小説になれるかなぁ

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「マナーとプライド(くるま編) 3」

2015-03-23 00:30:25 | 短編小説
・我がフリーウェイ


 T字路を左折すると、前方の視界が一気に開ける。それは気持ちいいくらいに。窓を開けていれば、確実に磯のにおいも飛びこんでくる。ただ、上り方向の流れの悪いことが欠点である。そんな通りがある。

 ゆったりとした片側二車線、制限速度は終日五十キロ。右、左へとつづくゆるやかなカーブのコンビネーション。そして一キロ超の直線がある。それらをクリアすれば、海にかかる大橋(天空橋と呼ばれている)が出現する。

 大橋の直前まである中央分離帯はコンクリートで仕切られ、その上を反射材のついた白いポールが数メートル間隔で並んでいた。ただ、Uターン可能の箇所が所々あり、分離帯はぷつぷつと途切れてもいた。

 車の流れが滞るのは、信号付きの交差点のせいではない(大橋に到着するまで、わずか二回しかお目見えしないのだが)。たぶん、Uターン箇所の多さが、飛ばせるようで飛ばせない仕様を作りだしているのだった。


 午前十時。


 それほど渋滞する時間帯ではない。が、先ほどから、走行車線を法定速度重視のトラックや軽自動車の連なりがカルガモ走行よろしく進んでいる。それに従って、走行車線はしだいに流れが滞ってきていた。

 後方から、追い越し車線をもともと走行してきたと思われる乗用車がかっ飛んでいき、走行車線の我々を置き去りにしていく。ただ、それにつられて走行車線から追い越し車線に飛び出ていく車はあまりいない。皆、特段急ぐ用事がなければ、そのままの流れに準じていても、容易に進めることを知っているからなのだろう。

 時速五十~五十五キロほどの間を行ったり来たりしながら、車列は進む。我が商用車の白いミラバンは、列の最後方にいた。前車はドリンクメーカーの営業車のようで、やはり同胞とも呼ぶべき白いミライースだった。

 車列の遅さとは裏腹に、車内に入りこんでくる磯まじりの初夏の風はさわやかそのもの。気持ちが焦る方向に揺らぐことはなかった。しばらくすると、一台、また一台と、追い越し車線で先を行ったはずの車たちが止まったように後方へ消えていく。


 ほら、急ぐことはないんだ。

 そう強く実感する瞬間が訪れようとしていた。
 

 追い越し車線の車は、止まったよう、ではなく、実際に止まっているのだった。例のUターン箇所で。それらの車のドライバーの特徴といえば、恐らくは土地勘のないままに、この通りになだれこんできてしまった者たちと言えるのかもしれない。ナビを信じればこそ、迷いなどないはずなのに、迷いこんでしまうこともある。


 どうも行き先が近づかない。

 だいいち、さっきから自分の車が海の中を走っている。

 推奨ルートが海上走行?


 そんな例が全てではないが、不安な思考で頭の中が満たされると、ついには「道まちがえた!」と決定づけられる。自らと同じ境遇の車も散見できればなおのこと。Uターンは、勇気ある決断とも呼べるのだった。

 一つ目の信号を抜けるころ、我がミラバンの後ろに薄いブルーのようなグレーのような車が猛然と迫ってきていた。ルームミラーで見たところ、ボディの造詣が明らかに国産車のそれとは異なっている。大排気量の輸入車であることはまちがいなかった。

 車速の遅さは言うべくもないのに、ミラバンの真後ろにぴったりと鼻先をつけて煽(あお)る、薄いブルーのようなグレーのような輸入車。それはもう、ぶつかるのではないのかというくらいに。緊張感が生ずる。もちろん、いい思いなどしない。

 最近匂いが気になってきたミラバンの排気ガスを、これでもかと嗅いでいる輸入車。いよいよ、ルームミラーいっぱいに輸入車の前面が映し出された。しびれを切らした輸入車は、ウインカーも出さずに追い越し車線へと流れ飛んでいく。

 ガウー、という獰猛(どうもう)なエンジン音。輸入車の後姿は見る見る遠くなっていく。しかし、十数秒と経たないうちに、立ち往生することとなる。Uターン箇所で車が二台ほど連なっていたからだ。

 走行車線へ戻ろうにも、その流れは滞ることがないので戻れない。輸入車はセンターラインよりに車の鼻先をじりじり向けてきたが、走行車線に入れてやろうなんてお人好しの運転者はいなかった。最終的にはミライース、そして我がミラバンにまで横をいかれることになる。


 そこで輸入車の怒りのスイッチがオン。


 再びミラバンのお尻をかすめるほどの勢いで走行車線に戻り、即座に追い越し車線へ脱出。その性能を見せつけるかのように直線をフル加速していく。前方にUターン車が現れても今度は躊躇(ちゅうちょ)せず、走行車線へ車を無理矢理ねじこみ、追い越し車線へと脱するジグザグ走行を開始した。無論、ウインカーを点滅させることなどなく。


 よせばいいのに、みっともない。


 走行車線で走っていたほとんどのドライバーが、そのように感じていたことだろう。あわれ、輸入車は二個目の信号で捕まり、暴走は止まった。ただ一台きり、追い越し車線の先頭にいる。

 そこへ、ぎっしり埋まった走行車線の車列が到着する。輸入車の運転者はサイドミラーをちらちら見ながら、じりじりと進んでいる。まだ赤である。青になったとたん、大橋へと向かう残りの直線であの暴走を再現することは想像に難くない。


 薄いブルーのようなグレーのような輸入車の名は、よくわからなかった。ただメーカーのシンボルなのか、ライオンのような銀色のマークがついていた。二ドアクーペであった。