(ねえ、君は俺に何を望んでいるんだろうね?)
ルルは休日の早めの夕食を終えると、アミィと娯楽室で楽しくおしゃべりをして過ごしていた。
「あっ、いたいたルルちゃん」
不意に名前を呼ばれ声のした方を見ると、アルバロがにっこりと満面の笑みを浮かべながら片手に何かを持って娯楽室の入り口に立っていた。真っ直ぐにルルとアミィの座っているソファに近付いて来る。アルバロの顔を見たルルは、条件反射で思わず身構えていた。
「夕食後はここにいるかな、と思って来たんだけど大正解だったね」
アルバロはルルの姿を見て、心底嬉しいという表情をして見せる。
(・・・一緒に食堂を出た後に、ふらりといなくなったのはアルバロの方じゃないっ!)
ルルはむくれながら無言でアルバロを睨み付けた。
「・・・え、ええと・・・?」
テーブルを挟んでルルの前に座っているアミィは、突然現れたアルバロに戸惑っていた。アルバロはそんなアミィと何か言いたそうな顔のルルを綺麗さっぱり無視して、自分の話を続ける。
「ねえ、ルルちゃん。オセロは得意?」
「・・・え?」
突然すぎるアルバロの質問にルルの思考が付いていけずにいると、アルバロは手にしていたオセロ盤と石が入っている箱をテーブルに置いて見せた。アルバロの意図が分からなかったが、彼の行動には必ず裏の意味がある。ルルが一生懸命思考を働かせていると、目の前のアミィが小さな声を発した。
「・・・これ、娯楽室の・・・?」
アミィの言葉から察するに、どうやら元々娯楽室に置いてあった生徒共有物のゲームのようだった。しかし、今アルバロは明らかにこれを手にして娯楽室に入ってきていた。それが意味することを考えて、ルルは小さく溜め息を吐いた。
「・・・勝手に持ち出していたのね」
恐らく、自分の部屋にでも置いていたのだろう。
「暇な時に一人で遊んでいたんだよ。ああ、大丈夫。確か、同じのがニ、三個ここにあるから。一つくらい失くなった所で誰も騒がないよ」
当の本人は全く悪びれもせず、何でもないようにさらりと告げる。まさに、立て板に水状態である。アルバロに何を言ったところで、のらりくらりとかわされるのが常なのである。
「それより、ルルちゃん。オセロは得意?」
再び、アルバロが同じ質問をしてきた。
「・・・え?ええ・・・と、得意というかチェスよりは出来ると思うわ。・・・多分」
チェスのように相手の先手を考えるゲームは、はっきり言って苦手である。それに比べるとオセロは挟んでひっくり返せば良いだけなので、単純明快な所がルルは好きだった。
「・・・ふーん。じゃあ、俺とゲームしてよ」
前半の呟きに何かを含んだような感があったが、すぐ後に続いたアルバロの台詞にルルは驚きを露わにした。
「え!?」
「アミィちゃん、悪いけど席替わって貰えるかな?」
「・・・あ、は、はい!」
ルルを無視して話がどんどん進んでいく。アミィがソファを立つと、代わりにアルバロが目の前に座った。
「じゃあ、始めようか。ルルちゃんとオセロをするのは初めてだね。楽しそうだと思わない?ねえ、エストくん?」
突然、エストの名前が出たことに驚いて、ルルはアルバロの目線を辿った。少し離れた場所でエストがこちらを見ていた。
「・・・何が楽しいのか、さっぱり分かりませんが。自習室へ行こうとした僕を無理矢理連れて来て、あなたは何がしたいんですか、アルバロ」
本を抱えたまま実に迷惑そうな顔をして、アルバロを睨んでいる。
「えー。俺とルルちゃんのオセロ一騎打ちだよ?面白そうでしょ?」
「全く思いません」
そう言い残して短く溜め息を吐いた後、踵を返しかけたエストにアルバロが声を掛けた。
「あれ?見届けなくていいの?・・・ルルちゃんが心配じゃないの?」
アルバロの何かを含んだ言葉に、娯楽室から出ていこうとしたエストの足が止まった。すぐに顔だけをアルバロに向けると、静かに口を開いた。
「・・・それはどういう意味ですか。これからここで何が起きると言うんですか?」
「えー。別に何かがあるなんて言ってないでしょ。俺達の勝敗が気になんないのかなーって言っただけだよ」
アルバロは楽しそうに大仰に両手を上げて笑ってみせるだけだ。
エストとアルバロの間には、今にも凍り付きそうな空気が流れていた。
ルルとアミィが固唾を飲んで見守っていると、
「ケンカは良くありまセン。皆、友達デス」
突然、呑気な声が割って入ってきた。
二人の冷戦を止めに入ったのは、その場にいるだけで王族オーラの威厳が満ち溢れるビラールだった。一瞬で場の雰囲気が変わるのをルルは感じた。
「・・・友達って呼ぶのかは微妙だけどな」
ビラールのすぐ傍には、げんなりした顔のラギが腕を組んで立っていた。
「あれ?誰かと思えば、殿下じゃないですか。殿下もこちらにいたんですね」
アルバロがビラールに話し掛けると、ビラールはにっこりと笑った。
「ハイ。奥でラギとカードゲームしてまシタ。・・・ところで、ルルとゲームすると聞こえまシタが」
ちらりとルルの方を見て、アルバロに問う。ビラールが何となく心配そうな顔をしたようにルルには思えた。
「うん。これからルルちゃんとオセロゲームをしようと思って。・・・そうだ。殿下とラギくんも俺達の勝敗を見守っていてよ」
「ええっ!?」
アルバロの台詞にルルは驚きの声を上げる。アルバロとゲームすることが決定事項になっている上に、たくさんの人に見られてのゲームは緊張を強いられそうで、はっきり言って心臓に悪そうだ。
「ア、アルバロ?別に二人だけでゲームすればいいんじゃないかしら?・・・ほら!みんなだって忙しいだろうし!わざわざ、付き合わせるのは悪いと思うの!」
ルルは尤もそうな理由を挙げて、何とか人に見られながらのゲームを避けようと提案する。きっと、アルバロが言い出したゲーム自体を拒否することは不可能だろう。
「えー。でも、せっかく賭けるんだし。観客が多い方が盛り上がると思うんだけどなー」
「・・・へっ?」
(・・・今、「賭ける」って言った?)
寝耳に水のアルバロの発言に、ルルは思わずアルバロを見返す。アルバロはルルの視線を受けて、ぺろりと舌を出した。
「・・・あれ?俺、言わなかったっけ?『負けた方は勝った方の言うことを何でも一つ聞く』ってこと。ルルちゃんとゲーム出来ることが嬉しくて、うっかり言い忘れていたみたいだね。ごめんね?」
全く悪いと思っていない様子で、にっこりと笑いかけてくる。ルルは今にも爆発しそうな怒りの感情を、拳を握って震えながら耐える。
(・・・絶対に、わざとだ!)
皆の前で告げることによって、ルルが受けざるを得ない状況にすることがアルバロの狙いなのだ。
「・・・ルル?」
隣に立つアミィが心配そうに声を掛けてきた。アミィに心配させたくなくて、ルルは「大丈夫」と微笑んで見せてから、キッと目の前に座るアルバロを見つめた。アルバロとは毎日賭けをしているようなものだ。今更、アルバロとの賭けには動じなかった。
アルバロはルルが挑戦を受けたことに満足すると、石が入った箱を開けながら口を開いた。
「ルルちゃん。もし、俺が勝っても、君には何も要求はしないから安心してね?」
「え?」
アルバロの意外な言葉にルルは面食らう。
おかしい、そんな訳はないと今迄の経験から、更にルルは身構えた。
ルルの緊張が伝わったのか、アルバロはくすりと小さく笑ってから言を続けた。
「・・・ただ、恋人から勝利のキスが貰えれば、それで満足だよ」
「!!」
アルバロの告げた言葉で、ルルはようやく彼がこのゲームで何を楽しみたいのかが分かった。
公衆の面前で、ルルからアルバロにキスをさせたいのだ。
(アルバロが「キスして欲しい」って言ったら、私が拒否出来ないと知っていて・・・!)
確かに自分は、逃げないで受けて立つとアルバロに宣戦した。
しかし・・・。
ルルは室内を見渡した。休日の夜の為、娯楽室には結構な生徒達が集まりくつろいでいる。
(こ、こんなにたくさんの人達がいる前でするの・・・!?)
ルルは顔が熱くなるのを感じながら、目の前で楽しそうに笑うアルバロを睨み返した。
「・・・き、貴様!アルバロッ!公衆の面前で、キ、キ、キスを求めるなんて、勉学に励むべき学生が言うことではないぞ!」
突然、真っ赤な顔をしたノエルが興奮気味にアルバロに詰め寄ってきた。
ルルは驚いて、アルバロのすぐ傍に立ったノエルを見た。
「ノエル。途中でいなくならないでくれる?次は君の番なんだけど・・・って、あれ?ルルとアルバロがいる。それにエストとビラールとラギも・・・」
すぐに、呆れ顔のユリウスが現れた。ユリウスはカードゲームの途中で席を立ったノエルを連れ戻しに来たようだった。
「ユリウス、今はそれどころじゃないんだ!・・・アルバロ!聞いているのか!?」
真面目なノエルはアルバロの言葉を聞いて、不真面目だと直談判に来たようだった。
「えー、だって何もいらないとは言ったけど、可愛い恋人のキスを貰っても罰は当たらないでしょ?それに、ノエルくん。誰も、唇にとは言ってないよ?」
アルバロは片目を瞑りながら、人差し指を唇に当てて見せた。
「・・・ん?そ、そう・・・だな。言われてみれば、場所は言ってなかったな。・・・確かに頬くらいなら、そこ迄、目くじらを立てることもないか・・・」
ノエルはアルバロの言葉を聞いて、あっさりと引き下がった。
しかし、ルルには分かる。アルバロがそんな可愛らしいことを求める筈がない。とことん自分が楽しむ為だけに、ルルに恥ずかしい思いをさせる気なのだ。
大人しくなったノエルに、アルバロはにっこりと告げる。
「ノエルくんとユリウスくんも俺達のゲームを見ていかない?」
「!?」
ルルは目眩を覚えた。
アルバロの言葉を受けて、ノエルとユリウスは興味津々といった感じでテーブルに置かれたゲーム盤を見た。
「へえ。アルバロとルルがオセロゲームか・・・。なんでオセロゲームなのかは意味が分からないけど、このゲームは単純そうに見えて意外と奥が深いんだよね。最後の最後で逆転というケースも多々あるし如何にして自分の有利になる場所に相手の石を置くよう陽動作戦を・・・」
ユリウスは目を輝かせながら、オセロの魅力を嬉々として語り始める。ノエルは隣で語り出したユリウスを放置して、口を開いた。
「しかし、アルバロとルルの対戦だと?・・・その、大丈夫なのか?ルル?」
何かしら思うところがあるらしいノエルが、心配そうにちらりとルルを見た。
「イヤだなー。何をそんなに心配しているの、ノエルくんは。まあ、真剣勝負だから恋人相手にでも手は抜かないけど。仮にルルちゃんが負けても、キス以外無理なことは求めないから安心してよ」
アルバロは、ノエルの心配を一笑に付す。
(・・・いや、その笑顔が曲者なんだが)
ノエルは乾いた笑みを浮かべながら、内心でアルバに突っ込みを入れる。
「アルバロ」
それ迄、黙って事の成り行きを見守っていたビラールが、アルバロの名前を呼んだ。アルバロがビラールを見ると、ただ何も言わず笑みを消した真面目な顔でじっとこちらを見つめていた。まるで、アルバロの目的を知った上で「ルルを泣かせるな」と告げているようだ。アルバロはビラールの無言の警告を受けて苦笑した。
(俺の心の内を見透かしたような目をする。・・・本当に、この王子様は苦手だ)
「・・・あーあ、俺は信用がないなー。じゃあ、仕方ない。中立者にゲームの審判になって貰おうか。・・・マシュー!」
そう呟くと、別の場所でカードゲームの審判をしていたマシューを呼ぶ。
(・・・まだ増やすつもりなの!?)
どれだけの観客がいれば満足するのか。
アルバロに呼ばれたマシューが別の人に審判役を代わって貰って近付いてくる。
「どうしたの?アルバロ?・・・え?何で皆が集まっているの?」
状況が飲み込めず、マシューは心配そうに皆を見回す。
「別に何でもないよ。今から俺とルルちゃんがオセロゲームをするから、観客として彼等を呼んだだけ。それでマシューに、お互いが不正しないように審判役としてゲームに付き合って貰いたいんだ」
「う、うん。そういうことなら、別にいいけど」
お人好しのマシューはすぐに頷いてくれた。
「・・・じゃあ、ルルちゃん、そろそろ始めようか。俺が黒でルルちゃんが白でいい?・・・あっ、ルルちゃんが勝った時、俺に何をさせたいのか考えておいてね。楽しみにしてるよ」
心底楽しそうに、満面の笑みでにっこりと笑いかけてくる。
(そ、そうよ!勝てばいいのよ!私が勝てば、みんなの前でキスしなくていいのよ!)
アルバロの性格を考えると、遠くない未来に『公衆の面前でキスをする』という無茶な要求は確実にありそうだが、とりあえず今この場でのキスは避けられるのだ。
「じゃあ、二人とも準備はいいかい?ゲームを始めるよ。あ、先攻はどうする?」
早速、審判役のマシューが場を仕切ってくれる。
「俺はどっちでもいいから、ルルちゃんが決めて」
アルバロはテーブルの上に両肘を付いて両手を組んだまま、にっこりと笑った。
いつもと同じアルバロの余裕の態度にルルは悔しくなり、俄然やる気になってきた。
「じゃ、じゃあ・・・後攻で」
「・・・へえ、意外」
まさかルルが後攻を選ぶとは思わなかったのであろう。珍しくアルバロが、意外そうに呟いたのが聞こえた。
「分かった。アルバロが先攻だね。それでは・・・ゲーム開始!」
マシューのゲーム開始を告げる声で、二人の真剣勝負が始まった。
○ ● ○ ●
淡い月光に照られされながらアルバロは一人、誰もいない夜の学園を気の向くままに歩いていた。昼間はあれだけ生徒達の声で騒がしい学園も、夜になると不気味な気配に変わるから不思議だ。それともこちらがミルス・クレアの本来の姿なのか。
アルバロは全てが闇で覆い隠される夜が好きだった。
闇は自分の存在さえ消してくれる。暗闇で息を殺してじっとしていると、まるで自分が闇に溶けていくように錯覚出来る。
このまま闇と一体になるのも面白いかもしれない。
そう考える時、決まって最後は心臓の音が邪魔をしてくるのだった。
まるで、己の生を誇示するかのように規則正しい心音が耳につき始める。
アルバロは盛大に舌打ちをした。
たまらなく不快だった。
自分の意志とは関係なく勝手に脈打ち、この体を生かそうとする心臓に嫌悪した。いっそ、取り出して握り潰してしまおうかと何度も思った。
そんな時、気紛れに始めた魔法の才能が人より秀でていたらしく、魔法の総本山であるミルス・クレアで特別に学ぶことが決まった。
稀少な古代種が守護役を担っているというミルス・クレア魔法学院。
アルバロは迷うことなく、新しい遊び場所としてミルス・クレアを選んだ。そして、自分が光属性だと告げられた時は何の冗談、いや皮肉かと思った。
自分と別世界に存在する「光」。
ギルドで生きる自分に「光」など存在しない。
その後、アルバロは月の光を見上げて気付いた。同じ光でも、太陽の光ではなく月の光なら得心がいった。
「狩り」の前に月を見ると、自分の中で止められない何かがざわつき始めるのだ。
あれもきっと、ひっそりと息づいていた「光」属性のせいだったのだろうと自身を納得させたのだった。
アルバロが何の気なしに視線を投じると、学園の至る所に置かれているガーゴイルの石像が目に入った。この像も夜の学園の不気味さに一役買っているのかもしれない。
石像を見たアルバロは、楽しいことを思い出したように唇の片端を上げると、くるりと踵を返して学園の中庭を目指して歩き始めた。
中庭に置かれてあるファタ・モルガナ像を目の端に捉えながら、アルバロは月を見上げた。あの晩も、冴え冴えとした月光が二人を照らしていた。
『ああ、きれいな夜空だ。これでやっと面白くなってきたな』
俺の正体をばらした時の、あいつの顔は予想通りだった。盲信的に信じていた物が目の前で崩れ落ちていった瞬間、あいつは現実を把握することが出来ずに呆然とした。そして、ようやく目の前で起きている事が現実だと認識すると、面白いくらいに蒼白になっていった。
希望が絶望に変わった瞬間の顔を思い出し、アルバロは満足そうに唇を歪める。
この世は全て両極から成る。それが世界の理であり真理だ。
希望と絶望。喜びと悲しみ。愛と憎しみ。
感情も然り。当然、自然も両極だ。
昼と夜。太陽と月。天と地。男と女。全ての始まりと終わり・・・生と死。
アルバロは、完璧な二面性を持つこの世界が気に入っていた。
実に分かりやすい。
「まさに世の中、表か裏か・・・白か黒ってことだよね」
つい数時間前のゲームを思い出し、アルバロはポケットの中から一つの石を取り出した。白と黒の面を合わせ持つオセロの石だった。
結局、あのゲームは僅差でルルが勝利した。公衆の前でキスをすることが余程嫌だったのだろう。ルルは必死になってゲーム盤に向かっていた。
(たかが遊びなんだし、あそこ迄必死にならなくてもいいと思うけどね・・・)
負けた所でキスするだけだ。別に命が掛かっている訳でもない。
(・・・しかし、プレイ中のあいつの顔)
ルルの百面相を思い出すと笑いが込み上げてくる。目の前で次から次へと表情が変わる彼女の顔を見ながらのゲームは、それだけでゲームをする価値があった。キスを賭けた勝敗の行方は、正直どうでも良くなっていた。
(・・・知らず、手を抜いていたのかもしれない)
だが、結果がどちらに転んでも自分は満足していた。その後、勝利したルルが告げた要求にも耳を疑った。
○ ● ○ ●
「オセロ盤と石を娯楽室に戻して」
ゲームの勝敗を見守っていた皆も、ルルの要求に驚いていた。
「そ、そんなことで良いのか、ルル?」
ノエルも信じられないといった感じでルルに確認していた。
「うん、別にいいの。今更、特別にアルバロに要求したいこともないし。必ず守ってとアルバロに言ったところで、約束にならないことは分かっているもの」
アルバロを分かりすぎているルルの発言だった。それを聞いたアルバロは苦笑した。
「ひどいなー、ルルちゃん。俺、賭けの約束くらいは守るよ」
「だったら今ここで、みんなの見ている前でオセロ盤と石を娯楽室に戻して」
確実に皆が見ている前で実行させようとするルルを見て、
「実はルルがアルバロの手綱を引いている」
と、その場で見守っていた者達の暗黙の了解になったのだった。
○ ● ○ ●
アルバロは、こっそりと一つだけ抜き取った石を目の前に掲げた。白の面が月の光を受けて、僅かに輝いて見えた。
(俺が黒なら、あいつは間違いなく白か・・・)
オセロの石をルルに見せた時、
「まるで俺達みたいだね。一緒にいても俺達は背中合わせで反対を見ている」
アルバロの言葉を聞いて、ルルは不思議そうに首を傾げた。
「そうかしら?外から見たらそう見えるかもしれないけれど、内側の白と黒が合わさっている所はどうなっていると思う?」
逆にルルに聞かれてアルバロはハッとした。
「・・・ね?背中合わせじゃないわ。互いに向き合っているように思うわ」
そう満足そうに告げると、嬉しそうに微笑んで見せた。アルバロの皮肉もルルの前では意味を成さない。アルバロも思ってもみなかった発想でルルは返してくるのだ。
石を見つめながら、ルルを想う。
俺の「光」属性の影響を受けて、無属性だったあいつは「光」属性を得た。しかし、きっとあいつの「光」は「太陽」の光だ。
ここにも両極が存在することを考えて、アルバロはたまらなく愉快になった。
(本当にあいつの存在は俺が考える以上に楽しませてくれる。・・・こんなことを言ったら、またおまえはむくれるんだろうか)
ルルが頬を膨らました顔を想像して、アルバロはくっくっと笑い声を出した。
自分は生涯の中でただ一度しか挑戦出来ない、最高のゲームをプレイ中なのだ。
賭ける物は「命」。ゲームから降りることは、即ち死を意味する。
アルバロは、その瞬間に想いを馳せる。
(おまえとのゲームが終わっても、俺はもう次のゲームを探さなくていいんだ)
そう考えると何故かホッとするのだが、その感情に付ける名前がアルバロには浮かばなかった。
(・・・俺は君に何を望んでいるんだろうね?)
自問自答しながら答えは出ない。
白か黒しか選べない世界ではなく、二つが融合する曖昧な灰色の世界?
そんな甘い幻想の世界は存在しないと俺が否定しても、おまえはあると断定するんだろう。
そんな世界を望んでいるのは――。
君?それとも、俺?
〜Fin〜
<あとがき・・・という名の言い訳>
最後迄読んで下さり、ありがとうございます!m(__)m
『ワンドオブフォーチュン』妄想二次創作(SS)(アルバロ×ルル)、第三弾です!
一応、ブログ開設三周年記念創作です。|д゚)
『未来へのプロローグ』【あなたとの物語】のアルバロルートの二人の頬のつねり合いを見て、予想以上にアルバロにハマってしまいました(笑)!
まさか、アルバロ×ルルで創作を描く日が来るとは・・・!
元ネタは、またまた「GRANRODEO」のアルバム、『BRUSH The SCAR LEMON』中の『オセロ』から頂きました。m(__)m
通勤中に飽きもせず聴いているのですが(笑)、歌詞がまさにアルバロなのです!(*゚∀゚)=3(ちなみに『オセロ』の歌詞はコチラです)
もしくは、同アルバム中の『tRANCE』もアルバロ視点だと思います。(『tRANCE』の歌詞はコチラです)
・・・が、やはり『オセロ』は秀逸です!谷山さん、天才です(笑)!
まさしく、ルルとアルバロの関係は『オセロ』だと思います。
表裏一体なのに見ている方向が違うとか、ルルは真っ白でアルバロは真っ黒とか(笑)。
『ワンド』の世界にオセロがあるかどうかは謎ですが、二次創作ということで取り入れてみました。
ここ迄ご覧頂き本当にありがとうございます!
よろしければ、ご感想をお待ちしております!m(__)m
ルルは休日の早めの夕食を終えると、アミィと娯楽室で楽しくおしゃべりをして過ごしていた。
「あっ、いたいたルルちゃん」
不意に名前を呼ばれ声のした方を見ると、アルバロがにっこりと満面の笑みを浮かべながら片手に何かを持って娯楽室の入り口に立っていた。真っ直ぐにルルとアミィの座っているソファに近付いて来る。アルバロの顔を見たルルは、条件反射で思わず身構えていた。
「夕食後はここにいるかな、と思って来たんだけど大正解だったね」
アルバロはルルの姿を見て、心底嬉しいという表情をして見せる。
(・・・一緒に食堂を出た後に、ふらりといなくなったのはアルバロの方じゃないっ!)
ルルはむくれながら無言でアルバロを睨み付けた。
「・・・え、ええと・・・?」
テーブルを挟んでルルの前に座っているアミィは、突然現れたアルバロに戸惑っていた。アルバロはそんなアミィと何か言いたそうな顔のルルを綺麗さっぱり無視して、自分の話を続ける。
「ねえ、ルルちゃん。オセロは得意?」
「・・・え?」
突然すぎるアルバロの質問にルルの思考が付いていけずにいると、アルバロは手にしていたオセロ盤と石が入っている箱をテーブルに置いて見せた。アルバロの意図が分からなかったが、彼の行動には必ず裏の意味がある。ルルが一生懸命思考を働かせていると、目の前のアミィが小さな声を発した。
「・・・これ、娯楽室の・・・?」
アミィの言葉から察するに、どうやら元々娯楽室に置いてあった生徒共有物のゲームのようだった。しかし、今アルバロは明らかにこれを手にして娯楽室に入ってきていた。それが意味することを考えて、ルルは小さく溜め息を吐いた。
「・・・勝手に持ち出していたのね」
恐らく、自分の部屋にでも置いていたのだろう。
「暇な時に一人で遊んでいたんだよ。ああ、大丈夫。確か、同じのがニ、三個ここにあるから。一つくらい失くなった所で誰も騒がないよ」
当の本人は全く悪びれもせず、何でもないようにさらりと告げる。まさに、立て板に水状態である。アルバロに何を言ったところで、のらりくらりとかわされるのが常なのである。
「それより、ルルちゃん。オセロは得意?」
再び、アルバロが同じ質問をしてきた。
「・・・え?ええ・・・と、得意というかチェスよりは出来ると思うわ。・・・多分」
チェスのように相手の先手を考えるゲームは、はっきり言って苦手である。それに比べるとオセロは挟んでひっくり返せば良いだけなので、単純明快な所がルルは好きだった。
「・・・ふーん。じゃあ、俺とゲームしてよ」
前半の呟きに何かを含んだような感があったが、すぐ後に続いたアルバロの台詞にルルは驚きを露わにした。
「え!?」
「アミィちゃん、悪いけど席替わって貰えるかな?」
「・・・あ、は、はい!」
ルルを無視して話がどんどん進んでいく。アミィがソファを立つと、代わりにアルバロが目の前に座った。
「じゃあ、始めようか。ルルちゃんとオセロをするのは初めてだね。楽しそうだと思わない?ねえ、エストくん?」
突然、エストの名前が出たことに驚いて、ルルはアルバロの目線を辿った。少し離れた場所でエストがこちらを見ていた。
「・・・何が楽しいのか、さっぱり分かりませんが。自習室へ行こうとした僕を無理矢理連れて来て、あなたは何がしたいんですか、アルバロ」
本を抱えたまま実に迷惑そうな顔をして、アルバロを睨んでいる。
「えー。俺とルルちゃんのオセロ一騎打ちだよ?面白そうでしょ?」
「全く思いません」
そう言い残して短く溜め息を吐いた後、踵を返しかけたエストにアルバロが声を掛けた。
「あれ?見届けなくていいの?・・・ルルちゃんが心配じゃないの?」
アルバロの何かを含んだ言葉に、娯楽室から出ていこうとしたエストの足が止まった。すぐに顔だけをアルバロに向けると、静かに口を開いた。
「・・・それはどういう意味ですか。これからここで何が起きると言うんですか?」
「えー。別に何かがあるなんて言ってないでしょ。俺達の勝敗が気になんないのかなーって言っただけだよ」
アルバロは楽しそうに大仰に両手を上げて笑ってみせるだけだ。
エストとアルバロの間には、今にも凍り付きそうな空気が流れていた。
ルルとアミィが固唾を飲んで見守っていると、
「ケンカは良くありまセン。皆、友達デス」
突然、呑気な声が割って入ってきた。
二人の冷戦を止めに入ったのは、その場にいるだけで王族オーラの威厳が満ち溢れるビラールだった。一瞬で場の雰囲気が変わるのをルルは感じた。
「・・・友達って呼ぶのかは微妙だけどな」
ビラールのすぐ傍には、げんなりした顔のラギが腕を組んで立っていた。
「あれ?誰かと思えば、殿下じゃないですか。殿下もこちらにいたんですね」
アルバロがビラールに話し掛けると、ビラールはにっこりと笑った。
「ハイ。奥でラギとカードゲームしてまシタ。・・・ところで、ルルとゲームすると聞こえまシタが」
ちらりとルルの方を見て、アルバロに問う。ビラールが何となく心配そうな顔をしたようにルルには思えた。
「うん。これからルルちゃんとオセロゲームをしようと思って。・・・そうだ。殿下とラギくんも俺達の勝敗を見守っていてよ」
「ええっ!?」
アルバロの台詞にルルは驚きの声を上げる。アルバロとゲームすることが決定事項になっている上に、たくさんの人に見られてのゲームは緊張を強いられそうで、はっきり言って心臓に悪そうだ。
「ア、アルバロ?別に二人だけでゲームすればいいんじゃないかしら?・・・ほら!みんなだって忙しいだろうし!わざわざ、付き合わせるのは悪いと思うの!」
ルルは尤もそうな理由を挙げて、何とか人に見られながらのゲームを避けようと提案する。きっと、アルバロが言い出したゲーム自体を拒否することは不可能だろう。
「えー。でも、せっかく賭けるんだし。観客が多い方が盛り上がると思うんだけどなー」
「・・・へっ?」
(・・・今、「賭ける」って言った?)
寝耳に水のアルバロの発言に、ルルは思わずアルバロを見返す。アルバロはルルの視線を受けて、ぺろりと舌を出した。
「・・・あれ?俺、言わなかったっけ?『負けた方は勝った方の言うことを何でも一つ聞く』ってこと。ルルちゃんとゲーム出来ることが嬉しくて、うっかり言い忘れていたみたいだね。ごめんね?」
全く悪いと思っていない様子で、にっこりと笑いかけてくる。ルルは今にも爆発しそうな怒りの感情を、拳を握って震えながら耐える。
(・・・絶対に、わざとだ!)
皆の前で告げることによって、ルルが受けざるを得ない状況にすることがアルバロの狙いなのだ。
「・・・ルル?」
隣に立つアミィが心配そうに声を掛けてきた。アミィに心配させたくなくて、ルルは「大丈夫」と微笑んで見せてから、キッと目の前に座るアルバロを見つめた。アルバロとは毎日賭けをしているようなものだ。今更、アルバロとの賭けには動じなかった。
アルバロはルルが挑戦を受けたことに満足すると、石が入った箱を開けながら口を開いた。
「ルルちゃん。もし、俺が勝っても、君には何も要求はしないから安心してね?」
「え?」
アルバロの意外な言葉にルルは面食らう。
おかしい、そんな訳はないと今迄の経験から、更にルルは身構えた。
ルルの緊張が伝わったのか、アルバロはくすりと小さく笑ってから言を続けた。
「・・・ただ、恋人から勝利のキスが貰えれば、それで満足だよ」
「!!」
アルバロの告げた言葉で、ルルはようやく彼がこのゲームで何を楽しみたいのかが分かった。
公衆の面前で、ルルからアルバロにキスをさせたいのだ。
(アルバロが「キスして欲しい」って言ったら、私が拒否出来ないと知っていて・・・!)
確かに自分は、逃げないで受けて立つとアルバロに宣戦した。
しかし・・・。
ルルは室内を見渡した。休日の夜の為、娯楽室には結構な生徒達が集まりくつろいでいる。
(こ、こんなにたくさんの人達がいる前でするの・・・!?)
ルルは顔が熱くなるのを感じながら、目の前で楽しそうに笑うアルバロを睨み返した。
「・・・き、貴様!アルバロッ!公衆の面前で、キ、キ、キスを求めるなんて、勉学に励むべき学生が言うことではないぞ!」
突然、真っ赤な顔をしたノエルが興奮気味にアルバロに詰め寄ってきた。
ルルは驚いて、アルバロのすぐ傍に立ったノエルを見た。
「ノエル。途中でいなくならないでくれる?次は君の番なんだけど・・・って、あれ?ルルとアルバロがいる。それにエストとビラールとラギも・・・」
すぐに、呆れ顔のユリウスが現れた。ユリウスはカードゲームの途中で席を立ったノエルを連れ戻しに来たようだった。
「ユリウス、今はそれどころじゃないんだ!・・・アルバロ!聞いているのか!?」
真面目なノエルはアルバロの言葉を聞いて、不真面目だと直談判に来たようだった。
「えー、だって何もいらないとは言ったけど、可愛い恋人のキスを貰っても罰は当たらないでしょ?それに、ノエルくん。誰も、唇にとは言ってないよ?」
アルバロは片目を瞑りながら、人差し指を唇に当てて見せた。
「・・・ん?そ、そう・・・だな。言われてみれば、場所は言ってなかったな。・・・確かに頬くらいなら、そこ迄、目くじらを立てることもないか・・・」
ノエルはアルバロの言葉を聞いて、あっさりと引き下がった。
しかし、ルルには分かる。アルバロがそんな可愛らしいことを求める筈がない。とことん自分が楽しむ為だけに、ルルに恥ずかしい思いをさせる気なのだ。
大人しくなったノエルに、アルバロはにっこりと告げる。
「ノエルくんとユリウスくんも俺達のゲームを見ていかない?」
「!?」
ルルは目眩を覚えた。
アルバロの言葉を受けて、ノエルとユリウスは興味津々といった感じでテーブルに置かれたゲーム盤を見た。
「へえ。アルバロとルルがオセロゲームか・・・。なんでオセロゲームなのかは意味が分からないけど、このゲームは単純そうに見えて意外と奥が深いんだよね。最後の最後で逆転というケースも多々あるし如何にして自分の有利になる場所に相手の石を置くよう陽動作戦を・・・」
ユリウスは目を輝かせながら、オセロの魅力を嬉々として語り始める。ノエルは隣で語り出したユリウスを放置して、口を開いた。
「しかし、アルバロとルルの対戦だと?・・・その、大丈夫なのか?ルル?」
何かしら思うところがあるらしいノエルが、心配そうにちらりとルルを見た。
「イヤだなー。何をそんなに心配しているの、ノエルくんは。まあ、真剣勝負だから恋人相手にでも手は抜かないけど。仮にルルちゃんが負けても、キス以外無理なことは求めないから安心してよ」
アルバロは、ノエルの心配を一笑に付す。
(・・・いや、その笑顔が曲者なんだが)
ノエルは乾いた笑みを浮かべながら、内心でアルバに突っ込みを入れる。
「アルバロ」
それ迄、黙って事の成り行きを見守っていたビラールが、アルバロの名前を呼んだ。アルバロがビラールを見ると、ただ何も言わず笑みを消した真面目な顔でじっとこちらを見つめていた。まるで、アルバロの目的を知った上で「ルルを泣かせるな」と告げているようだ。アルバロはビラールの無言の警告を受けて苦笑した。
(俺の心の内を見透かしたような目をする。・・・本当に、この王子様は苦手だ)
「・・・あーあ、俺は信用がないなー。じゃあ、仕方ない。中立者にゲームの審判になって貰おうか。・・・マシュー!」
そう呟くと、別の場所でカードゲームの審判をしていたマシューを呼ぶ。
(・・・まだ増やすつもりなの!?)
どれだけの観客がいれば満足するのか。
アルバロに呼ばれたマシューが別の人に審判役を代わって貰って近付いてくる。
「どうしたの?アルバロ?・・・え?何で皆が集まっているの?」
状況が飲み込めず、マシューは心配そうに皆を見回す。
「別に何でもないよ。今から俺とルルちゃんがオセロゲームをするから、観客として彼等を呼んだだけ。それでマシューに、お互いが不正しないように審判役としてゲームに付き合って貰いたいんだ」
「う、うん。そういうことなら、別にいいけど」
お人好しのマシューはすぐに頷いてくれた。
「・・・じゃあ、ルルちゃん、そろそろ始めようか。俺が黒でルルちゃんが白でいい?・・・あっ、ルルちゃんが勝った時、俺に何をさせたいのか考えておいてね。楽しみにしてるよ」
心底楽しそうに、満面の笑みでにっこりと笑いかけてくる。
(そ、そうよ!勝てばいいのよ!私が勝てば、みんなの前でキスしなくていいのよ!)
アルバロの性格を考えると、遠くない未来に『公衆の面前でキスをする』という無茶な要求は確実にありそうだが、とりあえず今この場でのキスは避けられるのだ。
「じゃあ、二人とも準備はいいかい?ゲームを始めるよ。あ、先攻はどうする?」
早速、審判役のマシューが場を仕切ってくれる。
「俺はどっちでもいいから、ルルちゃんが決めて」
アルバロはテーブルの上に両肘を付いて両手を組んだまま、にっこりと笑った。
いつもと同じアルバロの余裕の態度にルルは悔しくなり、俄然やる気になってきた。
「じゃ、じゃあ・・・後攻で」
「・・・へえ、意外」
まさかルルが後攻を選ぶとは思わなかったのであろう。珍しくアルバロが、意外そうに呟いたのが聞こえた。
「分かった。アルバロが先攻だね。それでは・・・ゲーム開始!」
マシューのゲーム開始を告げる声で、二人の真剣勝負が始まった。
○ ● ○ ●
淡い月光に照られされながらアルバロは一人、誰もいない夜の学園を気の向くままに歩いていた。昼間はあれだけ生徒達の声で騒がしい学園も、夜になると不気味な気配に変わるから不思議だ。それともこちらがミルス・クレアの本来の姿なのか。
アルバロは全てが闇で覆い隠される夜が好きだった。
闇は自分の存在さえ消してくれる。暗闇で息を殺してじっとしていると、まるで自分が闇に溶けていくように錯覚出来る。
このまま闇と一体になるのも面白いかもしれない。
そう考える時、決まって最後は心臓の音が邪魔をしてくるのだった。
まるで、己の生を誇示するかのように規則正しい心音が耳につき始める。
アルバロは盛大に舌打ちをした。
たまらなく不快だった。
自分の意志とは関係なく勝手に脈打ち、この体を生かそうとする心臓に嫌悪した。いっそ、取り出して握り潰してしまおうかと何度も思った。
そんな時、気紛れに始めた魔法の才能が人より秀でていたらしく、魔法の総本山であるミルス・クレアで特別に学ぶことが決まった。
稀少な古代種が守護役を担っているというミルス・クレア魔法学院。
アルバロは迷うことなく、新しい遊び場所としてミルス・クレアを選んだ。そして、自分が光属性だと告げられた時は何の冗談、いや皮肉かと思った。
自分と別世界に存在する「光」。
ギルドで生きる自分に「光」など存在しない。
その後、アルバロは月の光を見上げて気付いた。同じ光でも、太陽の光ではなく月の光なら得心がいった。
「狩り」の前に月を見ると、自分の中で止められない何かがざわつき始めるのだ。
あれもきっと、ひっそりと息づいていた「光」属性のせいだったのだろうと自身を納得させたのだった。
アルバロが何の気なしに視線を投じると、学園の至る所に置かれているガーゴイルの石像が目に入った。この像も夜の学園の不気味さに一役買っているのかもしれない。
石像を見たアルバロは、楽しいことを思い出したように唇の片端を上げると、くるりと踵を返して学園の中庭を目指して歩き始めた。
中庭に置かれてあるファタ・モルガナ像を目の端に捉えながら、アルバロは月を見上げた。あの晩も、冴え冴えとした月光が二人を照らしていた。
『ああ、きれいな夜空だ。これでやっと面白くなってきたな』
俺の正体をばらした時の、あいつの顔は予想通りだった。盲信的に信じていた物が目の前で崩れ落ちていった瞬間、あいつは現実を把握することが出来ずに呆然とした。そして、ようやく目の前で起きている事が現実だと認識すると、面白いくらいに蒼白になっていった。
希望が絶望に変わった瞬間の顔を思い出し、アルバロは満足そうに唇を歪める。
この世は全て両極から成る。それが世界の理であり真理だ。
希望と絶望。喜びと悲しみ。愛と憎しみ。
感情も然り。当然、自然も両極だ。
昼と夜。太陽と月。天と地。男と女。全ての始まりと終わり・・・生と死。
アルバロは、完璧な二面性を持つこの世界が気に入っていた。
実に分かりやすい。
「まさに世の中、表か裏か・・・白か黒ってことだよね」
つい数時間前のゲームを思い出し、アルバロはポケットの中から一つの石を取り出した。白と黒の面を合わせ持つオセロの石だった。
結局、あのゲームは僅差でルルが勝利した。公衆の前でキスをすることが余程嫌だったのだろう。ルルは必死になってゲーム盤に向かっていた。
(たかが遊びなんだし、あそこ迄必死にならなくてもいいと思うけどね・・・)
負けた所でキスするだけだ。別に命が掛かっている訳でもない。
(・・・しかし、プレイ中のあいつの顔)
ルルの百面相を思い出すと笑いが込み上げてくる。目の前で次から次へと表情が変わる彼女の顔を見ながらのゲームは、それだけでゲームをする価値があった。キスを賭けた勝敗の行方は、正直どうでも良くなっていた。
(・・・知らず、手を抜いていたのかもしれない)
だが、結果がどちらに転んでも自分は満足していた。その後、勝利したルルが告げた要求にも耳を疑った。
○ ● ○ ●
「オセロ盤と石を娯楽室に戻して」
ゲームの勝敗を見守っていた皆も、ルルの要求に驚いていた。
「そ、そんなことで良いのか、ルル?」
ノエルも信じられないといった感じでルルに確認していた。
「うん、別にいいの。今更、特別にアルバロに要求したいこともないし。必ず守ってとアルバロに言ったところで、約束にならないことは分かっているもの」
アルバロを分かりすぎているルルの発言だった。それを聞いたアルバロは苦笑した。
「ひどいなー、ルルちゃん。俺、賭けの約束くらいは守るよ」
「だったら今ここで、みんなの見ている前でオセロ盤と石を娯楽室に戻して」
確実に皆が見ている前で実行させようとするルルを見て、
「実はルルがアルバロの手綱を引いている」
と、その場で見守っていた者達の暗黙の了解になったのだった。
○ ● ○ ●
アルバロは、こっそりと一つだけ抜き取った石を目の前に掲げた。白の面が月の光を受けて、僅かに輝いて見えた。
(俺が黒なら、あいつは間違いなく白か・・・)
オセロの石をルルに見せた時、
「まるで俺達みたいだね。一緒にいても俺達は背中合わせで反対を見ている」
アルバロの言葉を聞いて、ルルは不思議そうに首を傾げた。
「そうかしら?外から見たらそう見えるかもしれないけれど、内側の白と黒が合わさっている所はどうなっていると思う?」
逆にルルに聞かれてアルバロはハッとした。
「・・・ね?背中合わせじゃないわ。互いに向き合っているように思うわ」
そう満足そうに告げると、嬉しそうに微笑んで見せた。アルバロの皮肉もルルの前では意味を成さない。アルバロも思ってもみなかった発想でルルは返してくるのだ。
石を見つめながら、ルルを想う。
俺の「光」属性の影響を受けて、無属性だったあいつは「光」属性を得た。しかし、きっとあいつの「光」は「太陽」の光だ。
ここにも両極が存在することを考えて、アルバロはたまらなく愉快になった。
(本当にあいつの存在は俺が考える以上に楽しませてくれる。・・・こんなことを言ったら、またおまえはむくれるんだろうか)
ルルが頬を膨らました顔を想像して、アルバロはくっくっと笑い声を出した。
自分は生涯の中でただ一度しか挑戦出来ない、最高のゲームをプレイ中なのだ。
賭ける物は「命」。ゲームから降りることは、即ち死を意味する。
アルバロは、その瞬間に想いを馳せる。
(おまえとのゲームが終わっても、俺はもう次のゲームを探さなくていいんだ)
そう考えると何故かホッとするのだが、その感情に付ける名前がアルバロには浮かばなかった。
(・・・俺は君に何を望んでいるんだろうね?)
自問自答しながら答えは出ない。
白か黒しか選べない世界ではなく、二つが融合する曖昧な灰色の世界?
そんな甘い幻想の世界は存在しないと俺が否定しても、おまえはあると断定するんだろう。
そんな世界を望んでいるのは――。
君?それとも、俺?
〜Fin〜
<あとがき・・・という名の言い訳>
最後迄読んで下さり、ありがとうございます!m(__)m
『ワンドオブフォーチュン』妄想二次創作(SS)(アルバロ×ルル)、第三弾です!
一応、ブログ開設三周年記念創作です。|д゚)
『未来へのプロローグ』【あなたとの物語】のアルバロルートの二人の頬のつねり合いを見て、予想以上にアルバロにハマってしまいました(笑)!
まさか、アルバロ×ルルで創作を描く日が来るとは・・・!
元ネタは、またまた「GRANRODEO」のアルバム、『BRUSH The SCAR LEMON』中の『オセロ』から頂きました。m(__)m
通勤中に飽きもせず聴いているのですが(笑)、歌詞がまさにアルバロなのです!(*゚∀゚)=3(ちなみに『オセロ』の歌詞はコチラです)
もしくは、同アルバム中の『tRANCE』もアルバロ視点だと思います。(『tRANCE』の歌詞はコチラです)
・・・が、やはり『オセロ』は秀逸です!谷山さん、天才です(笑)!
まさしく、ルルとアルバロの関係は『オセロ』だと思います。
表裏一体なのに見ている方向が違うとか、ルルは真っ白でアルバロは真っ黒とか(笑)。
『ワンド』の世界にオセロがあるかどうかは謎ですが、二次創作ということで取り入れてみました。
ここ迄ご覧頂き本当にありがとうございます!
よろしければ、ご感想をお待ちしております!m(__)m


























アルバロとルルのやりとりというか、関係は薄氷の上を歩いているかのような緊張感がありますね。
月と太陽の関係もたまらなく好きです。
なんだかんだ、太陽には惹かれて(引かれて?)しまうものかなと思います。
話の転換点の、○●まで凝られていて、sakuraさまは一つひとつの作品を、愛おしむように書かれていらっしゃるのだなと改めて感じました。
ブログ運営四年目も、どうぞご無理のないようになさってください。
今後も通い続けます(笑)!
この度は『ワンド』の二次創作をご覧頂き、そしてコメントをありがとうございます。
・・・まさか、相馬さまに『ワンド』の創作を読んで頂けるとは思ってなかったので、とっても嬉しいです!ありがとうございます!(ノД`;)・゚・
>薄氷の上を歩いているかのような緊張感
・・・流石は相馬さまです。私には「薄氷の上を歩いている」なんて言葉は浮かびません。(;゚д゚)ゴクリ ・・・失礼しました。感心する所が違いました(笑)。アルバロとルルですが、二人の関係は単純な恋人同士ではないので色々と複雑です。その複雑さを、少しでもお伝え出来てれば良いのですが・・・。
>月と太陽の関係・太陽には惹かれて(引かれて?)しまう
自然と、アルバロは月でルルは太陽かな〜と思いました。女性を月に例える場合もあると思うのですが、相馬さまの仰るように古今東西の比喩で、月は太陽に惹(引)かれるという話を良く聞きますので、この構図にして良かったと思っております。
>転換点の、○●
わー!気付いてくれて、ありがとうございます!嬉しいです!!益々、相馬さまを尊敬して大好きになりました(笑)!
○と●はオセロを表現してみました。○●○●を、次のシーン前には○○○●とか、○●●●にして遊んでみようかと思ったのですが止めておきました(笑)。ちなみに、初めはアルバロの頬のタリスマンを真似て、◇にしようかとも考えていましたが、○●を思い付いて良かったです(笑)。
>一つひとつの作品を、愛おしむように書かれて
過分なお言葉恐れ多いです!(´;ω;`)ブワッ 創作の更新頻度が少ないので、どうしても思い入れが強くなるようです。○●は遊んでみました(笑)。
>今後も通い続けます(笑)!
ありがとうござます!相馬さまが読んでくれていると思ったら、頑張れます!励みになります!温かいお言葉、本当にありがとうございます!今年も萌(燃)える乙女ゲームをメインに紹介していきたいと思います。
一日でコメントかえしていただけるなんて思ってもいませんでした(泣)感激です・・・・
SS読みました!すばらしいですね、オセロとアルバロがあっていて面白かったです!
最後を問いかけで終わりにするなんて「らしさ」がとてもでていて好きです!
今度はsakuraさまの好きなキャラでのSSをひそかに期待しています!
思った以上にここのブログにはまってしまいました(笑)
今後も期待しています!ワンド好きな私にとってココは最高です!
この度もコメントをありがとうございます!
とても嬉しいです!
そして、『ワンドオブフォーチュン』の二次創作をご覧頂き、ありがとうございました!
あまり表に出ないアルバロの内面を描きたくて、今作が出来上がりました。
何を考えているのか分からないアルバロは複雑そうに見えますが、彼が求めているのは案外単純な答えなのではないかと勝手に推測しています。最後の問いも認めたくないだけで、アルバロの中では答えが出ていると思っています。
>オセロとアルバロがあっていて
「あっている」と仰って頂き、嬉しいです!ありがとうございます!
あとは、トランプのジョーカーがぴったりだと思うのですが、他の設定等をカードに例えるのが大変だったので、アルバロとルルを単純に表現出来るオセロにしました(笑)。でも、二人の関係はオセロに一番近いと思っています。
>sakuraさまの好きなキャラでのSS
私の好きなキャラは、肉食系男子代表のラギです(笑)。基本的にツンデレキャラが好きなようで、今作のエストのツンデレぶりにも落ちました(笑)。一応、ラギとエストも一作ずつ描いているのですが、『ワンド2』でもまた描けたら良いなと思っています!美味しいネタが浮かびますように(笑)!
>今後も期待しています!
プレイ中の興奮冷めやらぬ状態で書いているプレイ感想ですが、少しでも楽しんで頂けたら本当に本望です。(´;ω;`)ブワッ
自分には過分な言葉の数々、本当に有難くて恐れ多いです。
これからも励みにして、頑張ってブログを続けていきたいと思います。
ありがとうございました!
ラギとエストのも、もちろんすごかったんですけど、これはなんていうか深いです・・・
私的にはアルバロの夢小説を書くのが一番
難しいって思うんですよ。
なんか一番裏があるキャラだし、ルルの事どう思ってるのかも微妙に謎だし・・・
そのアルバロをこんな風に書けるなんて本当に
すごいです!
読んだ時、アルバロだ!って意味わかんないこと口に出しちゃってました(笑)
オセロもよく思いつくなって感心しながら
読んでました^^
私、クローバーはsakuraさんの
大ファンです!^−^!これからもお体に
気をつけながら頑張ってください!
応援してます^0^
この度は『ワンド』の二次創作をご覧頂き、
そしてこちらにもコメントを書き込んで頂き、ありがとうございます!
とても嬉しいです!
>深い
今作の感想でそのように仰って頂けるのは、私にとって最上の褒め言葉です!(´;ω;`)ブワッ
ありがとうございます!
『未来へのプロローグ』をプレイして、アルバロについて色々と考えさせられました。
私なりに感じたアルバロ像を創作で表現してみました。
>ラギとエスト
ラギは明るいノリで動のイメージ、エストは内に語りかける静のイメージ創作だったと思います。
自分で描いた創作ですが、二作品共大好きです(笑)。
>アルバロ・ルルの事どう思ってるのかも微妙に謎
分かります!
『未来へのプロローグ』おまけ【ミルス・クレアタイムズ編】アルバロ特集号の『突撃インタビュー』で、エドガーに「恋人同士」と突っ込まれて何も答えないアルバロを見てドキドキしました!
あくまで「鎖」で繋がれた関係で、本心ではルルのことを「恋人」とは思っていないのでしょうか。
そうだとしたら二人の関係というか、ルルが可哀想すぎる!と思い、アルバロ自身が気付いていないだけで心の奥底ではルルに気を許している・・・という感じの、私の願望を注ぎ込んだ創作にしてみました。
>オセロ
ルルとアルバロの関係にぴったりだと思いました。
あとがきにも書きましたが、黒と白、表と裏、二心同体とかです。
>大ファン
妄想満載な創作を描いている自分に、そのように仰って頂き恐れ多いです!
ありがとうございます!m(__)m
自分には勿体ない有難い言葉を支えに、これからも精進して頑張っていきたいと思います。