大橋むつおのブログ

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高校ライトノベル・VARIATIONS*さくら*71『I want be nikujyaga!』

2017-04-24 06:33:29 | 小説4
VARIATIONS*さくら*71(さくら編)
『I want be nikujyaga!』



 鈴奈(りんな)さんの手は、首の付け根にいき、顔の皮をめくり始めた……!

 で、そこにはノッペラボーのゆで卵みたいな顔が……現れたわけではない。あいかわらず鈴奈さんの顔だ。
「あたし、自分の顔が持ちたいんだ」
 そう言いながら、ガンモの煮付け半分を美味しそうに口に運んだ。
 ここは赤坂見附近くの食べ物屋さん。洋食とか和食、中華の区別なく、オーナーが月ごとに気に入ったメニューを出すというお店。だから行くまでは、今月がなんの料理か分からない。そこが、この店のおもしろいところだそうだ。
「さくらも、来月来たらよく分かるよ」
 今月は、日本の家庭料理がテーマのようで、煮物と天ぷらが出てきた。味は、うちの百倍はおいしい。
「このあと、メインのおかず。これ目玉だからね」
 シェフってか、ご亭主が言いに来た。木村さんといって、去年までは大阪のお店で修行していたらしい。
「大阪の、どこにいらっしゃったんですか?」
「南森町の『志忠屋』 狭いけど、味にうるさい店だったな」
「あ、ひょっとして、そこのオーナー滝川さんて言いません?」
「そうだよ、知ってんの?」
「はい、大阪のロケで使ったお店です!」
「いやあ、もう半年いたら会えてたね」

 程よく大阪の話をすると木村さんは厨房に戻った。何気なくお箸の袋を見ると『東京志忠屋』とあった。きっと店の前にもちゃんと看板があったんだろうけど、身の上話で一杯の頭では気が付く余裕がなかった。

「あたし、アメリカに行くんだ」
 ガンモの残り半分を口に入れて、モグモグさせながら言った。
「勉強ですか?」
「うん……ハハ、もったいないって顔してるね」
「いえ……でも、おもいろタンポポって全盛じゃないですか」
「十八歳の女子高生だからね。自分で言うのもなんだけど、アイドルとしての人気だけ。五年先は、これじゃもたない。メンバーも方向性微妙に違うしね。その違いが決定的になるまでに、お互い勉強しなおそうということになったの。で、あたしはジャズとロックの勉強」
「二つもですか!?」
「うん、とりあえず。行って自分に向いてる方にシフトしていこうと思ってるんだけどね」
「じゃ、ポップスじゃなくて、ロックかジャズになっちゃうんですか」
「ううん。そのあたりを人並みにやれるようになったら、日本でちゃんとしたポップスやりたいと思って。ま、ヘタしたら今の人気なんかどっか行っちゃって、この世界から忘れ去られる恐れもあるけどね。人間、やって失敗する後悔よりもやらなかった時の後悔の方が大きいっていうからね」

 たった一歳違いだけど、考えてることは、あたしが及びもつかないほど大人、学校で良くも悪くも注目されることなんてことは問題なんかじゃないみたい。
 そのとき木村さんがメインディッシュを持ってきた。
「主菜って言ってほしいな。今月は家庭料理なんだから」
 で、それは、我が家でもよくやる肉じゃがだった。

「わあ、肉じゃがって、家庭料理のお父さんて感じですね……うん! おいしい。なんだろ、このフワッとしたおいしさは?」
「食材を煮込む前の下ごしらえと、ちょっと日本酒をつかってるとこかな。おっと、それ以上のレシピは企業秘密」
 スマホを出しかけたあたしに木村さんのご注意。
「肉じゃがって、元々はビーフシチューなんだ」
「え、肉じゃががですか!?」
 鈴奈さんと声が揃った。
「むかし、東郷平八郎さんがね、あ……東郷さんて知ってる?」
「はい、日本海海戦のですね。兄が海上自衛隊なんです」
「じゃ、話は早いな。東郷さんがイギリスの商船学校に入ったときにビーフシチューに出会ってね。調理の簡単さと栄養価が高いんで、日本に帰ってから海軍のマカナイさんと相談して、アレンジしたのが肉じゃがの始まりなんだ」
「ビーフシチューをリスペクトして、日本料理の定番にしたんですね!」
「うん、糸コンニャクいれたところなんて絶妙だね」
「Oh i want be nikujyaga!」
 鈴奈さんがきれいな英語で言った。

 聞くと、鈴奈さんは六歳までアメリカで育った帰国子女だった。先見性と身の軽さは、そんなところも影響しているのかもしれなかった。

 そして、遠からず、あたしにも、それなりの修業時代が来るとは思ってもいなかった……。

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