Rosa Guitarra

ギタリスト榊原長紀のブログです

愚者の覚え書き

2016-11-17 | ギターの栄養


制作に入る前に
極々当たり前にそうなるだろうと
完全に予測済ではあったが
1ッ曲1ッ曲
見事に必ずつまづく

今まで培った技術は全て使っていると思うが
必ず
全く駄目だ、という所から毎曲始まる

以前から気付いてはいたが
技術的に上手く弾けたか
というところでは全く弾いていない
というか弾く気もないようだ


このイントロで
シ〜ンと鎮まり返った人気(ひとけ)の無い神社の境内の
裏の
木の葉が風にそよぐ音を微かに立てている風景が観えるか…

とか

このコードのトップノートに反応するロングリバーブが
スローモーションで水面に落ちる一滴のしずくを感じられるか

とか

気付くとどうもそういう情景描写を追っている自分


正確に弾けば弾くほどこういった情景は消え去って行くのだから
仕方が無いのだ
行き着く先の見えないまま彷徨うしかない



神社やしずくの風景の更に奥には
琴線に触れるか否か、が在る

そしてその場所には
自分の古い記憶にしまわれている痛みが在る


結局そこに届くかどうか
だけなのだ
僕という奏者は



1ッ曲録るのに大体4日くらいかかっている
その1クールの間に必ず1回は
もう駄目だ
というところに追い込まれ

それでも意地で続けていると
その先に辛うじてなんとか録り終える


録り終えたものを
全て捨ててしまいたくなる僕の悪い癖が起こらない事を祈りながら
とりあえず8曲録った

この8曲目が最大に難航し
思ったような情景が描けず数日彷徨った

一昨日の昼間に挟まった
余計な雑務に少し苛立った自分
そこから心の物差しが変になってしまった

微弱ではあったが苛立ちを抱いた事で
神が僕に罰を与え
音で和の情景を描くことを出来なくしてしまったのだ
と思った


もうこの曲は神に見放されたな
いや僕自身が神に見放されたのだ
等と思いながら
くそ〜くそ〜と録音を続けて行く


とにかく決着を付けねばと
その曲を一旦最後まで作り切ったところで
遂に悪い癖が起こる

今まで録った8曲全部捨てたくなる


1ッ曲録り終えては
今持てる全てを出し切ったと思えて来た7曲
プラスこの難航した8ッ曲目
全てが駄目に思える


あぁ吐きそうだ
もう寝ちまおう
と立った神経のまま仮眠すると
そこでも上手く弾けない夢を見る

気分転換にと風呂に入り
ほかほかに温まっても
モードは切り替わらない


あぁもう駄目だ
神に見放された見放された
と心の中で愚痴りながら
ほとんど無意識に自分の食事を作っていた


赤いウインナーを
タコの足に切って
炒めている自分にハタと気付いた



飯を食いたいと思っているうちは
生きたいという事なんだから
神に見放されてなどいないのだ

上手く弾けなくて
神に見放された気になっていたのは
単なるセンチメンタルであった



そして僕は一気に健やかに戻ったのであった
タコウインナーによって







「愚者の覚え書き」



















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1 コメント

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 (まき)
2016-11-18 23:17:23
決して見放しません

タコさんウインナー懐かしい(*^^*)

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