ラヂオアクティヴィティ[Ra.] 第二部・国境なき恐怖 107環八雲 「何だよ、環八雲って、そんなの聞いたことないよ」 勇気の頭のなかでは、用語さえインプットされていない。 学校の成績に関係ないし、別段どうでもいいことだと思っていた。 「えっ、勇気、環八雲も知らないのか。恥ずかしい……」と勉が嘆いた。 「環八雲とは空にできる雲の名前であるが、東京以外ではできない雲なのよ。環状八号線近くでできる雲なのよ」 と、ミス・ホームズが説明してくれた。 「一九六九年にアマチュア気象学者の塚本弘氏により発見されたもので、塚本氏は環八雲を追及し続けている。偉大な科学者だと僕は尊敬したいと思っている」 博士はこのようなアマチュア学者をこよなく愛している。 このような人たちは、企業や国家のためではなく、人類や地球に貢献しようとしていることが多いからである。 「環八雲は、日本の本州付近が太平洋高気圧に覆われた風の弱い穏やかな日中の午後に、この環八の上空に、あたかもヒツジが群をなしているように積雲が一列に並ぶことがよくあるので、この名がつけられたのさ」 「別名「ヒートアイランド雲」とも呼ばれているわよ」 「ヒートアイランド雲っていうなら、最初からそういえばいいのにね。やっかいだなあー」 と、勇気はつぶやいた。 「ヒートアイランド雲なら、他の都市にも出来ているだろう」 「そのとおりね。でも、最初に発見して追い続けた人がいるということが素晴らしいのよ。何の危機感もなしで、暢気(のんき)に暮らしている人とは大違いよね」 「そんなこというなよ。今は若いから青春を謳歌する、このことの方が大切だと僕は思うよ」 「そういう人は、大人になっても、人生というものは楽しむもので、そっちの方が大切だというのよ」 「まあ、楽しむだけで、無責任な大人は多いよね」 「あきれたもんだ」 「何か、勉と僕は非難されているね」 と勇気は笑った。 「勇気だけだよ」 と勉は迷惑顔である。 「そんなこといわないでよ」 「いや、無責任と無能力とはちがう。僕はどっちらかといって、無能力の方だよ」 「じゃ、僕もそっちということでお願いします」 「若いうちから、諦めるなよ。これでも、僕も努力しているつもりだよ」 と、勉。 青春なんて謳歌したことないからなあーと勉は思う。 やけ酒や宴会が青春を謳歌しているというなら、あまりにも惨めすぎる気がした。 でも、それを青少年にいう気はしなかった。 「外国にもヒートアイランドってあるのかなあー」 と天真爛漫(てんしんらんまん)な勇気。 「あるよ、ニューヨークやサンパウロは有名じゃないかなあー」 「ブラジルの都市サンパウロは、人口約一一○○万人の大都市で、人口増加率も人口密度も非常に高いのよ」 とナンシー。
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