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「熟成という魔法の正体」

2016-10-13 06:34:18 | 日本

熟成はさまざまな食品のおいしさと結びついており、「熟成」と聞くだけでおいしそうに感じる。まさしく「熟成」は食品のおいしさを表すキーワードなのだ。熟成させると、なぜ食品はおいしくなるのだろうか。


◎おいしさの決め手は「寝かせる」こと

「熟成」という言葉をよく耳にする。ブームの前から、お酒や調味料などには「熟成」を売りにしている食品はたくさんあった。熟成とは、簡単にいえば「食品を寝かせておいしくすること」だ。
たとえば、お酒やチーズなどを発酵後に寝かせるのも熟成のひとつ。風味がまろやかになり、色や香りが生まれておいしくなる。つまり、熟成とは、食品を長くおいておくことで、食品の色や味、香り、歯触りなどを変化させ、好ましい状態にすることなのである。
食品の熟成を研究する日本食品包装協会理事長の石谷孝佑氏は「人によっておいしさの感じ方は違うし、食品の種類によって熟成のメカニズムも多様です。そのため、熟成を定義したり、評価したりするのは簡単ではない」と話す。
複雑で不明な点も多いが、石谷氏によれば食品が熟成する要因は、

(1)微生物の酵素作用によるもの(発酵)、(2)食品自体がもつ酵素作用によるもの、(3)食品や容器などの成分どうしの化学反応によるもの、(4)食品成分の物理的な変化によるもの、に大別することができるという。これらの要因が同時に絡み合って熟成は起こる。

ただし、食品を寝かせて風味が変化しても、品質が向上しなければそれは「熟成」とはいわず、「変質」である。熟成させる上では、風味の変化を品質の向上につなげるために、温度や時間などの条件を課すなどのさまさざまな工夫がほどこされているのだ。


◎身の回りのは様々な熟成食品がある

食品中のタンパク質は、微生物や食品そのものがもつ酵素で分解されると、アミノ酸やアミノ酸が少数結合したペプチドになり、うま味が増す。そのため、味噌や醤油などの調味料、ハムやソーセージ、チーズなどは長期間熟成させるものが多い。また、熟成肉のうま味が増すのも肉のタンパク質が分解されるからである。

味噌や醤油の色が褐色に変化するのは、食品中のアミノ酸や還元糖の化学反応、つまりメイラード反応によるものだ。この反応では香ばしい匂いも生まれる。ウイスキーでは、樽に貯蔵している間に樽の成分が移り、琥珀色になる。
小麦粉を練った生地を寝かせると、グルテンと呼ばれる小麦タンパク質の構造が変化し、うどんのこしやパンのもちもち感が生まれる。果実は熟成するとやわらかくなり、干し柿では独特の食感が生まれる。
配合成分を均一にし、安定化させるのも熟成の効果だ。

たとえばソースは、トマトや香味野菜のジュースやスパイスなどの材料を混ぜ合わせて、寝かせることで、素材の甘味や塩味、うま味、香りなどが一体となり、おいしさが生まれる。バターやチョコレートは熟成させることで、原料の脂肪の結晶の並び方が均一になり、なめらかな舌触りが生まれる。チューイングガムのかみ応えも、製造後の熟成工程を経て安定化することで生まれるものである。

これらは熟成のごく一部の例であるが、食品のおいしさは熟成の効果によるものが多い。
「熟成は食品を貯蔵するためにいろいろ工夫した結果、生まれたものでしょう」と石谷氏は話す。
冷蔵庫のない時代、人々は乾燥させたり、塩漬けしたりして食品を保存しておいた。保存した食品を取り出して食べてみると、風味や歯触りが変化しておいしくなることに気が付いた。もっとおいしく、もっと長く保存しようと工夫した結果、さまざまな熟成食品が生まれ、私たちの食生活を豊かにしてくれている。

熟成は「土地の味」を作り出す。塩辛やなれずし、からすみなど地方独特の伝統食品は皆その例である。醤油や味噌などの身近な調味料は、熟成によって地域の個性が出ている。

味噌は、煮た大豆に麹を加えて発酵させ、熟成させたもの。味噌の味は、発酵や熟成の過程で大豆や米、麦が分解されできたアミノ酸のうまみや、糖類の甘みと加えた食塩のバランスで決まる。熟成中の成分の変化は、気温や湿度など環境の影響を強く受けるため、日本各地で多様な味噌が作られる。

京都の白味噌は米が多く、熟成期間も1~2週間と短いため、色が白くやわらかい。一方、名古屋の八丁味噌は大豆を原料に2年以上も熟成させるので色が濃く、硬くなり、風味も濃厚である。信州味噌の熟成期間は半年ほどで、白味噌や八丁味噌の中間の淡い色合いだ。

このように味噌の色には白っぽいものや赤、淡色のもの、黒いものなどさまざまあるが、これは原料と熟成期間を反映しているのが興味深い。

「伝統食品には先人の知恵が詰まっていて、その知恵に驚かされるものがたくさんあります。たとえば、灰干しわかめは、ただ干すのではなく、わかめを灰にまぶすという改良を加えたことで色が鮮やかになり、歯触りが良くなります。このような品質の向上も熟成によるものなのです」と石谷氏は例を挙げる。

鳴門わかめとして有名な「灰干しわかめ」は、わかめにシダやススキ、わらなどの草木灰をまぶしたのち天日干しをしてそのまま袋詰めしたものと、灰を洗い落としてからさらにていねいに調製し、糸状にしたものがある。わかめをそのまま干せば褐色になり、軟らかくなってしまうが、アルカリ性の灰をまぶしたおかげで緑色が鮮やかに保たれ、歯応えも香りも良くなる。しかも、常温で1年以上も風味を保つことができるのが特徴だ。

まぶした灰は、わかめの水分を素早く吸収するだけでなく、空気や紫外線を遮断するのでわかめの色素の成分などの変化を防ぐ。灰のアルカリ性がわかめの酵素の働きを抑えるため軟化や色素の分解を抑え、さらに色素を鮮やかな緑色に変化させるためだという。
 ウイスキーが樽の作用で琥珀色に変わるように、灰の作用でわかめも鮮やかな緑色になるのである。灰干しわかめの熟成の要因は、先述した熟成の食品や容器などの成分どうしの化学反応によるもの。色素や組織が変化により品質が向上し、私たちの食生活を豊かにしたのである。


◎未解明な点も多い「おいしくする魔法」

このような熟成の技術は、食品を加工するときの長い間の経験や勘から生まれたものが多く、メカニズムの不明なものも多い。石川県の「フグの卵巣の糠漬け」は、有毒なフグの卵巣を3年間にわたり糠漬けしたもの。不思議なことにフグの卵巣は無毒化され、独特の風味をもつ食べ物に変わる。なぜ毒が無くなるのかはまだ十分に解明されていない。

一方、科学の進歩によって、経験や勘に頼らなくても、また時間をかけなくても熟成の風味を再現できるようになった。「本来、白菜キムチは、白菜を乳酸発酵させ、調味料とともに熟成させて作るものですが、長持ちしないという問題があります。その問題を解決するために、香味野菜や調味料で作ったタレを白菜などに混ぜるだけで、発酵させないでキムチ風の浅漬けを作ることができます。ノンアルコールビールなどと同じ発想です。秋田のいぶりガッコも、製法が変わって、より簡単に、よりおいしくなったように、時代によって伝統の作り方も変わっていくかもしれませんね」と石谷氏は言う。

熟成はさまざまな食品をおいしくする魔法のようなものに感じた。一晩寝かせたカレーはおいしいというのも熟成といえるのだろう。先人の知恵や科学の進歩に感謝しつつ、食欲の秋を満喫したい。








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