本を読んだらメモるblog

自分用読書メモです。感想文や書評ではありません。小説のネタばれは普通にありますのでご注意。

パービッツ・F・ラッド『プロジェクト・コスト・マネジメント』(生産性出版) (その1)

2017年11月19日 | ビジネス

パービッツ・F・ラッド『プロジェクト・コスト・マネジメント』(生産性出版)
    
原題:"PROJECT ESTIMATING AND COST MANAGEMENT" by Parviz F.Rad(2002)
コスト見積もりの手法についてPMBOKに沿って解説
コスト、スコープ、タイム、調達とリスクを対象領域とする
良くも悪くも教科書的な内容で、読み物というより学習参考書に近い
 
■メモ
    
p16
予算はもともと概算であり正しいという保証はない
見積もりを基に予算取りをする場合、見積もりが大まかな概念見積もりか
詳細なボトムアップの積み上げ式によるものか確認すべき
プロジェクト計画の初期に予算決定がなされる場合
初期見積もりは正しくないという前提で変更可能性が認められるべき
見積もりはプロジェクトのコスパを測る定量的な指標を作成する根拠となる
見積もりの正確さに応じて適切なコンティンジェンシーや予備費および
柔軟性を予算に組み入れるべき
先進的な組織では詳細があきらかになるにつれ予算は何度か微調整を経て改善される
 
p17
一般に成果物に関する記述をスコープとか仕様と呼ぶ
スコープ:顧客の最終目的を広い意味で表す
仕様:より詳細な内容を意味する
システム開発のプロジェクトでは
成果物をスコープとは言わず、
パフォーマンス特性を要件と呼び、
ハードウェア特性を仕様と呼ぶ

※よくわからない記述。
パフォーマンス特性を性能要件、外部仕様的なものを機能要件と呼ぶのが普通ではないだろうか?
 
p18
スコープドキュメントには顧客の要望(Wants)とニーズ(Needs)を記述
要望:あれば好ましいがプロジェクトの成功に必須ではない項目
ニーズ:プロジェクトの成功に不可欠な項目
 
p20
サブコントラクターの数や契約方針についてはプロジェクトの趣旨や
ビジネスプランに沿って注意深く評価すべき
初期費用が安いという理由だけでサブコントラクターを選択するようなことは
決してあってはならない
 
p29 ブレークダウン・ストラクチャーの種類
組織ブレークダウン・ストラクチャー(OBS)
リソース・ブレークダウン・ストラクチャー(RBS)
ワーク・ブレークダウン・ストラクチャー(WBS)

RBSは基本的にプロジェクトで使う全リソースの一覧
WBSは3つの中で最も作成が難しく、最も便利
プロジェクトにかかわる以下のすべての項目におけるロードマップを提供
・作業定義
・コスト見積もり
・予算作成
・時間見積もり
・スケジュール
・資源割当
・支出
・プロジェクト計画
・生産性
・パフォーマンス
 
p33
WBS要素の分解基準
・成果物指向
 中間成果物
 機能システム
 物理的位置
・スケジュール指向
 タスク、作業
 作業順
・リソース指向
 専門分野
 管理単位
 予算科目

WBSの最下層レベルに具体的作業が含まれる
上位レベルの大部分は成果物指向の分解を行うのが好ましい
 
p37
WBSの上位
 
p40
WBSのレベル1に成果物以外の項目を入れると分解に歪みが生ずる
また計画の精度を損ない、スケジュールやコストのモニタリングに必要な焦点をぼかす
 
p52
リソースとはプロジェクトの遂行に不可欠で
入手するためにコストを伴うすべてのもの
たとえば労働力、機器、ライセンス、税金など

(※ということは、時間はリソースに入らない?工数(労働力x時間)に含まれているということか?)
 
p57
測定単位の一貫性が重要であることの例として
1999年に失敗した火星気象探査プロジェクト
操縦グループではポンドヤードの米英単位系を使い
他のグループではメートル法を使っていた
 
p61
建設や生産分野のプロジェクトでは全体コストの約40~50%が人件費となる
システムやソフトウェア開発プロジェクトでは約75%におよぶ
 
p71
組織に寄っては最初の見積もりを概念見積もりまたは概算見積りと呼ぶ
最初の見積もりには類推見積もりを使用することが多い
ソフトウェアやシステム開発プロジェクトでは類似プロジェクトが少ない
建設や生産プロジェクトほどデータが蓄積されていない
プロジェクト初期段階の見積もりの際、すべての情報が得られており
望ましくないリスクの発生確率が高い
以降のスコープ変更もないと考えるのは非現実的
変更があることをあらかじめ考慮して概算見積りを作成するべき

ステークホルダーがプロジェクトの選定を行う場合、
最良のコスト管理プロセスを実施しプロジェクトマネージャーが
最善を尽くしたとしても初期の見積もり精度には
一定の限界があることを理解しておく必要がある
 
p77
通常、プロジェクトが進展しすべての情報が得られた時点で
見積もり精度は±3%と言われる
過去の情報が豊富な建設や生産系のプロジェクトでも
プロジェクト終盤に±3%より高い精度を期待することは難しい
逆に過去の情報がほとんどない場合、+233%まで悪化することもある
つまり実際のコストが見積もりの333%まで膨れ上がる可能性があるということ
過去の建設やシステム開発で実コストがそれ以上になったケースもある
 
p82
ソフトウェア開発プロジェクトにおける係数モデル見積もりの入力変数
・信頼性
・DBのサイズ
・技術の複雑さ
・成果物の規模
・プログラムの行数
・ウェブサイトのページ数
・DBのレコード数
・1秒間あたりの問い合わせ数
・最大エラー率
・ファンクションポイント
・プロジェクト環境
・チームの特徴(技術レベル、実施場所、所属部署など)

係数モデルによる見積もりは通常プロジェクトの仮予算として用いられる
プロジェクト期間中の見積もり改善に応じて大幅な予算の修正が認められない限り
最終的な予算の作成に係数モデルの結果を用いることは非常に危険

※なぜ危険なのかの理由は書いていない。精度が低いからということか
 
p86 比率見積もり
たとえば発電所の主なタービンと発電機にかかるコストは
発電所の総コストのほぼ30%であることがわかっている
また建設プロジェクトの総コストは資材と設備にかかるコストの2倍である
施設建設の設計コストは総予算のほぼ8%
システム開発プロジェクトでは上位レベルの設計コストは全体の約30%
コーディングにかかるコストと工数は20%

       
(つづく)


中原圭介『中原圭介の経済はこう動く [2017年版]』(東洋経済新報社)2016年 (その2)

2017年11月15日 | 経済

中原圭介『中原圭介の経済はこう動く [2017年版]』(東洋経済新報社)2016年
    
■中国経済編
    
p145
BISの2016年3月の統計によれば、中国の民間債務は
GDP比で200%超となり危険水域に達していることを示した
FRBが利上げを急ぐなら欧米の銀行も中国からの融資の回収を急ぐことになる
そうなれば多くの中国企業が破綻する
 
p164 経済成長が止まったのに賃金が上がり続ける理由
1.若い世代の労働者が慢性的に不足
 農村部から沿海部へと大量の労働者が出稼ぎに行く時代は終わり
2.中国政府が民衆の不満を抑えるため地方政府に賃上げを迫っている
 
■日本経済編
    
p187
実質賃金は2016年1月に前年同月比で下げ止まり
アベノミクス以後初めての上昇基調を見せ始めている
しかしこれは円高による輸入物価低下による影響であり、アベノミクスの成果ではない
 
p189
GDPの6割を占める個人消費の落ち込み
2015年の個人消費は298兆円にすぎず、
アベノミクスが始まる前年の2012年の300兆円よりも少ない
 
p201
筆者はアベノミクスの始まりから一貫して
「日本は地道に成長戦略を勧めて行きながら、
米国の景気回復と世界的エネルギー価格の下落を待つべき」と
主張してきた
ところがアベノミクスによって、日本人の生活は
何もしなかったときよりさらに悪くなってしまった

個人消費が2年連続でマイナスになったのは2008-2009年と
2014年-2015年の2回しかない
2008年に0.9%減、2009年に0.7%減だったのに対し
2014年は0.9%減、2015年は1.3%減と戦後最悪の減少率

今の日本に求められているのはドイツのシュレーダーが行ったような構造改革
 
p206
アベノミクス以前の2010-2012年の3年間で生産年齢人口は132万人減少
アベノミクス以後の2013-2015年の3年間では310万人減少した
人手不足になるのは当然であり、有効求人倍率が上昇するのは
初めからわかっていた
多くの中小企業はこの構造的な人手不足のため
今の採用に結びつかなくてもハローワークに求人を積み上げている
このため求人数が実態より嵩上げされ有効求人倍率は高めに出る
経済が好調だからではなく、アベノミクスの成果とは言えない
 
p209
税収の増加は企業活動の活性化によってもたらされたのではない
2013年以降も日本企業全体の売上高は増えていない
増えた税収は円安にともなうインフレ税と
消費増税という家計への二重課税によってもたらされた
 
p212
企業の倒産件数を見るときは倒産件数だけでなく
「休廃業・解散件数」を合わせて見ないといけない
そのほとんどは赤字で事業継続が不可能なため休廃業・解散をしているという事実がある
この両者を合わせた数字は3万5000件超の高水準を維持
2014年の休廃業・解散件数は倒産件数の2.6倍、2015年は3.0倍
 
p219
ドル円相場が行き過ぎた円安水準から修正されることにより
個人消費が2015年を底にして増加に向かうという予測が立てられる
 
p223
マイナス金利政策によって、年金制度に深刻な打撃が与えられる可能性
長期金利がゼロ水準まで下がることによって
これまでのような安全な運用が困難になる
安定志向の企業年金は立ち行かなくなる可能性
年金不安は高まり、日本人の貯蓄性向をより高める結果になる
 
p243
購買力平価との乖離からドル円の動向を見ると
94円91銭(3%乖離) 88円06銭(10%の乖離) 78円28銭(20%の乖離) の
3つのプライスを軸にして世界経済や米国経済の趨勢を見極め
柔軟に対応していく必要
半年に一度くらいは最新の購買力平価で乖離率を再計算するようにしたい
参考:https://www.iima.or.jp/research/ppp/index.html
 
p247
クルーグマンが日銀の量的緩和は失敗かもと言った報道が
中国リスク、米国利上げととあいまって
海外投資家の日本株への慎重姿勢を強めていた
海外投資家の売り越し額は
2016年1月~8月までの合計で5兆円を超す
海外投資家は2017年になっても全体としては売越しを続ける可能性が高く
あと5兆円~10兆円を売り越す余力を持っていると考えられている

※これは外れだろう

日本株は2016年2月にボックス相場に入っている
上値1万7905円~1万4865円の3000円幅のボックス相場
これは暫く続く
 
p250
2017年の株価見通しはボックス相場継続
ボックス相場を下に抜けるリスクがあるとすれば
米大統領線でトランプ候補が勝利した場合しかない
クリントン候補によほどのスキャンダルか健康問題が出ない限り
このリスクは無難に消化できると思われる

※ここは完全にハズレた
トランプが買ったらボックス下抜けという予想も外れ(逆に上に抜けた)
クリントンが勝つという予想も外れ


2017年にはボックス相場を脅かすイベントが相次いでやってくるので注意
4-5月のフランス大統領選
6月のフランス国民議会選
9月のドイツ連邦議会選
ルペン大統領が誕生せず、メルケル政権が崩壊しなければ
株式市場は2016年の安値を下回ることはない
中国経済の減速、米国経済の減速、欧州の金融システム不安が
2017年のうちに深刻なリスクを招くことはない

※ここは当たり

2017年の予想は2016年よりもかなり難しい
その場その場での判断が重要になる


以上
       


中原圭介『中原圭介の経済はこう動く [2017年版]』(東洋経済新報社)2016年 (その1)

2017年11月12日 | 経済

中原圭介『中原圭介の経済はこう動く [2017年版]』(東洋経済新報社)2016年
    
2016年11月出版。2015年に出た2016年版の続きとしてシリーズ化を目指したものらしい
2015年の同時期に出た[2016年版]も読んだ覚えがあるので去年のメモを見返してみようと
検索して見たが見つからなかった。メモを取らなかったかうっかり削除してしまったらしい。

本編では、驚いたことに2016年版の内容を振り返りどのくらい当たっていたかを
外れたところはなぜ外したのかを著者自ら検討している(2016年版はかなり当たっている)のだが、
さらに驚いたことに著者のblogにおいて、トランプ当選とその後の相場を予見できず
2017年版の予測が大きく外れてしまった責任を取って2018年版は出さないと述べている。

自分の発言にここまで責任を持とうとするエコノミストは初めてかもしれない。
真摯たろうとする姿勢には深く敬意を表したいが、そもそも相場の予測というのは無理なのではないのか。
市場は複雑系であり、本来確率的にしか記述できないもの
因果論的な推論によって予測しきるのは神ならぬ人間には難しい。
それでも読者は因果論的な物語によるもっともらしい「説明」を求めるので
そういう無理な需要に応えるためにエコノミストという商売があるのだと思う。
もちろん予想が当たらないよりは当たる方が良いに決まっているが、
読者が求めているのは当たる予測というよりも「世界についての納得感のある説明」
そしてその説明によってもたらされる安心感ではないだろうか
その需要に応えるという点で著者はかなりの才能に恵まれているのだから、
むしろ今回の予測が外れた理由をとことん分析して解説して見せて欲しいところである。

なおこの本の出版時点ではトランプ当選はまだ決まっていないため、クリントン就任の前提で書かれている箇所がある。
 
■米国経済編
    
p6
日本でバブル真っ盛りだった1980年代後半
物価上昇率は1%台後半であった
 
p24
アメリカの個人消費が堅調に推移
住宅バブル崩壊後の家計に余力が出てきた証拠
個人消費の伸び率がGDP伸び率を上回る水準を保っているのは
原油安による低インフレが国民生活に余力を与えているため
 
p28
GDPが正確な経済指標であるとは考えていない
時代の流れによって付加価値のあり方は変わる
GDP成長率と国民生活の向上に相関性があったのは
グローバル経済が始まる前の2000年頃まで
以後はDGP右肩上がりでも国民生活が悪化の一途を辿っているという事実
 
p34
米国製造業の直接間接の雇用者は700万人
全米の雇用者の4.5%
日本だと550万人、全雇用者の9.6%
完成車を構成する部品数は2万点から3万点
波及効果は全産業平均とくらべて高い
 
p40
米国の住宅販売の9割を占める中古住宅の販売件数は
2010年7月の345万件を底にして2016年6月の557万件まで増加
2007年3月以来9年ぶりの水準
新築住宅の販売件数も
2011年2月の27万件を底にして2016年6月には59万件まで回復
原油安、低金利、債券利回りの低下などが背景

FRBの利上げで金利が上振れし住宅販売が勢いを失うかと思ったがそうはならなかった
理由は世界の国債市場でマイナス金利が広がっているため。
ECBのマイナス金利拡大や日銀のマイナス金利政策を予想できなかった
マイナス金利は筋が悪すぎる政策としか言いようがない

2017年の住宅市場は拡大基調を維持
 
p52
アメリカの2000年以降でとくに物価上昇が激しかったのは
ガソリン2.9倍、電気1.7倍、食料1.5倍など
実質所得は公表されている数字よりずっと低い
中間層より下では正味の実質所得は数字上より2割低いと考えられる
日本国民の方が米国民よりもまともな生活ができている
 
p60
自走車市場に天井を打った兆候があり
2016年はかなり値引きをしないと売れなくなっている
大手メーカーはディーラーへの販売奨励金を積みましている
6年に渡る新車市場の拡大で中古車供給が増えすぎてしまっている

※参考:2016年の世界の自動車市場は回復傾向
>伸び率は2013年以降鈍化傾向にあり2015年は1%台にとどまっていた。これが、
>2016年には4%台に回復した
ということなので、この予測は外れであろう
 
p64
マイナス金利政策が終焉に向かうと意識されたとき
米国債の利回りが上昇トレンドに転じることになる
その時米国市場が一気に冷え込む可能性
 
p69
史上最高値を超える株高を支える投資家の強気には違和感を覚える
アメリカの2016年GDP成長率
1-3月期 0.8%
4-6月期 1.2%
2013年-2015年の平均2.2%台と比べ力強さを欠いている

大和総研アメリカ経済グラフポケットによるその後の推移
2016
1-3月期 0.6%
4-6月期 2.2%
7-9月期 2.8%
10-12月期 1.8%
2017
1-3月期 1.2%
4-6月期 3.1%
7-9月期 3.0%

ここまでの所、投資家の予想が当たっていたということか
 
p71
マイナス金利の副作用によって歪んだ市場において
株式が債券と比べて割安と判断すること自体がある種の異常さを感じさせる
消去法的な評価による売買がもたらす相場の上昇はいつもバブルに近い現象
 
p72
2017年のリスク
1.FRBが利上げを急ぎすぎるリスク
2.クリントンによる原油高のリスク
3.欧州の政治リスク
4.マイナス金利の限界が露呈するリスク

FRBの2016年の利上げは最終的に一回だろう
(※これは12月に一回だったので当たり)
2017年には利上げペースを速める可能性がある
イエレン議長は株価のバブルを早い時期に抑え込みたいという思いを感じる
(※これもまぁ当たりか)
 
p74
クリントンは(※当選すれば)環境負荷が高いとしてシェール企業に対する規制を強め、
原油高をもたらす可能性がある

※これはそもそも当選しなかったので外れ
 
■欧州経済編
    
p79
中国が2015年10月から初めた小型車減税や
エコカー補助金によりドイツの自動車市場が勢いを取り戻した
が、この喚起策は非常に危うい運用のもとで行われている
 
p114
そもそも欧州の銀行の根本的な問題は
中小銀行の数が多すぎるうえに、多くの銀行の収益性が脆弱であること
欧州銀行全体の不良債権額は2015年6月時点で1兆ユーロ
不良債権比率は米国の銀行の2倍
そのような状況の中ECBはマイナス金利政策によって
銀行が不良債権を処理する体力を奪っている
とりわけイタリアの銀行の不良債権問題
不良債権の総額が3600億ユーロで融資残高全体の20%近くを占めている

※参考:イタリアの不良債権問題は 解決の目途が立ったのか - みずほ総合研究所

不良債権が重荷になっているのはイタリアだけでなく
欧州全体の銀行の問題でもある。
 
p116
本質論から言えば、英国が悪い方向へ一歩を踏み出したのは間違いない
英国がこれまで経済成長をできたのは
海外から投資やヒトを呼び込むことができていたから
これが逆流し始める可能性
 
p120
英国はEUから大きな輸入をしているので
EUは貿易協定で妥協せざるを得ないという意見があるが
それは大きな誤り
EUが妥協すると他の国のEU離脱の動きが活発化してしまい
EU崩壊に結びつくので妥協することはない
またスコットランド独立、北アイルランドとアイルランド間の
経済活動に悪影響が及ぶ

ボリス・ジョンソンら離脱派の問題点は
離脱後の経済的なビジョンをまったく持っていなかったこと
 
p123
英国の離脱通告後EU法失効までには2年の猶予しかない
ノルウェー型の欧州経済地域やスイス型の2国間条約を
まとめるには少なくとも5年、通常は10年かかる
 
p127
EUがペナルティなしで英国が戻ることを認めると
EUは近隣諸国に寛容さを印象づけることができ、
政治的経済的求心力を高めることができる
テリーザ・メイもこれを考えているおとは一連の行動から推測できる
離脱交渉の中核となる3閣僚を離脱派で固めた意図は
交渉が離脱派の主張していたような楽観的なものにはならず
迷走すると見越してのこと
離脱派に厳しい現実を理解させる意図
       

p134
スペイン人の国民性をまとめると
・歴史に学ばない
・計画性がない
・かなりいい加減
程度の差はあれ、イタリア人の国民性も同様
これらはユーロ圏の持続可能性を次第にむしばむことになる

 

(つづく)


瀧本哲史『戦略がすべて』(新潮新書)2015年 (その2)

2017年11月07日 | ビジネス

瀧本哲史『戦略がすべて』(新潮新書)2015年
    
■メモ
    
p162
交友関係を広げることを提供価値としていたフェイスブックなどのSNSは
日常的なコミュニケーションツールとしての地位を失いつつある
むしろ若者たちは少数の親しい友人達とのクローズドなやりとりを楽しむLINEに移った
またTwitterのミュート機能は人気機能
人々は自分の心地よい情報、人間関係を再確認する情報環境に回帰
読みたい記事を読み、聞きたい意見を聞き、見たいテレビを見る
その結果がタコツボ的社会認識の広がり
自分(たち)の考えの正しさを疑わなくなる
教養の一つの機能はアラン・ブルームによれば「他の考え方が成り立ちうることを知ること」
タコツボ化へのアンチテーゼとしての教養主義

※参考:イーライ・パリサー『閉じこもるインターネット
 
p165
何が教養か。極端にいえばそれは「自分と異なる思想」全て
自分が普段手に取らないような分野の書籍、雑誌を読むこと
普段自分が出会わないような人がいる場所にいくこと
 
p181
ソニー没落の原因として
すべてのプロジェクトを同じ財務基準だけで短期的に単純に評価したために
イノベーションが起きなくなった
かと言って数値目標を全く掲げないのも間違い
 
p186
筆者の出身高校を見て気づいたこと
「同じ部活の人は同じようなキャリアを歩んでいる」
ある部活(※野球部?)の出身者は、超大企業に入社し、大出世はしないが組織の中で
安定した地位を得るというリスク回避的なキャリアを選んでいる人が多かった
その部の部活動の指導方針「絶対にミスをするな」に影響を受けている
逆にラグビー部出身者は多様なキャリアを経ていた
ラグビーはプレー中に臨機応変な対応が必要、また倒れても立ち上がることが求められるスポーツ
筆者のやっていたオリエンテーリングは戦略的思考を求められる
自然にキャリア選択も戦略的になる
 
p200
英語入試の持つ知能テスト的要素が
知的能力のスクリーニング機能を持っていた
英語の運用能力というより、論理的思考力や判断推理力を測定している
英語入試をTOEFLで置き換えるとこの機能が失われる
そのため代替機能をどこかに組み込む必要がある
 
p205
東大文科一類が後期の二次試験を英語と論文だけにしたことがあったが
受験者も少なく、結果の測定方法も確立していないので
低レベルな競争となり失敗に終わった
入学した後に学部の授業についていけない学生も多かったという
 
p208
「落ちこぼれた女子高生が猛勉強して有名大学に現役合格」という物語がヒットしたが
この主人公は大学教育になじめず入学後就職活動もあまりうまくいかなかったようだ
入試に合格することは手段でしかなく、その後何をするかが大事だが
それに対するビジョンを持てず「受験が最高の成果だった人」の受験本がヒットするという
歪んだ構造が(※出版業界に?)ある

※参考:そのあたりの話が下記の記事にあり、確かにいろいろあるようだが
こういう人生を「受験だけが成果であとは失敗」のように言うのは若干違和感を感じる
慶応大に進学した“ビリギャル” その後の物語
 
p244
平均的な日本人が注力しているのは戦術レベル、せいぜい作戦レベルになりがち
日々の業務を頑張ろう、目の前の仕事に打ち込むべしといった(※置かれた場所で咲きなさい的な)
よく強調される美徳は典型的に戦術レベルの話
勤勉に頑張って品質を高めた商品が必ず勝つなら日本は没落しなかった
日本人はルールの枠中でただ頑張るのが好きだが、
実際の競争はそれほど単純ではなく、全く違うルートを開発したり、
今まで存在したルールを変えてしまったりしたものが勝利する
あるいは新しい技術で今までのルールを無意味にするなど
戦略を考えるとは、今までの競争を全く違う視点で評価し、
他とはまったく違う努力の仕方、チップの張り方をすること
戦略は弱者のためのツール
 
p247
低迷の時代にアメリカが発見した事実「日本には戦略がない」
日本という国は初期に成功しても戦略がないため最終的に失敗する
 
p248
日本人の組織は意思決定のまずさを現場の頑張りでなんとか解決しようとする
しかし戦術の失敗を戦略で補うことは可能だが、その逆は不可能
優秀な現場が無能な経営者のカバーをすることはできず疲弊するだけ
 
p249
実のところ作戦指揮と戦略決定は野球とサッカーくらい違う
企業という組織では各階層での仕事は大きく異るため
日本のようなキャリアパスの設計は適切ではない
多くのグローバル企業では、最初からリーダーを選抜し
かなり早い段階から難しい意思決定をさせて経験を積ませている
日本でも先進的な企業はそうしている
軍隊組織でも参謀と士官と下士官と兵隊では仕事の質が大きく異るためキャリアパスも違う
 
p250
ほとんどの日本のビジネスマンは高級作業員にすぎない
大企業に努めていてもテンプレート化された仕事を行うルーチンワーカー
戦略的思考を実践する機会も少なく深刻な問題が発生した時に
非定型的で非連続的な解を出すことができない
 
p251
競技者、音楽家、職人などの達人がどのようにスキルを上げているかについての
研究では、自分に合わせた独自トレーニングを行っていることがわかっている
必要なスキルを高負荷かつ効率的に鍛えるトレーニングを独自に開発し
それを日常的に繰り返す。達人は暇さえあれば小さなトレーニングを行っている
ビジネスマンならば身の回りの出来事やニュースなどで戦略的に勝つ方法を考える
習慣を身につければいい


以上
       


瀧本哲史『戦略がすべて』(新潮新書)2015年 (その1)

2017年11月06日 | ビジネス

瀧本哲史『戦略がすべて』(新潮新書)2015年
    
ビジネスの様々な場面における戦略的な考え方の指南書
 
■メモ
    
p17
フォーブスの2011年11月調べによると
ハリウッド女優ではドリュー・バリモアが
1ドルの報酬に対しわずか47セントの利益しかもたらしていない
割高タレント第一位とされる
 
p18
タレント消費をシステム化したのがAKB48
メンバーはそれぞれ別の大手芸能プロダクションに所属し
AKB48の活動のときだけプロジェクトメンバーとして派遣されている
大量のメンバーのリスクやコストをすべて負ってはいない
このやり方であれば「誰が売れるかはわからないが
これだけいれば誰か当たるだろう」というやり方ができる
消費者は総選挙で自ら好みを示してくれる

AKB48として売っていることで稼働率の問題もクリアできる
個々のタレントでなくAKB48に来る仕事は空いているメンバーを稼働させればいい
セカンドクラスのメンバーの稼働によってトップクラスの稼働を抑え
より稼げる仕事に集中させることができる

このようにコンテンツを束ねるプラットフォームを作ることは
リスクを軽減してビジネスに永続性を持たせることに有効
 
p31
JR東日本はSuicaの乗降履歴から個人情報を取り除いて日立に提供
2013年6月日立はこれを自社のビッグデータ解析技術で分析し
首都圏における駅利用状況分析リポートを作成する予定とした
月次で駅利用者のデモグラフィックを可視化し企業のマーケティングに
役立てる予定だったという
実際にはSuica利用者に事前説明が無かったとして問題になり提供は停止された
 
p37
オリンピック招致活動における安倍首相のスピーチ
正確な発音(特にアクセントが正確)や
国際的な文脈で受けが良い非言語的な印象づくりまで注意が行き届いており
相当に準備・練習していることがうかがわれた
 
p48
これからの時代、たいていの学習可能なスキルは高報酬につながらない
スキルの高低よりももともと社員に与えられている資源量で給与差がついている
 
p53
映画ビジネスの主導権は原作者側にはない
リスク・リターンの責任を負っていない
むしろヒットした場合のコミック売上増大による収益は
そのまま原作者側に行くのでノーリスクで利益をとるとさえ言える
だから原作使用料は安い
 
p64
ビジネスの勘を研ぎ澄ます趣味の条件
大きなルールは決まっているが、勝つ方法は一直線ではなく
他のプレイヤーと相互作用があって、多少、確率、運の要素があるようなゲームがよい
これに該当するのは麻雀
 
p80
ベンチャー企業が非連続に変化して成長するときの前兆
優秀な人材が続々と転職して参画する現象が見られる
一方で、一見良い兆しに見えても衰退している企業の前兆
大量採用、学歴、社歴、職歴などレジュメの見た目はよいが個々人を見ると
個人の成果がハッキリしないという人材がかき集められる
元「○○」の個人の活躍が目立つようになったらその出身母体の企業はピークアウトしていると
考えてまず間違いない。
例)元ソニーの社員の活躍が他業界やベンチャー企業で目立つようになってから
ソニーの凋落が明らかになってきた。一時期、ソニーアメリカから一斉に優秀な社員が
アップルに転職する事例が観察された
 
p90
常識が「天動説」から「地動説」へパラダイムシフトしたのは
ガリレオら科学者が正しさを証明したからではない
天動説を信じる人が死に絶え、地動説を信じる人へ世代交代したから
いつの時代もパラダイムシフトは世代交代によって起こる
 
p95
良い戦略とは
どの土俵なら勝てるかを見極め、勝てる土俵を選ぶこと
頑張らなくても構造的に勝ちやすい場所を選ぶことが何より重要
ビジネスにおける事業ドメイン
その上で楽勝でできることを徹底的にやる
 
p105
再生医療の世界でiPS細胞は成功の可能性が低いと考えられていた
JST(科学技術振興機構)での議論でもほとんどの研究者が反対したが
JSTは合議制の組織ではなく、一人の専門家の意思決定でも予算をつけることができた
その結果、研究に予算がつき歴史的な大発見につながった
もし合議制ならばこれは起きなかった。
合議制は必ずベストの結果を生むものではない
 
p119
現代においては書籍で学ぶ知識だけでなく
「教養としての人脈」の重要性が増している
普段つきあう友人の多様性を確保しなければ新しいものは生まれない
 
p136
インターネットの炎上マーケティング
炎上でもとにかく人が集まればよいので
質の低い情報発信をしてわざと炎上させるというインセンティブが生じる
競合優位性がないコンテンツにお金を払う人を見つけるには
最初の段階で明らかに炎上するコンテンツを提供し
それに呼応するような読者だけを効率的に探し出す
そのような人にとって筆者はある種の殉教者となり信仰の対象となる
この読者は有料課金型コンテンツビジネスの良い潜在顧客となる
出版業界でも毎月のように同じような内容の本を出し続ける著者がいるが
この中には読者から高額を徴収できる講習会や会員組織への誘導を目的としている者がいる
 
p148
裏を取る代わりに逆を取る手法の有効性
自分の仮説と逆の考え方や事実を探し、
それがどの程度信頼できるかという反証的視点での確認
 
p157
近頃の若者に苦言を呈する人たちは自分の頭の古さや、
あるいはダメな若者しか集まってこない自分のネットワークに危機感を持つべき
今の学生でも一部はかつての学生より意識や勉強量に遜色はなく、
むしろ遥かに水準が高い
       

(つづく)


江守哲『1ドル65円、日経平均9000円時代の到来』(ビジネス社)2016年

2017年11月05日 | 経済

江守哲『1ドル65円、日経平均9000円時代の到来』(ビジネス社)2016年
    
副題:2020年までの大波乱を乗り越える投資戦略
2016年11月1日の出版
一年経った今見ると残念な感じのタイトルになってしまっているが、
アメリカ大統領選前はもしかするとそういうことがあるかもという雰囲気が無くもなかった。
著者の名前は2016年中はネット上でもちょくちょくお見かけしたが、今年に入ってからは殆ど見なくなってしまった。さすがにこれだけ派手に外すと仕事も減ってしまったのだろうか
しかし実際のところ、エコノミストの予測など占いと大して変わらないのではないか
大御所の長谷川慶太郎だって「中国共産党政権は今年中に崩壊する」と言っては外し、
プーチンは失脚する」と言っては外し、「北朝鮮が今度核実験をしたら終わり」などと言っては外している。

多分この本から最も学ぶべきことは「著書のタイトルに具体的な数字を入れると外したときのダメージが大きいので避けるべき」ということだろう。長谷川氏のように世界が大局で激変がどうたら的な所で止めておくのが良いと思われる
 
■メモ
    
p7
過去3回の利上げ局面での直近高値からの下落幅は平均で23円
米国が利上げをするとドル高ではなくドル安つまり円高に進むという過去の実績
なぜそうなるか
将来の利上げを織り込む形でドルが早い段階で買われ
実際に利上げするときにはすでにこの材料が織り込まれているから
市場動向の予測は理論でなく過去データを重視すべき
 
p21
ドル指数の7年サイクルによれば
2015年から7年は下落になるという話
 
p30
米国は当面ドル安政策を指向するので当面は円安にならない
具体的には最大であと4年程度は円安局面にはならないという覚悟が必要
1971年以降、円高局面が6回存在した
そのうち円高が長期間に及んだ3回の平均をとると
帰属期間はおおむね5年、下落率48.7%
今回の円高局面のスタートが2015年6月の125.85円であるとすると、
2020年4月には64.53円に到達するとの計算が成り立つ
そういうサイクルに入ってしまっている

※そう書いた直後にドル円100円→118円の大円安が到来してしまった
 
p49
NT倍率は99年3月以来の高水準、これはITバブル以来の水準であり
いかにおかしなことになっているかが容易に理解できる

※その後NT倍率は2017年7月頃にいったん下がったがまた上がってきている
 
p53
アベノミクス相場が始まった2012年12月以降のドル円と日経平均株価の関係から
試算されるドル円が100円の水準の場合の日経平均株価の理論値は
1万4000円程度。人為的に釣り上げられた株価と理論値の乖離が修正されないことはないはず
この乖離を埋めるには相当の円安になる必要がある
しかしその可能性はほとんどない
ドル円が円高水準で推移する限り、日本株の調整は不可避

※その後その「ほとんどない」はずの円安になってしまったので調整はなかった


1ドル80円なら日経平均株価は9000円まで下落する
「国是・国策に売りなし」の格言は重要な条件があり
「ただし、その政策が正しい限りにおいて」である
政府・日銀が市場に直接介入すれば、いずれ大きな調整をもって終了するというのが筆者の持論
 
p73
FRBはかつてISM製造業景況感指数が50を下回っている状態で利上げをしたことがなかったが
イエレン議長が初めて50を下回った状態で利上げを実施した
その結果、株価が急落した
 
p74
ISMの指数を投資判断に使う場合、
筆者は製造業を7、非製造業を3の割合で合成し
さらに3ヶ月平均にしてこれをさらに前年比で見るようにしている
 
p79
ダウ輸送株指数を重視する理由は
工業株30種平均に対して先行して動く傾向があるため
直近でその傾向が顕著に出たのは2015年8月に起きたチャイナ・ショック
 
p162
金には需要面に季節性があり、統計的には投資タイミングは8月が良いとされている
年末から翌年初めに売ると利益が出やすい傾向がある
秋口になるとインドの婚礼シーズンや年末のクリスマス需要も喚起される
年が明けると中国の春節での金需要の高まりが見られる
 
p175
今後エネルギー消費に占める石油のシェアは低下するが
絶対量の拡大は続く
このような石油需要増に対応できるのはOPECしかない
余剰生産力があるのはサウジぐらいしかない
原油需要が今後極端に緩和し原油価格が下落すると考えるのは難しい
(長期的には電気自動車の普及や代替エネルギーの登場が考えられる)
 
p187
ドルが7年程度の下落に向かうなら
ドル建て原油価格は当面ドルの下落によって支えられる
需給関係が改善すれば原油価格が再び100ドルを試す可能性は十分にある
 
p231
2020年までの投資戦略でもっとも重要な認識は
米国がドル安政策に転換しているということ
この点を間違えるとすべての戦略の方向性が間違ってしまう
ドルは今後7年程度下落することを大前提に考えることが肝要

今後4年はコモディティに注目すべき
歴史的上昇局面は2008年で終わっているが価格が上昇しないわけではない
 
p236
2016年半ばにつけた100円という水準を底として円安へ向かうという見通しは誤り
あくまで65円への通過点でしかないというのが筆者の見方
 
p237
日本国債が暴落した場合、大量に国債を抱える日銀はどうなるか
帳簿上はまったく問題が起きない
日銀の資産は簿価でしか評価しないため
しかし金融機関は時価で評価しなければいけない
市場のコントロールは日銀といえども簡単ではない
これらの動き(金利上昇のリスク)を示唆する指標として
日銀株の動きを見ておくこともヒントになる
 
p239
報道によると2016年初時点のドイツ銀行のデリバティブ想定元本は
ドイツのGDPの25倍まで膨らんでいた
それが本当なら破綻した場合はどうなるか
投資家のマネーが縮小し、安全資産を求めて国債に資金が流入する
ヘッジファンド解約にともなうポジションの解消売り
 
p244
1919年の第一次世界大戦バブルの末期に株を購入した投資家が
損失を回復するのは約30年後の朝鮮戦争の前後
こう考えると日本株には30年のサイクルがあるかもしれない
そう考えると
1990年のバブル崩壊時に投資した株は2020年に損失を回復できる?ということで
2020年に向けて4万円まで上昇するシナリオも描けなくはない
今後数年間の大きな押し目は将来に向けての買い場ということになる


以上
       


ケヴィン・ケリー『<インターネット>の次に来るもの』(NHK出版)2016年 (その5)

2017年11月04日 | 科学・技術

ケヴィン・ケリー『<インターネット>の次に来るもの』(NHK出版)2016年
    
■メモ
    
【TRACKING】続き
    
p334
2006年以降に生産された車にはダッシュボードの裏に
自己診断機能(OBD)のチップが付いていて
車がどう使われたかの記録を取っている
どれだけの速度で何マイル走ったか
急ブレーキを何回踏んだか
曲がったときの速度、燃費など
もともと修理のために使われていたが、保険会社の査定にも使われるようになった
安全運転をしていれば保険料が安くなる
GPSを使ってどの道をどんな頻度で走ったかによって税金を取ることも可能になる

IoTの本質はデータの追跡
これから5年間でクラウドに接続可能なデバイスが340億も製造されると考えられている
データがクラウドに蓄積され、接続されるものはすべてトラッキングされる
すでにアメリカで日常的にトラッキングされているものは
・車の動き
・ハイウェーの交通
・相乗りタクシー
・長距離旅行
・ドローンによる監視(国境付近)
・郵便物
・水道光熱(ゴミはまだ)
・携帯電話の位置と通話記録
・都市カメラ
・商業施設と私的空間
・スマートホーム
・自宅監視
・インタラクティブデバイス
・スーパーの会員カード
・電子小売店(Amazonのサイトなど)
・米内国歳入庁
・クレジットカード
・電子財布と電子銀行
・写真の顔認識
・ウェブでの活動
・ソーシャルメディア
・検索サービス
・ストリーミングサービス
・読書(図書館で借りた本や電子書籍端末)
・フィットネストラッキング(身体活動や睡眠記録など)
 
p339
インターネットが持つ傾向(あらゆるものをコピーする)を受け入れ、
容易にコピーできない価値を追い求める人々は成功するが
コピーを否定したり禁止したりして阻止しようとする人たちは取り残されていく
消費者は当然ながら、自分たちの利便性のために手当たり次第にコピーする
コピーと同様、トラッキングにも同様のバイアスがかかる
インターネットは世界で最大最速のトラッキングマシン
 
p341
バークレー校の経済学者二人が世界中で生み出された情報量を計算
年66%の割当医でその総量が増えていた
情報の増加は過去1世紀の間、驚異的な率で進んだ
年66%というのは18ヶ月で2倍になるということ
5年前には人間は数百エクサバイトの情報を蓄積していた
それはこの星に住む一人一人がアレクサンドリア図書館の80倍の情報を
所有していたことになる。現在ではそれが320倍に達する
我々はディスク、チップ、DVD、紙、フィルムといった
情報記憶物質を、地球全体で毎秒あたり6000平方mの割合で生産し
すぐにデータで一杯にしている
毎秒6000平方mという数値は核爆発で生じる衝撃波の速度とほぼ等しい
情報爆発は核爆発の速度で広がっており、しかも果てしなく続いている
 
p347 監視社会肯定論
現在のソーシャルメディアが教えてくれるのは
シェアしたいという人類の衝動が、プライバシーを守りたいという気持ちを
上回っているということ。これは専門家も驚かせた
今までのところ、選択できる分岐点に来る度に
平均的にはよりシェアし、よりオープンで透明な方向へと向かう傾向
一言で言うと、虚栄がプライバシーを凌駕している
進化論的には、共監視は人類にとって自然な状態
循環的な世界ではお互いが監視し合うことに大きな反動はない
人間は何百万年もそうした環境で生きてきた
それが本当に公平で対称的に行われるなら、快適なものになりうる
 
p351 役不足の誤用
この領域(※ジリオン単位のデータを扱う領域)では、ビッグデータを管理するツールでは役不足だ。

※訳者は服部桂
 
【QUESTIONING】
    
p369
フェイスブックの技術者だったジェフ・ハマーバッカー
「私の世代の最も優れた人たちは、人々にどうやって広告をクリックさせるかということしか考えていない」
 
p375
われわれの知識が指数関数的に増えたとしても
われわれの疑問は指数関数的にさらに速く増えていく
数学者なら、この二つの指数関数のギャップも指数関数的に増えると表現するだろう
科学はわれわれの知識より主に無知を増やす
テクノロジーやツールがより破壊的になればなるほど、
それが生み出す疑問もより破壊的になるだろう
巨大な疑問の集中豪雨
実際のところ、本当に重要な疑問はまだ誰も発していないと考えられる
 
p376
2007年にグーグルが一つの質問に答える場合のコストを計算してみた
それは約0.3セントだった
今ではその値は下がっているだろう
計算では、グーグルは回答ページに配置した広告から27セントを稼いでいるので
十分に回答を無料にできる

2000年の調査によると、平均的なアメリカ人成人は毎日四回の質問をオンラインでしているという
私(ケリー)の場合、2007年に毎月349回、毎日10回とのこと(グーグル調べ)

2010年のミシガン大学の研究
グーグルで出た質問の回答を図書館の資料を使って学生に答えさせてみると
回答するのに平均22分かかった
グーグルで同じ質問に答えるのにかかった平均時間は7分で15分短縮している
平均時給を22ドルとすると、検索するごとに5.5ドルのコスト削減ができたことになる

グーグルの主任経済学者ハル・バリアンは
検索によって平均的な人が一日に3.75分得していると割り出した
それは一日当たり60セント、切り上げて1ドルとして
平均的な人は一日一回検索しているので年間350ドルになる
 
p380 良い質問とは
良い質問の性質
・正しい答えを求めるものではない
・すぐには答えが見つからない
・現在の答えに挑む
・聞くとすぐに答えが知りたくなるが、質問を聞くまでは考えてもみなかったようなもの
・思考の新しい領域を創り出す
・答えの枠組み自体を変えてしまう
・イノベーションの種になる
・探針であり、「もし~だったら」というシナリオを調べるもの
・知られていることと知られていないことの狭間にある
・予想もしない質問
・教養のある人の証
・さらに他の良い質問をたくさん生み出す
・マシンが最後までできないかも知れないもの
・人間だからこそできるもの
 
【訳者あとがき】
    
p398 この本の各章のつながり
ネット化したデジタル世界は動詞(プロセス)として生成 BECOMING
人工知能が電気のようなサービス価値を生じ COGNIFYING
自由にコピーを繰り返し流れ FLOWING
流動化して画面で読まれるようになり SCREENING
すべてがサービス化してリアルタイムにアクセスされ ACCESSING
共有され SHARING
フィルタが必要になり FILTERING
リミックスして新しい形となり REMIXING
VRのような機能で高いプレゼンスとインタラクションを実現 INTERACTING
追跡機能がサービスを向上させ TRACKING
新たな良い疑問を生み出し QUESTIONING
次のデジタル環境へ進化していく BEGINNING


以上
        


ケヴィン・ケリー『<インターネット>の次に来るもの』(NHK出版)2016年 (その4)

2017年11月03日 | 科学・技術

ケヴィン・ケリー『<インターネット>の次に来るもの』(NHK出版)2016年
    
■メモ
    
【REMIXING】
    
p259
すべてのメディアにつきものだった非対称構造の消滅
非対称構造とは、以下のようなこと
本は読むほうが書くより簡単
音楽は聴くほうが作曲より簡単
演劇も観るほうが演出するより簡単
 
p265
長いテキスト内の場所を特定するためのページ番号は
13世紀に誰かが発明した
脚注は12世紀に発明
出典一覧も13世紀に発明
近い将来AIが映画の全編に索引を振ってくれる日が来る
 
p268
グーグルのクラウドAIは何十億枚のスナップ写真から
そこに写っているものをすべて認識して覚えている
自動的に被写体とその行為を認識してラベルをつける
被写体の人物も特定可能
 
p270
ナボコフはかつて「誰も本を読むことはできない。再読できるのみだ」と言った
 
【INTERACTING】
    
p284
VRはまったく均等に行き渡らずに消えていった
次の段階は来なかった
VRは5年くらいで少なくとも2000年までにはどこにでもあるものになると
私(※ケリー)も含めて誰もが考えていた
しかし2015年になるまで何も進展は無かった
VR特有の問題は、現実に十分近いと言われながら、常に十分ではないこと
 
p289
スマートフォンではセカンドライフの洗練された3D世界を処理できず
多くのユーザーが他に移ってしまった
マインクラフトは高解像度でないためスマートフォンでも使え
多くの人が流れていった
しかしセカンドライフに忠実なユーザーはいまだに何百万人もいる
3D世界を常時5万のアバターが歩きまわっている
そのうち半分はバーチャル・セックスをするため
 
p291
アイトラッキング技術について
 
p292
スマートなソフトは例えば、私が本を読んでいてある言葉に躓いていると
その語の定義を表示
同じ箇所を何度も読んでいたら
その部分の注釈を追加してくれる
動画のあるシーンで私が飽きていると分かったらその部分を早回ししてくれる
 
p311
スタンフォード大学のジェレミー・ベイレンソンは
脳の中で腕と脚の回路の書き換えを行うのに
普通の人ならたった4分しかかからないことを発見
われわれのアイデンティティは思っているよりはるかに流動的
オンラインの他人が本当にリアルな人物なのかを特定するのが難しくなる
 
【TRACKING】
    
p318
コンピュータ科学者のラリー・スマーは毎日
皮膚の温度や電気皮膚反応(GSR)を含め100種類の
健康パラメータを収集
毎月排泄物の微生物構成を調べ、腸内細菌の構成をチェックしている
自分や医者が気づく前に体の異常に気づき、医者に後で確認して貰っている

マセマティカの開発者スティーブン・ウルフラムの記録
13年間のすべてのキーストローク
すべての電話の記録、歩き方、自宅やオフィス内の移動
屋外でのGPSデータも記録
本や論文を書くときの編集回数
それらのデータを解析して「最も生産的になる時間」が分かった
 
p322 センサーが作る新しい感覚
2004年にドイツのIT企業幹部ウド・バヒターが作った
方角が振動でわかるベルトの話
方角と位置情報の知覚が備わり
デジタル・トラッキングによる定量化が新しい身体感覚に取り込まれた
 
p328 初期のライフログの例
1980年代にテッド・ネルソンが行っていた行為
他人との会話をすべて、どこでどんな内容でも録音したり
映像に収めたりしていた
彼は何千人にも会っていたので大きな倉庫を借りて
その中一杯に録音したテープを保管していた

スティーブ・マンの例
頭にビデオ・カメラを装着し毎日の生活を映像に記録
ここ25年間、起きている間はカメラを動かしっぱなしにしていた
彼は自分がやっていることを「定量測定セルフ・センシング」と呼んでいた
彼はいまだに自分の人生すべてをいつでも記録している

マイクロソフトリサーチのゴードン・ベルの例
2000年から6年間、マイライフビッツ MyLifeBitsという実験を実施
自分の仕事に関するすべてのデータを文書化
特製のカメラを首にかけ近づいた人の体温を検知すると60秒おきに写真を撮った
すべてのキーストローク、すべてのメール、訪れたすべてのサイト
すべての検索、スクリーン上で開かれたすべてのウィンドウと
それが開かれていた時間を記録
会話も記録、もらった書類は全部スキャンしてデジタル化
許可を貰った電話の会話はすべて書き起こした
この実験はライフログの生み出すデータを管理するために
MSがどんなツールを作ればいいのかを探るため

p332
90年代に携帯電話が出始めたとき
当初は呼び出し音が耳障りだった
人々は呼び出し音と同じぐらい大きな声で話していた
もし将来全員が携帯電話を持ったらうるさくてしょうがないと思ったことだろう
しかしそうはならなかった
バイブレータ呼び出しが使われ、人々はメールを打つようになり
社会的な規範ができていった
今でも映画館にいくと誰もが携帯電話を持っているが
呼び出し音もしないし画面も光っていない
それがかっこ悪いとかんがえられるようになったからだ
ライフログとその使い方も同じように進化していくだろう


(つづく)


ケヴィン・ケリー『<インターネット>の次に来るもの』(NHK出版)2016年 (その3)

2017年10月30日 | 科学・技術

ケヴィン・ケリー『<インターネット>の次に来るもの』(NHK出版)2016年
    
■メモ
    
【ACCESSING】
    
p147
1950年にはビールの缶は錫メッキした鉄製で73g
1972年にはアルミ製21g
現在では13gまで落ちた
GDP金額当たりの物質量は少なくなっており、より少ない物質でより多くの価値を生み出している
単位GDP当たり必要な物質量は過去150年下がり続け、
ここ20年で加速している
1840年にアメリカの単位GDP当たりに必要な物質は4kg
1930年には1kg
 
p157
テレビ、電話、ソフトのサービサイズは始まりに過ぎない
個々数年間で起きたもの
ホテルのサービサイズ→AirBnB
ツールのサービサイズ→TechShop
衣服のサービサイズ→Stitch Fix, Bombfell
オモチャのサービサイズ→Nerd Block, Sparkbox Toys

もうすぐ食品のサービサイズ FaS をしようとするスタートアップが何百と出て来る
食品へのサブスクライブを提供するもの
個別の食品を買うのではなく、必要とする恩恵にアクセスする
ある量のタンパク質、栄養価、調理法、風味といったもの

他にも家具、健康、住まい、休暇、学校のサービサイズが考えられる
 
p158
突如として、所有することは重要でなくなる
同じものをリアルタイムでレンタル、リースできたり
ライセンスが得られたりシェアでかいたりするなら、
所有する必要がどこにあるだろう?
 
p169
クラウド上にある文書に対し
将来的にはグーグルが簡単にクラウドベースのAIを適用できる
自動的に綴りや文法の間違いを正す
ナレッジ・ベース・トラストと呼ばれる新しい校閲システムで
文書の事実関係をチェックする
必要な用語にはハイパーリンクを付け
スマートな補足をつけて文を良くしてくれる
仕事や遊びは共有されたクラウドの世界へと移っていく
 
p170
友人夫婦が十代の娘に約束を破ったお仕置きをするため
彼女の携帯電話を没収した
すると彼女は気分が悪くなって吐いた
彼女はまるで自分の体が切断されたように感じた
ある意味彼女は実際にそうだったのだ

マクルーハンが指摘したように
ツールは我々自身を拡張したもので
車が拡張された足、カメラが拡張された目であるなら
クラウドは我々の魂を拡張したものだ
もしくは、あなたの拡張された自己だと言ってもいい
 
p172
中国政府が執拗に市民のコミュニケーションを監視しようとするので
香港の学生たちは電話にファイアチャット(FireChat)と呼ばれるアプリを入れ
中継局を介さずにWi-Fiの無線で直接交信
どちらの電話からでもファイアチャットを入れている第三者に転送できる
メッシュと呼ばれるこのP2Pネットワークは
効率は良くないがきちんと機能する
持ち主のいないネットワーク
 
【SHARING】
    
p188
3Dウェアハウスで無料でシェアされる3Dモデル

 
p193
Patients like me で患者が自身の治療結果をシェアすることで
治療の質を向上、共同行動が医師にもプライバシー懸念にも優ることを証明

 
p199
ユーザー生成コンテンツの実験の失敗の歴史
hotwired、ガーディアン、オーマイニュース

参考:オーマイニュース、全社員に解雇通告 「ニュース」の看板降ろす

 
p201
ウィキペディア、リナックス、OpenOfficeといった
サービスの統治の核心部分をよく観察してみると
外からの印象と違い、集産主義の理想像からやや遠い
膨大な貢献を管理しているのは小さな調停者の集団
 
p210
KivaによるP2Pの貸付について
マイクロファイナンス
Kivaの返済率は99%
Prosper、Lending Clubの試み
2015年の段階でこの2社のローン成立金額は100億ドルを超える
 
【FILTERING】
    
p220
現在12ヶ月ごとに800万の楽曲、200万冊の本、
1万6000本の映画、300億のブログ投稿
1820億のツイート、40万のプロダクトが生み出されている

この星で録音された曲の数は1億8000万
通常のMP3で圧縮した場合、人類の録音した音楽の
データ総量は20TBのハードディスクに収容できる
現在20TBのハードディスクは2000ドルで買える
5年も経てば60ドルになってポケットに入るサイズになるだろう

音楽で起こったことはデジタル化できるものならすべてに起こる
我々が生きているうちにすべての本、すべてのゲーム、すべての映画、
すべての印刷された文書は同一のスクリーンやクラウドを通して
いつでも利用できるようになるだろう
 
p228
グーグルは60兆ページの内容を毎分200満開フィルタリングしているが
レコメンドがどう行われているか我々が気にすることはあまりない
 
p230
近未来のパーソナライズされた生活の描写
 
p235
アテンションの価値の計算
メディア産業ごとに毎年の収入を合算
各メディアにどれだけ時間が使われたかを求め
毎時支払われたアテンションに対して何ドルの収入があったかを
1時間あたりの金額で計算する

その金額は驚くほど低い
メディアビジネスに人々の注意は対して寄与していない
アメリカでTVには毎年5000万時間が費やされているが
それはコンテンツ所有者に対して平均で毎時20セントしか収入を生み出していない
新聞は毎時93セント
インターネットは3.6ドル
 
p236
平均的な単行本は読み切るのに4.3時間かかり、買うのに23ドルかかる
毎時5.34ドルの消費コスト
1995年に本、新聞、映画などさまざまなメディアの
毎時平均コストを測るとほぼ毎時2ドルに落ち着いた
我々はメディアを利用するのに毎時2ドル払っていた
インフレ率を考慮して2015年現在の価値で1995年、2010年、2015年の
時間当たり平均消費コストは3.08、2.69、3.37ドル
過去20年のアテンションの価値は安定している
今後20年はもっと質の高いアテンションを大規模に増やしていくためのフィルタリングテクノロジーを
利用することがゴールでありチャンスになる
 
p247
投資家のエスター・ダイソンは
20年前に、受け手がメールを読んだらその送り手に課金できるシステムを提案していた
エスターにメールを読んでもらうにはお金を払わなくてはいけないのだ
さらに大切なのは、メールに相当の額を払うということは、
受け手に対してそれが重要だということを伝えることになる
 
p252
すべてがゼロに向かっていく中で
唯一コストが増加しているのが人間の経験
これはコピーできない。それ以外のものはすべて
コモディティー化しフィルターをかけられるようになる
経験の価値は上がり続けている
        
(つづく)


ケヴィン・ケリー『<インターネット>の次に来るもの』(NHK出版)2016年 (その2)

2017年10月29日 | 科学・技術

ケヴィン・ケリー『<インターネット>の次に来るもの』(NHK出版)2016年
    
■メモ
    
【FLOWING】
    
p86
マクルーハンが言っているように、
新しいメディアの初期の形は、それが代替した古いメディアを模倣する
最初の商用コンピュータはオフィスの姿を真似した
デスクトップ、フォルダー、ファイル
第二段階はオフィスの真似事をやめ、ウェブの原理によって体系化された
基本的な単位はファイルでなく「ページ」(およびハイパーリンク)
ページはフォルダに整理されるのではなく、ネットワーク化されたウェブに並べられた
インターフェイスはデスクトップからブラウザーに変わった
今は第三段階に移行中
現在の主要な単位は流れとストリーミング
ツイッターの流れ、フェイスブックのウォールなど
 
p88
電子書籍を読むようになったら積ん読をしなくなった話
今読む本だけを買うようになった
 
p90
最初の蓄音機は4分半しか録音できず
音楽家は苦労して演奏時間を縮めて合わせた
今でもポップミュージックの長さの平均は4分半
 
p91
コピーが無料になると、コピーできないものを売らなくてはならない
例えば信用。再生産はできず、卸で買うこともできない
誰か他人の信用を複製することなどできない
信用は時間をかけて得るもの、それを偽ることはできない
 
p93 即時性の価値
どんなものもいずれは無料コピーを手に入れられるが
それが製作者によって発表された時点で、さらには制作された時点で
手元にあったらそれは生成的な価値(無料よりも良いもの)になる
映画作品の公開初日の夜には金が払われる
ハードカバーの本は文庫版より先に出るので高い

その他、無料より生成的価値があるものとその例

・パーソナライズ
 購入者の読書歴に合わせて編集された本
・解釈
 ソフトは無料だが、マニュアルは有料
・信頼性
 ソフトに品質保証がつくと有料
・アクセス可能性
 手間をかけずにどこでも使えることに金を払う
・実体化
 電子書籍の印刷
・支援者
 ファンがクリエーターを支援する投げ銭
・発見可能性
 多くの創作物が集まることによって生まれる価値。コミケ
 
p106 本が持つ固定性から流動性へ
・ページの固定性(情報の位置が同じであること)
・版の固定性(同じ版なら同じテキストを共有していることの保証)
・物としての固定性(年数が経っても内容が変化しない)
・完結性としての固定性(完成品であり、完結している)

これらはそれぞれ電子書籍では4つの流動性に変わる

・ページの流動性
・版の流動性 内容をパーソナライズする
・容れ物の流動性 無限の棚、世界中のどこでも閲覧
・成長という流動性 内容が改善される。永遠に未完成
 
【SCREENING】
    
p114
印刷技術によって使われる言葉の数が爆発的に増え、
古英語の5万からいまでは100万となった
恋愛小説が出てきたのは1740年
王族でなくても回顧録を表す者が出始める
 
p118
50年前に最初のTVが出た時、
これが読書の時間を急激に削ってしまったため
読み書きの習慣はもう終わりだと
その後数十年にわたって思われてきた
20世紀後半の教育者ややインテリ、政治家や親は
テレビ世代の子供はものを書けなくなると心配した
現在人々が文字を読む時間は80年代の3倍になっている
 
p121
読書では頭はスクリーンで読むときと違う動きをする
別の空間で集中し没入する
ウェブでは何時間読んでもこうした読書空間に行き着くことはない
 
p123
本をモノではなくプロセスとして考える話
<なっていく>ものとして




 
p125
読書のソーシャル化
読んでいる本のタイトル、反応、注釈までシェアできるようになる
文章にリンクを張り、関連の文章、動画などの情報へつなぐ
書き込み、ハイライト、注釈、疑問や感想まで読めるようになる
参考:https://www.goodreads.com/

※これができるようになったらこのブログは不要になるだろうが
一番したいことは共有ではなく(できてもいいがどうでもいい)
整理して後から自分が読み返せるようにすることなのだが…
 
p127
ユニバーサルな図書館
過去から現在までのすべての知識を一箇所に集め
すべての本、文書、概念図があらゆる言語で書かれ
すべてがつながっている。
過去に一度だけそれが存在した
紀元前300年頃建てられたアレクサンドリア図書館は
当時の世界に出回っている巻物をすべて収集していた
ある時点で50万点の巻物があったとされ
当時存在した巻物の30%から70%に当たると考えられている
 
p129
シュメール人が粘土板に記録を残して以来
人類は少なくとも3億1000万冊の本
14億の記事やエッセイ、1億8000万の曲
3兆5000億のイメージ、33万本の映画作品
10億時間の動画やテレビ番組や短編映画
60兆の公開されたウェブページを出版した
そのすべてがデジタル化されると
すべて圧縮したとしても50ペタバイトのハードディスクが必要
10年前はこの容量を収容するには小さな町の図書館くらいの建物が必要だった
現在は寝室に収まる
明日のテクノロジーでは、それがスマートフォンのサイズになるだろう
 
p134
この偉大なネットワーク化図書館によって
例えばロンドンのトラファルガー広場に立ちながら
ウェアラブル端末を使えば、
その場についてこれまで書かれたものを何でも読むことができるだろう
 
(つづく)


ケヴィン・ケリー『<インターネット>の次に来るもの』(NHK出版)2016年 (その1)

2017年10月25日 | 科学・技術

ケヴィン・ケリー『の次に来るもの』(NHK出版)2016年
    
副題:未来を決める12の法則
原題:"THE INEVITABLE: UNDERSTANDING THE 12 TECHNOLOGICAL FORCES THAT WILL SHAPE OUR FUTURE" by KEVIN KELLY (2016)
12個の技術的な力が導く未来について考察する本。その12の力とは以下の通りで、そのまま目次になっている
1.BECOMING
2.COGNIFYING
3.FLOWING
4.SCREENING
5.ACCESSING
6.SHARING
7.FILTERING
8.REMIXING
9.INTERACTING
10.TRACKING
11.QUESTIONING
12.BEGINNING
本当に頭がいい人が書いた本というのは読んでいて気持ちがいい
非常に刺激的な内容で、読まないと損する(これを読んでいないのはもったいない)本だと思う
 
■メモ
    
【BECOMING】
    
p9
突き抜けたテクノロジーに遭遇するとそれを押し戻したい衝動にかられる
止めるか、禁止するか、利用しづらくする
インターネットが音楽や映画をコピーできるようにすると
ハリウッドや音楽業界があらゆる手でコピーを阻止しようとしたが
顧客の中に敵を作るだけに終わった
不可避なものを阻止しようとすればしっぺ返しにあう
それより警戒しながら利用する方がずっと上手くいく
 
p11
過去200年で最大の発明は、個別のガジェットや道具ではなく
科学的なプロセスそのもの
 
p21
ユートピアもディストピアも向かう方向ではない
テクノロジーは我々を「プロトピア」に向かわせる
より正確にいうと我々はすでにそこに着いている
プロトピアは目的地というより、ある状態にこと、
漸進的で緩やかな進歩。問題と解決策が循環しながら拡大
現代は望ましいと思えるどんな未来もそれを想像することすら困難な時代
文明とテクノロジーがこの段階に達すると、過去も未来もない
ただ、とどまることのない盲目の現在がある
別のやり方があるとすれば、それは未来へとことを受け入れること
 
p24
インターネットやウェヴが誕生したばかりの頃に
頭脳明晰な人たちが愚かなことを言った例を探すのは難しくない
1994年暮れにタイム誌がインターネットはなぜ主流になれないかを説明する記事を掲載
「それは商売をするためにデザインされたものではなく、新参者を素直に受け入れてくれない」
ニューズウィーク誌は1995年2月号で
天文物理学者クリフォード・ストールがオンラインのショッピングや
コミュニティーというのは常識に反する非現実的な妄想だと述べている

※クリフォード・ストールとは懐かしい
昔読んだ『カッコウはコンピュータに卵を産む』という本は面白かった
 
p26
著者が1989年にABC社の首脳にインターネットについて説明するプレゼンを行った時の話
すべてがシェアされフリーで流通するという話に、ビジネス界の重役はあり得ないという反応をした
上級副社長のスティーヴ・ワイズワッサー
「インターネットは90年代のアマチュア無線のようなものになるだろう」
帰り際に筆者は言った
「偶然知ったのですが、abc.comというアドレスはまだ登録されていないですね。
すぐに地下に降りて、一番のコンピュータオタクを捕まえて
このアドレスをすぐ登録したほうがいいですよ。それが何なのかはわからなくてかまいません。
きっと良い結果をもたらします」
彼らは虚ろな口調で感謝の言葉を述べた。1週間後もアドレスは登録されていなかった
 
p30
生まれてから20年経ったウェヴの規模は想像を絶する
ウェヴのページの総数は、一時的に作られたものも含めて60兆を超える
これは今生きている人ひとりにつき約1万ページ
この肥沃な世界は創造されてからまだ8000日も経っていない
 
p33
ウェヴの現象の中で最も不思議なのはユーザによって生み出されるコンテンツ
メディアの専門家が知る限り、視聴者が自分からエンターテイメントを
作り出すことなど絶対にないと信じる証拠はいくらでもあった
視聴者は一般に受動的な観客であることは確認済み
映像を作るなど、費用や経験の点から素人には手が届かないものだった
ユーザーがコンテンツを創造するなど決して大規模には広まらないだろうし、
もしそうなっても観客はつかないし、もし観客がついたとしても
たいしたものではないはずだった
だから、2000年代初頭に急に5000万ものブログが
毎秒2つのペースで立ち上がるのを目撃したのは大きな衝撃だった
数年でユーザーの撮影した動画が爆発的に増え始め
2015年にはユーチューブに毎分6万5000本、300時間分の動画がアップされるようになった

※ちなみにgooブログでは今でも約5分毎に1つのblogが新しく立ち上げられている模様
 
p35
1990年頃に言われたインターネットは男性優位という考えも間違いだった
2002年には女性のオンライン利用人口が男性を上回った
インターネットは今も昔も重大の子供の世界ではない
2014年におけるネット利用者の平均年齢は44歳

アーミッシュとの会話
「アーミッシュのウェブサイトがあるんですか?」
「家業の宣伝用にね。店ではバーベキュー用のグリルを溶接してるんです」
「そうですか、しかし…」
「ああ、ネット用の端末は、公共図書館になるものを使っています。ヤフーも使っていますよ」
ネットが完全に行き渡ったと知ったのはこのときだった
 
p39
2050年の年寄りたちはこう語るだろう
2016年当時にもしイノベーターでいられたらどんなにすごかったが想像できるかね、と
そこは広く開かれたフロンティアだったんだ!
どんな分野のものも自由に選んで、ちょっとAI機能を付けて、クラウドに置いておくだけでよかったんだ
そして彼らは「当時は何もかもが可能だった。そのことに気づいてさえいれば!」と嘆くのだ

歴史上、何かを発明するのにこんなに良いときはない
 
【COGNIFYING】
    
p41
最初の正真正銘のAIはインターネットとして知られるコンピュータ素子で造られた
超生命体の中で生まれることになるだろう
ネットに組み込まれて互いにゆるく結ばれ、この惑星全体を
薄く覆うことになるだろう
AIの思考と我々の思考の境界ははっきりしなくなる
ネットワーク自体がコグニファイしていき、
いつまでも改良され続けるという不思議な存在になっていく
AIはあらゆるところに行き渡ることでかえって隠れた存在になる
 
p45
クイッド社という調査会社によると、AIに対して2009年から
180億ドル以上の投資が行われている
2014年だけでAIやそれに関連するテクノロジーを扱う322の会社に
20億ドル以上が投資されている
ヤフー、インテル、ドロップボックス、リンクトイン、ピンタレスト、ツイッターはどこも
2014年以降にAI企業の買収を行っている
一般企業によるAI分野への投資はここ4年ほど毎年平均70%もの伸びを示している
ディープマインドのゲーム学習の話
かつての電化のようにAI化が進むという話
写真撮影がAIの導入によって劇的に小型軽量化した事例
 
p51
2002年にグーグルの社内パーティに出席したときのラリー・ペイジとの会話
当時のGoogleは実収入を生み出していなかった
「検索サービスの会社は山ほどあるのに、なぜこれを?」
ペイジの返事
「僕らが本当に作っているのは、AIなんだよ」
 
p53
最近になって起こった3つのブレークスルーがAIの扉を解き放った
1.安価な並列計算
 GPUの登場とそのコミディティ化
2.ビッグデータ
 学習に必要な実世界に関するデータがそろってきたこと
3.アルゴリズムの改良
 深層学習の登場、CNN
 
p57
カスパロフの発想によるフリースタイルのチェスについて
総合格闘技と同様に、チェスをそのまま人間が指してもいいし
コンピュータでもなんでも使ってもいいというルール
人間とAIが協力した「ケンタウロス」としてプレーしてもよい
2014年のフリースタイルバトル選手権では、
完全にAIだけのエンジンが42勝、ケンタウロスは53勝した
現存する最も強いチェスプレイヤーはケンタウロスで
Intagrandという数名の人間とAIが組んだチーム
AIの登場で人間のプレイヤーもまた強くなった
人間の最高位にいるチェスプレイヤーであるマグヌス・カールセンはAIで訓練しており、
人間として最もコンピュータに近いプレーヤーと言われる
 
p65
あまりに深遠なレベルの問題を解くには
何百もの異なった種の知性が必要になる
異質な知性による解答をそのまま受け入れることは難しい
知性間の新たな文化摩擦
数学の証明問題ですでにそれが起こっている
数学の証明の中にはあまりに複雑なためコンピュータを使わなくては
各手順を厳密にチェックできないものがある
その結果をすべての数学者が受け入れているわけではない
その証明は人間だけでは理解できず、一連のアルゴリズムを信頼する必要がある
そのためには、こうした創造物をどの時点で信頼すべきか判断する新しいスキルが必要になる
異質の知性を受け入れるにも同様のスキルが必要
AIという言葉は異質の知性 Alien Intelligence の略号にもなる
 
p68
200年前には、アメリカでは70%の労働者が農場で働いていた
現在は機械に置き換えられ1%
かつて農場にいた人々が工業製品を作った
現在ではほとんどの人が、1800年代の農民が思いもつかなかった職業に就いている
今世紀が終わるまでにいま存在する職業の70%がオートメーションに置き換えられる
 
p81
これはマシンとの競争ではない。競争したら負けてしまう
マシンと共同して行う競争とすべき
あなたの将来はロボットといかに協調して働けるかにかかっている
同僚の9割は見えないマシンとなる
ロボットのおかげで我々はもっと人間らしい仕事に集中できる
        

(つづく)


森博嗣『つぶやきのクリーム』(講談社文庫)2012年

2017年10月23日 | エッセイ・随筆

森博嗣『つぶやきのクリーム』(講談社文庫)2012年
    
エッセイ集。折々に思ったことを100の短いエッセイにまとめている。
 
■メモ
    
p27
若いときには眠いという話
 
p44
「いらっしゃいませ的玄関」の発想は日本古来のものではない
第一印象が大切というのは欧米から来た文化
 
p46
縦長の本は横書きの文化圏で生まれたものであり
文字を横に並べるためのプロポーション
すべての面で電子書籍のほうが紙の本より読みやすい、という話
 
p49
筆記という行為をする機会が激減しているという話
携帯電話のボタンに受話器を上げたり下ろしたりする絵があるが
携帯電話しか知らない世代には意味が通じないのでは

p62
成功する人は成功する方法ではなく失敗する方法を知っている
失敗する人は失敗する方法を見逃している
 
p67
新幹線では空いていてもグリーン車に乗る
静かだから。静かさに価値があると考える
静かな空間でものを考えるとリターンが大きい
静かさに投資すべき
 
p73
予言は遠い未来の方が当てやすい
地震の予知のようなもの
 
p74
悩んで考えた末、買うのを諦めるのは難しい
安いけれどもそれほどでもないものを買わないことが難しい
高くても絶対に欲しいものを買って貧乏になる人はいないが
安くてそれほどでもないものを買いすぎてみんな貧乏になる
 
p81
経済がネックになるのは経済が発展しか知らないから
発展しないのを悪と考えるのは、
仕事もせず楽をして稼いでいる人たちがいるから
こういう人たちが経済を動かし、政治を動かしている
その人達が「少子化は悪い」「増税は悪い」「太陽光発電は正義」と大衆の耳許で囁く
 
p86
今までこれでやってこられたのだから、これからも大丈夫という理屈で
議論をねじ伏せてしまう人がグループの上のほうにいると危ないときは本当に危ない
 
p100
子供には丁寧な言葉づかいを教えるべき
小さいときから敬語を使わせるようにする。子供のうちに教えれば品が備わりやすい
友達同士でも敬語を使う。そういう子供は昔は普通だったが
最近はほとんどいない。
子供に話すときも丁寧な言葉を使うべき。叱るときでさえ
 
p103
アマゾンとかアップルとかグーグルとかプラットホームが金を取るというシステムが
おかしいという人も多い(特に出版社に)
それはこれまで出版社がプラットホームだったから
アマゾンもアップルもグーグルも、ずっと前から巨額を投資してこれを築いた
なにもしてこなかった出版業界はもう致命的に遅い
電子出版のビジネスは出版界において防戦でしかありえない
負けるのをどれだけ遅らせるかという苦しい戦い
 
p143
もともと電話が嫌いだ
相手が話したくない状況かも知れないのに
突然呼び出すわけだから、基本的に無礼な装置
電話をかけたらこちらの番号だけが伝わり
都合が良い時間に向こうがかけてくれるというのが良い
事前に何時に電話しますという連絡を貰っているときにしか電話に出ないようにしている
アポがなかったらドアは開けないし、人に会うこともない
それが人間のマナー
 
p150
今これが売れるという本はたいてい書店にはない
むしろブックオフの方がある
売れるものを売れるときに並べるという基本
この鉄則が書店ほどできていない商売は他にないのでは
書店は自分たちが売りたい本を並べている
本という商品の供給システムは狂っている
どこにも救い手はいない
 
p154
失敗も成功もすでに終わったこと
失敗を引きずる人はいないが成功を引きずる人は多い
大きな成功の最大の障害とは小さな成功である
成功した後にすべきことは、すぐに次のステップに踏み出すこと
 
p158
冷静沈着とは、事前にトラブル時を擬似経験している人
最悪の結果を想定していれば、驚くような結果というのはまずない
冷静であれば対処を迅速にこなせ、被害を最小限に食い止める
仲間が失敗したときも、冷静な人間がグループにいることはとても重要
 
p176
「二番じゃダメなんですか」と言われたら
冷静に一番であることのメリット、二番でどのくらい損をするのかを説明すればよい
それをその場でできなかったとしたらそれはすでに負け
議論をするならそのくらいの応酬は当たり前
 
p184
本当は個性がない人はいない
個性が表れないのは考えていないから
考えなくても生きていけるので機械的に毎日を送っているうちに
個性は出てこなくなる
では個性は出さなくてはいけないものか?どちらでもよい
没個性の生き方というのも楽
本人がそれでよければ何も問題はない
 
p195
ちょっとした言葉に救われたと言っても
言葉が救ったのではない。本人が自分で救ったのだ
そういう気持ちや能力があったからその言葉に目を留めただけ
 
p198
長い目でみれば、正直者が馬鹿をみることはないという話


以上
       


呉智英/適菜収『愚民文明の暴走』(講談社)2014年 (その2)

2017年10月22日 | 思想・宗教

呉智英/適菜収『愚民文明の暴走』(講談社)2014年
    
■メモ
    
p98
呉 キリスト教思想が日本に入って来たときに、我々にも何かそれに匹敵するものがないかといって
 近代的仏教改革者が親鸞の『歎異抄』を発見する
 キリスト教に対抗できる思想は親鸞だと清沢満之が言い出した
適菜 親鸞はあまりにも非仏教的なもので本筋から言えば異端もいいところ
 吉本はそこに惹かれたのか
呉 そう。仏教は釈迦の段階では自力思想。自力で覚る
 基本的には論理思考により世界は無常であると覚る。
 極めて論理的だが、大衆には難しすぎる
 それで何かにすがれば救われるという発想に行き着く
 大乗でも自力的な大乗なんだから、(親鸞のような)他力原理主義は仏教とは180度反対
 戦乱で民衆が苦しんでるから念仏が出てくるのもわかる
 
p100
呉 吉本は非常に単純な人なんだよ
 人間の実存や根源的なところがわかっていない
適菜 だから仏教の本質のほうに向かわないわけで
 小浜逸郎が吉本の親鸞論がほぼ誤読と曲解に基づくものであることを指摘している
呉 そもそも日本語がおかしい。「大衆の原像」とか。
 吉本隆明現象にはまさしく『<信>の構造』がある
 
p126
適菜 三島は若い頃から一貫して「小説家は自殺するべきではない」と言っている
 太宰や芥川に対して、自殺する文学者は信用できないと批判
 結局三島は小説家としてではなく武士として自殺した
 
p129
適菜 合理だけで人は動いていないと感知することが保守でしょう
 学問としての社会学は、人間が合理的に行動することを前提にモデルを組むが
 現実社会の人間はほとんど合理的に動いていない
 だから(保守は)理屈も宗教も尊重するけど簡単に取り込まれることもない
 
p138
適菜 ナポレオンは戦地に山ほど本を持っていった
 その図書目録についてゲーテが語っている
 政治の項目に『旧約聖書』『新約聖書』『コーラン』が挙げられていた
 
p145
呉 人間はなぜギャンブル中毒になるか
 ひとつは幸福が降り注いで欲しいという願望
 時分だけが世界の機密を知っており、その機密を知ることによって世界が動き出すという
 おとぎ話と同じ構造。呪文を唱えると扉が開くみたいな
 それは人間の実存的、自己承認的なものにつながっていて
 それを商売にするのがギャンブル
 ギャンブルの起源は多くの人類学者が言うように宗教に関係している
適菜 でもパチンコ屋の常連のババアはそこまで考えてないですよ
呉 考えてはいないけど、人間の脳に組み込まれている
 
p150
呉 社会的に抑圧されている人は性欲が強かったりする
 自我の充足感がないので性の方向に暴走する
適菜 弱い奴ほど身を守るために攻撃性が強くなると
呉 男は連続して射精できないから限界がある
 女の場合、自我が全開になるとセックス中毒になる
 
p157
適菜 田中角栄は本当はきちんとした教育を受けている
呉 周りが勝手に尋常小学校卒と言いそれを否定しなかった
 それが広まったほうが得だから
適菜 野坂昭如は早稲田を出ているけど「早稲田大学仏文科中退」と詐称していた
 逆偽装している
 
p166
呉 日本の政党は共和党とはどこも名乗らない
 これを名乗るのはまずいという感覚があるから
 共和党とは、世襲制の元首がいないということ
 日本で共和党を名乗れば、おまえは天皇を否定するのかと右翼が騒ぎ出す
 アメリカの場合、民主制と共和制は事実上一緒のはず
 にもかかわらずなぜ二つに分かれているかというと
 共和制はものがわかった人たちが集まって合議で政治を進める思想
 民主制はすべての人が集まる、という違い
 本来の理念はあまり違わない
 共和制はポピュリズムを否定していると思う。


p173
呉 知り合いの歴史学者に聞いた話
 日本における右翼とヨーロッパにおける右翼の違いは何かと
 日本の場合は天皇を軸にしているけど
 ヨーロッパはギリシャ・ローマ世界を一種の理想形と考える
 神聖ローマ帝国も考えてみれば変な話で、あれはローマとは関係ない
 ヒットラーも第三帝国とかいうけど、その原型にあたるのはギリシャ・ローマ世界だと
適菜 ムッソリーニも統合原理としてローマを持ち出す
呉 日本の場合それが天皇制
適菜 ヨーロッパで天皇陛下に位置するのは神ですよね
呉 聖書だってヘレニズムの共通言語であるギリシャ語で書かれてるわけだから
 文化としてのギリシャが根本にある
 日本の場合、その故郷にあたるものが天皇であると
 と、右翼は言うがそれについては相当に疑問があって
適菜 歴史的実体としての皇室と、それがどういう位置に奉られているかは別に考えたほうが
呉 その議論で言うと、皇室がそういう位置に置かれたのは基本的には明治になってからだから
 それほど古くない
適菜 それはそれとして、天皇陛下がどのような役割を果たしているかというと
 神様と変わらないわけです。どのような民族でも神が位置する場所は存在する
 そこに天皇陛下がいるというだけの話では
呉 そうだとしても、天皇が近代において有効に作用しうるかという問題が出てくる
適菜 共同体がある以上、統一原理が必要になる
 天皇陛下を排除しても、別の神が座るだけ。天皇陛下を世俗化したことが一番の間違い
呉 近代の流れにおいて、世俗化せざるを得ないという宿命がある
 
 
p191
適菜 長いスパンで考えたとき人類は民主主義を廃棄し哲人政治、賢人政治を目指すべき
 これは別に理想主義ではない。代議制は選良に政治をさせるという発想
 司法も行政もエリートが扱うべき領域だし、実際そうなっている
 人間社会に階級ができるのは歴史的に見て自然な現象
 それに対して異質で人工的な理念的な政治制度を唱えてきたのが近代
 その限界がすでに見えている
 上層部に「徳」が維持されなければ社会は腐っていく
呉 民主主義は一番悪くはないけどセカンドワーストだという言い方をする人が多い
 強盗は許せないけど詐欺なら仕方ないという話
適菜 チャーチルの言葉は正確には民主主義ではなく議会主義だと思う
 イデオロギーとしての民主主義は間違いなくワーストだと思う
 チャーチルもそれはわかっている
 橋爪大三郎が『民主主義は最高の政治制度である』という本を書いていたが
 あれはひどい本だった
 80年代後半から90年代初頭の社会を分析し、日本の将来を予想しているのですが
 あまりに楽観的でほとんど外れている
 
p196
呉 選挙権の免許制とそれに伴うポイント制
 国民一斉に常識程度の試験をしてそれに通った人に選挙権を与える
 政治から受ける権利は平等でいいが政治をするのは権利ではなく能力
 試験は義務教育程度のギリギリ及第点のレベルでいい
 義務教育の本旨にもあう
 さらにこの試験を一種、二種、三種とわけ、種ごとにポイントを決める
 持ちポイントを分割して投票できる
 死票もなくなるし、政治への責任感が強まる
 これを導入しても結果は現在とほとんど変わらない
 変わるのは国民の政治意識、政治観。
 
p204
呉 『ブレンダと呼ばれた少年』の話
 『性の署名』ではその(割礼時に誤ってペニスを切り落とされ性転換させられた)"少女"は
 子どもが産めないだけで、男と恋愛もし、結婚もできて素晴らしい人生を歩んだという話で
 終わっているけどそれは嘘で、その少年は5,6歳になると「僕は本当は女じゃないんだ」と
 思うようになる。それで青年期になってホルモン注射を止めて男として生きる決意をする
 幸いにも女性と結婚したけど、やはり最終的には自殺してしまう
 実に痛ましい事件で、フェミニズムのマッドサイエンティストによる人体改造
適菜 フェミニズムは反知性主義と軍国主義に行き着く
 これは民主主義が徴兵制に行き着くのと同じ理屈
 
p212
呉 日露戦争の後、ポーツマス条約を結んだときには
 日比谷焼き討ち事件が起きた
 政治家は冷静に考えて、ここで手を打ってロシヤと講和を結ばないとまずいと考えた
 今ならギリギリ手を打てると
 でも民衆側は抗議行動を起こした
 もしあのとき民衆の意見を受け入れて戦争を続けていたら大変なことになっていた
 「民衆は平和勢力だ」というのは嘘
 民衆には先を見越すことはできない


以上
       


呉智英/適菜収『愚民文明の暴走』(講談社)2014年 (その1)

2017年10月21日 | 思想・宗教

呉智英/適菜収『愚民文明の暴走』(講談社)2014年
    
著者らによる対談。ポピュリズムや反知性主義などを取り上げ、現代の民主主義社会の問題点を指摘する内容。
 
■メモ
    
p9
呉 平凡社のマイペディアでのポピュリズムの説明
「1920年代に起きたフランスにおける文学運動」とある
広辞苑では第二版まではマイペディアと同じ説明しかない
第三版が出た1985年頃になってはじめて「大衆扇動の政治」という説明がある
ポピュリズムは本来文学運動の言葉だった
 
p12
適菜 参議院は「良識の府」と呼ばれ参院議員に必要なのは良識だが
 選挙で良識を選べるのかという問題がある
 一人のソクラテスより二人の泥棒の意見を尊重するのが多数決
呉 良識が選挙制度にふさわしいのかという根本的問題
 代議制はそのまま国民の意見を反映するわけにいかないから専門家を選ぶということだが
 そうすると国民主権ではなくなる
適菜 そもそもなぜ議会を二つに分けるのか
 民意を反映させる下院とその暴走を防ぐ上院という役割分担がある
 かつての貴族院も非公選
 安倍晋三は憲法を改正して一院制にしろと言っている
 こういう人間が首相になってしまうのが大衆社会の恐ろしい所
 エドマンド・バークが指摘したように上院は人民の代表になってはならない
 バークはフランス革命の失敗は元老院を設置することを忘れたことにあると批判している
 あらゆるセーフティネットが民主主義とポピュリズムにより解体されようとしている
 
p16
適菜 ルソーでさえ民主主義を現実には選択できないことはわかっていた
 でもそれがイデオロギーになると暴走する
 近代啓蒙思想の危険性を指摘する言論もヨーロッパにはあった
 バークやゲーテはキリスト教的歴史観の上に形成された近代啓蒙思想の危険性を見抜いていた
 まともな思想家、哲学者は民主主義を否定している
 しかし近代日本にはそのような言論がなく日本特有の形で近代が暴走するようになった
 三島由紀夫はそれを「近代史の読み飛ばし」と言った
 
p19
呉 バスティーユ監獄が襲撃された7月14日はパリ祭にもなっているが
 バスティーユ監獄には政治犯は一人もいなかった
 中にいたのは借金を踏み倒した奴やこそ泥
 あんなものを記念して祝日にしていいのか
 ヴァンデ戦争では30万人が虐殺されている。フランス革命では暗黒面も大きかった
適菜 ニーチェやゲーテはフランス革命の本質を見抜いていた
 卑劣で薄汚い利己的な連中の暴動にすぎないと
 フランス革命は必然的にテロリズム(恐怖政治)に行き着いた
 一般意志は独裁の原理そのもの
呉 バロネス・オルツィの『紅はこべ』について
 ものすごい反革命小説
 
p34
適菜 小泉進次郎が71歳の候補者を公認したことを批判していた
 若い人間が社会を変えることが正しいと思い込んでいるフシがある
呉 老人支配は必ずしも悪いことではなく、老獪な政治というのは年寄りがやる
 スペインのフランコも老獪な政治をやった
 スペインは実は枢軸についていない、連合にもついていないわけで
 大戦下を非常にうまく乗り切った
 独裁を止めた後も非常に上手に王政に移行した。そういう老獪さ
 台湾の李登輝にも熟成した老獪さを感じる
適菜 根底に革新幻想がある?
呉 というより若者文化の台頭が大きい
 大学生だったころ「三十歳以上を信用するな」みたいなことをいうバカがいた
 俺は若い頃から若いということに体力以外の価値を見出してなかった

ジェリー・ルービンの言葉と言われる
 
p43
呉 福田恆存はロレンスの研究とか近代思想から入っている
 福田の面白いところはそこ
 近代文明との対比で考えている。近代を理解した上での保守
 保守思想を天皇制だけで考えている奴は面白くない
 
p45
適菜 メディアの発達が社会を破壊するとキルケゴールが言っているが
 その最終的な姿がネットの掲示板やSNS、ツイッター
 キルケゴールは近代というシステムの中で人間はいろんな事件に
 直接コミットする機会を奪われ、傍観者としてしか存在できなくなると予言していた
 今の社会では誰もがコメンテーター
 
p53
呉 職人がプラスの概念になったのは1970年代以降
 それ以前はマイナスだった。下層階級という感じがして
 ルーチンワークをしているだけで創造性がないと
適菜 70年代に転換したのはなぜ
呉 わからない。近代以前は卑しめられるものでもなかった
 
p62
適菜 (自然という)本来の神を歪めたのがユダヤ-キリスト教であるというのがニーチェの見取り図
呉 つまりキリスト教はパウロ教だと
適菜 あらゆる具体的なものを切断して徳という抽象に取り込んだ
 このカラクリを使って人工的に作られたのがキリスト教
 中東のイエスの伝説を悪用した。その後キリスト教が拡大していく中で民間信仰や
 他の宗教を取り込んだ。だからカトリックは唯一神教的ではない。マリア信仰を取り込んだり
呉 プロテスタントの方が原理主義で唯一神教的になる
適菜 ルターやカルヴァンの宗教改革は原理化です
 今の原理主義の根本もプロテスタント
呉 聖書をきちんと読むと最初の方はどう考えても一神教的ではない
 神がいて悪魔がいて、周りに変な悪霊みたいのがいて
 人間が完全な存在を求めるというメンタリティーが何かをつくっている
 パウロだけではなくてプラトン的な物語の構造を持っている
適菜 ニーチェは「キリスト教は世俗化されたプラトニズムだ」と言いました
 キリスト教は現実の背後に神を押し込んでしまった
呉 だから西洋思想を批判的に見るときどうしても最後にプラトンの問題が出てくる
 
p64
適菜 キリスト教的な世界観や近代の危険性を指摘する思想家・哲学者は
 反プラトンの傾向がある。プラトンの呪いが現代日本まで及んでいる
 豊かなギリシャ世界がソクラテス、プラトンによって歪められたという
 ニーチェの歴史観に共感できる。ニーチェはゲーテの影響を強く受けている
 ゲーテはスピノザを読んでいた
 
p81 エホバの証人の月刊誌
呉 鱗がない水生生物は食べてはいけないという律法があるから
 敬虔なユダヤ教徒はイカやエビを食わない
 それで読者が「私は鰻が好物だけど、鰻は鱗がないから食べてはダメでしょうか?」と
 教団は「たしかに鰻は旨い。あなたの質問はもっともだ。だが、
 きちんと聖書を読みなさい。皮に鱗がないもおんは食べてはいけないと書いてある。
 だから皮をよけて食べなさい」身はいいんだって
適菜 ほとんど一休さん
 
p82
呉 人類は十万年ぐらい前にはたぶん今と同じようなことを考えていた
 その段階では会話言語はあっても記録言語がない
 二千三百年前の莊子哲学に現代思想の重要な部分は全部出ている
 どうしてみんなそれに気づかないんだろう

※橘玲『「読まなくてもいい本」の読書案内』p187にも同様の指摘がある

適菜 莊子はどこから読むべき?
呉 内篇が重要です。外篇、雑篇はあまり読む必要はない
 内篇の斉物論篇と大宗帥篇が一番大事。でも莊子は漢学者も読みにくいと言うほど難しい
 ウィトゲンシュタインが言っていることも枠組みとしては莊子に出てくる
 禅宗も莊子の影響を受けているから哲学的な体系になっている
 それも西洋人の哲学とは違う体系になっている
 福永光司は莊子を「東洋の実存主義」と言っている
 莊子と仏教とのつながりも原始仏教を読むようになって同じことを言っている部分がわかった
 炎はものなのか状態なのかと。実は両方
 
p86
呉 莊子の大宗帥篇に出てくる「天の戮民」の話
 孔子が自分を天の戮民と言ったと
 戮民とは刑罰で手足を切り落とされた人
 つまり天によって「理想を求めるような罰を科せられた人間」という
 天から業が深い知識人として生きろと言われたと
 これが莊子側からみた孔子
 理想は無意味だというペシミズム
 知識人とは「天の戮民」つまり「業」です
 ヨーロッパにもそれはある。そこが知識人が一番噛みしめるべき
 古典を読んで「いいことが書いてある」「教えが書いてある」なんて言うけど
 教えなんて書いてない。葛藤だよ
 
p92 吉本隆明の逸話
適菜 編集者と一緒に駒込の吉本の自宅に遊びに行ったことがあって
 その頃、和歌山カレー事件があって、吉本は興奮していて
 「林真須美によってフェミニズムは終わったんだよ」と言う
呉 どういう理屈?
適菜 私も質問したんですけど
 「そんなのはね、林真須美が出てきたからには完全に終わったんだ」と
 それしか言わない
 
p96
適菜 山口昌男が『共同幻想論』に登場する対幻想について
 「それは近代の核家族にのみ通用するものではないか」と批判した
 近代以前の物語に近代的恋愛観をあてはめるのはおかしいと
 すると吉本は何も言えなくなり「チンピラ人類学者」と罵倒することでごまかした

(つづく)
       


佐藤勝彦『宇宙はわれわれの宇宙だけではなかった』(PHP文庫)2001年 (その3)

2017年10月20日 | 科学・技術

佐藤勝彦『宇宙はわれわれの宇宙だけではなかった』(PHP文庫)2001年
    
■メモ
    
p190
1930年代に量子論が登場した直後、ディラックは我々が空っぽだと思っている真空は
実は空っぽではなく観測されない電子がつまっていると考えた
この真空にエネルギーを当てると電子が叩き出されてくるはず
その跡には電子が抜け出した穴ができる。
ディラックはこの穴は電子の反物質に当たる陽電子と考えた
現在では真空には電子と陽電子がポッと生まれたり消滅したりしていることがわかっている
真空は物質と反物質が非常に早い速度で生まれたり消えたりしている状態(真空のゆらぎ)
 
p201
ホーキングの両親はロンドンに住んでいたが
母親がオックスフォードで産むことにした
ドイツが大学町のオックスフォードとケンブリッジには爆弾を落とさないと約束したため
連合国側はドイツの大学町ハイデルベルクとゲッチンゲンは爆撃しないと約束した
この約束は守られた

ホーキングの最初の仕事として有名なのはペンローズと一緒に完成させた特異点定理
相対論的宇宙論で議論するかぎり宇宙は数学的な特異点から始まらなくてはならないことを
はっきりさせた画期的理論
もう一つの仕事はブラックホールの蒸発理論
1974年にブラックホールは単に黒いだけではなく黒体輻射と呼ばれる
光や素粒子を放出し、最後には蒸発してしまうことを示した
 
p213
インフレーション理論やホーキングとビレンケンの量子重力的宇宙理論では
宇宙は無限に存在する
無限に存在する宇宙すべてに知的生命体が発生するとは考えられない
インフレーションが不十分にしか起こらなかった空間の曲率が正の宇宙は
すぐにビッグクランチを起こして終わる
また曲率が負の宇宙では銀河や星のような構造が成長できない
それゆえこれらの理論の帰結は人間原理的考えの基礎を与えることになる
 
p219
インフレーション理論が予言する宇宙の密度パラメータは1だが
実際に銀河が宇宙にどれくらいの密度で分布するかを調べると
0.01だった。ところが観測技術が進歩した結果
宇宙には見えない暗黒物質があることがわかってきた
銀河のハローと呼ばれる部分に銀河をとりまくようにこれが分布している
その他小さな光らない星、燃え尽きた白色矮星、中性子星、ブラックホール
ニュートリノなどがその候補
こうしたものを考え合わせると密度パラメータは1に近づく
 
p221
フリーマン・ダイソンは大統一理論の予言する所に従い
陽子、中性子がすべて崩壊し電子、陽電子、光しかない宇宙になっても
知的生命は存在できるという議論を展開している
電子と陽電子だけでできた生命体がありうると
極端なことをいうと、何かあることを考えるのに一千億年かかる知的生物がいても構わない
あるいは人間の数兆分の一で考える生物がいてもいい
 
p232
ハッブル望遠鏡は鏡が設計通り磨かれていなかったため
当初ピンぼけの写真しか撮れなかった
そこでNASAはスペースシャトルエンデバーを使いピンぼけ修正のコンタクトレンズを入れた
 
p233
ウェンディ・フリードマンのチームは
宇宙の膨張の速さを決めるハッブル定数の値を誤差10%以内の正確さで求めた
Ho=72±8km/s/Mpc
これがわかると時間を遡り宇宙が一点に帰る時期がわかり、宇宙の年齢が決まる
その値は130-140億年の間
 
p236
限界密度とは、宇宙の物質エネルギー密度がちょうどこの値なら
宇宙が平坦になる密度
大きければ正の曲率、小さければ負の曲率になる
最近の宇宙背景輻射の観測から宇宙はほぼ平坦であることがわかっている
われわれの宇宙のエネルギー密度は臨界密度だということ

暗黒エネルギー=真空のエネルギーと呼ばれていたもの
現在の宇宙を構成する物質エネルギーの70%は「真空のエネルギー」であることが観測された
真空のエネルギーが存在するということはアインシュタインの宇宙項が存在することと数学的に同等
アインシュタインが人生最大の不覚と悔いた宇宙項は現在の宇宙に蘇ったことになる
残り30%のうち、29%は正体不明の暗黒物質、残り1%が通常の物質

20世紀末に、宇宙論の基本的なパラメータであるハッブル定数や曲率はほとんど決まった
その値はインフレーションを前提とするビッグバン理論と見事に一致した


以上