星を見ていた。

思っていることを、言葉にするのはむずかしい・・・。
良かったら読んでいってください。

fortune cookies(1)

2008-09-27 16:38:59 | fortune cookies
 夜中に突然電話のベルが鳴る。静まり返った暗い家の中でその音は異様に大きく響いて聞こえた。どうせ間違い電話だろうと、重く感じる体を起こすのを躊躇しているうちにベルはさらに4,5回鳴った。だが切れる気配はまったくしない。あまりに大きく鳴り響く音に耐えられずに受話器を上げる。
 「もしもし。」
 暗闇の中で私は間違え電話であることを決めつけるようにぶっきらぼうに呟いた。声がうまく出ない。
 「あ、里江、ごめん寝てたね。まだ起きてたかと思って。」
 声は母だった。こんな夜中に何の用だろうと思いながら、私は壁の時計のあるほうを向いた。だが時計は暗くて文字盤が見えなかった。
 「ん、寝てた。なに、こんな時間に。」
 一瞬父がどうかしたのかと思った。交通事故に遭ったとか何か。だが母の声が落ち着いているところを見るとそれはないだろうと思い直した。
 「東京のね、おじさんが亡くなったのよ。さっき電話があって。」
 東京のおじさん、とは母の妹の旦那にあたる人で、私から見たら叔父に当たる。私はその言葉を聞いてもあまりショックではなかった。その叔父は1年ほど前に肺がんの手術を受け、その後抗がん治療をしているというのを母の話や親戚の集まる席で前々から聞いていたからだった。
 「そうなの。やっぱりだめだったのね。」
 私は思ったままを口にした。母は私が朝早く仕事に出かけるのを知っているので、日程が決まれば仕事を休んで通夜や葬式に行かなければならないかもと一通り言うと電話を切った。私はそのままベッドに戻り枕もとに置いてある目覚まし時計を見た。夜中の1時半だった。1時頃布団に入ったのでちょうど寝入りばなに電話があったのだった。ぼんやりとした重い頭で叔父とその家族のことを思った。今頃は病院でばたばたとしているのだろうか。抗がん治療をしているのは親戚中皆が知っていることだったが、こんなに早く病状が悪くなるという感じではなかったはずだ。叔父には一人娘がいた。私と同い年のその従姉妹のことを叔父は溺愛していた。可愛くて可愛くて仕方のない感じが傍から見てもよくわかった。それほど愛されていた父親が亡くなるというのはどういう心境なのだろうか。私にはうまく想像ができなかった。

 傍らで眠っていた信次がこちらに腕を伸ばした。どうした?低い声で聞く。私は母から電話があり、叔父が亡くなったのだと説明した。そうか。大変だな。あまり感情を込めずにそう言った。私にさえ特に感情が湧かないのだから彼はもっと湧かなくて当たり前だ。信次は私の腰に手をまわして私を引き寄せた。私はまた心地よい温度の布団と体温に包まれながら、いつの間にか眠ってしまった。

 朝起きるともう信次は居なかった。なんとなくがさがさと身支度する音は聞こえていたけれども私は起きることができなかった。そして夜中の電話を思い出した。ああ、叔父さんが亡くなったのだった。現実味はないけれども確かに電話を受けたのははっきりと覚えていた。私はコーヒーを入れるためのお湯を沸かしながら叔父のことを少し考えた。私の記憶にある叔父はいつもダンディなきちんとした身なりの姿だった。お正月祖母の家に親戚が集まると、いつも三つ揃えのスーツを着て来ていた。大柄で顔立ちのはっきりとした叔父はとてもその姿は様になっていた。農家や大工をしている者ばかりの親戚の中で、その叔父だけが少々浮いているような気もした。だが叔父は毎年毎年ストライプやくっきりとしたブルーや時にはピンクのワイシャツを着てきっちりとネクタイを締めていた。お酒を飲むと長い脚を投げ出して眠そうな目をしていた。他の親戚よりもお酒に弱いようだった。ほかのおじさん達が大きな声で話たり歌を歌ったりからんだりしている中で、余計に叔父はまともでダンディな人に見えた。私はあまり話をしたことはなかったが、同じ年の娘がいるのでよく家には遊びに行っていた。

 結局その翌日が通夜でその次の日が告別式だとまた母から連絡があった。翌日は土曜日なので私は会社を休む必要はなかった。土曜の朝起きると信次にメールをした。たいてい土日のどちらかに家にくることが多いのだ。メールをしてしばらくすると携帯に電話が架かってきた。
 「今日は何時に出掛けるの?」
 「お通夜に間に合うように行くから昼過ぎには出るわ。」
 まさか今日会おうというのだろうか。
 「これから行っていいかな。そして通夜の場所まで送って行くよ。」
 「でも、昼過ぎには出かけるから時間がないわよ。それに・・。」
 私と信次が付き合っているのを親戚は知らなかった。というか母でさえ知らないのだ。見られてまたいちいち詮索されるのはごめんだった。
 「お前の喪服姿が見たいから。」
 ふざけるように信次は言った。
 「ばかね。まあ来るなら来れば。でもそんなに時間はないわよ。」
 送って行ってくれとは言わずにとりあえずそう答えると、信次はじゃあこれから行くから、と言って電話を切った。どうしてこんな忙しい日に来るのだろう、と少々思いながらもそれほど嫌な気はしなかった。送って行ってもらっても葬儀場なら特に問題はないだろう。タクシーで来たとでも言っておけばいいのだ。

 信次はそれから40分ほどで家にやってきた。
「なんだ、まだ喪服じゃないんだな。」
 出掛けるまでにはまだ3時間ほどあった。今から黒い服を着ていたら埃がつきそうだ。
 信次は朝のせいかいつもより爽やかな印象でそのせいか年よりも若く見えた。やはり私は顔を見ると安心してしまって首に手をまわして抱きついた。
「ぎゅとして。ぎゅーって。」
 子供みたいなことを言ってしまったが、私はこれから親戚の人々に会うということに気遅れしていた。仕方がないことだとは言え憂鬱なのだ。
 「今日お通夜だから帰るの遅くなるわ。それに明日は告別式だから、会えない。」
 だからこうしていて、と言わんばかりに言ってしまった。
「おいで。」
信次が私の手をとって寝室に向かう。私たちは私が出掛けるまでの2時間ちょっとをそこで過ごした。 

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コメント
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2008-09-22 02:27:56 | つぶやき
なんでこんなに雨ばっかり降ってるんだろう。

鬱陶しい。


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