。

では、また来させていただきます。今後とも宜しくお願いいたします。
>ピロEKさま (sakurai)
2010-12-06 12:53:15
いつコメントしたんだっけ??と言うくらいでしたが、忘れずにわざわざありがとうございます。
そんなに気になさらないでください。

戦争の悲惨さというより、まず戦争に行ったんだ!と言う事実が大きいんだとおもいますわ。
それこそ辛い話ではなかったです。きっとものすごい辛かったら、話さないかもですね。

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