イエローエンゼルの 小説集

明るい未来に歩いていこう
日々世の中の動きに目を向けつつ、希望をもって生きて行こう

書き直し『比翼塚』19

2017-01-30 22:03:03 | 創作
ミモザの悲しい旅
眉山葉子
メーカー情報なし


 スミレは大急ぎで家に帰って夕食の支度をした。一人暮らしの順二のためにボリューム
のあるものをと考えてステーキ肉を買った。肉尽くしになるけれども、ボルシチも作った。ポテトサラダに野菜サラダにピクルスを添えて、ステーキを焼くまでにして待っていた。けれど、順二は来てくれない。七時を過ぎ八時も過ぎ、九時に近づいたとき、電話をかけた。順二はすぐ出た。
「あのう、スミレです」
「あっ、どうも」
「あのう、今どこにいらっしゃるの?」
「さっき、帰ってきたばかり」
「お待ちしているのですけど~」
「はぁ、お邪魔してもいいですか」
「ええ、ええ、いらして下さい。お待ちしていますのに」
「じゃ、シャワー浴びてから出かけます」
「絶対いらしてね」
電話を切って、急いでスミレはステーキを焼き始めた。
ステーキが焼き上がり、お皿に盛りつけたところで、頃合いよく順二が現れた。
スミレはスッスッと急ぎ足で歩いて、ドアを開けた。
順二は冷気をジャンパーにつけて運んできた。スミレは待ちきれなくて、冷気ごと順二を抱きしめた。ドアの鍵を閉めると、スミレは順二のジャンパーを脱がせた。そして、背伸びしてキスをした。順二はためらっていたようだったが、スミレの情熱に打ち負かされて、積極的にスミレを求めて来た。暖房の効いた温かい部屋を暗くして、どちらからともなく二人は衣服を脱ぎ、ベッドに入った。スミレが求めてやまないものがそこにあった。愚かにも十年の歳月封印していた性が、堰を切ったように押し寄せて来た。そんな事には気もつかず、ただただ自分に激しく迫って欲望を満たしてくれる順二が、この世で最高の人と思われる。スミレはいつまでも順二から離れなかった。
折角焼いたステーキが冷たくなると思ったけれど、そんなことよりも、順二の愛をいただく方が先だった。ちらちらとステーキのことが頭をかすめたけれど、その思いは、愛されることに打ち負かされた。
やがて順二の方が飽きたのだろうか、起き上がって洋服を着始めた。スミレも洋服を着て、キッチンでステーキをもう一度温めた。
そしてまた、ワインを注ぎ、向かい合った順二の顔をうっとりと見つめた。
順二は照れた顔をして、見つめ返している。
「僕はどうしても、スミレに悪い。スミレはこれから結婚しようと思っていたのに、こんなことをしてしまって。謝る」と言って頭を下げた。
スミレは立ち上がって急いで順二の横に座った。順二の肩にもたれて、
「私もうあなたから離れられないの。あなたが奥さんと子供を福井に置いていると知っても、あなたとこうなりたかったのだもの。こうなってみると、ますますあなたが好きになる。あなたは何も思わないで、付き合って」
と、息も絶え絶えのようにかすれた声を出した。
順二は、右腕にスミレを抱き、左手にワインの入ったワイングラスを持ったまま、スミレにキスをした。スミレはいざなわれて本気になり、順二のワイングラスを取って、テーブルに置き、また、順二と一緒にベッドに入った。
「僕はここ三年、こんなことから遠ざかっていた」
と、順二はぽつりと言った。
「単身赴任ですもの」
と、スミレは言った。
「いや、休みに帰っても、ワイフは親の世話に疲れているといって、寄せつけないのだ。ご飯とか、身の回りの世話は、前のようにちゃんとしてくれるのだが」
スミレはそんな妻の気持ちが理解できなかった。
どんな奥様だろうと、都会的なしゃれた女性を想像して、それなら、負けると思っていたが、その話を聞いて、何か田舎っぽい人を想像し、ふっと、気が楽になるのだった。
二人はそのまま朝まで過ごし、ステーキは固く冷めたままに放置された。
順二は昨日と同じように七時になって飛び起き、慌てて帰って行った。
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