最高裁判所裁判官の暴走を許さない

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福知山脱線事故無罪、論点はそこか?

2017-09-18 16:59:40 | 日記
平成27(あ)741  業務上過失致死傷被告事件
平成29年6月12日  最高裁判所第二小法廷  決定  棄却  大阪高等裁判所

 快速列車の運転士が制限速度を大幅に超過し,転覆限界速度をも超える速度で同列車を曲線(本件曲線)に進入させたことにより同列車が脱線転覆し,多数の乗客が死傷した鉄道事故について,同事故以前の法令上,曲線に自動列車停止装置(ATS)を整備することは義務付けられておらず,大半の鉄道事業者は曲線にATSを整備していなかったこと,同列車を運行する鉄道会社の歴代社長らが,管内に2000か所以上も存在する同種曲線の中から,特に本件曲線を脱線転覆事故発生の危険性が高い曲線として認識できたとは認められないこと等の本件事実関係(判文参照)の下では,歴代社長らにおいて,ATS整備の主管部門を統括する鉄道本部長に対しATSを本件曲線に整備するよう指示すべき業務上の注意義務があったとはいえない。

Westlaw Japan K.Kの論評
産経新聞の号外

平成17年に乗客106人が死亡した兵庫県尼崎市のJR福知山線脱線事故で、取締役が刑事起訴されなかったことについて強制起訴した事件です。
産経新聞の解説が丁寧なので、引用します。

同小法廷は、当時はATS整備が義務付けられていなかった▽ATS整備は鉄道本部長の所管で3社長は個別のカーブの危険性に関する情報に接する機会が乏しかった▽社内で現場が事故危険性の高いカーブだと認識されていた事情も伺えない-ことなどを検討。2千カ所以上あるカーブのうち、現場カーブについて3社長が特に危険性を認識していたとはいえず、ATS整備を指示する注意義務はなかったと結論づけた。 指定弁護士側は、3社長が(1)現場カーブの急曲線化工事(2)過去の他社での脱線事故(3)ダイヤ改正による快速電車の増発-などを認識しており、「事故を予見できた」と主張していた。
 これらの事情について、小貫芳信裁判官は補足意見で「現場カーブの危険性やATS設置の必要性の認識に直ちに結びつくとはいえず、現場カーブでの事故発生についての予見可能性を認めることは困難」と指摘した。
 検察審査会の議決を経てこれまでに強制起訴された9事件13人のうち、3社長を含む5事件7人が無罪と免訴だった。


被害者としてはやり切れないでしょうね。裁判所の事実認定から見ましょう。
1)被告Aは平成4年6月から平成9年3月までの間、被告Bは平成9年4月から平成15年4月までの間、被告人Cは平成15年4月から平成18年2月までの間取締役で、安全管理者であった。
2)福知山線と東海道線を立体交差とするなどの尼崎駅構内の配線変更を行い、半径を600mから304mにし,その制限時速が従前の95kmから70kmに変更される線形変更工事(平成8年12月完成,平成9年3月運行開始)をした。


つまり、少なくともAが取締役のときの工事です。

3)通勤時間帯の快速列車の本件曲線における転覆限界速度は時速105kmから110km程度に低減し,本件曲線手前の直線部分の制限時速120kmを下回るに至った。
4)被告人らは,以上の各事情に加え,JR西日本では半径450m未満の曲線に自動列車停止装置を設置した


このとき、社内規則に従えば当然つけるべきでしたね。

5)被告人Aは本件工事及び前記ダイヤ改正の実施に当たり,被告人Bは平成9年4月の社長就任後速やかに,被告人Cは自ら福知山線にATSを整備する工事計画を決定した平成15年9月29日の経営会議又は遅くとも同年12月以降に行われたダイヤ改正の際,それぞれ,JR西日本においてATS整備の主管部門を統括する鉄道本部長に対し,ATSを本件曲線に整備するよう指示すべきであった。
6)平成17年4月25日午前9時18分頃,福知山線の快速列車を運転していた運転士が適切な制動措置をとらないまま,転覆限界速度を超える時速約115kmで同列車を本件曲線に進入させ、事故が発生しました。


ここで裁判官はこう評価します。
1)直接の原因は,運転士が,本件曲線の制限時速70kmを大幅に超過し,転覆限界速度をも超える時速約115kmで本件曲線に進入したことにある。
2)速度照査機能を備えたATSは,信号冒進のみならず,曲線等での速度超過の防止に用いることが可能であり,本件事故後に改正された国土交通省令及びその解釈基準等(以下「新省令等」という。)では,転覆危険率を指標として,駅間最高速度で進入した場合に転覆のおそれのある曲線にかかるATS等を整備すべきこととされたが,本件事故以前の法令上は,ATSに速度照査機能を備えることも,曲線へのATS整備も義務付けられてはいなかった。
3)保安設備であるATSの整備計画は,鉄道本部安全対策室が所管し,鉄道本部長が統括することとされており,曲線へのATS整備も鉄道本部長に委ねられていた。本件事故当時はまだ完成しておらず,実際に供用が開始されたのは本件事故の約2か月後の平成17年6月であった。


要するに、そもそも運転手がスピード違反したのが一番の問題であって、ATSは国で定められた基準では設置義務はないにもかかわらず、独自の判断で工事中だった。

4)JR西日本管内に半径300m以下の曲線は2000か所以上存在しており,それ自体珍しいものではなく,その中で特に本件曲線における脱線転覆の危険性が他の曲線に比べて高いという認識がJR西日本の組織内で共有されたことはなく,被告人らも本件曲線を脱線転覆の危険性のある曲線として認識したことはなかった。

さらに、この程度のカーブならそこら辺に沢山あり、特に危険ではなかった。

結論は、
(1)本件事故以前の法令上,ATSに速度照査機能を備えることも,曲線にATSを整備することも義務付けられておらず,大半の鉄道事業者は曲線にATSを整備していなかった上,後に新省令等で示された転覆危険率を用いて脱線転覆の危険性を判別し,ATSの整備箇所を選別する方法は,本件事故以前において,JR西日本はもとより,国内の他の鉄道事業者でも採用されていなかった。また,JR西日本の職掌上,曲線へのATS整備は,線路の安全対策に関する事項を所管する鉄道本部長の判断に委ねられており,被告人ら代表取締役においてかかる判断の前提となる個別の曲線の危険性に関する情報に接する機会は乏しかった。JR西日本の組織内において,本件曲線における脱線転覆事故発生の危険性が他の曲線におけるそれよりも高いと認識されていた事情もうかがわれない。したがって,被告人らが,管内に2000か所以上も存在する同種曲線の中から,特に本件曲線を脱線転覆事故発生の危険性が高い曲線として認識できたとは認められない。
(2) なお,指定弁護士は,本件曲線において列車の脱線転覆事故が発生する危険性の認識に関し,「運転士がひとたび大幅な速度超過をすれば脱線転覆事故が発生する」という程度の認識があれば足りる旨主張するが,前記のとおり,本件事故以前の法令上,ATSに速度照査機能を備えることも,曲線にATSを整備することも義務付けられておらず,大半の鉄道事業者は曲線にATSを整備していなかったこと等の本件事実関係の下では,上記の程度の認識をもって,本件公訴事実に係る注意義務の発生根拠とすることはできない。
(3) 以上によれば,JR西日本の歴代社長である被告人らにおいて,鉄道本部長に対しATSを本件曲線に整備するよう指示すべき業務上の注意義務があったということはできない。


要するに、すべては運転手が悪いという結論となりました。これは全員一致です。

裁判官小貫芳信の補足意見
本件は,被告人らが,「ATS整備の主管部門を統括する鉄道本部長に対し,ATSを本件曲線に整備するよう(被告人CについてはATSを本件曲線に優先的に整備するよう)指示すべき業務上の注意義務」を負っていたのに,これを怠ったとされる事案である。このような注意義務ないし結果回避義務があるというためには,被告人らにその義務を課すに足りる程度の認識ないし予見可能性がなければならない。この点,本件公訴事実は,「被告人らは,運転士が適切な制動措置をとらないまま本件曲線に進入することにより,本件曲線において列車の脱線転覆事故が発生する危険性を予見できた。」としているところ,これは,JR西日本管内に数多くある曲線のうち,本件曲線に特化された脱線転覆事故発生の危険性の認識と考えるのが相当である(脱線転覆事故発生の危険性の認識があれば,それによる乗客等の死傷の結果についても当然予見可能といえる。)。

小貫裁判官だけは、危険性に気づいて当然だよねと思ったようです。その根拠は
被告人らが前記のような予見可能性を有していたことを基礎付ける事実として,①尼崎駅構内の配線変更に伴う本件工事により,本件曲線の半径が減少し,制限速度が低減したこと,②JR西日本では,半径450m未満の曲線にATSの整備を進めており,本件工事によって本件曲線の半径がこれを大幅に下回ったこと,③過去に他社の曲線において速度超過による脱線転覆事故が複数発生していたこと,④ダイヤ改正により,快速列車の本数が大幅に増加したことが挙げられている。

その通りだと思います。鉄道会社に限らず、建設とかプラントの管理者だったら、わざと従業員が何かやらかしても大事故にはならないようなシステムを付けるのは常識です。そこは法に違反していないから、有罪にする理由はないとするようです。

裁判官としては、論点をここに絞ったのはどうなんでしょうか。
まず、運転手がなぜ大幅なスピード違反をしたのか、そこには何も議論がなされていません。よく言われているのは、時間通りに動かさないと説教部屋でのペナルティがあるからだとTV放送で取り上げられていましたが、あの説教部屋でのやり取りは到底日勤教育とは言えないレベルで、どこかの国会議員の罵倒とさほど変わらないレベルでした。
それほど時間が遅れる事を問題視するのであれば、運転手の配置換えなどをすべきだったのではないでしょうか。これも立派に安全管理義務の範囲です。この論点が、全くなされていないのです。
これは起訴した弁護士の問題なのか、それとも最高裁の裁判官の問題なのか。傍聴していないので分かりませんが、これは手抜きの裁判ではないのかという気がしてなりません。

第二小法廷
裁判長裁判官 山本庸幸 疑問
裁判官 小貫芳信 疑問
裁判官 鬼丸かおる 疑問
裁判官 菅野博之 疑問


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