小説になれるかなぁ 

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「あなたへ届けたい」

2016-12-19 21:25:32 | 短編小説
バスは途中下車。


彼女の住んでいる街で降りる。


一緒にいられるのなら、労は惜しまなかった。


いつも肩を寄せあうのは、大きな病院の前の、芝生が生えている土手。


ベンチもあるけれど、だいたい二人して芝生の上にすわりこむ。 


勇気を出して、そっと手をつないだあの日。


彼女はびっくりしていた。


でも、許してくれた。



「ここ好きな場所だし、会社の人もいないだろうから」


「勘(かん)ちゃんにねえ、送っておきたいものがある。見てほしいものがあるの」


「勘ちゃんを、傷つける前に送っておきたい。知っておいてもらいたいの。私は嫌な女かもしれないってこと」



でも、こちらの携帯には容量が大きすぎて。


モノのダウンロードがなかなかできない。


とまどってしばらくごまかしていると、



「見てくれた? あれがすべて。面と向かっているのに、口で言えずにごめんね」



いや、ガラケーだから。


どうしたものか。


彼女は唖然としていて、で、笑うしかなかったようだ。



「もー……。勘ちゃんのそういうところにだまされたのかあ。でも憎めないのよね」 



こちらは何が何だかわからなかった。


陽が暮れようとしていた。



「いいよ。それならそれで。見られなかったのなら」 


「キスしてイイ?」 



突然の彼女からのキス。


二人転がるように落ち、抱きあった。


彼女は笑って、そして泣いた。



「勘ちゃんの再来月の誕生日、お祝いやれたらいいね。にぎやかに」



ほかに誰か誘うってこと? 



「それはわからない」



えー、教えてよ。



「ふふふ」



彼女とは、それっきりになった。




彼女はずっと会社に来なかった。  


時を経て、入院していることが判明。 


以前から通院を繰りかえしていたという。


見舞いも、誰も来なくていいと、会社には断りがあった。


メールも返ってこない。


何一つとして納得できなかった。

 
あきらめかけていたころ、やっと、勘ちゃんの誕生日の日、病室に来てくれてもいいよ、という返信が。


でもその日を迎えることなく、


彼女は逝った。



誕生日に届いたのは、一通の長いメールと、あの時見られなかった映像だった。



「無視しちゃいそうでこわかったので、それは、よくないと思ったので、期日指定で送り直します。ちゃんとこのメール届いているかな? 


 お誕生日おめでとう。いろいろ考えたけど、やっぱり二人では祝えない。三人、でいい? 三人でなら臆病にならず、祝えるかも。もう一人は、この前見られなかったという映像に……、います。画質を少し落としてもらったのでどうかな? 今度は見られるといいね。


 本当はあのとき、勘ちゃんが見られていたら終わっていたようなものを、私の意志が弱かったのか、引きのばしたようなものになってしまったね。とにかく、私が勘ちゃんに送るすべてのこたえです。


 こんなにして、ひきょうでごめんね。年下の勘ちゃんに告白されてびっくりしたけれど、とてもうれしかった。本当だよ。うそじゃないよ。あなたの触れた手、指、体温、横顔、まなざし、そのほかぜんぶ、思いかえすといとおしくてせつなくなる。


 こころが弱っていたからかな。ささえがほしいと思ったのかな。不純な動機で勘ちゃんと一緒にいたかったのなら、私には天罰がくだると思う。


 ちがう人生があったなら、ちがうかたちで会いたかった。


 好きって言ってくれて本当にありがとう。


 ハッピーバースデー、トゥーユー。本当にごめんね」



添付された映像を、見る。



「はい、今日は検査入院でここにいます。そしてぇ……、これがウチのチビちゃんです。お名前は?」


「うひぃー。はずかしい」


「勘ちゃんに教えてあげなきゃ」


「はずかしいよぉ。ままがいってあげて」


「えーママは言わないよ。ほうら、勘ちゃんが待ってくれてるよ」


「うーん、ほのかです。きゃっ」


「はい、ほのかちゃんね。何歳ですか」


「これ」


「はい、指さんが四つで?」


「よんさい、きゃっ」


「はずかしがりすぎー! というわけで、勘ちゃん。私の娘です。わけあって二人で生きています」


「えーふたりじゃないよ。たまにね、あのね、おばあちゃんとおじいちゃんがきてくれるの」


「そう。おばあちゃんとおじいちゃんがね。ほのか好きなのよね」


「うん、ふたりともだいすき。でも、ままがいちばんすき」



 
彼女はおそらく、寝間着姿で病院のベッドに横たわっている。


最後に会ったころと変わらない、元気そうな表情。


ほのかちゃんと呼ばれた女の子は、そのベッドの傍らで飛びはねるようにしている。


ほとんど彼女とほのかちゃんの顔のアップ。


画面はせわしなく揺れていた。




「髪のびたねー。ほのか。そろそろ前髪じゃまになってきた? そうでもない?」


「そうでもないよ。そうでもあるよ。どっちかな。ぎゃはは」


「わっ、つばがとんだ。今日はハイテンションですねえ。はーい、ほのかはこんな感じで明るい娘です。よろしくお願いします」


「はいはーい、おねがいしまーす」


「じゃあ、勘ちゃんにバイバイしようか」


「えー、まだほのかあったことないのに? ばいばいってへんだよぉ」


「そう? そうか。そうだよね。ごめん。これは失礼」


「そうよぉ。しつれいしちゃうわ」


「じゃあ、なんて言う?」


「ばいばいきーん!」


「言うとおもったぁ」


「いいの、ばいばいきんで。ままもいっしょに、せーの」


「えー? 言うの? しょうがないな。じゃあ、せーの、ばい。ありゃ合わなかった。もいっかいね。せーの」


「ばいばいきーん!」



ほのかちゃんのとびきりの笑顔。


ひかえめに手をふる彼女の微笑んだ顔。


映像はそこで消えた。


わずか三分たらずの記録。



あのとき見ることができていたなら、どう思っていた?


ふざけるなよ。


あらかじめ告げられていたなんて。


目の前が、


目の前が、水気にみたされていく。




ひきょうなことなんて一つもないよ。


こちらをどこか遠ざけようとしていたのは、理由があったんだね。


彼女の病気と付きあうことのできないこと、ほのかちゃんの存在のこと。


鈍感だった自分が、彼女を知らぬうちに苦しめていたなんて。


彼女は、彼女なりのしんらつな方法で、でも、最低限の傷つけでおさめようとしてくれた。


その心づかいがたまらなく、胸をしめつけ熱くさせる。


だから余計にでも、彼女によりそってあげたかった。


いらぬしわざで、彼女の心の鍵をこじあけてしまったのはよけいなことだったのかもしれない。


でも、彼女はすべてだった。



はやく気づいてあげればよかった。


せめてもう一度、彼女に会いたい。


もう遅いだなんて、信じたくない。


信じたくないよ。
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