ラヂオアクティヴィティ[Ra.] 第二部・国境なき恐怖 105童話『グスコーブドリの伝記』 「僕のまわりの人間って、そんな人いないからなあー」 「それがいいことでも思っているの」 「思ってないさ。“豊かな社会”になって、自分と自分のまわりの人たちのことしか考えてられないのさ」 「それ皮肉で言っているの」 「物質的には“豊かな社会”でも精神的には“貧困な社会”となっているわけだなあー」 行者は分析した。 「そうだね。悔しいけど、それが事実だよ」 言葉でいくら取りつくろっても仕方がないと勇気は思った。 「また、ロシアの核兵器の心配が新たにあるみたいだ」 「ええ……」深刻な顔をするイワン。 「コンピューター2000年問題で誤射する可能性があるそうだよ。二○○○年になると、コンピューターが下二けたの「00」を「1900」と取り違え、誤作動を起こす恐れがあるそうだってさ」 「まったく、ロシアには困ったものだなあー」 唯一の超大国となったアメリカの国民であるマイクが偉そうな態度でいる。 バスから降りて歩く。 これから電車に乗る予定である。 じりじりと肌が焼かれているような気分から、 ヒートアイランド現象を実感している。 「まったく、東京って赤道直下みたいに暑いね。カゲロウが出ているよ」 「湿気があるから、余計に暑く感じるよ」 「湿気が少ないと、汗がすぐに蒸発して、蒸発するときに、体温をうばっていくから、涼しく感じるのさ。それに、空気が汚いから、余計に暑く感じるのさ」 博士の顔にも汗が流れている。 「うんざりするよ。日本がこんなに暑いとは思わなかった。日本というよりも東京だなあー。都会は世界のどこでも、ヒートアイランドと化しているという」 「ヒートアイランドか、ときどきマスコミで取り上げられているよ。いつごろから、そんなことがいわれてきたか知っているかい」 と、勉を見る勇気。 「宮沢賢治の童話『グスコーブドリの伝記』の中で温暖化について書いていたと思う。あれは、たしか一九三二年の作品だったと思うよ」 と、宮沢賢治のファンで何度も呼んでいる勉は応えた。 そういいながら、賢治でさえも百年前は生きていたのだと不思議な感情をもった。 それほど、昔ではないなあーと思ったのである。 でも、若い勇気は 「そうなの、じゃ、ずいぶん前からあるのだったら、大丈夫だよねえー」 と暢気な感想を述べた。 「なんだクイズじゃなかったのね……質問だったのね」 季はうす目で勇気を見ていた。 「うん」 笑う勇気。 「ずいぶん前からあるからって、大丈夫なわけじゃないだろう! そんなわけないだろう。今とは桁が違うよ。少しは勉強しろよー。地球時間で考えなくっちゃけいないって番組でやっていただろう」 と、勉は勇気に呆れていた。 電車に乗ると、クーラーの風で涼しく感じる。生きた心地がする。 博士は勇気に、 「もしかしたら、勇気はヒートアイランドというのは、暖かいだけと思っているのでは?」 と質問してきた。 勇気は間の抜けた顔で、 「熱い島だろう、だったら、熱いだけだろう。他に何かあるのかなあー」 と反対に質問を返してきた。 博士は困り顔であった。 「日本に来るのだから、日本の資料も勉強してきたよ。勇気、君は日本人であり、東京に住んでいるのだから、その影響を受けるということを考えられないのか?」
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