星を見ていた。

思っていることを、言葉にするのはむずかしい・・・。
良かったら読んでいってください。

眠り男(3)

2012-08-11 13:26:09 | 眠り男
その日の朝はいつものとおり出勤した。
駅に近づくと、急ぎ足のサラリーマンや学生達で駅は通常並みに混雑していた。間違いなく、これは休日の朝ではなく平日の朝の混雑ぶりだと思った。
いつもの車両のいつもの場所で吊革につかまり、読みかけの本を開いた。本を読もうとしたが集中できなかった。それで音楽を聴こうと思いイヤホンをした。多少周りから遮断されている感じはしたが、音楽そのものは何も聞いてないも同じだった。

寝過ごしてしまっただけだ、と言えばそうなのかもしれないが、自分の中から一日近くが抜け落ちてしまっている、そういう感じだった。ふと見上げた車内広告にはデパートのセールのポスターがあった。セールの期間の日付を見た。年も月も合っている。僕は馬鹿馬鹿しいと半ば思いながらも、自分だけが何か違う時間軸を生きているのではないかという
錯覚に陥りそうになった。時空のひずみにはまって、僕だけ時間の過ぎるスピードが遅くなっている、とか。ということはここに居合わせた電車の乗客達は僕よりほんのちょっと未来を生きている人たちなのか、それとも僕が未来を生きていてこの人たちがほんの少し過去を生きているのか。時間を盗まれるってこんな感じなのかもしれない。記憶を盗まれるのもそうなのかな。記憶が盗まれるっておかしいな忘失か。

やはり馬鹿馬鹿しい。無呼吸症候群とかそういったものなのかもしれない。睡眠はとっていても体が疲れを察知していたのかもしれない。それとも案外人間は起こされなければいつまでも眠れるものなのか。世界最長睡眠時間て何時間なんだろう。ギネスとかそういうのに記録があるのだろうか。案外すごい何日も眠り続けた記録があるのかもしれない。

前の座席に座っている中年の男が新聞を広げていた。新聞の日付は確かに月曜日だ。やはり今日は僕の思っている今日で間違いない。そういえば新聞を見てくるのを忘れた。あまりのショックにいつもどおりの行動ができなかったのだ。目の前の男が株価のチェックをしているというのに僕は僕の無くなった一日に頭を巡らしている。空想小説じゃあるまいし。吊革にぶら下がりながら朝からこんなことを考えている自分が嫌になった。今日は月曜日だ。これから先の一週間を思うと、ひどく長いものに感じた。

その日の夜、旅行から帰ってきた妻は旅行の工程と食事内容などを一通り話し終えると「で私のいない間何してたの?」とついでのように聞いてきた。
「何って、別に。」
僕はこう答えるしかなかった。土曜の夜寝たきり、月曜の明け方まで目覚めなかった、なんて話したら、普段から僕の睡眠異常を気にしているのだから、何を言われるのか分からなかった。
「そうなんだ。どうせ私いないし飲みにでも行ったかと思ったわ。」
そう言いながら洗濯物や化粧道具などを鞄から取り出し片付けだした。
「でも、家が落ち着くわね。やっぱり。お土産においしいもの買ってきたから今日はそれ食べよう。」
妻はにこにこして台所に立っていった。そうだ、こいつがいると僕も落ち着く。今日は一緒に寝る人がいるのだから、次起きたら水曜だったなんてことはないだろう。僕は妻の後を追って台所に行き、一緒に食事を作り始めた。


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