大橋むつおのブログ

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高校ライトノベル・時かける少女・55『クララはクララ』

2017-05-16 06:22:31 | 時かける少女
時かける少女・55 
『クララはクララ』 
        

 昭和二十年四月、前月の大空襲で肺を痛めた湊子(みなこ)は、密かに心に想う山野中尉が、沖縄特攻で戦死するまでは生きていようと心に決めた。そして瀕死の枕許にやってきた死神をハメた。死と時間の論理をすり替えて、その三時間後に迫った死を免れたのだ。しかし、そのために時空は乱れ湊子の時間軸は崩壊して、時のさまよい人。時かける少女になってしまった……今度は、正念寺というお寺の娘の光奈子になり、演劇部員だ。


クララ、シャルロッテを追いかけ回す。やがて捕まえて、シャルロッテに馬乗りになり、服を脱がせようとする。

シャルロッテ: や、やめてください。
 ……お嬢様は、お嬢様は、シャルロッテでもなく。ハイジ様でもなく。お嬢様なんですから。
 クララ・ゼーゼマンでいらっしゃるんですから……クララ……。
クララ: わたしは、わたし……クララ・ゼーゼマン……。
シャルロッテ: はい、クララ……で、いらっしゃいます。
 なにもコスチュームなんかでごまかすことなんかありません!
クララ: そう、そうよね……クララはクララのままで……。
シャルロッテ: はい、さようでございます。お嬢様はお嬢様であるままで……。
クララ: ありがとうシャルちゃん。そうなんだ、簡単なことだったんだ。
 わたしはわたしのまんまで……ありがとう、このままで、あるがままのクララでいくわね!


 光奈子は、ここに主題が凝縮されているように思った。

 歩けるようになったクララは、今度は並の女の子として、ハイジと対峙(教養ゆえのギャグ!)することになる。

 今までは歩けないということで、特別な存在でいられた。でも、これからは違う。天性の明るさと、ピュアな心を持ったハイジの前では、どうしてもくすんでしまう。だから、クララが自分が自分であることに自信を持ち、引きこもりのクララから、一皮剥ける、このシーンが重要だと考えた。
 これは、ほとんどの演劇部員にも言えることであった。
「あたしは演劇部。だから、他の子達のようにキャピキャピ群れなくてもいいんだ」
 そう正当化して、演劇部という小さな輪の中に閉じこもってしまう。キャスト、特にクララ役の碧(みどり)は、これを自分自身で乗り越えておく必要があった。

 その日も、碧は、中庭で一人台本を読みながらお弁当を食べていた。

「あれじゃねえ……」
 光奈子は、三階の窓から中庭を見て、ため息をついた。
「きちんとは出来ても、自分の殻を破った明るさは出てこないでしょうね」
 いつのまにかアミダさんが網田美保のなりで、横に並んでいた。
「アミダさん、似合いますね、女子高生のなりも」
「仏というのは、性別ないからね、なんにでもなれちゃう」
「……でも、そこまでカワイクなる必要あります?」
「嫉妬はいけません。自分を磨くことに専念しましょう」
「そういう意味じゃ……」
「あります。ミナコにも、いずれ試練にあってもらいます」
「し、試験。それ苦手!」
「バカ、シレンよ、自分を乗り越えるための。ま、とりあえず、碧ちゃんを、なんとかしましょう」
 そう言って、アミダさんは行ってしまった。

「やあ、碧ちゃん。がんばってんじゃない」
「あ、網田さん」
「なんかエンジン全開ね」
「うん。テンポがいいから、台詞も早く入りそう」
「いつも、お弁当は一人?」
「え……?」
 
 碧自身、あまり意識をしたことがないので、このアミダさんの問いかけには戸惑った。

 ついでに言うと、光奈子以外の三人は、アミダさんの網田美保としての可愛さには、ほとんど興味はなかった。
 自分たちは、演劇部という特別な芸術集団の一員で、世間が言う「可愛さ」「賢さ」から無縁であると思っている。逆にいうと、そこに目をつぶるために演劇部を口実にしているとも言えた。

「ちょっと、これを見てくれる」
 アミダさんは、そっとスマホを出した。
「あ、電源入ってないけど」
「いいから見て」
 すると、スマホの黒い画面がどんどん大きくなっていき、とうとう碧の体全体を覆うようになった。

「ここ、どこ……」

 すると、急にスポットライトが当てられ、大きなステージのソデにいることが分かった。
「それでは、サプライズゲスト。選抜総選挙第一位西崎茜のお母さん、西崎碧さんです!」
 ADのオニイサンが、センターへ促した。

 舞台のセンターには、涙で顔をクシャクシャにした、自分にそっくりな女の子が、三本のピンスポを当てられて立っていた。
「お母さん、ありがとうお母さん!」
 茜が抱きついてきた。茜は小鳥のように震えていた。そして、伝わってきた。

――思い切りぶつかって行った。ほんの一欠片の根拠のない自信を胸に。そして掛けた自信が実を結んだ――

「あんなに人見知りで、気後ればかりしていた茜がね。おめでとう茜、そして茜に投票してくださったファンのみなさん。ありがとうございました!」
「お母さんのお陰。お母さんがいたからがんばれたの!」
「茜ちゃんのお母さんは、高校演劇で、その力を培い、役者一筋二十余年。ここまでやってきました。母の背中は大きかった、その大きな背中をジャンプ台にして、西崎茜。とうとう頂点を極めました!」
 総合司会の言葉と共に、喜びに抱き合う母子の姿が巨大モニターに映し出された。

――あたしって、こんなに輝いてるんだ、そして娘の茜も――

 そして、ここまでやってきた苦労や、努力、仲間の支えなどが、走馬燈のように頭をよぎった。

「今の……?」
「なにか見えた?」
「うん、仲間の支えっていうのが、一番残った……あたしの娘が輝いていた」
「そう、そのためには碧ちゃんが輝かなきゃ。もっとオープンマインドに……」

 そこに、クラスメイトが四人ほど駆け寄ってきた。
「すごい、碧、主役じゃんか!」
「なんか、上で見ててもオーラ感じちゃって、降りて来ちゃった!」
 碧が照れ笑いして、次には、どこにでもある女子高生の仲良し組の中に、自然に溶け込んでいた。

「まあ、これで、ゆっくり確実に碧ちゃんは変わっていくでしょ」

 いつのまにか、光奈子の横に戻ってきたアミダさんが頬杖ついてニッコリした。

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