Blog of SAKATE

“燐光群”主宰・坂手洋二が150字ブログを始めました。

「謝罪」を超え、「正義」の実現を

2016-06-23 | Weblog
私はオバマ大統領が伊勢志摩サミットの後、被爆地・広島に趣いて行ったという演説を、テレビ等のニュース映像などで聴いていない。だが、翻訳された文面からは、世間の多くの人たちが言う「格調高さ」を、感じなかった。
米国では、歴史的に、日本への原爆投下を「必要悪」としている。オバマ大統領の演説でそこに触れた部分は、
「71年前、明るく、雲一つない晴れ渡った朝、死が空から降り、世界が変わってしまいました。閃光と炎の壁が都市を破壊し、人類が自らを破滅させる手段を手にしたことを示したのです」
と訳されている。
もちろん、オバマ大統領は「謝罪」していない。

この文への違和感を抱いたまま、しばらくの時が過ぎた。
やがて私は、元米兵に傷つけられ、殺された、二十歳の女性の死を悼み、日米政府に抗議する、沖縄での六万五千人の集会〈元海兵隊員による残虐な蛮行を糾弾 被害者を追悼し、海兵隊の撤退を求める県民大会〉の報道を聞いて、もしもこの場にオバマ大統領がいたら、と、妄想した。
そこで、ある疑念というか、イメージが湧いてきた。
彼ははたしてその場で、広島の時と同じような面持ちで、次のように言えるだろうか。
「被害者の女性が夜の県道沿いをウォーキングしていたとき、平和な幸福に包まれていた沖縄の人たちの暮らしの場に、突如として、死が車道から彼女を襲い、その運命を変えてしまいました。暴力と欲望と差別意識が彼女の人生を破壊し、人類がそうした邪な衝動により相手と自らを破滅させる手段を手にしたことを、示したのです」。
あり得ない。
そんな無神経で無責任な物言いが、あり得るわけがない。

話を広島に戻そう。
オバマ大統領は、なぜ謝罪をせず、日本への原爆投下を、ある種の「史実」として、「必然」のように語っているのか。
それは、彼以前にアメリカが、原爆投下を、歴史の中で「不可欠」と判断しているからだ。
原爆投下という行為には、実行者がいる。トルーマン大統領がアメリカの国策として命じ、原爆が二度投下された。
「空から死が降ってきた」?
死は降ってはこない。死をもたらす原因が、広島にもたらされたのだ。
自然現象でも天変地異でもない。その行為を命令され、それを忠実に実行した者たちがいたのだ。
オバマ大統領の言う「私たち」は「合衆国国民」ではなく「人類」、つまり、科学文明の発達による悲劇、という物語にすり替える方便にも聞こえる。オバマ大統領の謝罪なき演説は、それが仮に「人類」という主語に自分たちみんなが入ると考えたとしてさえ、責任を回避するもののように響く。それは周到に歴史上の事実を隠蔽し、不可避であったという物語に塗り込めてしまおうとするものである。
原爆投下は、本当に必要だったのか。オバマ大統領の演説は、その問いには、なんら答えられてはいない。

多くの日本人は、「敗戦」を通じて、思考停止した。
なぜ戦争が起きたか、誰に責任があるのかを本気で顧みることなく、「反省」し、「悪かったとわかっているからもう終わったことにしよう」、とした。
多くの日本人は加害者であったことを忘れ、隠し、自らが戦争という「不幸な出来事」の「被害者」であるかの如く振る舞い、「全面降伏」したことにより、「勝者」に全面的盲目的に従う道を選んだ。
そして周囲に「禊ぎが済んだ」と思ってもらえるようになるまで、時を待とうとした。
「戦争責任」も「戦後責任」も、果たさぬままにだ。
そのツケは、今現在の日本に、しっかりと被さってきている。
そうした欺瞞を許してきた多くの日本人に、オバマ大統領のレトリックを批判する権利はない。

元広島市長の平岡敬氏が言うように、オバマ大統領=米国は、「原爆投下は正しかった」という姿勢は崩していない。つまり、正当化されている限り、「核兵器をまた使ってもいい」ということに、なりかねない。
彼らの文脈は、核兵器が非人道的で残虐な大量破壊兵器であるという事実を遠ざけ、戦争なら多少の犠牲はやむを得ないという立場を打ち出そうとしている。
過ちは、繰り返されるかもしれない、ということだ。

オバマ大統領の広島訪問で、米大統領による初の被爆地訪問を達成させたと、安倍首相は鼻高々のようだ。
だが、海外のメディアはまったくちがう反応を見せている。
「ニューヨーク・タイムズ」は5月26日付で、「日本のリーダーは広島の平和の教訓をほとんど活かすつもりがない」(Japan’s Leader Has Little Use for Hiroshima’s Lessons of Pacifism)という見出しで報じたという。「戦後日本が憲法9条と日米同盟のもとで平和主義をとってきた」として、日本が明確に「軍隊」を持ち、「戦争のできる普通の国」であろうとする安倍首相の方針が、「平和の教訓」とは縁遠いもので、アジア諸国にも不安をもたらしている、とする。
橋下徹前大阪市長は、Twitterに以下のように記している。
〈今回のオバマ大統領の広島訪問の最大の効果は、今後日本が中国・韓国に対して謝罪をしなくてもよくなること。過去の戦争について謝罪は不要。これをアメリカが示す。朝日や毎日その一派の自称インテリはもう終わり。安倍首相の大勝利だね〉。
これがこの国の保守陣営の「本音」ということだろうか。
ひどいものだ。

そうした経緯をみるならば、アメリカと日本政府が、次のように言うのは明らかだ。
「米軍の戦後七十年を超える沖縄駐留という措置は、正しかった」。

私はそうした考え方に納得しないし、許してはならないとも思う。
だが、自分の意見を言うのではなく、米軍属による女性暴行殺人事件に抗議する沖縄県民大会の開催に際し、被害者の女性の父親から大会主催者に寄せられ、1分間の黙祷の後、読み上げられた、そのメッセージを記したい。
そして、「一人の死」の重さをきちんと理解することが、「人類」の「歴史」を動かしうる原動力になると、考えたい。
「謝罪」を求めるのではなく、「正義」の実現を、信じたいのだ。

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 ご来場の皆さまへ。
 米軍人・軍属による事件、事故が多い中、私の娘も被害者の一人となりました。
 なぜ娘なのか、なぜ殺されなければならなかったのか。今まで被害に遭った遺族の思いも同じだと思います。
 被害者の無念は、計り知れない悲しみ、苦しみ、怒りとなっていくのです。
 それでも、遺族は、安らかに成仏してくれることだけを願っているのです。
 次の被害者を出さないためにも「全基地撤去」「辺野古新基地建設に反対」。県民が一つになれば、可能だと思っています。
 県民、名護市民として強く願っています。
 ご来場の皆さまには、心より感謝申し上げます。

      平成28年6月19日 娘の父より

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そしてもう一つ、米軍属女性遺棄事件を受けて米国の有識者や平和運動家ら83人が出した緊急声明文の日本語訳と英文を紹介する。

【日本語訳】
 私たちは沖縄での元海兵隊員による若い女性に対する女性暴行と殺人にぞっとさせられる。最近の若い女性への性犯罪や殺人を含む米軍人による沖縄の人々への犯罪や、米軍基地が存在する環境が原因となった被害は70年にわたって起き続けている。米国は第2次世界大戦終結以降から、プレゼンスを維持しており、現在、33の米軍施設と約2万8千人の米軍人がこの島にとどまっている。

 私たちの多くは沖縄を訪れたことがあり、あの美しい島から米軍基地を完全に撤退することを要求することにおいて、平和を愛する人々を支持する。さらに、私たちはこれらの犯罪への対処、または米軍基地の閉鎖のために翁長(雄志)県知事と話し合うことをオバマ政権に促す。

【English】
We are horrified by the recent rape and murder of a young woman from Okinawa by a former U.S. Marine. Crimes against Okinawans by U.S. military personnel — including sexual crimes and the recent murder of a young woman — and damage caused to the environment by the presence of U.S. military bases have been occurring for over 70 years. The U.S. has had a presence in Okinawa since the end of WWII and currently 33 U.S. military facilities and about 28,000 U.S. military personnel remain on the island.

Many of us have been to Okinawa, and stand with the peace-loving people there in demanding the complete withdrawal of U.S. military bases from that beautiful island. Further, we urge the Obama administration to hold discussions with Okinawa Prefecture Governor Onaga to address these crimes and to shut down U.S. military bases.

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写真は、沖縄・久高島。5月。

参院選について考えるとき、こうした構造、保守勢力の蒙昧に対して、毅然と向かうことが求められているはずだ。

どうしても記さねば気がすまなかったことを、ようやく記した。これからしばらく、ブログの書き込みは減ると思います。
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