ひとりごと

ミーハーなさばきちが、観た映画の感想をテキトーにつぶやいてます。
基本的にレビューはネタバレですのであしからず。

明日の記憶

2006年06月09日 | 映画「あ」行
誰もが人事とは思えない話だと思います。
自分がなるかもしれない。夫が、妻がなるかもしれない。まだ若い自分の親がなるかもしれない。きょうだいがなるかもしれない。
ありえない話じゃありません。
主人公佐伯雅行も、よくいるモーレツサラリーマンで、まさに今が働き盛り、家族を養い、いろいろあったけれど娘の結婚も決まり、孫も出来、幸せに暮らしていました。今までも、そしてこれからも、当たり前のように今の生活が続くと信じて疑わなかったのです。
それがある日突然、「若年性アルツハイマー」という病気によって壊されてしまう。この映画では、病気と向き合い闘病生活を続ける一組の夫婦が、実に丁寧に描かれています。

謙さんと樋口さんの演技に完全に圧倒されてしまった感はありましたが、お話としては正直、綺麗過ぎます。
映画の中では、夫が退職したあと妻の枝実子さんは働きに出ていたけど、実際は仕事してる場合じゃないと思うのです。
物忘れはあくまで初期症状。散歩に行って一人で帰ってこられるうちはまだいいけれど、進行すればついさっきのことだけでなく、家族のことも忘れてしまいます。そして身の回りのことが出来なくなり、食べ物を飲み込むことを忘れ、排泄を忘れ・・・。
映画では描かれなかった部分もたくさんあったと思うのです。一人娘は父の病気のことをどこまで把握してるのかも疑問だったし、現実の介護は、もっと壮絶だと思うのです。
しかし、それでも夫と妻、それぞれの心情はびっくりするくらいリアルに描かれていたと思いました。そこだけは、綺麗ごとじゃないように感じました。

佐伯は娘の結婚式の直後、会社を退職します。彼の病気は進行し、記憶は日々薄れ、今まで出来ていたことが次第に出来なくなっていく。恐ろしいのは、自分でそれをはっきり自覚しているということ。
佐伯はどうやら家庭を顧みない夫だったらしい。そんな夫が日々変わっていく。妻は被害妄想めいたことまで言い出すようになった夫に苛立ちを隠せず、夫の過去の行動を激しくなじってしまう。その直後のシーンは、とてもショッキングなものでした。あまりにショックで、しばらくボーゼンとしてしまいました。
夫は自分が自分でなくなっていくのをありありと感じているからこそ、「こんな男でごめん」と子供のように涙を流す。妻は「あなたが悪いんじゃない、病気のせいよ」と言いつつも、涙が止まらない。

・・・なんだか観ているこっちもどうしていいのかわからなくなってくる。これはほんとうに演技なのだろうか?
枝実子さんだって完璧な人間じゃない。献身的に夫を支えてはいるけれど、きっといつも大声で泣きたかったはず。
あっという間に何もかも忘れてしまったほうが、徐々に病気が進行するよりもずっと幸せなのかもしれないと思ってしまった。

映画が終わったあと、劇場から出てきた奥様3人組が、青白い顔をしながら「重い・・・」とつぶやき、無言で並んで歩いていたのが印象的でした。
奥様3人組だけじゃなく、多分私も含め、観た人みんなが深刻な顔をしながら劇場を後にしていたと思います。
ただ単に感動したとか、そういうんじゃなく、もっと深いところで胸をついてくるような、いろいろ考えさせられる映画でした。


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