猫研のMLでBさんから次のような質問を受けました。どちらかというと簡単な質問の部類に入るでしょうが、これが理解してもらうまで結構長引くことになったのです。
故人が相続人以外に財産を分けるのは相続ではなく遺贈と聞きましたが、
生前の口約束だけで遺言書も残してなければ遺贈ではなく贈与になるのでしょうか?
例えば、故人:A、故人の息子:B、故人の孫:Cとして、
故人Aが生前、孫のCに自分の名義の家を与えると言ってたが、口約束だけで遺言書が無かった。
この場合Aの名義のの不動産をCの名義に変えると遺贈ではなく贈与になる、という事でしょうか。
私はこう答えました。
> 生前の口約束だけで遺言書も残してなければ
「遺言」として取り扱われるためには、必ず法が定めた要式を備えていなければなりません(※1、2)。
※1 民法第960条 「遺言は、この法律に定める方式に従わなければ、することができない。」
※2 民法第967条 「遺言は、自筆証書、公正証書又は秘密証書によってしなければならない。ただし、特別の方式によることを許す場合は、この限りでない。」
ちなみに、特別の方式とは、もう直ぐ死にそうで、自筆証書などの普通の方式ではとても間に合わないなどの急場での遺言のことを指します。
したがって、口約束だけでは「遺贈」とはなりません。
が、
> 遺贈ではなく贈与になるのでしょうか?
かといって必ず贈与(その場合は死因贈与と解釈することになるでしょうが)となるというわけでもありません。そう判断できるだけの根拠が必要となります。そうなると、口約束だけで判断するのは難しいでしょうし、要らぬ紛争を招きそうです。
具体例に即してお答えすれば、
> 故人Aが生前、孫のCに自分の名義の家を与えると言ってたが、
> 口約束だけで遺言書が無かった。
> この場合Aの名義のの不動産をCの名義に変えると
> 遺贈ではなく贈与になる、という事でしょうか。
このように不動産が目的の場合は必ず登記をしなくてはなりませんが、「死因贈与」として扱うにしても、当事者はAの相続人とCとなりますから、Aの相続人が素直に協力するかどうか疑問で(通常は利益が相反するから)、Aの願いどおりに話が進まない可能性だってあるでしょう。
ここはやはり遺言書を作成してもらうべきだと私は考えます。
最後の言葉が一番お伝えしたかったことなのですが、この後のBさんからのメールで事態が急展開します。
難しいんですね、よく分かりません。
実は先日親父が亡くなりました、入院してからアッという間でした。。
数日前、入院する前に電話が掛かってきて「孫に家をやる」などと言ってましたが。
そんな単純な問題でないならこの事実も書いて質問するべきでしたか。
もう故人になっていて実際に口約束だけになってしまいました。
こんな場合は「特別の方式」であろうが遺言書はもう作成できない、でいいですか。
こんな状況です。遺贈ではなく贈与になるのか、もう一度教えてもらえませんか。
もう少し丁寧に答えるべきだったと思い、
ポイントは、「口約束だけでは「遺贈」とはなりません。」の部分です。
> もう故人になっていて実際に口約束だけになってしまいました。
したがって、お父さんの場合はいずれの遺言の方式も満たしていないので遺贈にはなりません。
> こんな状況です。遺贈ではなく贈与になるのか、
死因贈与として成立するのかも微妙だと思います。なぜならば遺贈はお父さんの一方的な意思表示で成立しますが(ただし、「遺言」としての方式を備えることが必要)、死因贈与はお父さんとお孫さんが実際に契約する必要があるからです(ただし、口頭でも有効)。
「この不動産を私が死んだらあげるよ。」だけで終わるのが遺贈で、
「この不動産を私が死んだらあげるよ。」「わかりました、そうします。」となるのが死因贈与という意味です。
この点につき、これまでのBさんのご投稿を読む限りでは死因贈与契約が成立していないような気がするのです。「わかりました、そうします。」の部分が無いですよね?微妙と申し上げたのはそのような理由からです。
それから、仮に「わかりました、そうします。」という部分があったとしてですが、実際に登記をするにはお父さんの法定相続人全員の協力が必要です。
と答えたところ、直ぐに返事が届きました。
> 「わかりました、そうします。」の部分が無いですよね?
はい、間違いなく無いです。死因贈与契約と言うのでもないし遺贈でもないようなので、普通の贈与(という言い方はおかしいですが)で間違いなさそうですね。
正直驚きました。なぜそのような解釈になるのかと…。これは拙いと思い、直ぐに訂正のメールを出します。
> 普通の贈与(という言い方はおかしいですが)で間違いなさそうですね。
いやいや、そうではありません。贈与は契約ですから、やはり「あげます」「もらいます」の関係にあります。それが無かったのならば「相続」です。
そしたら、またメールが…。
また混乱してきました。
故人:A、故人の息子:B、故人の孫:C
Aの相続人はBではないのですか?故人Aの名義の家を孫のCの名義にすると、贈与ではなく相続なんでしょうか。何か勘違いしてるのか、まだ理解できてないようです。頭が悪くて申し訳ないです、もう一度説明してもらえないでしょうか。
自信を喪失しつつ、
【ご質問】
(1)Aの相続人はBではないのですか?
(2)故人Aの名義の家を孫のCの名義にすると、贈与ではなく相続なんでしょうか。
【回答】
(1)通常はそうです。私が「相続」とだけ書き、「Bさんが相続する」と書かなかったのは誰が法定相続人なのか知らないからです。
(2)死因贈与でも、普通の贈与でも「あげます」「もらいます」のように契約が成立していなければなりません。
つまり、死因贈与は「この不動産を私が死んだらあげます。」「わかりました。」となり、普通の贈与は「この不動産を何年何月何日にあげます。」「わかりました。」となるので、今回はどちらも成立していないのではないかと考えたからです。だから、「相続」になると書いたのです。
これでわかりますか?もしこの書き方でお分かりにならなければ、電話で説明して差し上げます。私宛にメールを直接下さい。
と答えました。ここまで書けばもう大丈夫だろうと、メールなんか来ないだろうと思いつつ。
ところが、
「故人:A」の家を「故人の孫:C」に与えると相続になるのでしょうか。確かにAとCは直接会話をしてないので、贈与ではないようです。因みに「故人の息子:B」は相続放棄するつもりです。
まだよく分からなかったので、お言葉に甘えて直接メールさせてもらいました。
挫けそうです。
> 「故人:A」の家を「故人の孫:C」に与えると相続になるのでしょうか。
Cは法定相続人ではないので相続とはなりません。
> 確かにAとCは直接会話をしてないので、贈与ではないようです。
Bさんも親権者として同意したわけではありませんね?
では、死因贈与でも普通の贈与でもないということになります。
> 因みに「故人の息子:B」は相続放棄するつもりです。
ということは、他の法定相続人が家屋を取得(相続)することになります。
過去ログを確認しましたが、他の法定相続人としてお兄さんがいらっしゃるようですので、
あなたが相続放棄をすれば、お兄さんが単独で相続するということです。
これで理解できましたか?
正直なところ、これで理解できないなんてどうかしてるぐらいに思いました。でも、意に反してメールがまた届きました。私の説明は不十分だったようです。
申し訳ないですが、まだ分からないのでまた質問させて貰います。 「故人:A」の家を「故人の孫:C」に与えた場合、相続でもなく贈与でもなければ、では一体何になるのでしょうか?どこか誤解してるんだと思いますが分かりません。
ここまで来て、やっとBさんが何を理解していないのかがわかってきました。
> 「故人:A」の家を「故人の孫:C」に与えた場合、
> 相続でもなく贈与でもなければ、では一体何になるのでしょうか?
ここが誤解されているのだと思います。
「与えた」とありますが、与えたことにはなりません。
つまり、AからCに不動産の所有権が移転するようなことにはなりません。
以上ですが、結局、明日の午後、電話で直接説明することになりました。
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では、また明日。
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