大橋むつおのブログ

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高校ライトノベル・オフステージ・(こちら空堀高校演劇部)・56「初めて聞くミリーの英語」

2017-07-29 12:12:48 | 小説・2

高校ライトノベル・オフステージ(こちら空堀高校演劇部)
56『初めて聞くミリーの英語』




 ラーソンばっかりね。

 忘れ物を取りに来たミリーに言われる。
「え?」
 一瞬何のことか分からない。
「冷やし中華よ」
 そう言われて、食っている冷やし中華がラーソンのだと気づく。
「いろいろ食べ比べたんだけど、酸味・喉ごし・麺の触感で、ラーソンが一番だな」
「へー、けっこうこだわりがあるんだ」
 本当はこだわりなんかじゃない、ラーソンの冷やし中華は460円で、他のコンビニより20円安い。
 しょっちゅう食べているので20円の差は大きい。
「わたしはシャーペン」
 そう言うと、テーブルの菓子箱の中から一本のシャーペンを取り出した。
 忘れ物はシャーペンのようだ。
 菓子箱はクッキーの入れ物で、千歳が中身入りで持ってきたお茶うけ用で、空になってからは共用の筆箱になっている。
 しかし、二三十本は入ってるシャーペンやらボールペンの中から、スッと見つけられるもんだ。
「グリップの形が独特でね、握り具合が全然ちがうんだよ。沢山あっても微妙な違いは直ぐに分かるよ、ほら」
 目の前に、ズイっとシャーペンが刺し出される(差し出すの間違いじゃない)。
 中学の頃から、この調子なんで、いまさら驚かない。下手に驚くと、さらに間合いを詰められてチキンレースになってしまう。
「ほー、グリップがちょっとくびれてるんや」
「これが生産中止でね、手持ちは三本しか残ってない。失くしたら確実に成績落ちてしまうよ。分かってたらまとめ買いしたのにね~」
 そう言うと、大事そうにペンケースに仕舞うミリー。
「シャーペン収納よーし!」
「指さし確認かい」
「車掌さんとかやってるでしょ、こうやっとくと忘れない」

 そう言うと、ミリーは窓から見える部室棟のあちこちを指さし始めた。

「やっぱ、工事停まってるよ、チェックポイントが全然変化してない」
「そうなんか?」
 確かに作業員の数は減っているけど、毎日人が動いているのはボンヤリしていても分かる。
 人が動いていれば作業しているもんだと思うんだけど、ミリーのように気合い入れて観察していると違うのかもしれない。
「あの窓枠、昨日は外しかけてたのに、また戻ってる」
「そうなんか?」
 やっぱりひいひい祖父ちゃんの設計とあって思い入れが違うようだ。
「気になるなあ……」
 工事現場の方を向いて腕組みし始めた。
「ちょっと調べてみよか……」
 スマホを出して検索してみる。
 最初に『空堀高校部室棟・マシュー・オーエン』と打ち込む。出てくるのは解体修理が決まったときの内容と変わらない。
 次に『作業中止』を足してみる……やっぱ変わらない。
「わたしもやってみたけど、特には出てこないよね」
「うん……せやなあ……」

「よし!」

 そう言うと、ミリーは気合いを入れてタコ部屋を出て行った。
 遠のく足音で中庭への連絡通路に向かったと見当がつく。

 直ぐに工事現場でミリーの声がした。
 今まで聞いたことのないミリーだ。
 ミリーが英語で現場監督らしいオッサンに話しかけている。
――そういや、あいつはアメリカ人やってんなあ――
 知り合ってこのかた、ミリーの英語を聞くのは初めてだ。青い目の金髪だけど、俺たちの中ではとっくに気のいい友だちにカテゴライズされている。俺たちの友だちってのは例外なく英語は喋れない。だから、とっても新鮮な感じがする。

 映画で外人がよくやる「わっかりませーーん」のポーズをして戻って来た。

「一大事だよーーーーー!」

 ミリーの眉間には見たこともない縦ジワが刻まれていた。
「工事は無期限停止だって!!」
「え、どういうこっちゃ!?」

 日本語が分からないフリして訊ねていると、現場監督と府の役人らしい人とのやり取りの中で分かってしまったようだ。
 夏休みを目前にして、なんだか得体のしれないものが動き始めているような気がしてきた。
 
 
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