さいかち亭雑記

短歌を中心に文芸、その他

三井修歌集『海図』

2016年09月19日 | 現代短歌
 この三井さんの歌集は、十首なら十首の一連を読んでいると、どこかに必ずちょっとした自然な技巧が凝らした歌があって楽しめる。そのさりげなくて控えめな感じがいかにも作者らしい。

その薄き髪に挿したる櫛をもて母は過去との交信をなす   

 これは、施設に入っている母の事を詠んだ歌。


施設には老人たちが屯するそれぞれ小さな雲を頭に乗せ 
         たむろ         ず    
  
 頭の上の雲が何を意味しているかは、いちいち解説しなくともわかるだろう。


わが秋の双耳に響く鳶の声此岸彼岸のはざまの声か   
  

 という歌があって、その次に、


空の鳶海の鵜こもごもわが裡を出で入りするなり島の夕べは  


 という歌をみた時、私はいいなあ、と思った。三井さんの歌境の深まりということを感じたのである。


判官が腹切る刹那背後なる人形遣いは恍惚とせり

マンションの最後の灯りが消えし後闇はしずかに身を延ばしたり

孤高とも連帯とも見ゆ山頂に左右に電線侍らする塔


 こんな具合に、秀歌がぞろぞろ出て来る。あらためて短歌を続けられるっていいなあ、と思ったのである。
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