Blog of SAKATE

“燐光群”主宰・坂手洋二が150字ブログを始めました。

『シリア・モナムール』、「個人映画」から「映画」へ

2016-04-06 | Weblog
『シリア・モナムール』( 英題:SILVERED WATER, Syria self-portrait)
監督・脚本 オサーマ・モハンメド、ウィアーム・シマヴ・ベデルカーン
カンヌ国際映画祭2014“スペシャル・スクリーニング部門”でワールド・プレミア上映。ロンドン映画祭最優秀ドキュメンタリー賞。山形国際ドキュメンタリー映画祭2015で〈優秀賞〉を受賞。

「映画はシリアの人々が自国で起きている惨状を携帯やハンディーで撮影しYouTubeにアップしたものを監督が丹念に収集し繋ぎ合わせている。シリアの人々が「見た」、膨大な数のファウンドフッテージが持つシリアの貴重な記憶。記録の集合体は詩的情緒に彩られた男女の対話と共に、映画を見る者にシリアの現実を突きつける。」と解説にあるとおり、1001のネット映像を編集することからスタートしている。小熊英二の『首相官邸の前で』も同様の手法で、新たなインタビューを足していた。ニュース映像の編集が主な『タイムズ・オブ・ハーヴェイ・ミルク』も同様だから、ドキュメンタリー映画の王道ではある。
ただこの映画の特異なところは、パリ在住のオサーマ・モハンメド監督が始めた編集による創作行為に、途中から、シリア現地にいるシマヴ・ベデルカーンという女性が新たに撮り始めた映像が加わり、二人の共同作品となっているところだろう。
シマヴ・ベデルカーンは、シリア・ホムス市出身のクルド人女性。シリア国内で身の安全を確保するために別名で活動をしていたが、近年シリアとトルコの国境付近の難民キャンプに移動、子どもたちのための学校を開いている。

この、小さいけれど針の穴に糸を通すようなもどかしい作業をするこの創作に共鳴し、日本で配給しているのが、既存の会社ではなく、ほとんど個人といっていい男女二人(テレザとサニー)であるということも、注目に値する。「届けたい」と思うその気持ちが、この映画を公開させようとしているのである。
感想はいろいろあるが、ともかく体験してほしい。そういう映画である。

戦乱の地で見つかったレコードを手回しの蓄音機にかける件りだけでも、この映画を観て良かったと思った。そこで流れるのが「愛の賛歌」であるという、皮肉。
傷ついた人々、子供たち、動物たち。それを撮影するのは、前半は主に1001の無名のカメラマンたちである。映像というものが、大きく変わったのだ。こうして切り取られた戦争というものを、日本にいる私たちはただ見つめるしかない。ただ、少なくとも「戦争を起こさないため」の武力を「安全平和」と呼ぶ蒙昧を激しく拒絶する気持ちだけは、激しく湧いてくるだろうと思うのだが。

六月、イメージフォーラム他で公開。
http://www.syria-movie.com
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