大橋むつおのブログ

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高校ライトノベル・ライトノベルベスト『俺の従妹がこんなに可愛いわけがない・1』

2016-10-29 12:48:24 | ライトノベルベスト
ライトノベルベスト
『俺の従妹がこんなに可愛いわけがない・1』


 気が付くと、もう連休だった。

 今年こそ、がんばるぞ! と決心して三週間ちょっと。最初の一週こそは遅刻もせずに、授業中もちゃんとノートをとり、先生の話も聞いていた。
 それが、先週になって遅刻はするは、授業中は居眠りはするは、ノートは数Ⅱだけでも、三時間。全教科一週間分は取り遅れている。選択教科を入れて10教科。もう友達のノートを借りて写そうという気持ちもならない。
 もっとも友達の大半が似たり寄ったり。ラインで連絡取り合うだけ無力感にさいなまれるだけ。

 このまま没落の一年の予感。

 ま、こう言っちゃなんだけど、学校がショボイ。我が県立H高校は、偏差値42。県内でも有数のダメダメ高校。
 俺の人生は中学三年で狂ったと言っていい。いろいろ理由というかワケはある。例えば数学。
 二年までは、公式は「成り立ちを理解してから使え」だったけど、「とりあえず覚えろ、使って暗記しろ!」に変わった。俺は、物事の因果関係がはっきりしないと落ち着かない人間だ。

 例えば、中一のとき「日本はニッポンとニホン、どちらが正しいのか?」で、悩んだことがある。

 先生は明確に答えてくれた。
「ニッポンが正しい」
 理由は分かり易かった。昔の日本人は「H」の発音ができなかった!
「なんで、そんなことが分かるんですか?」
 俺は、すかさずに聞いた。
「平安時代のナゾナゾにこんなのがある『父には一度もあわず、母には二度あうものはなにか?』で、答は『唇』なんだ。つまり『母』は『ファファ』と発音していた」
 そう言われて唇をつけて発音すると……なるほど『ファファ』に、ぶきっちょにやると『パパ』になる。
「そうなんだ、江戸時代ぐらいまでは『H』の発音ができなかったんだ。だから『ニホン』とは発音できずに『ニッポン』と言っていた。ただ時代が進んで『H』の発音が出来るようになると使い分けるようになった『ニホンギンコウ』とは言うけど、サッカーの応援なんかの時は『ニッポン』だろ」
「そうか、ここ一番力をこめる時は『ニッポン』なんだ!」

 そういう理解をする子だった。

 ただ分かっていても、ことの本質が理解できなければ、分かった気にもならないし、学習意欲も湧かない子だった。
 それが、やみくもに「覚えろ、とにかく公式を使え!」は受け付けなかった。

 で、結局は三年生はつまらなくて、よく学校をサボったし、授業も不真面目、あっというまに成績は下がり、高校は県内でも最低のH高校しか行けなかった。ここだけの話だけど、家出もした。高校に入ったときは、もうバージンじゃなかった。

 あ、ここで誤解を解いておく。一人称は「俺」だけど、俺は女だ。中一までは世間並みに「あたし」と言っていた。ときどき「ボク」という言い方もしていた。世間でいう「ボク少女」だった。
「ボク」と「俺」の間には大きな開きがある。「ボク」は年下の子なんかに「自分は世間の女の子とは違うんだ」という感じで使ってた。それが中三の時に好きだった男子に使うときは、ちょっとした媚びがあった。その男子も「ボク」を可愛いと思い、ボクを女の子から女にしてしまった。

 けっきょく、そいつは最低な男子だった……。

 それから一人称は「俺」に変わってしまった。

 H高校の一年生も最低だった。俺は、これでも高校に入ったらやり直そうと思っていた。一人称を変えてもいいと思った。でもダメだった。

 予感は、入学式の時に気づいた学校の塀。

 塀には忍び返しって、鉄条網付きの金具が付いている。普通、これは外側に俯いている。外からの侵入を防ぐために。
 しかしH高校のそれは、内向きに俯いている。つまり、中から外への脱走を防ぐため……。

 授業は、どれもこれもひどいものだった。33人で始まったクラスで進級した者は20人しかいなかった。かろうじて俺は進級組に入っていた。だから、なけなしのやる気を振り絞った。最初のホームルームの自己紹介で「あたし」と言おうと思ったが、先生やクラスの人間の顔をみていると「俺、一ノ瀬薫。よ・ろ・し・く!」とやらかしてしまった。ケンカも二度ほどやって、一目置かれるようになったけど、群れることはしなかった。

 そんなこんなで、連休初日。昼前に起きてリビングに行くとオカンが叫んだ。

「ちょっと、これ、由香里ちゃんじゃないよ!」
 テレビは、日曜の朝によくある、その道の有望新人のインタビュー番組だった。

 そして、そこに映っていたのは従妹の由香里だった。

 俺の従妹がこんなに可愛いわけがない!

 大波乱の連休の始まりだった……。

ジャンル:
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