How many rivers must I cross? I don't know...

幸せになりたくて川を渡る・・・

2017/07/08,09 流れの中は夢いっぱい ~今日は刀で釣ろう~  南飛騨 益田川にて 【前編】

2017-07-13 18:14:27 | 渓流釣り 徒然草

特別な日だった。
今日は刀で釣ろう。
そう心に決めていつもの益田川に向かった。






沢や渓、里川から始めた僕の渓流釣りは、次第に主なフィールドを本流へと移していった。
本流釣りを始めた当初、僕が使っていたのは7.5mや8.0mといった竿。
歴とした本流竿ではあったが、如何せん長さが足りなかった。
流したい筋に竿が届かずに諦めざるを得ない。
そんなことが度々あった。
自分の腕前や力量、経験不足で獲れる魚も獲れなかったとなると、それは確かに悔しいが納得は行く。折り合いは付けられる。
しかし、自身ではどうにもならないことで諦めなければならないというのはそういうわけにはいかない。極力避けたい。

「流したい筋に届く竿で思い通りに流しました、でも何も釣れませんでした」となると自身の腕前の問題。
釣技をもっと磨くしかない。
「竿の長さが足りずに流したい筋に届かなかったので何も釣れませんでした」では、どうやって気持ちを処理したらよいのか分からない。
だから僕はもっと長い竿を切望した。
そして、当時の国内では最長尺の本流竿「琥珀本流エアマスター」を入手した。
「これで届かなければ諦めるしかない」。
そう思って、ずっとエアマスターを使い続けている。


僕には渓流釣りの師と呼べる人はいない。
最初の1シーズン、手解いてくれた嘗ての職場の上司は翌シーズンには遠方に転勤された。
以降は釣り雑誌の記事からヒントを得て、それを実際のフィールドで試す、ということの繰り返しだった。
時には自身でああだこうだと考え試行錯誤する。
だから僕はこう言っている。
「僕はエアマスターに育てられた」。

事実最初は僕には分不相応な竿だった。
誰も教えてはくれないから上達は遅いし、エアマスターの素晴らしさも少しも分からなかった。
それでも少しずつ、少しずつ、上達はしていく。
その過程で自分の釣りの偏りというものも分かってきた。
淵やトロ場での釣りを好むものの、瀬では殆ど竿を出さないという事実に自身で漸く思い当った。
自身の釣りの幅を広げて、もっと上達するためには瀬釣りもしなければならないだろう。
そもそも好きでやっている釣りなのだから、「何々しなければならない」という義務や宿命のような言い方はおかしい。
いや、でも好きだからこそ避けては通れない高みへの通過点があるのではないか。
だとしたら、正直なところ10mのエアマスターでの瀬釣りは自分には厳しいと感じた。
早い流れや川底の起伏に合わせて竿の動きをコントロールすることが自分には難しかった。
今でも得意とは言えないが当時は本当に苦手だった。
思い切ってエアマスターで瀬釣りをしてみると、根掛かりが頻発した。
そもそも竿全体のモーメントで振り込んだり魚をいなすような調子なので、早い瀬での細かなコントロールが得意な竿ではないだろう。
別の竿を入手した方がよさそうだな。
そう思い始めた。


候補は幾つかあった。
「蜻蛉Long Drift 80-85」のような竿だと、繊細な流しを習得できるのではないかと考えた。
その竿で大物を獲るということは考えずに、習得した繊細な流しが役に立つこともあるのではないかと考えた。

「SG Light Spec MH90-95」も検討した。
通常9mで使用して、何かの折に9.5mにできるというのは、エアマスターに何かがあったときにサブとしても使えるのではないかと考えた。
いや、でもこれだと既に同様の理由で入手した「琥珀本流ハイパードリフト スーパーヤマメ」と使い分けができなくて無駄になるかもしれないな。
そうして決め手のないままシーズンが過ぎてしまった。



あるときシマノの社員さんと話をする機会があった。
幾つかの竿は手にとって触れる(振れる)機会でもあった。
僕は先ずエアマスターと同じ長さの当時の10m竿「SG Long Special M95-100」について尋ねてみた。
「コンセプトは誰でも振れる10mだよ。女性でも楽に振れるようにということで作った。持ち重りが全然しないよ。ほら、よかったら伸ばしてみて」。
そういいながら手渡された竿は、とてもエアマスターと同じ長さとは思えないほど軽快な調子と振り心地だった。

次に僕はこう尋ねてみた。
「刀はモデルチェンジの予定はあるんですか?」
シマノの社員さんが答えるのを待たずに、隣に腰掛けて笑顔で会話を聴いていた初老の男性が言った。
「モデルチェンジなんかないよ。うん、ない、ない。変えるところが無いんだよ。変えたら悪くなるよ。完璧なんだ。」そう言ってもう一度僕の目を見て微笑んだ。
僕らすべての本流師の憧れ、ヒーロー、カリスマ・・・細山長司さんが僕にそう答えてくれたのだった。








磨かれし、名刀。
刀の歴史は刀が塗り変える。
いざ、抜かん。


大物との出会いは一瞬。
だから一切妥協はしない。
そんな長司イズムの結晶が、『初代 SUPER GAME 刀』。
そこには本流のカリスマ・細山長司が考え得るものすべてが凝縮されていた。
あれから五年、細山の腰には新たな刀が携えられていた。
かつての刀は細山のすべてであったはずだ。
その鞘に収まるものには”すべて”以上の何が秘められているというのか。
刀の歴史は刀をもって塗り替えられ、己自身を超えていく。

さあ、抜いてみせてくれ。

(2012年 シマノ渓流カタログより)


 

2017年7月8日。
今日は刀で釣ろう。
そう心に決めた僕は南飛騨の益田川で朝から刀を振っていた。
慣れているポイントではあるが、いつもと竿の長さが異なるというのはやはり勝手が違ってやりにくい。
対岸まで届いた箇所でも届かないし、水深が6m以上あるような流れでは流す距離が短くなる。
しかも、理由は分からないのだが益田川の水が白濁している。
水深の見当がつかない。
いつもと異なる竿でアプローチしていることも手伝って根掛かりが頻発する。
本当に冴えない釣りの連続だった。
今日は何とかして刀でいい魚を出したいんだけどなあ・・・
その思いも虚しく時間が過ぎていく。
15時半を回った頃、僕はクルマに乗りこみポイントを大きく移動し始めた。
先週35cmのアマゴを獲ったポイントが、実は夕まずめが凄くよいのではないかと見当を付けたからだ。
そもそも夕まずめが狙い時なのはどのポイントでも同じだろう。
でも、そのポイントで夕まずめが良いというのは、他での夕まずめが良いというのとは同じ意味合いではなかった。
大物が入っている可能性は高い。
しかし、大物が潜んでいるだろう底に餌を送り届けることが至難の業というポイントなのだ。
何らかのタイミングで底から離れて少し浅めのタナまで出てきてくれたときにしか、餌を大物の鼻先に送り届けることができない。
それが夕まずめなら、仮に大物が底に居たとしても、水面を意識しているのではないか。
だとしたらチャンスではないか。


ポイントに到着し釣り座まで降りて行った。
片手にはエアマスターを携えた。
残念ながら刀ではどうしても流したい筋に届かない。
釣り座に到着し、川面を眺めた。
やはり、どんなにあがいても刀では届かない。
諦めるしかない。

ふと思い当たった。
僕は釣り座を後にして一旦クルマに戻った。
そしてエアマスターだけでなく、刀も携えてもう一度釣り座に降りて行き、土手の斜面に刀を立て掛けた。
まるでお守りか、ご神体のようだなと思った。



僕の目前には益田川、背後には刀、そして振る竿はエアマスター。
おかしな感じだったが仕方ない。
先週と同様、手前の筋から少しずつ遠くの筋を流していき、届かなくなると益田川の流れに立ち込んで流して行った。
ある程度流すと休んで、暫しの後に再び流し始めた。
16時台は掌より小さなアマゴを1匹釣ったが、他はウグイばかりだった。
18時近くになったとき、ガツンとひったくるようなアタリがあった。
少し油断していたためアワセを入れる間はなかった。
竿を上げると鈎の軸にミミズの残骸が残っていた。
その残り方は恐らくウグイではないだろう。
脂鰭のある魚が潜んでいるのだろうと思った。
夕暮れが近付いてきて、少しずつ動き始めたのだろうか。
もう一度同じ筋を流したが反応はなかった。
僕は一旦川から上がった。
そして刀を眺めてからもう一度竿を振り始めた。
今しがた反応があった筋ではなく、手前から順に少しずつ遠くの筋を探っていった。


18時半頃だった。
これ以上は無理というところまで益田川の流れに立ち込み、思いっきり腕を伸ばして前屈みの姿勢になっているときに、「ゴンゴン」という引っ手繰るようなアタリがあった。
先週と同じようなシチュエイションで同じようなアタリだった。
当然僕はアワセも同じように入れた。
竿の送りを停めて軽く竿尻を握る程度にした。
直ちに重みが伝わってきた。
相手が水面に顔を出してもがいたため、僅かに絞る力を緩めて竿の角度を下げ、水中に潜るよう促した。
その後にふと軽くなるような感覚があったのも先週と同じ、ところどころで首を振りながら底付近を這うように泳ぐのも同じ、泳いでいく方向も同じだった。
僕が竿の持ち手の上下を入れ替えて絞る方向を変えるのも同じ、何もかも先週のアマゴの再現フィルムを演じているようだった。
異なるのは若干水位が高かったこと。
水面から顔を出している岩の上に立って玉網で掬おうとしたが、出ている部分が少なかったため、別の岩の上に立った。
魚体を見たが大きさは先週のアマゴと同じような大きさ。
こりゃ同じ魚じゃないかと思いながら網に入れた魚体を眺めた。





メジャーを宛がうと体長は34cm。
朱点の散り方が先週の個体とは異なる。
いずれにしろ、パーマークの残る無骨な印象の益田川本流アマゴだった。



撮影後に僕は彼を流れに返した。
竿を畳み、川から上がる支度をした後、振り返って刀を眺めた。
「刀では獲れなかったな。また明日だなあ」。
そう独り言を呟いて夕闇の益田川を後にした。

 

 

【釣ったときのタックル】

竿:ダイワ 琥珀本流エアマスター105M
水中糸:ナイロン0.8号
ハリス:フロロ0.6号
鈎:オーナー スーパーヤマメ8号
餌:ミミズ




流れの中は夢いっぱい ~今日は刀で釣ろう~  南飛騨 益田川にて 【前編】

後編に続く

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2 コメント

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細山長司さん… (釣り人)
2017-07-13 19:54:19
刀をはじめ、様々な釣方を世の中に広めてくれた細山さんの死にはショックを受けました。釣り場でお会いすると穏やかな表情で接して頂きもうあの笑顔が見られないと思うと残念で仕方ありません。僕には鮭一さんのような立派な魚はなかなか釣れませんがこれからも愛竿、刀を振り続けたいと思います。
Re:釣り人さん (鮭一)
2017-07-15 01:38:24
コメントを頂きましてありがとうございます。
程度の差こそあれ、多くの釣り師がショックを受けたと思います。

僕はこのショックから立ち直るために書いています。
若い頃から文字にすると少しは気持ちが落ち着きます。
読んで頂いて、何かしら言葉を頂けると尚落ち着きます。
ありがとうございました。


ところで、釣っているフィールドが異なるので一概に何も言えないと思います。
プレッシャーが少ない地域で釣っているから立派に見える魚を掛ける回数が多くなるのかもしれません。
細山さんと釣り場でお会いしたということは、関東の方で竿を出されているのですかね。
ハイプレッシャーの地域の方は概して釣りが丁寧ですね。
そうしないと魚に見向きもされないのでしょうね。
そんな方がプレッシャーの少ない地域で竿を出すと、よい結果になることが多いのかなと思っております。

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